セフィティダ同盟

Hesitation love

作者:はこ様 匣入-はこいり-

 ホント、俺、気を付けていたんだってば。
 なにぶんにも男の子ですから、多少跡が残っていたって気にしない性分だし、ただ親父に見つかったら馬鹿にされるから出来れば跡なんか残らない方がいいかなぁって思うくらい。
 でも今は状況が変わった。
「平気な訳があるか!」
 同じクラスのスコールに怒鳴られても嫌だ嫌だの一点張り。だって、嫌なんだよ。痛いけどマジで平気だからと言っても誰も本気にしない。
 そりゃあね、肘からダラダラと血が流れているのを見たら誰だってそう思うだろうけどさ、でもさ。
「嫌っス…」
 患部を手の平で押さえながらグラウンドの真ん中で座り込んでいる俺涙目。硬い土の上にぽたぽたと血が落ちても俺は洗えば平気だと言い張った。
「いい加減にしろ!」
 また怒鳴られてもビクってなった。普段あんまり他所事に関心のないスコールに怒鳴られたもんだから、クラスの皆も驚いて、俺も驚いた。
「でも…嫌っス〜…」
 子供みたいに泣きながらフルフル首を振っていたら、今度こそスコールがキレた。
「ぎゃあっ!」
 突然俺を抱え上げ、真っ直ぐに校舎を目指して歩くスコールの背中をドンドン叩きながら嫌だ嫌だと喚く俺。始めのうちこそスコールの体操着に血が付いちゃうとか考えていたけど、もうお構いなし。
「離せってば!」
「黙れ」
 足をバタバタさせてもスコールは微動だにしない。校舎に入って向かった先は保健室。どうか、どうか神様、奴が会議かなんかで不在でありますように!


 …なんて願いも虚しく、椅子に座らされてまず拳固一発食らってまた涙目。
 ここにきてしまったならもう無駄な抵抗は出来ないから大人しくしていたのに、拳固の理由はすぐ来なかったことと嫌がって暴れたことにある。
 体育の時間、サッカーしていて見事に転けた俺は、運悪くグラウンドに転がっていた尖った石で肘をすっぱりと切ってしまった。去年度までならすぐに来たよ、保健室に。優しい女の養護教諭で用がないのに来てたくらい。けど、でも、今年度は用があっても来たくなかった。男の養護教諭だからって理由じゃない。美人さで言えば去年度の先生とタメ張れるくらい…いや、それ以上。どこか人間離れした綺麗さがあって女子には人気があって。
 …で、俺の…。
「馬鹿者」
「……っ」
 患部を診た養護教諭のセフィロスはふぅと溜息を吐いて立ち上がった。
「なっ、…なに?」
「病院に行かないと無理だな。ここで治療出来るレベルの怪我じゃない」
「…そ、そんな酷いッスか…?」
「……」
 確かに痛い。凄く痛い。血はまだ止まらないし、晒を巻いて貰ったけどみるみるうちに真っ赤になる。
「少し待っていろ。病院と担任に連絡してくる」
 不機嫌そうにセフィロスは俺に言う。だから、来たくなかったんだけど…怪我の治療と言っても色々あるらしくて、仕方ないこともあるって知ってるけど。
 例えば、俺は高校生だけどブリッツボールのプロプレイヤーでもある。ブリッツの練習や試合中の怪我は労災で、学校での怪我はまた違うらしい。大人任せだからそういうことだって知ってるだけで詳しくない。
 治療も、学校で出来る範囲を越えていれば病院に連れていかれるのも判っている、いるけどさ。
「……」
 俺が、ここに来るのを頑なに拒んだ理由、誰にも言えない。
「……膝、擦りむいてる」
 肘の怪我ばかりに目がいって他の小さな怪我は自分でも自覚してなかった。
 溜息をいくつか、じっとしていたら患部がじんじんと熱を持った痛みに変わってきた。セフィロスは患部を診て晒を巻いただけだったけど、あの機嫌の悪さから言ったら結構酷いのかもしれない。
「…あーあ…」
 何回目かの溜息のあとセフィロス保健室に戻って来て、徐に白衣を脱いで車のキーを手にした。
「行くぞ」
「…え、ア、アンタが付いてくるんスか…?」
 そう言ったら更に不機嫌そうに眉を寄せて、ああもう見たくない。
「でも、シート汚れる」
 前に乗ったことがある高級車。新車かと思うほどぴかぴかなのに、洗えばなんとか落ちるだろう体操着を汚すのとは訳が違う。
「つべこべ言うな」
「……、はい、ッス」
 もう、大人しくしていた方がよさそうだ。どうせこの先の運命は変わらなそうだし。


