長谷川がえいりあん一本釣りで一攫千金を狙うらしい。

俺は真剣に長谷川の頭を心配した。

長谷川からまた連絡が来る、どうやらえいりあんは諦めて大江戸マートに就職したらしい。

俺は祝福した、主に頭を。

長谷川としばらく連絡が取れなかった、どうやら新しい仕事中に襲われて入院してたらしい。

命に別状は無かったが、トラック爆発させたせいで仕事はクビになったようだ。

お祓いにでも行った方がいいと思う、流石に。



「酒でも届けてやるか…」











黒の行方








コンビニでビールを二本買った俺は、長谷川が住んでいるアパートに向かう。

時間は夜、本来は夜回りの当番があったんだが…放っておいて死なれるのも後味が悪い。

なので今日だけ抜けさせてもらった、代わってもらった奴の明日の仕事全部引き受けて。

…ったく面倒クセーな、まあ関わったからには責任持つのが俺の武士道。

さっきも言ったが、放置して自殺されたら後味悪いしよ。



「…寒いな」



季節は冬、もうすぐ大晦日と正月がやってくる時期だ。

雪こそ降ってないが息は白い、着物の上に軽く羽織ってきて正解だった。

黄色よりも白に近い月を眺めつつ、俺は早足に長谷川の家へと急いだ。

そして、急に月明かりが消える。



(………………?)



雲に隠れるのならば、もう少し遅く光が消えるはず。

まるで暗闇の中一本しかない蝋燭を吹き消したような、そんな唐突な消え方だった。

俺は不審に思って再び空を見上げる。

そこには闇があった、空とは微妙に色が違う闇が。

その闇はどんどん大きくなり…ってか、落ちてきてないかコレ?



「………………!?」



間違いない、どういう事か分からないが闇が俺に向かって降って来てる。

咄嗟に身を横に投げ出すと同時に、さっきまで俺が居た場所に何かが墜落した。

鈍い音と共に、カエルが潰されたような声が聞こえた気がする。

俺は恐る恐る、現場に近づいてみた。

そこには、全身黒装束で包まれた忍者っぽい人が文字通り潰れている。

そうか…コイツの全身が黒装束だったから、俺は闇が降ってきたと勘違いしたワケだ。



「…おい、大丈夫か?」



しかし、何で忍者?

普通空から忍者なんて降ってこないだろ、忍者は屋根を駆けるモンじゃないのか。

まさか…俺が鬼兵隊所属の攘夷志士だとバレて、付け狙われてた?

懐に手を入れて刀を抜きかけるも、正直忍に勝てる気はしない。

ここはしらばっくれた方がいいかもしれないな。



「……い…」

「は?何だって?」

「ケツ…痛…、思いっくそ…刺さ…ッ……」



忍者は倒れたまま自分の尻を擦る、しかも穴の部分。

何コイツ、まさか尻の穴が痛いから空から降ってきたのかよ。

いやいやいや、どんだけ弱い忍者?

こりゃただの偶然だな、俺の身の上知って狙ってきたわけじゃなさそうだ。

それに俺みたいな下っ端狙ったところで、得られる情報なんて高が知れてるしよ。

……どうせ俺は下っ端隊長だよ、悪かったなチクショー。



「刺さったって何だよ、お前何プレイしてたんだ?」

「ち、違ッ…から…。別にそんな趣味ねぇから……!」



反論しつつも痛そうに悶絶する忍者男。

何で俺の周りにはこういう奴らが集まってくるんだろうな、こいつもワケありっぽいし。

ま、人は生きてりゃワケありになんだけどよ。俺もそうだし。

さて…どうすっかね?

俺は長谷川の所にいかなきゃならねーんだから、時間食ってる暇無いんだけど。

目の前に悶絶する忍者、近くには人っ子一人いやしない、横には店。

俺はビールの入ったコンビニ袋を持ったまま、溜め息をついて頭を掻いた。

そしてこの場から去る。



「ほら」

「……え?」

「痛み止めと水だ、よく分かんねぇがそこにいたら車に撥ねられるぞお前」



直ぐ近くにあった店は、大江戸ドラッグストアーだった。

俺はそこに行って痛み止めを購入し、ついでに店員からコップと水を貰ってきた。

コイツの痛みの原因はよく分からないから、とりあえず間に合わせの痛み止めを選んだ。

俺は医者じゃない、後は病院で診察貰ってこいっての。

薬とコップを手の届くところにおいてやれば、忍者男は手を伸ばして薬を服用する。



「薬はやるがコップはあの店のやつだ、ちゃんと返してこいよ」

「お…お前…、いい奴だな…。助かったぜ……」



顔までグルグル巻きになってっし、ましてや夜だから顔は良く見えない。

けど喜んではいるんだろうな。

薬が効くまで待ってやる義理も無いし、話す事も無いので俺は行く事にした。



「じゃ、俺は急いでるんで。どうでもいいが早く病院行った方がいいと思うぜ」

「サンキューな…この恩は忘れねぇ…よ。お前こそ…侍だぜ、兄ちゃん…」

「俺は侍なんかじゃねーよ、ただの世捨て人だ」



侍ってのは、護るべきものを護る人間の事を指す。

だったら俺は侍じゃない、護りたいものすら護れなかった男が侍になどなれるハズがない。

…らしくないな、もうすぐ一年が終わるからセンチメンタルにでもなってんのか?

とにかく長谷川のところに行くために、俺は忍者を置いて今度こそ歩き去った。



(そういえば、明日大晦日の準備あるんだったな)



鬼兵隊にも、大晦日と正月だけは存在する。

この日は唯一ハメを外して楽しめる日だ、下っ端も幹部も一緒になって宴会を楽しむ日。

俺達は攘夷志士、いついかなる時に命を落とすか分からない。

俺自身が楽しむことについてはどうでもいいし、いつ死んだとしても別に構わない。

ただ…俺は仲間が楽しんでいる姿を見るのは好きだし、出来る限り仲間には死んでほしくなかった。

甘いと言われればそれまでだが、これが俺の正直な気持ち。

そんな事を考えていると、あっという間に長谷川が住んでいるアパートの部屋まで辿り着く。



「長谷川、俺だ」



しばらくしてから、ドアが軋んだ音を立てて開いた。

顔を出したのは疲れきった様子で、力無く笑うグラサンのオッサン。

……略してグっさんか?

こりゃ重症だな、ロープ購入する前に何とか元気付けてやんないと。



「よォ…の兄ちゃん、わざわざありがとよ…」

「寒いから早く中に入れろ、酒買ってきてやったから」



コンビニの袋を見せ、半ば強引に上がりこんだ。

何でこんな風に甲斐甲斐しく世話してんのか自分でも分からない、世界を壊したい俺の意思は変わってねぇのに。



「ところで、妻とのその後はどうなんだ?」

「いや…まあ離婚はしてねぇんだけどさ」

「そうか、良かったな」



酒に酔いつつも、少しだけ嬉しそうに笑う長谷川を見て思う。

俺は、幕府に引き裂かれたこの二人の夫婦仲が元に戻る瞬間を見たいのかもしれない…と。








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