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「まだ手続きもあるんだろ、早くしないと役所が閉まる」
「…ていうか、そもそも、命の保障って何なんだ。キミ一体何をするつもりなの。なんか良からぬこと考えてるんじゃないだろうな」

今度は青木のほうがピンときたようだ、鋭い目つきで下から永川を睨みあげてくる。
何、と言われてスラィリーマスター討伐などとは間違っても言えない。永川は視線をそらす。
マスターを討つ、あるいは単にちょっかいをかけるだけのことでも、それがスラィリー産業にいかなる影響を与えるかは誰にもわからない、
それを考えれば、スラィリーブローカーを稼業としている青木がこの話をすんなり了解するはずがないからだ。
仮にこれが、永川の当初の予想通りに名古屋防衛軍から自衛隊を通じた命令であれば、青木も聞き入れないわけにはいかなかったことだろう、
しかし実際はそうでないことが、現時点ですでに永川にはわかってしまった。永川よりも格段に聡い青木には、感づかれるのも時間の問題だ。
さらに永川が森野を匿っていること、その目的がマスター討伐だなどと知ったら、青木は全速力で名古屋へ告げ口をするだろう。それだけはなんとしても避けなければならない、否、もしかすると、もうすでに不可避かもしれない。
ならばせめて今からできるのは、これ以上の情報を与えないことだ。
その先のことは…、
…とにかく帰って、事の次第を森野本人に問いただしてから一緒に考えればいい、そうと決まれば長居は無用。いつまでもこの小男の腫れぼったい顔を眺めていることもない、うざったい。

「何もねえよ。とにかく、いいつってんだろ。ヘタに声かけて話がややこしくなるのも嫌だし、大体俺は軍は嫌いなんだ。
 だから関わらなくて済むんなら極力関わりあいになりたくないって、それだけのことだ、それじゃ理由になんないってのか、充分だろ!?」
「落ち着けよ」
「いい、もう話し合うことも残ってないから俺は帰る。いいか、くれぐれも余計なことはしてくれるなよ。もしやったら、タダじゃおかないからな!」

玄関口で使い終わった靴べらを振り回しながら怒声を上げる永川が殊更に可笑しく、青木は必死に笑いをこらえる。


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