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「…ああ、そうだ」

しばらくのち、不意に、永川が声を出す。
自分のせいで重くなってしまった空気を都合よく取り払おうという意図の透けて見える一声だが…、今は森野にも、それが有難い。

「あんたの様子を見てくるように言われて来たのに、長話しちまって、これじゃミイラ取りだ。
 まあ、家の裏にいるってわかってるわけだし、まさか心配かけちゃいないと思うが、まだこれからやらなきゃならんこともあるしな、忙しいぞ」
「やらなきゃならんこと?」
「あんた訓練の最中に、鶏をひっぱたいたりとかしてないか?」
「え」

すでに日は落ち、辺りは暗くなっている。これから一体何をしようというのか…、そう思って聞き返した森野の質問に、永川は答えなかった。

「してるだろ?」
「…申し訳ない。はじめに襲い掛かられたときに、咄嗟に2,3羽ほど」
「いや別にいいんだ。実は飯炊きがまだ帰ってないんでね、俺がやらないといけないから…、」

言葉を途中で切り、永川は先刻森野が苦労して地鶏を収めた鶏小屋へ入り、勿論、鶏を騒がすこともなく…、
やがて弱っている3羽をその手にぶら下げ、戻ってきた。

「水炊きと塩胡椒で焼いたの、どっちがいい」

ああ、なんだ、やることって炊事のことか…、と一息ついた森野に、永川がメニューをふたつ提示する。
言われて森野が永川の言葉をそのまま通訳すると、ドアラは両方に難色を示した。
しかし今は森野も疲れている、大体にして、食べさせてもらう身だ。面倒は言えない…、
…いい、聞くから文句を言うだけで、出されれば問題なく食べるだろう。

「…焼いたのがいいって」
「わかった。じゃ、戻ろう」


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