5日目



夜闇を歩き続け再び灯台が見える位置まで来た。
流れる風が運ぶのは潮の香りだけだ。
事実は変わらなくとも俺の周囲は紅い幻臭が漂う。
右手に持ったトリコロールが俺に触れられるのを拒否している。
穢れた手で触れるなと……

頭を一つ振り幻を追い払う。俺には其れに捕われる事も許されては居ない。


目の前に見えた灯台の前に一つの影が見える。
先程通った扉との対比で其の身長を計るまでも無く見間違える筈が無い。
三年に近い年月を共にした仲間の一人。手に持つ服の持ち主の一人。
今がチャンスだと知っている。弱点を曝した者に容赦をする必要は無い。
全てを排除しなければ望む道は拓かれない。

動かない影に狙いを定め左手に持っていた俺の紅を吸った短刀を投げた。


振り返った体の背には紅が広がっているのだ。
扉に支えられなければ立っても居られない体に俺がした。

「……な、何で、お前が……」

掛けられた声に返せる言葉は無い。
友を裏切り同胞を手に掛け続けている理由は一つ、唯一人を追う為だ。
其れを言える筈が無い。
己の行動で口から紅を吐く友に何を伝えられると言うのか。
裏切りを眼前として尚、自我冷静を保つ事が出来る友に己の愚かしさを伝える言葉は無い。
為した行為の先を見つめる以外に出来る事は無い。
手にしたトリコロールが風に押される。噛締めた唇が答えを告げる事は無い。
流れる風以外に動く事の無い静寂が場を一時支配した。

「……さ…先に…………逢いに行く、な……」

其れを破る途切れた声と掠れた笑みに目に熱が溜まる。
俺を理解し其れでも尚許す友に熱を解放する事は裏切りに裏切りを重ねるだけだ。
堪えた物が頬を伝う事は無い。到達する道の果て以外で頬を濡らす事は無い。
暗くなりたがる視界を抉じ開ける。
最期の一呼吸までも見届ける事だけが俺に出来る唯一つの事だった。


動かなくなった体へと足を進める。腕を取り鼓動を打たないと知る手首に親指を当てる。
柔らかい体も次第に硬くなって行くのだろう。
今迄と同様にバッグを漁る。武器らしき物は直ぐに見つかった。
銃、の玩具。御前ならば此れを武器に戦う事は可能だった筈だ。
其れをしなかった理由を理解する事は容易だが俺は理解してはならない。
理解は俺を瓦解する。
捨てた物が最後迄捨ててはならない物だったと知る必要は無い。
俺の中に貴方以外は要らないのだから。
此れ以上此処に居る事は出来ない。
香る潮に導かれ立ち上がり振り向く事無く足を海へと向けた。



重くなったバッグから武器を出す。弾を抜き取り空になった三挺の銃を海へと投げる。
使わないと判断した鋏とボーガンと金槌、玩具の銃も同様に遠くへと投げた。
今まで目にしてきた物が視界を流れる。其れらは紅い装飾を纏い俺を見ている。

『はい、恒例の放送ですよ〜。今日の死亡者は氷帝学園三年、芥川慈郎くん、
青春学園三年、乾貞治くん、河村隆くんですね〜。
では、頑張ってるみなさんに朗報でーす。今日の芥川くんで半分を超えました。
この調子でバンバンヤってくださいね〜。ボクはココで見てますからね〜。待ってますよ〜』

目指した全国の象徴は翻る青学旗。其れを振っていた者も此の手から擦り抜けた。
其れでも貴方の声が俺を動かす。視界に映る全てを貴方へと変える。
俺には貴方しか見えない。
全てを裏切り全てを捨て残る物は貴方へと向かう唯一つの感情。
解っていた現状を其れでも選び続ける。
後何人の紅を纏えば貴方に逢えるのだろうか。
後何人の同胞の未来を奪えば貴方の下へ行けるのだろうか。
残る人数は半分を切った。だが残る者達全ても貴方へ向かう道への障害物として屠って行く。
其れを変える道が俺には見えない。

俺に見えるのは貴方だけだ。



【芥川慈郎、乾貞治、河村隆死亡】







6日目

紅注意書きに戻る

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル