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「大丈夫か」
「ああ、まあ、ちょっとばかり驚いたが…、なんでもない」

永川が畳の上にあぐらをかくのに倣って、森野もその場へ腰を下ろした。
視界の隅から無遠慮に突き刺さってくる視線はなんとも居心地が悪いが…、先程の件で森野も懲りた。今度こそ絶対に目を合わせてはいけない。

「なあ、ひとつ聞きたいんだが、彼は」
「だから、見ての通りだって言ってんだろ。まともじゃないんだ」
「そうじゃない。彼も住職の弟か何か…」
「ああ、そういうことか。あれは身内じゃないよ、兄貴がここに置いているだけでね、本来どこの誰なのかは誰も知らない。拾い物だ。
 本人に聞こうにも、あの有様だしな、何もわからない」
「勝浩、何度も言っているだろう、物って言い方はやめておけ」

何か飲み物を、と言って引っ込んでいた倉が、コカコーラの瓶を三本提げ、菓子鉢を抱えて戻ってきた。

「なんでそんなに瓶コーラがあるんだ」
「頂き物だ。…森野さん、本当に申し訳ありません、いま勝浩も申しましたように、あいつが何者なのかは私も存じません。身元がわからず、親族があるのかもわかりませんので、やむなくここで引き取りまして」
「やむなく、なんて嘘だろ。別に奴をここへ置かなきゃならない理由は何もなかった。今もないはずだ」

瓶の栓を抜きながら、永川が吐き捨てるように言う。すると倉は聞き捨てならないといった様相で、キッと永川を睨んだ。


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