4.

ドアの前に立っていたボーイさんに案内されて、中に入る。
ちょっとしたコンサートホールくらいはある広さの会場を、大勢の人が埋め尽くしていた。

「跡部ってこんなに友達がいたんだね。びっくりだよ」
「あいつは何気に知り合いは多いぞ?」

不二と手塚が跡部にとっては失礼な会話を交わしている。
桜乃はその豪華絢爛っぷりに気おされていた。

天井にはシャンデリアが輝き、床には真紅のふかふかの絨毯がいっぱいにひかれていた。
真ん中にはたくさんの電球や飾りのついた大きなクリスマスツリーが飾られている。
壁にはいくつものクリスマスリースが飾られ、赤と緑のリボンが幾重にも重なっていた。
あちこちに置かれたテーブルには、テレビでは見るけど実際にはほとんど見た事もないような料理が並んでいた。

「うわーすげー牛の丸焼きがあるー」
「おお、金髪美女!!」

他のメンバーもそれぞれ色んな意味で感動しているようだった。


前触れもなく会場の照明が落ちた。
真っ暗になる会場に、人々のどよめきの声が広がる。

カッ。
一瞬目の眩むような光が部屋の中にはじける。

「レディ~~~ス、アンド、ジェントルメン。本日はようこそ、我がディナーショウへ!!」

視力が回復した皆が見たものは、
昔のヨーロッパの王族が見につけるような真紅のマントと王冠を身につけ、
偉そうに腰に手を当てポーズを取り、
右手には長い黄金に輝く長剣を持ち、左手にマイクを握り締めて、
虹色のスポットライトを浴びながら、
意気揚揚とステージ上で話す跡部だった。

会場のあちこちから跡部コールが鳴り響き、それに混ざるようにして「キャー跡部様ーステキー」という黄色い声が飛ぶ。

「今夜の勝者は誰だ?サンタクロースか?それともカップルか?
 いや、違うな。勝者はこの俺だ!!」

跡部がパチンと指を鳴らすと、会場が一瞬静まり返った。

「今宵は俺様の美技に酔いな!」

ばさっとマントを脱ぎ、跡部はそれをステージ下に放り投げた。
跡部様ファンクラブのメンバーがそれを回収しにダッと走り出した。


照明が元に戻り、何事もなかったかのように、会場は元のざわめきを取り戻した。


「相変わらず派手だな跡部は」
「そうだね」

手塚の声に不二が答える。
3年生はさすがに大会のたびに何回も見ているだけあって冷静だった。
菊丸は牛の丸焼きの方が気になっていたし、大石は怯える桜乃をなだめようと奮起していた。
乾はこの会場の照明の数や招待客の数の統計を取るのに夢中だったし、河村はテーブルの上の魚料理の調理法に興味津々だった。

1,2年のリョーマ、桃城、海堂はまだ耐性ができていないのか、ぽかーんと口を開けたままだった。


ステージの上で跡部が老執事に怒られているのが見えた。
ここからでは声は聞こえないが、不二はその唇を読む。

『あの挨拶は1次会の時は控えるようにと申し上げたではありませんか。2次会の時になさいませ、と』
『うるせぇな、俺のパーティなんだから俺の好きなようにさせろよ』
『ですが、景吾ぼっさま・・・』
『ああもう、挨拶はすんだし、いいだろ、行っても』

跡部は老執事を振り切ると、樺地を従えステージを降りた。
頭に被っていた王冠を脱ぎ樺地に渡すと、まっすぐにこちらの方に向かってくる。

跡部の視線が桜乃に注がれているのを見た手塚は、彼女をかばうようにそっと彼女の前に立った。
それを見た跡部が眉をひそめる。

「どういうつもりだ手塚、アーン?」
「どうもこうも、竜崎に不用意に近付く事を許さん」
「お前は桜乃ちゃんの何なんだよ?」
「桜乃は・・・俺の大切な・・・だ。お前のような穢れた存在に近付いてほしくない」

