9日目



響いた銃声の方角は向かう先とは逆の方から聞こえていた。
そして、戻った僅かな静寂を破り貴方の声が響いた。


『これが最後の放送となります。そして、同じく最後の死亡者です。
立海大附属三年、柳蓮二君、同じく立海大附属三年、真田弦一郎君です。
よって優勝者は、青春学園三年、手塚国光君。……おめでとうございます。
以上でこのプログラムは終了します。お疲れさまでした。
手塚君、コチラで迎えのヘリを呼びます。来て……くれますか』



何も聞こえない。ただ貴方の声だけが聞こえる。


「はい」


懐かしい穏やかな声に一つ頷きと共に返事をして校舎の中へと踏み出した。




今、貴方の元へ参ります。
唯一つの言葉を持って。



【柳蓮二、真田弦一郎死亡】









貴方に、会いに来ました

俺の此の体を流れる、嘗て紅かった血の色
貴方に見せる前に、変わってしまったけれど……


貴方を映す視界が、滲む
何かが俺の中から溢れ、迸ろうとする

其れは……捨てた、全ての俺

吐気と、罪の重さと、紅く染まる皆の姿……
引き裂いた、彼等の未来……

俺を否定する、全ての痛み


だが……其れが、溢れ出る前に……
此処に、貴方が在る現実が……
俺の根源の思いを膨らませ、全てを押さえ込んで……



「向こうで……貴方とテニスが出来ますか?」



其れを言う為だけに、此処まで来ました
其れを聞く為だけに、此処まで来ました


貴方は、生を……選ばないのでしょう?
共に逝く事を願って、此処まで来ました

紅い泥濘の中を這いつくばりながら……



「罪に穢れた侭で、堕ちた先で……俺と、打ってくれますか?」




其れだけを、望んで……



此処まで持って来た、貴方に与えられた銃のグリップを向ける



貴方の手で、と……望むのも、罪でしょうか



手を握る様に重ねられた手が、引き金を……引いた


此の痛みは……俺と、貴方の罪の証
彼等は俺達の犠牲者だった

流すまい、と……誓った雫
許されまい、と……禁じた流れ

何時の間にか溢れた其れが……
渇き、強張る頬を緩め……背徳の笑みを作る



「……待って…います………
 ………体…慣らしは……済んでいま…から……早……来て、ください……」



途切れた声に向けられた笑みに、ゆっくりと……


紅い幸福の中で……目を閉じた



消える意識の中に、貴方の声と温もり
そして……銃声が、聞こえる



貴方と、共に……

それだけを、望んで……



貴方の謳に、身を任せて……






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