※微グロ注意!!














俺は鬼兵隊に入ったことを後悔はしていない。

だが仕事は楽しいだけじゃない、寧ろ嫌なことの方が多いくらいだ。

俺は弱い、戦闘力も精神力も低い。

特に隠密は人の隙や闇を見て利用する仕事、何度折れそうになったか分からない。

それでも俺は鬼兵隊でこの仕事を続けるだろう。

晋助様が望む限り、俺がこの世界で生きている限り。



「…それしか残ってねぇんだよ」











黒の行方








俺は鬼兵隊の雑用と密偵が主な仕事。

隠密活動の際は基本単独で動くが例外もある。

それは、現地で幹部方の存在が必要な時だ。

俺じゃ決められないような判断が必要な際、幹部方と共に行動する。

今回の仕事もそう、俺は武市様と一緒にこの場にいる。

ここは転海屋、表向きは普通の貿易会社だ。

だが裏では攘夷志士に武器を売り捌いている、しかも良質の物ばかり。

鬼兵隊は普段、橋田屋を贔屓にしているが転海屋にもたまに顔を出す。



「確かにこれは中々の品物、幕府御用達ですね」

「はい、我々も質を吟味してからお出ししていますので」



武市様が転海屋の社長、蔵場当馬と交渉をしている横で俺は無言のまま座っていた。

武器の購入、商談に俺の意見は必要ない。

俺はただ、別口で与えられた任務のためにここにいる。

しかし…武市様も蔵場当馬も何でこんなに無表情なんだ?

二人が発する妙な雰囲気に笑いそうなんだけど、っていうのは別の話。

俺が噴出す前に早く終わってくれねーかな…。



「それではサンプルとしてこれは引き取ります、後日改めまして購入に窺いましょう」



武市様はテーブルの上に金を置き、一丁の銃を手に取って俺に渡す。

俺は無言で受け取るとそれを懐に仕舞い、武市様と共に頭を下げてから蔵馬邸を後にした。

時間は昼、まだ日は高く雲一つ無いイイ天気だった。

しばらく歩いて屋敷が見えなくなってから、武市様が俺に囁く。



「どうでしたかさん」

「…監視の気配はありませんでした、やはり屋敷は表立って見張れないんでしょう」

「そうですか、ならば今夜は予定通りで頼みますよ」

「はい」



転海屋の蔵場当馬は、真選組を抱き込むために血縁者と政略結婚を行ったとの情報がある。

その相手は不在だったらしく、屋敷で見かけることはなかったが。

蔵場当馬はそれを最善策だと思っているらしいが、俺達鬼兵隊は全く逆の感想を持った。

真選組は絶対に懐柔出来ない、晋助様も幹部方も全員一致でそう判断している。

寺門通誘拐事件で真選組の人間の目を見ている俺も同じ、あいつらは利権では決して動かない。

この判断により、転海屋は逆に真選組から目をつけられた可能性が高かった。



「少し早いですが俺は今から港で待機します、動きがあるとすれば多分そこですから」

「分かりました、何かあればいつものように」



今日の夜、転海屋は別の所と取引を行う予定がある。

もし真選組が蔵場当馬をお縄につかせるつもりなら、間違いなく今日の取引現場に現れるはず。

この手のものは現行犯で対処しないと、証拠不十分で逃げられるからだ。

武器密輸の罪状を取るのなら、港からの運搬か武器の引渡しの瞬間を押さえればいい。

武市様と別れた俺は、転海屋の貿易船が停泊する港へ足を進めた。

あちこちにコンテナがあり身を隠す場所には困らない、だが位置関係は考慮しないとな。

船の停泊する場所を確認し、真選組にも転海屋にも見つからなさそうな場所を予測する。

やがて適当な場所を見つけた俺はそこに身を移した。

そして日が暮れるまで、ケイタイでラジオを聴きながら懐に入れていた文庫本を開く。

後は夜になるまで待機するのみ、妙な気配を感じたらすぐに対処できるクセもつけてあるしな。



「………………」



空の色が茜色から群青色に変わり、群青色から闇に変わる。

光が無くなり本の文字が読めなくなると、俺は諦めて懐に片付けた。

ケイタイの照明機能もあることはあるが、居所がバレる恐れがある。

それに電池切れを起こしたら武市様に連絡が出来ない、俺はラジオも止めてイヤホンを取った。

同時に船が港に停泊し人が疎らに集まってくる、俺は身を潜めつつ確認を行った。

……あれは間違いない、転海屋の船だ。

運搬されてんのは全て銃火器系の武器、またタイミング良く密輸船が来てくれたモンだな。

誰にも見つからないよう細心の注意を払って、俺はコンテナの合間を移動した。



「アイツは…」



必死の形相で港から駆け、あっという間に姿を消した男。

真選組の密偵か、一方的とはいえ妙に縁があるな。てか何でアフロ?

とにかく真選組、しかも隠密がこの場にいるってことは…。

思考を吹き飛ばすかのように耳慣れた破裂音が響き、俺はそちらに顔を向けて再び移動した。

銃火器の発砲音に爆発音、叫び声や刃を交える音まで微かに聞こえてくる。

武器を持った大量の志士の中心で、たった一人戦っている男がいた。



「土方十四郎…」



血塗れになりながらも、修羅の如き立ち回りを見せるのは真選組の副長…土方十四郎。

真選組の密偵は、どうやら応援を呼びに行ったようだな。

だが何で一人で戦ってんだ?劣勢になるのは目に見えてるはず。

そしてある程度距離を取っているにも拘らず、聞こえてきた二人の遣り取り。



「道具としてですが」



蔵場当馬から発せられた言葉を聞いた瞬間、俺の思考が止まった。

道具?道具って何がだ、お前…今何て言った?