手塚のその言葉に跡部の堪忍袋の尾が切れた。

「・・・上等じゃねぇの?」
「喧嘩なら買うぞ」
「は、俺に1度負けて九州まで行ってるくせに再戦するつもりかよ。いい度胸だな、手塚」
「今度は負けない」

手塚はラケットを取り出し、跡部は樺地にラケットを取ってこさせた。
二人の男が会場内で対峙する。
ボーイ達が慌てて料理の載ったテーブルをよせて、スペースを作る。
彼等の対決のとばっちりで、せっかくの料理が台無しになってしまうのは避けたかった。

「は、手塚。余裕こいてられんのも今のうちだぜ」

跡部はボールを取り出すと、素早い動きでサーブを打った。



二人の男の対決を桜乃はおろおろしながら見ていた。
側には不二やリョーマがいるが、彼等がこの勝負を止めるつもりがない事は明らかだった。

他の先輩達は既にどこかに行ってしまっていて役に立たない。

海堂は乾のデータ収集を手伝わされていたし、
菊丸と桃城は一緒にパーティメニュー全制覇をする為に消えてしまっていたし、
大石と河村はステージ脇に置かれている水槽の活け作り用の魚に見惚れていた。

「跡部は手塚が片付けてくれそうだね」
「1人戦る分が減ってよかったっスね」

側にいる不二とリョーマはなにやら物騒な会話を交わしているし、桜乃はパーティに来た事を後悔した。
華やかな楽しいパーティになるはずだったのに、なぜこんな事になってしまうのか。
目の前には豪華な食事があり、あちこちで華やかな衣装を着た紳士淑女の皆様が会話を楽しんでいる。


どうして、皆、パーティ会場の真ん中でテニスの試合をしている人がいるのに気にしないんだろう?
桜乃は不思議で仕方がなかった。

その時ステージでは氷帝学園テニス部有志によるライブが始まっていた為、皆そっちに注目していて試合など見ていなかったのだ。
派手な音楽と女性の黄色い声を浴びながら、忍足、宍戸、鳳、岳人、ジローの5人は、ジャ●ーズ並の歌と踊りを披露していた。

岳人が得意の月面宙返りを披露すると、会場からわぁっと歓声が上がった。
忍足が胸をはだけ、無駄に色気を振りまく。
宍戸と鳳のハモリは全くずれていなかった。
ジローがウィンクをすると、「ジロちゃんかわいい~vv」という黄色い声があがった。

輝く汗と涙を散らばせながら、青春っていいなと、彼等は歌った。



跡部と手塚、二人の勝負を見ているのは桜乃、リョーマ、不二のみだった。

いや。会場の扉が開き、紫のタキシード姿の榊太郎が顔を出した。
会場の真ん中で自らの教え子が因縁のライバルと対峙しているのを認めると、脇に立つボーイからグラスを受け取り、一口飲む。

「主導権を握れ、跡部。私から言う事は以上だ」

彼のアドバイスは遠すぎて、跡部には聞こえていなかった。
しかし彼はそれで満足し、一緒にいた女性の腰を引き寄せた。



跡部と手塚の勝負はなかなかつかなかった。
さすがに2時間とまではいかないが、ラリーの応酬が続く。

どちらかといえば押しているのは跡部の方だった。
手塚はまた左肩や左肘の痛みが再発したのか、ショットにもパワーがない。

「おら、手塚よ。スピードもパワーも落ちたんじゃねぇのか?」
「お前こそスマッシュにキレがないぞ」

跡部の挑発に乗るような真似はしないが、手塚は苦戦していた。
皮肉にもあまり力がない。

ゲームカウントは5-3で跡部がリード。
そして跡部のサービスゲームである。
鳳のサーブを真似たスカッドサーブ:ネオで跡部はみるみるうちに40-0とポイントを取った。

