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…このカーサというのは、これまでの振る舞いからわかるように、勿論、人間ではない。自称するところによれば、ここに昔祀られていた稲荷様にお仕えしていた狐で、一体いつからこの世にいるのかは忘れてしまってわからないという。
しかし最近、というのは彼の時間でいうところの最近であるが、この神社の跡継ぎが亡くなり、やがて神社を守るものがいなくなった。
そのために稲荷様は天界へお帰りになったが、所詮天界の生まれではなくこの世のものであるところの彼は、ついてゆくことができなかったらしい、
仕方がないので下界に残るも、荒廃してゆく社殿をただ眺めることしかできない自分、神に仕えたことも今は昔、目に映る何もかもが恨めしく、
最早このままではいずれ悪に染まって人に仇なし、黒狐に身を落とすばかりか…、と我が身を嘆きつつ無為に暮らしていたところへ、突然やってきたのが前田だという。
こうして得た新たな主人の出現に彼は感激し、以後なにかと世話を焼きたがり、つかず離れずにいる…、ということらしいが、
前田にとってみれば、なんと言っても相手は神仙、あるいは物の怪の類、あまりに丁重に扱われるのも居心地が悪いのだ。

やがて狐のカーサは盆に二人分の茶を乗せ、やはり音をたてずに、しかし今度は襖を開けて、部屋に戻ってきた。


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