 病院で治療してもらったものの、思った以上に時間がかかってしまった。
 なぜなら傷口を三針縫うくらいの怪我だったから。しまったなぁ、ブリッツのチームの方にも届けを出さないといけない。そんなに酷い怪我だなんて全然判らなかった。ああ、あとは…親父には、いっか。どうせ担任から連絡が行ってるだろうし…と病院を出て携帯の電源を入れたら、スコールや他の友達から心配のメールが山ほどきていて、遠征中の親父からは「ばーかm9(^Д^)pgr」ってメールがきてた。
 くそムカつく。
 怪我をしたのが右肘だったから、帰る途中のセフィロスの車の中でスコールたちへの返信を慣れない左手でぽちぽち打った。
「一旦学校に寄るからな」
「…ん…」
 セフィロスの言葉の意味を半分だけ理解してメールを打ち、学校に着いたら制服と鞄がきちんと用意されていたのでそれを持って、そんで。
「帰るぞ」
「……へ…?」
 帰りも送ってくれんのかな? ってそんな訳がないの知ってるから、保健室に行きたくなかったのに俺ときたら。
「グズグズするな」
「いや、あの、ちょっと!」
 知ってるよ、俺の運命。保健室に連れていかれたときにもう覚悟していたのに、ここに来てまだ踏ん切りがついていなかった。諦めが悪いとセフィロスは思っているだろうな、でも、最後まで足掻くのが粘着気質な俺の性分。そうでなければみんなの前で嫌だ嫌だなんて喚けない。
「心配するな。治るまでとは言わん」
「冗談じゃないッス…」
 今日の最後の授業がもう少しで終わろうという時間。正門付近に停めてあるセフィロスの車に乗るときに躊躇っても、もう抗える段階を優に越えていた。
 例えば、親父が遠征中じゃなかったとしたらどうなっていただろう。怪我をした子供を一人にさせておく訳には行かないなんて大義名分で以て、俺の身柄を自宅に連れ去ろうとするセフィロスはどういう行動に出ただろう。
 友達にも、親父にも内緒にしているし、誰にも言うつもりもないし、寧ろそういう関係があるのに俺が嫌がって顔を合わそうとしないんだから、俺達はきっと単なる養護教諭と生徒のままなんだと思う。
 表向き誰にも平等に接しているセフィロスが、自分だけのカテゴリーに俺を入れたときだけ変わる人だっての、俺しか知らない。…と思う。俺はそれに優越感や、特別な感情を抱いている訳じゃない。…と思い込ませてる。
 俺はもう、どうしようもない。
 自分の感情は誰にも言えない。セフィロスにだって言えない。
 何が不満かとか、保健室に行くのを嫌がったりとか、そういういうことをセフィロスにも言わないでいるのは、叶うときは叶うし、叶わないときは絶対叶わないと理解しているから。
 二人きりの車内でセフィロスはいつも無言だった。学校で不機嫌そうな表情とか、無言のときとか、そういうセフィロスとは一緒にいたくない、出来れば。


 親父は結構な稼ぎはあるし、俺もそこそこ稼いでいるけど、なんとなく高級感から除外された家族って言うか。
 親父の趣味で住んでいるところは改造した船だし、試合で優勝したときのVIP待遇とかには慣れていたけど、普段の居住空間がこう…高級じゃないと、セフィロスのマンションは寧ろハレの日だけのVIP待遇と同じような感覚で。
「………」
 資産はあっても俺って庶民感覚が息づいているみたいだ。前に一度だけ来たことのあるセフィロスのマンションは、一人暮らしのくせに無駄に高級で無駄に広い。玄関なんか、俺の部屋一つ分くらいありそうだ。
 玄関で突っ立っていたら、セフィロスが俺の肩をトンと押してドアを閉める。早く入れってことだよな、と靴を脱ぎかけたら、背中からふわりと抱き締められて、眩暈がした。
「……っ、」
 このマンションの空気は、酸素濃度が高いんじゃないかと思うくらいに色んな意味で濃い。今ここにいる俺と、普段の俺のギャップがあり過ぎて嫌だ。いっそ倒れてしまいたい。
「…ティーダ」
 頭一つ分以上違う身長差で後ろから抱き締められれば、俺の身体なんかセフィロスの腕の中にすっぽり納まってしまう。怪我を気遣った抱擁は緩やかで、俺が一歩踏み出せば簡単に解けるほど弱々しい。
「……ぅ、」
 そうしない自分が、嫌だ。
 頭のてっぺんにキスされて、その唇が少しずつ下がってきても、俺は動けない訳じゃないのに動かなかった。
 本当に、自分が嫌だ。
 俺の大義名分は怪我をしているからで、でも、前はなんだっただろう。初めてこの部屋に来たときに大した抵抗もなくセフィロスを受け入れたのは。
 いつも頭の中はぐるぐるする。
 何か理由を付けたくて一生懸命考えるんだけど、答えが出なくて、結果自分を嫌いになる。
 養護教諭と生徒だとそう関係付けているのだって、答えが出なくて歯痒くて、怪我をしないように、会わなくて済むようにして、セフィロスを避けて、それで。
 キスをするときに素直に目を閉じる理由も、考えてみれば簡単なことなのにいちいちそうじゃないと否定する。
 だって、傷付くのが嫌だから。
 玄関先でのキスは唇が触れるだけの軽いもので、すぐに離れていった。俺はなんでもない風を装って靴を脱ぎ、ふらふらとリビングに向かった。
 電気を点けないままのリビングは少し薄暗い。荷物を床に投げ出してぽすんとソファに座れば、セフィロスは電気を点けてバスルームに消える。
「……なんなんだろ…俺」
 まだ汚れた体操着のまま、着替えは制服しかない、状況的には当然泊まりになるんだろう。どうするのかな、どうなるのかな、知ってるくせに、結末をセフィロスに委ねる。それからまた俺は鬱々と考えて、纏まらなくて、泣きたくなって考えを放棄して、セフィロスを避ける。妙な悪循環だ。
「ティーダ」
 背後から呼ばれてのろのろと顔を上げる。いつも白衣の下に隠されてる白いシャツを腕まくりしたセフィロスが、バスルームから顔を覗かせた。
「身体を拭いてやるからこっちへ来い」
「…え?」

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