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そうして、荒木がしきりにクシャミしながら現場で生真面目に指示を出しているころ、広島では…、
前田による森野の特訓が静かに始まろうとしていた。

「やれやれ、やっと静かになったの。ナーは口うるさいし、浩司はやかましいし、まったく…」
「あ、あの、よろしく、お願いします」
森野は腰を90度に折って深々と頭を下げる。永川に山崎を育てた前田の指導とは、いかなるものだろうか。
「そうかしこまらんでもええ。あんたは素質があるし、時間もないけぇの、途中を飛ばして詰め込みでいくぞ。
 …ついてきんさい」

前田は声をひそめてそう言うと、左足に履物をつっかけ、いつの間にか永川が用意しておいたのであろう、脇へ置いてあった杖をついて道場の外へ出た。
俺の靴は玄関…、などと森野が考えている間に、ゆっくりとだが前田は先へ行ってしまう。
仕方なく、傍に置いてあった、恐らくは山崎のものであろう便所サンダルを拝借し、森野は急いで前田を追った。
ドアラはと言えば、靴がないことなど気にする様子もなく、裸足のままさらに後をついて行く。


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