長谷川からタクシー運転手をクビになったと連絡が来た。

しばらくヤケ酒に付き合ったら、二日酔い確実な量を飲んで帰っていくを繰り返す。

そして今日、嬉しそうな声で連絡が入った。

どうやら鎖国解禁二十周年記念の祭りで、出し物をして食いつなごうとしてるらしい。

とりあえず適当に励ましてケイタイを切った俺は、額を押さえて溜め息を吐く。

あーあ、絶対いつかは起きるって分かってたけど早すぎだってのコレ。



「会場で鉢合わせしなきゃいいけどよ…」











黒の行方








最終打ち合わせを終えた俺は、早速定位置についてもう一度段取りを確認した。

平賀源外の見せものが始まった瞬間、作戦は発動する。

源外のカラクリは全て将軍の首を狙うための兵士となり、その混乱に乗じて将軍の首を取るこの作戦。

後は晋助様がどうやって源外を抱き込むかに懸かっているが、あの人なら大丈夫だ。

あの人に声を掛けられて、魅入られない人物はいない。

俺も当然、晋助様の意思に惹かれた虫の一人だ。



「で、俺は結局どうすればいいんだ」

「見せものの番が来たら行動すればいいんです、俺は煙幕に紛れてアンタをサポートしますから」



祭りのタイムテーブルを指し示し、俺は敬語で源外に説明する。

今回ここにいる攘夷志士は俺と数人のみで、後は全て源外が作ったカラクリ兵士だ。

晋助様は源外を実行犯に仕立て上げ、足が着かないようにする作戦に出た。

けど、本人が姿を現したら意味が無いと思うんだが…。

まぁ祭り好きの晋助様が黙っていられるハズも無いか。

それに真選組も馬鹿じゃない、この祭りで何かが起きれば鬼兵隊の関与を疑うだろう。

幕吏十数人の皆殺し事件、あれが記憶に新しい以上は仕方が無いしな。



「ふん、どうせイザとなったら俺を使い捨てにする気だろうが」

「そうならない為の段取り説明です、それにアンタの技術があれば将軍の首くらい取れるでしょう?」

「ナマ言ってんじゃねーよ若造が」



俺は使い捨て云々に対し、敢えて否定をしなかった。

相手は俺よりも長く人生を渡ってきたベテラン、ヘタに言葉を濁せば逆効果になる。



「それとも降りますか?自信が無いなら構いませんよ」

「誰に向かってモノ言ってやがる。それに俺が降りたら困んのはテメーらだろ、真選組に通報してやろうか?」

「それは同じでしょう?俺の顔は知られてない、証拠持って真選組に行ったらアンタも捕まりますが」



しばし無言となり、お互いが睨み合う。

頑固ジジイの相手は苦手だ、どうしても口調が慇懃無礼になってしまう。

顔色を窺われるよりマシだとは思うが、鬼兵隊の…晋助様に対する印象を下げてしまったかもしれない。

それは避けたいが、一度発した言葉は戻らないので今から気をつけることにすっか。



「将軍の首を取れるチャンスは今日ぐらいしかねぇ、言われんでも乗ってやるさ」

「ありがとうございます。俺達もアンタの技術は重宝しているので、正直降りられるとキツイですね」

「ケッ、急にしおらしくなりやがって」

「それだけ頼っているという事です」



その後も衝突を繰り返しつつ、源外との打ち合わせを終えた俺は祭りのセット裏に身を潜める。

もし真選組や幕府の関係者が源外自身を狙ってきた時、それを防ぐのが俺の役目だ。

既に刀の手入れは済ませてあるので、後は源外の番が来るまで待っていればいい。

たまにセットの隙間から風が入り、俺の髪を僅かに揺らした。

……そしてついに、花火の音が連続して響く。

始まった、これは源外のカラクリが打ち上げているもの。

俺は刀の鞘を握り締め、覗き穴から外の様子を窺う。

同時に客席後方に煙幕が打ち込まれ、本格的な始まりの合図となった。



「……甘いな」



源外の行動は打ち合わせよりも遅い、それは多分客の退避を待ったからだ。

冷たい声色で呟いたつもりだったが、俺の口調には笑いが含まれている。

実際口に笑いは無かったが。

なるべく犠牲を出さない、それは鬼兵隊の方針から見ればマイナスになる行為。

俺個人の感想と、鬼兵隊としての任務がぶつかり合い評価はプラスマイナスゼロだ。

まあ別にどうでもいいか、それよりも問題なのは…。

俺は懐に手を差し入れ、小型マイクのスイッチを入れる。



「…将軍は?」

『悪い、逃げられた。思ったよりも退避が早くて…完全に護衛に守られてる』

「そうか。いや、源外の攻撃が遅かったのが原因だろう。深追いは危険だから先に行け」

『分かった、晋助様には連絡する。はどうするんだ?』

「もう少し情報を集めてから集合場所に向かう、ちょっと気になってな…」

『了解、気をつけろよ』



通信を切ってマイクを片付けてから、再び覗き穴から外の様子を眺める。

そして俺は目を細めた。

喧騒に掻き消されそうになりながらも俺の耳に入った声、どうやら聞き間違いじゃなかったようだ。

源外と対峙する銀髪の男、アイツは…陀絡を一瞬で倒した桂の仲間。

違うのは真剣ではなく木刀を持っていることだけ。



「俺ァただ自分の筋通して死にてーだけさ」



源外の言葉に反応してしまい、刀の鞘が地面に擦れて小さく音を立てる。

アイツの顔が脳裏に過ぎった。

分かってる、分かってんだよ、源外の言う通り死んだやつにしてやれる事なんてねぇんだ。

けど俺は許せねぇ。

俺の全てを理不尽に奪い取り、俺の全てを滅茶苦茶に壊しておいて。

それなのに、そんな奴らが何の報いも受けずのうのうと暮らす事を許してるこの世界が。

仇を取るんじゃねぇ、思い知らせてやりてぇんだ。

お前らが住んでいる江戸が、この世界がどれだけ狂ってる場所なのかを。

俺が想いを馳せていると、源外と言葉を交わしていた男が動く。



(早い、それに……!)



ヤツは勝った、いとも簡単に。

誤作動を起こしたのか違う理由か、攻撃を行わなかったカラクリのせいだけじゃない。

木刀で打ち倒したのだ、スピードだけじゃなくパワーも桁外れと言える。

……きっとこれは偶然じゃない、何かに導かれた必然だ。

この男は間違いなく、鬼兵隊と対立するであろう一番の脅威になりうる。



「…晋助様はいるか?」

『もうお帰りになられたが、どうした?』

「いや、だったらいい。…俺も今からそっちに向かう」



通信を切って、真選組に気付かれないように俺はその場を抜け出し集合場所へと向かう。

その途中でふと思い出し、俺はケイタイを出しある番号を打ち込んだ。

呼び出し音が数回、そして途切れる音が聞こえる。



『…もしもし?』

「長谷川、俺だ。祭りで事件が起こったらしいが大丈夫だったか?」

『あ…の兄ちゃん…心配してくれたのか…サンキュー』



声に覇気が無い、怪我でもしたのだろうか。

そんな俺の心配は、全くの杞憂だった事に気付くのはすぐだった。



『兄ちゃん…俺さ、射撃のおっちゃんやってく自信無くなっちまった…』

「…そうか」

『俺に向いてる仕事って何だろうな…。てか俺に出来る事ってあんのかな、ハハ…』



何があったんだろうな。








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