いよいよマッチポイントである。

「フアッハッハッハッハッハッハッハ!!」
跡部が勝利を確信し、高笑いをした。
手塚は表情を変えずにまだ何かを狙っている。

跡部がリターンし、手塚が零式ドロップショットを放つ。
だが、それは戻らない普通のドロップショットだった。
跡部がそれを返そうと手首を返した時。

プシュアアアアアアアアアアアアアアア

糸状の水が熱くなった二人の男の頭上に降り注いだ。

「アーン?」

どうやらスプリンクラーが作動したらしい。
降り止まない水に跡部は業を煮やし、樺地とボーイと執事を呼びつけ、自らも辺りを見回した。

手塚は黙ってハンカチで濡れた眼鏡を拭いている。
そうしている間にも、水は容赦なく二人に降り注いだ。


跡部の視界に派手な若い女が入った。
彼女の手にしている物を目にし、跡部はつかつかとその女に近寄った。

「おい」

少し濃い目の化粧をした、肩くらいの長さのストレートの黒髪(部分的に茶髪を含む)の若い女は、煙草をふかしながら訝しげな目で振り向いた。

「ここは、禁煙だ」
「あ、すいません」

女は殊勝に頭を下げると、携帯灰皿をバッグから取り出し、煙草をその中に捨てる。
跡部はそれを見て満足そうに頷いて、女に尋ねる。

「スプリンクラーが作動すっからこの部屋一帯は禁煙なんだよ。誰に断って煙草吸ってたんだよ」
「あ、そうなんですか。でもここに『喫煙場所』って札、立ってるんですけど」

跡部の言葉に女は脇に置いてある立て札を指差す。
なるほど。そこには日ペンの美子ちゃんもびっくりするような美しい文字(手書き)で『喫煙場所』という紙が張ってあった。
その紙をめくると下には『受付』の文字が見える。
この立て札を作った誰かは、受付の立て札の上に紙を張り、即席の喫煙場所を設けたらしい。


「ふふふ・・・」
「まだまだだね」

二人の男の声を聞き、その立て札の作り主に思い当たり、跡部は振り返る。
不二とリョーマが挑戦的な瞳をして、跡部を見ていた。


受付の女性から紙とペンを借り、不二が『喫煙場所』という文字を書いた。
作った立て札をスプリンクラーが感知する場所に置いて、さて、喫煙者はいないかと探していた時に。
リョーマがゲーセンで対戦した事のある女性をたまたま見つけ、喫煙場所を求めていた彼女にこの場所を示したのだ。

かくして、二人の狙い通りにスプリンクラーは作動し、跡部と手塚を濡れ鼠にする事に成功した。
ずぶぬれのままでは桜乃と愛を語る事など到底できまい。
跡部は着替える事が可能だが、その間に桜乃を彼の目に届かない所に連れ去る事ができる。


普段は桜乃を巡って色々と攻防の絶えない二人だが、こういう事に関しては驚くほど協力し合うのであった。



「越前。邪魔者は皆いなくなったみたいだし、そろそろ僕達も決着をつけようか?」
「いいっスよ、じゃあここで」


邪魔者は全ていなくなり、リョーマと不二はお互いににらみ合った。
室内のはずなのに、乾いた風が辺りを吹き抜ける。

あらかじめ、この時間にエアコンが強風に変わるように、不二が乾に頼んで予約してもらっていたのだが。

タキシードの背中からリョーマはラケットを取り出した。
不二もタキシードの中からラケットを取り出す。

リョーマはボールを左手に持つと、ラケットを右手に構えた。

「不二先輩、行きますよ」
「ふふふ・・・おいで」

リョーマのツイストサーブが不二の顔面を捉えた。
と思ったが、不二はそれを器用に避け、リターンする。
前に詰めていたリョーマがボレーを放つ。


両者の白熱した戦いに、ライブが終わり、何か面白い物はないかと集まっていたギャラリーがどっと沸いた。



ギャラリーの歓声にまぎれるようにして、ピンクのドレスを着た女の子が会場から出て行った。
彼女は悲しみにくれた瞳をしていた。





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2002年12月23日



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