「あー、いつの間にか、
貴女と過ごせる時間はわたしにとってかけがえのないものになっているようです……。
気の利いたことも言えないわたしなのでー、
あなたには退屈な時間なのではないかと、
懸念の残るところではあるのですが……」
「そんな事ありません、ルヴァ様。わたしこそ、
ルヴァ様のお邪魔になっていないのでしたら、
もっともっといっしょに過ごしたいくらいです」
「ああ、アンジェリーク。
ではこれからも、こうして会えるのですね」
「はい、ルヴァさま」
こうして、地の守護聖ルヴァと、女王候補であるアンジェリークは、 幾度もデートを重ねる間柄になった訳だが……。
「今日もなんにもなかったよう〜〜!」
寮の食堂のテーブルに突っ伏して、アンジェリークは叫んだ。
紅茶のカップを手にしたロザリアは、
その様子をちらりと見ながら尋ねた。
「なんにも、って、あなた何を期待しているって言うの?」
「えっ?」
「例えば、熱烈なキスをしてほしいとか、抱きしめてほしいとか、
はたまた押し倒してほしいとか?」
「えええ〜〜っ!?」
アンジェリークは、ロザリアの言葉に真っ赤になった。
「そ・そんな、押し倒してって……ロザリアがそんなこと言うなんて、
えーとその、キスぐらいしてほしいけど、じゃなくって!」
アンジェリークのうろたえぶりを横目でちらりと見て、
ロザリアは心の中でため息をついた。
(ルヴァ様が奥手だから、ってだけじゃないことに、
この子自分で気がついてなさそうねえ)
アンジェリークは真っ赤になったまま言葉を続けていた。
「でもね、その……好き、って一度くらい言ってもらえたらなあって」
ぶっ! ロザリアは紅茶を噴き出しそうになった。
「あんなに会っていても、1回も言ってくださらないの?!」
ロザリアのリアクションに、アンジェリークは泣きそうな顔になった。
「やっぱり、そう思うでしょ?」
ロザリアは頭をかかえた。
ルヴァがアンジェリークに目いっぱい参っているのは、守護聖たちばかりか、
聖殿の人間みんなの知るところであった。
第一、ロザリアがルヴァのお茶へ呼ばれると、
それはもうアンジェリークの話題ばかりで盛り上がるのだ。
ルヴァはアンジェリークがああ言った、こうした、
どんなに彼女が可憐で、その時彼女の金髪がどんなふうに輝いていたか、
それはもう延々と語ってやまないのだ。
アンジェリークのことが可愛いのはロザリアにとっても同じなので、
ロザリアも負けじと、アンジェリークといっしょに寝たとか、
いっしょにお菓子を焼いたとか話して、ルヴァを羨ましがらせるのが常だった。
「今のままでもそりゃお会いできてうれしいし、嫌われてはいないと思うけど……」
「ルヴァ様は、あなたが大事すぎて、
告白したら止まれなくなるのを懸念していらっしゃるのかもしれないわね」
しょげるアンジェリークを前に、そう言うのがやっとのロザリアだった。
翌朝、早くから出掛けていたロザリアは、
戻ってくるなりアンジェリークの部屋へ直行した。
「なあに? ロザリア」
「ディア様に相談したら、これをくださったわ」
と言ってロザリアが差し出したのは、小さな瓶と紅茶の缶だった。
「ディア様に、ってー! ロザリア、昨日わたしが言っていたこと、
ディア様に言っちゃたのー?!」
「だってあなたに相談に行かせたら、
恥ずかしがって結局なにも言えないまま帰ってきそうなんだもの……って、
そんな事はどうでもいいのよ」
ロザリアは小瓶を指差した。
「こちらは、強いけれど癖のないお酒だそうよ。
そしてこちらの紅茶は、香りのきついものだから、
お酒を入れても分かりづらいんですって」
「ルヴァ様はお酒が苦手なのじゃ……」
「だからよ。少しのお酒でほろ酔い気分になってくだされば、
あなたの聞きたい言葉も少しは聞けるかもしれなくてよ?」
ただし、とディアが言った最後の言葉はロザリアは敢えて付け加えなかった。
ただし、このお酒は1、2滴入れる程度にとどめてくださいね。と。
「ルヴァ様、今日はディア様からいただいた紅茶を持って来ましたよ」
「ああ、それはうれしいですねえ」
その翌日、ルヴァの私室を訪れたアンジェリークに、ルヴァは眩しそうに目をほそめた。
「ええと、ロザリアがディア様からいただいたものを、
ちょっと分けてもらったんですけれども」
隠し事が苦手なアンジェリークは、
聞かれもしないことをあれこれ話していた。
ルヴァは気にするでもなく、アンジェリークがお茶の用意をするのを手伝いながら、
彼女の言葉に耳を傾けている。
「おやー、これは」
「昨日ロザリアといっしょに焼いたクッキーです。
ルヴァ様のお口に合うといいんですけれど」
ピンクの可愛い包みを眺めながら、ルヴァは微笑んだ。
「貴女がこれを作る時、少しでもわたしのことを想ってくれていたとしたら、
たとえ焦げていたってわたしは全部平らげるのにやぶさかではありませんよ」
と、口に出せばいいのに心の中だけでつぶやいた。
カップを用意し、クッキーを入れる皿をルヴァがみつくろっている隙に、
アンジェリークは小瓶の酒をカップへ注いだ。
とぽぽっ。
「このくらいでいいかしら? 待って、どちらのカップでもいいように、
両方入れなくちゃいけないわよね」
とぽぽぽっ。
「アンジェリーク?」
どっきん!
「っはい、ルヴァ様!」
「こちらのテーブルへお願いします」
「はい、今持っていきますね」
テーブルに着いてカップを前に、アンジェリークは一息ついた。
「どうしました? なんだか今日は落ち着きませんか?」
「いえ、そんなことありません」
そしてこちらも、心の中だけで付け加えた。
「でも、ルヴァ様のお顔を見ていると、
心が落ち着かなくなることはあります」
ひとくち紅茶を飲んで、アンジェリークは顔をしかめた。
「にが……」
見るとルヴァも少し眉をひそめている。
「香りがきついお茶ですねえ。それにお酒のような苦味も?」
「そ・そうですか? このクッキーも食べてみてくださいね」
「ああー、こちらはとてもおいしいですよ」
「よかったです。クッキーのレシピはディア様に教えていただいたんですよ」
自分のカップにも小瓶の酒を入れていたため、アンジェリークの頬は上気してきた。
ルヴァを見やると、彼もまた頬をうっすらと赤く染めていた。
「先週森の湖に出かけた時は、わたしったらお世話をお掛けしました」
「ああー。そうでしたね。貴女が湖に体を乗り出して……」
「ルヴァ様に助けていただいて、おかげで落ちずにすみましたけれど」
「でもお互い結構ぬれてしまいましたねえ。気候がよくて幸いでした」
くすくす。
「あー、あの時、服がぬれて……」
つと、ルヴァの言葉が途切れた。アンジェリークがルヴァに目をやると、
その顔からいつもの柔らかな表情がすっと消えていった。
「貴女の下着が透けて見え、
わたしは自分に湧き上がる感情と衝動を必死で抑えようとしていました」
ルヴァの目がきらりと光をかえした。
(2004.9.22)2008.2.16 |
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