アンジェリークが思わず持っていたカップをかちゃんと音を立てて戻した時、
テーブルの向かいにいたはずのルヴァが、
いつの間にかアンジェリークのすぐ横に立っていた。
そしてその腕がふわりと上がり、気がつくとアンジェリークはルヴァの腕の中にいた。
「アンジェリーク……」
耳元で囁かれる自分の名前。ルヴァの吐息が耳にかかる。
酔いも加わり、ふわふわと足の感覚が定まらず、
アンジェリークはルヴァの広い背中を頼りにしがみついた。
それを肯定と受け取ったルヴァは、一度きつくアンジェリークを抱きしめると、
軽々と彼女を抱き上げた。
そして寝台へ、と室内へ視線を巡らせたルヴァだったが、
手近な寝椅子へアンジェリークを降ろし自分もその横へ腰掛けた。
「ルヴァ様……?」
不安からか期待からか、アンジェリークの声がかすかに震え、
それがルヴァの背中をぞくぞくさせた。
「ル……」
ふいにルヴァはアンジェリークの唇をその唇でふさいだ。
突然の行為にアンジェリークの頬は赤くなったが、その唇はすぐに離れた。
熱くなったアンジェリークの頬をルヴァは手のひらで包み込み、
瞳をまっすぐに見据えた。
「貴女を……貴女の微笑みを守り、その側にずっといられたらと思っています。ですが」
一息置いたルヴァの瞳がすっと細められる。
「反面、貴女を私の手でめちゃくちゃに壊したい衝動に駆られることがあります」
アンジェリークは瞳を大きく見開いた。
「貴女に軽蔑されても仕方のない、私にでもそんな部分があるんです」
「そんな、ルヴァ様を軽蔑だなんて、そんな」
再びアンジェリークの言葉を、ルヴァの唇が遮った。今度のそれはゆっくりと、
しかし有無を言わせぬ強引さを持っていた。初めての深い口付けに、
アンジェリークの思考が止まる。息をつく暇も与えず、
ルヴァの唇はアンジェリークのそれを貪った。
いつしか寝椅子に押し倒された格好で、アンジェリークはルヴァのキスに応えていた。
ただルヴァの与える刺激に翻弄され、その愛撫になすがままとなっていた。
「アンジェリーク、ああ、貴女はなんてきれいなんでしょう」
ルヴァの唇が首筋を辿りその名を耳に囁きかけた時、アンジェリークのブラウスははだけ、
白い肌をルヴァの前にさらしていた。
「っ……あっ……!」
慌ててブラウスの前をかき抱こうとしたアンジェリークの手を、ルヴァの手が遮った。
「だめです」
そう言うとルヴァは、素早くアンジェリークのブラウスと下着を脱がした。
そして抵抗の言葉をアンジェリークが口にするより早く、再び唇に口付けた。
ルヴァの指が、腕を、肩をなで、張りのある胸の膨らみへと至る。
瞬間、アンジェリークの体がかたくなったが、
ルヴァが口付けと愛撫を加えるうち、その体から力が抜けていく。
ルヴァはアンジェリークの乳房を手のひらで包み込むと、
ゆっくりとその柔らかさを楽しんだ。
キスの合間、アンジェリークの息遣いが早くなっているのは、
ルヴァの気のせいではないようだ。
「あ……ぁんっ」
膨らみの先を口に含み吸い上げられ、アンジェリークは思わず声をあげた。
次々と与えられる刺激と、思考を止めてしまう甘いキスに、
アンジェリークは何も考えられずに揺さぶられていた。
だが、ルヴァの手が下腹部を過ぎ、下着の上から秘所を愛撫し出した時に我に返った。
「ルヴァさま、や……だめです」
愛撫の手を止め、ルヴァがアンジェリークの瞳を覗き込んだ。
ルヴァの息も少し上がっている。
そしてルヴァは、ちらりと視線をテーブルの上のカップに向けて言った。
「貴女も望んでいることなのだと思いましたが?」
「!」
ルヴァ様は、わたしのした事をご存知でいらしたのだわ。
浅はかな策略を最初から見抜かれていたことに気付き、アンジェリークは羞恥に縮こまった。
もうアンジェリークには、抵抗の言葉を口にすることはできる筈もなかった。
その様子を窺い、僅かに微笑んだルヴァは、アンジェリークの下着を取り去った。
足を開かせ、ルヴァの手がアンジェリークの秘めた部分に触れると、
その指を蜜が濡らした。
「あっ…あはぁ……っ!」
容赦なくルヴァの指がアンジェリークの深層を探ってゆく。
