083

一体どういうことなんだ。森野のことはあきらめるのか。まさか。そういうことなのか。
荒木は誰よりも早く会議室を去ろうとする井端を追って走った。
「バッさん!森野は、森野は結局、どうなるんですか!!」
「…荒木」
井端は荒木の声に足を止めたが、しかし後ろを振り向くことなく、しずかに口を開いて、言った。
「持ち場に戻れと言ったはずだ。聞こえなかったのか」

その冷酷な一言に、荒木の全身は凍りついた。心配して後を追ってきた中村が、背後からその肩へそっと手を置く。
「…まあ、何か考えあってのことやろ。そら、いつでも、覚悟はしといたほうがええけど…、とりあえずは、信じとき、疑っても、ええ事ないで」
荒木はがっくりと頭を垂れる。その脇を通って李が井端の消えた方向へ歩いて行ったことなどには、勿論気づくはずもなかった。


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