関口がどうの、というよりも、だ。どう考えても中禅寺が気に食わない。ああいう奴は嫌いじゃないのに何故なのか。頭の良い奴だと思うし、敵に回したら面倒な奴だとも思う。今日出会って、第一印象は悪くなかった。だけど、今は最悪だった。

あの後、僕は大荒れだった。

演奏なんてしている気分でもない、益田を相手に暴言を吐きまくった。マイクスタンドを蹴り倒した所為で、マイクが一本お釈迦になった。よくギターに当たらなかったとそれだけは自分を褒めたい。
中禅寺と関口が去った後、僕は暴れて、それから撤収を掛けて楽器類を部員達に片付けさせ、一旦部室に戻って残っていたウィスキーを一気飲みし、寮に戻った。益田は友人宅に泊まるとかだった。


外から螺旋階段を上がった二階にある非常口の鍵は開いていた。そこから忍び込み、廊下に立つ。廊下は寝静まっているように静かだが、音楽が漏れ聞こえている部屋もあった。
よっぽど、関口の部屋をノックしようかと思ったが止した。というより、出来なかった。だって僕は関口の部屋を知らなかった。しかも中禅寺が居るのだろう。知っていても訪ねたところで、またいらぬケンカになる。こうなれば。
廊下の突き当たりの一つのドアの前に立つ。僕はノックをした。どうやら客が居るようだ。複数の女の声がする。
僕は構わず、ドアを開けた。

「やぁ。皆でこんな豆腐頭の部屋に集まって何してるんだ?」

「やっだ、礼二郎。なんもしてないよ。修ちゃんと遊んであげてるだけ」

「遊んでるんじゃねぇだろ、こら。お前ら俺の宿題写しに来たんじゃなかったのかよ。用がねぇんら帰れよ。…ボケナス、おい、寒いからさっさと入れよ」

室内には同じ寮に住む女四人がベッドに腰掛けたりジュータンに座り込んだりしていた。教育学部三年、木場修太郎は寛いだ様子でベッドの上で半身を起こしている。木場修太郎は僕と竹馬の友とも言うべき付き合いだった。幼馴染み、というのだろう。しかし、入れといわれても、だ。狭い部屋に人間が五人も居て、僕は足の置き場も無いではないか。

「狭い、狭いぞ。どうやって僕がこの中に入れると思うんだ。木場修のほうがボケナスだ」

「我慢しろ」

「だから、こいつら何時もなにしてんの。もう夜も遅いよ?」

しかし、いつも修太郎の部屋はこうなのである。いつもキャバクラの女みたいなのが、修太郎の周りをたむろしている。修太郎も面倒臭がりはしながらも、彼女らを邪険に扱いはしない。修太郎は、顔は怖いし態度も倣岸だが、寂しめの女に好かれる。基本的に弱いものには優しい男だ。だからといって木場はそいつらに手を出そうとかいう下心は全く無いらしい。だから女達は捨て猫みたいに修太郎に擦り寄ってくる。それにしても、この部屋はいつも煙草臭いし香水臭い。

「だからぁ。宿題だってば」

「だったらなんで携帯いじってメールしてるの」

「…もうっ、礼二郎、イケメンの癖に気が利かないっつーの。うちらは修ちゃんと楽しい時を過してんのっ! 甘い時間なのっ!」

「俺にはそんな自覚ねぇけども」

「修ちゃん意地悪云わないでよー」

「まだ帰らないもん。あした仕事ないし」

こいつらの名前は、左からサトコ。リエコ。ミズキ。ベッドに腰をかけているのがアイ。
体型は細身なのからハリウッドばりのしっかりしたモデル体型まで。見掛けは綺麗だが、金遣いは荒いしブランド物は大好きだし大酒は飲むし煙草も吸う。ついでに大学にはちゃんと行かないでバイト三昧。ゴウジャス美人というのだろうか。僕は関口の方が可愛くて良い――そこまで考えて、僕は固まった。
僕は関口に好意を抱いているのだろうか。好きは好きだが…今日、会ったばっかりだというのに。

「おい、礼二郎。入るならさっさと入れよ。終いにははっ倒すぞこら」

「うるさい、豆腐。そんなに僕に入って欲しかったら僕の椅子を買っておけ! 革張りじゃないと許さん! エミリオプッチだ!」

「礼二郎もエミリオ好きなの? この前ソファ、貢がせたのー。300万だって〜」

「その男、頭たんねぇなおい」

「べっつに本命じゃないっつってんのに、買ってくれるっていうから、買ってもらっちゃった。置く場所無いからソッコー実家行き。で、本命は修ちゃんだからね」

そう言ってアイはベッドの上の修太郎に抱きついた。他の三人が色めき立つ。

「おいこら、放せよ! 暴れるな! サトコ、足引っ張るなっ!」

修太郎に女が群がっている…なんだか微笑ましく思えるのが不思議だ。

「じゃ、修ちゃん、頑張って。僕は寝る」

「が、頑張るって何をだよ! お前ら重いっつーの、放せ! 礼二郎、用事あったんだろが!」

「何にもない。非常口開けておいてくれて助かった。じゃあな――ああ…そうだ。関口巽っていうの、知ってるか。あいつ何処の部屋?」

女達がぴたりと動きを止めた。顔を見合わせている。

「関口――? ああ一年の関口か? そいつは一階の106号室だ。たしか、ミズキ。俺の机の抽斗から――それだ。そのプリント。この寮の入居者一覧に載っている。礼二郎に渡してやってくれ。どうせ、捨てちまったろ」

ミズキはニッコリ笑って僕に薄っぺらいピンク色の紙を渡すと、じゃあね礼ちゃんと言って手を振った。早く帰れということだろう。

「ああ、じゃあな木場の馬鹿をからかうのも程々にな」

僕は木場の部屋のドアを閉めた。手にはちゃちいプリントを握り締めて。

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