そして少しずつより敏感な部分へと指が伸びていった。
「あふ……ぁあんっ……」
自分の口から上げたことのないような声が上がる事が、
アンジェリークには恥ずかしく、でも自分ではそれを抑えられない。
服が寝椅子の周りに散らばり自分は半裸になっているというのに、
一方のルヴァが全く服を乱していないのにも、
どこか違和感を覚えていた。
どうしよう、これからどうなってしまうんだろう。
羞恥と快楽と困惑に、ぎゅっと閉じたアンジェリークの目尻には、
うっすらと涙が浮かんでいた。
ルヴァはそれに気付くと唇を寄せ、そっと瞼にキスをして囁いた。
「貴女を苦しめたいのでは、ないのですよ……」
アンジェリークは目を開け、自分を見つめるルヴァの瞳を見つめ返した。
そう、ルヴァ様の仰るとおり、わたしはルヴァ様に抱きしめて欲しかった。
キスして欲しかった、触れて欲しかった。
そしてそれを、ルヴァ様はご存知だったのだ。
だから。
手を伸ばし、アンジェリークはルヴァの首に腕を絡め、仕草でキスを求めた。
もう拒まない、あなたを受け入れる決心がついたという想いを込めて。
ルヴァは微笑んでアンジェリークに口づけた。
と、ルヴァの体重がぐっとアンジェリークにかかり、
そのままルヴァは動かなくなった。
「苦し……ルヴァ様……?」
アンジェリークは頭を起こし、自分の上のルヴァの顔を覗き込んだ。
寝てるーーーー!?
ガーン! という大きなフリーハンドの書き文字が、
アンジェリークの頭を占領した。
翌朝、アンジェリークの私室のドアがノックされた。
「あー、アンジェリーク、わたしです。お話があるのですが」
ルヴァ様だ! アンジェリークは動揺して、部屋の中を歩き回った。
どうしよう、お会いしたほうがいいのかしら、でもでも。
アンジェリークの体は不注意に家具に当たり、派手な音を立ててしまった。
「そこにいるのに、ドアを開けてはもらえないのですか?」
ルヴァの意気消沈した声に、アンジェリークは慌ててドアを開けた。
「すみません、ルヴァ様、ちょっとあの、焦っちゃっただけなんです」
アンジェリークは頬を赤く染めてルヴァを部屋に招き入れ、椅子を勧めた。
「もしかして怒っているのではないかと。昨日は……」
アンジェリークの顔がますます赤くなった。
「お茶の間に、眠ってしまったようで」
「……………」
もしかしてルヴァ様は、覚えていらっしゃらない?
「アンジェリーク?」
「はっはい!」
アンジェリークは椅子の上で体が飛び跳ねた。
「やっぱり怒っているのですねー」
ふうと肩を落としたルヴァを見て、アンジェリークは手を振って慌てて否定した。
「そんな、怒ってなんていません」
「本当に? それならよかった」
ほっと一息ついてルヴァはアンジェリークに微笑みかけた。
再びアンジェリークの頬に赤味がさした。
昨日は、昨日は、ルヴァ様は何度もわたしにキスしてくださって、
それから……。思い出すと、アンジェリークの体の奥に火が灯り、熱を帯びた。
「夢を見ていたんですよ、幸せな」
ルヴァはその後を飲み込み、
アンジェリークは昨日のことをルヴァが夢だと思っていると知った。
違います、夢なんかじゃありません。
そう言おうとしてアンジェリークは留まった。
それとも、わたしのほうが夢を見ていたのかしら?
夢でもいい、昨日の続きを……。
でも「あの」ルヴァ様は、とても意地悪だった。
その証拠に、一度も好きって言ってくださらなかった。そう、一度も言わなかったのだ。
ディアのくれた小瓶は、まだ棚にある。
アンジェリークは小瓶を見つめつつ、逡巡するのだった。
ルヴァ様、黒っ!(笑) 本当は全部覚えていてとぼけていらっしゃる・・・のもいいかも。 だから1、2滴にしとけってディア様が言ったのに! ってコトで、これが昔書いた二作目です。 前編は一気に書いたのに、後編は1年以上かかった記憶があります。 当時からアンジェリークとロザリアのいちゃいちゃが好きだったのね、自分。 (2004.9.22)2008.2.20 |
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