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何面かある野菜畑の脇を駆け抜けると、鶏の騒ぐ声が聞こえ、その先、鶏小屋の前の放し飼いスペースからもうもうと土煙が上がっているのが見える。
もう少し近づき、中の様子に目を凝らすと…、やたら体格のいい雄鶏が暴れまわっており、囲いの網の中でドアラが転倒し、森野が鶏に腹を蹴られているのが見てとれる。
永川はチッと舌打ちすると、足元の小石を拾い、それに息を吹きかけた。

「こら、やめろ!やめないと、首へし追って鍋へブチ込むぞ」

そう喚くが早いか、永川は猛ダッシュをかけ、手にした小石を灰色の大鶏目掛けて投げつけた。
石は雄鶏の足元で小爆発を起こし、地面の土を抉ると同時に鶏の巨体を吹き飛ばした。

「わあっ」

飛ばされた鶏は…、空中でどうにか体勢を立て直すと、鶏らしからぬ力強い羽ばたきで向こうの森へ消えていった。その後姿を、森野は尻餅をついたまま呆然と見送った。

「大丈夫か。怪我は」

囲いの中へ駆けつけ、森野の手を引っ張って起こしながら、永川が尋ねた。

「ありがとう、なんともない。ただ、…いま、鶏が『わあ』と鳴いた気がするんだが」
「気のせいだろ。訓練はどうだった」

同様にドアラを引き起こしながら…、そんなはずはない、確かに聞いた、と森野は主張しようとした。
しかし、こうも笑顔ではっきりと否定されてしまうと、気のせいかもしれないという気もしてくる。

「それなんだが…、一度鶏を全部片付けたと思ったところで振り向いたら奴がいてな。まだこんな大物を残していたかと思って近づいたら、このザマだ。お師匠様に、最後の一羽は逃してしまったと報告しないと…」
「あいつなら気にしなくていいよ」
「しかし、すべての地鶏を」
「いいったらいいんだよ。あれはそもそも鳥じゃない」
「はあ?」


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