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「わざわざ、御足労を。申し訳ない」
住居棟のなか、自室の入り口のドアを開けながら井端は言った。ひととおり整頓はされているものの、それでもやや乱雑な風景が広がる。
帰る家のある者たちとは違い、独身の井端にとってはここがすべての生活空間であるから、それも致し方ないところだ。
なにしろ現在のポストに就いてからは、多忙が過ぎて、ろくに基地から外へ出たこともない。
「将軍をお招きするには少々汚い部屋だが…」
ひとつしかない椅子を李に勧めると、井端は苦笑しながら脇にある硬いベッドに腰を降ろした。
「その呼び方は止してくれ。今は君の部下にすぎない」
李は静かな口調で返す。失礼、と言って井端はひと呼吸置き、それから、本題を切り出した。
「このさい、森野云々の話はひとまず置こう。直近の情勢をみて、ビョンさんは、なにか気になることはないか」
「気になること?随分遠まわしな言い方をするな。西の守りが手薄になったら西宮がどう出てくるかと言えばいいのに」
「そう、それだ。どう思う」


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