お前、自分の妻を道具って言ったのか?

そうかよ…そうなのかよ、お前は自分の妻に対して向けるべき愛情も全くねぇのか。

確かに真選組抱き込むために、その縁者を伴侶にする野郎にロクなのはいねぇだろうな。

けどよ…妻ってのは一生を共に過ごすパートナーだろ?

真っ当な道歩いてなくてもよ、連れ添う妻には少しでも愛情持って接するのが男じゃねぇのか?

おかしくもねぇのに無性に笑いたくなった、隠密として自制はしてるが。



(何なんだろうな、一体…)



土方十四郎、アンタの言葉も俺には痛ぇ。

普通に所帯持って、普通に子ども出来て、普通に家族で生きて。

そんな生き方…俺もしたかった、そんな生き方…俺もするはずだった。

刀振り回して大切な奴残して死ぬのと、刀無くて大切な奴を死なせるのなら…。

俺は前者になりたかった、後者に成り果てたら生きることも死ぬことも出来ないんだよ。

だったら俺も外道か、大切なものすら護れなかった人間は侍になんてなれない。

――全身が熱くなる、頭も沸騰しそうなのに芯からどんどん冷えていく。



「………………」



口の中で無意識に呟いたアイツの名前は、俺の耳にすら届かずに空気に溶けた。

そして激化する争い、俺は無感動に土方と浪士を見届けつつ蔵場当馬の動きを監視する。

信じられないほど思考が冴え渡り、この場の動きが手に取るように分かった。

土方は劣勢だがもうすぐ真選組の応援が到着するだろう、そうすれば蔵場当馬は逃走するはず。

そして予想通り動く蔵場当馬、俺もコンテナの隙間を縫って追跡する。

車に乗られ途中引き剥がされるも、焦りもせずにそのまま追った。

――車が真っ二つに斬られ、凄まじい音に鼓膜が痛む。



「………………」



真選組と、何故かその場にいた坂田銀時が去っていった。

戻ってこないか充分に確認してから、俺は炎上する車に注意しつつ近づく。

蔵場当馬の生死を確認するためだ、直接自分の目で確認しないとな。



「…ぐ、ぅ…ぅっ……!」

「………………!?」



血塗れなうえ火傷で爛れた手が俺の足首を掴んだ。

それは、変わり果てた姿となっているも奇跡的に生存していた蔵場当馬だった。

俺は目を見開いた、が…言葉は出てこない。

普段なら何らかのリアクションを起こすはずだが全く心が動かない、自分でも不思議だった。



「た、助け……」

「………………」

「頼…む、礼は――」



手首が宙を待って、コンクリートの上に転がった。

蔵場当馬は何が起こったか分からず、俺を呆然と見上げる。

爆風で角膜炙られてそうな濁った目に、刀を持った俺が映ってるのかは知らないが。

炭化しかけていたのか刀に血はあまり付いていない、俺はそのままケイタイを取り出した。



「もしもしです」

『あぁさん、どうでしたか?』

「真選組により蔵場当馬は死亡、転海屋は壊滅。…情報収集の後帰還予定です」

『…そうですか。あの…さん、何かありました?』

「ありません、それでは現場に戻ります」



報告を終えてケイタイを切った俺は、それを仕舞って再び蔵場当馬に視線を向けた。

手首を切り落とされた痛みは感じてないらしい、動きも殆ど無くなっている。

俺は今日の昼に転海屋から買った銃を取り出し、蔵場当馬にアンダースローで放り投げた。

そして刀の持ち方を変える、切っ先が下になるように。



「自分の妻にすら愛情のカケラもねぇ男が、この世に生きる資格あると思ってんのか?」

「…ぁ……」

「死ねよお前」



事も無げに言って、俺は腕を振り下ろした。

切っ先が蔵場当馬のうなじに突き刺さり、喉まで貫通させたところで素早く引き抜く。

蔵場当馬の目がカッと見開かれ腕がビクッと持ち上がった、そして直ぐに落ちて動かなくなる。

静かに流れ出す血液を少しの間見下ろしてから、俺は血を振り払って刀を納めた。



「…帰れねーな、今日」



港を後にした俺は、ポツリと呟いた。

こんな状態じゃ仕事に集中出来るはずもねぇ、今日は鬼兵隊の船には帰らない方がいいな。

同期の奴らや幹部方に負担や迷惑を掛けるワケにはいかねぇから。

俺は足を止めて、ケイタイにある番号を打ち込んだ。

まるで縋るような手付きに自嘲する、何で俺はこんなに弱いんだろうな…。



『あーもしもし?』

「……長谷川、今から俺の家来てくれねーか?」

『え、あ…の兄ちゃんか!?どうしたんだよオイ、何かあったのか?』

「酒が飲みてぇ気分なんだよ…。奢っから頼む」







頬を滑る濡れた感触に、俺は夜空を見上げる。

雲一つ無い綺麗な星空から降る雨は、冷たいのにどこか温かかった。







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