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立ち上がり、尻についた埃を払いながら、大沼は自嘲気味に笑顔を見せた。多量の犠牲を出すことをためらうのは彼の優しさに違いないが、しかし同時に、恐れでもある。
当然ながら大沼は、これまでに人を殺めたことはない。よって人を殺すのが怖いのだ。

「…バカ正直な野郎だ」

育ちのいい奴は大抵プライドだけは高い。そのことを経験的に知った上で大沼を嘲笑った帆足だったが…、大沼があまりにあっさりと自身の心理を吐露したため、毒気を抜かれてしまい、バツが悪くなって頭を掻いた。

「だが、決めるんなら早くしろ。ここは本来二人も入る場所じゃない、もし明日にでも誰か処刑されたりすれば」
「ああ」

そうなれば、どちらかが空いた独房へ移されることになる。今生のうちに顔を合わすこともないだろう。

「もう二度とチャンスはないと思え」

そう言い捨てると、帆足は固いベッドを大きく軋ませて、身を投げ打つようにしてゴロリと横になった。頭にヒジをつき、壁側を向いて、大沼には背を向けている。表情はわからない。

「…人ごとだな」

その背に向けて、呆れたように大沼は言った。…返事はなかった。


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