1日目
ジリリリリリリリリリリ―――――――ン!!!!!!
響く目覚し時計の音が島を揺らしていた。
音が途絶え一瞬の静寂の後に聞こえたのは妙に明るい口調の男の声だった。
『みなさ〜ん!おはようございま〜す!は〜い、起きてくださ〜い!
コレから大切なオハナシがありますよ〜。
はい。そのオハナシとは……みなさんは栄誉あるモニターに選ばれました〜!
何のモニターかと言いますと〜、コレから行なわれる政府公認ゲームのモニターで〜す。
どんなゲームかと言いますと〜、運動能力やサバイバル能力が高いと政府に認められた
学生さんたちを一ヶ所に集めて一斉に殺しあってもらうゲームで〜す。
モチロン頭が良くても選ばれますよ〜。
今回のモニターさんは関東中学テニス界の強豪校からアミダで数校を選んでみました〜。
モチロン条件に合う優秀なレギュラーのみなさんを中心にで〜す。
ではルールを説明しま〜す。
と言ってもそんなに難しくありませんからね〜。
さっき言ったように殺しあってもらうのが大・前・提≠ナ〜す。
武器はランダムに配っておきましたよ〜。
側にバッグがありますね〜。それに入ってま〜す。
今回は特別に当たりと外れの割合を逆にしてみました〜。
アンラッキーな人はちょっとしかいませんから十分に楽しんでくださいね〜。
次に……はい!注目〜。と言ってもわかりませんね〜。
みなさん首をちょっと触ってみてくださいね〜。そーっとですよ〜。
爆発しますからね〜。
はい。わかりましたね〜。ソレは爆弾で〜す。
みなさんが逃げ出さないタメの秘密兵器で〜す。
リモコンはボクが持ってますからね〜。
それと運悪くこっそり逃亡に成功してしまった場合には代わりの爆弾が作動しま〜す。
ドコにあるかはナイショですけどね〜。
そうそう、そういえばみなさんは関東から来たんですね〜。
お医者さんやお寿司屋さん、アパート暮らしに道場持ちまで幅広いですね〜。
ああ、すみませんね〜。話が脱線しましたね〜。
ソレから、ためらってるヒマはありませんよ〜。
入っちゃいけない場所を作りますからね〜。
ソコに入ると爆発しま〜す。毎日こうやって放送して一つづつ増やしますからね〜。
最後は島中どっか〜んですよ〜。
でも死なない方法が一つだけありま〜す。
オトモダチをみ〜んな殺して一人になれば帰れま〜す。
最後に残った一人には大・特・典≠ェありますよ〜。
な〜んと、おウチに帰れま〜す。
ゲームの勝利者はちゃ〜んと一生政府に守ってもらえま〜す。
おカネもたっくさんもらえま〜す。好きなモノが何でも買えますよ〜。
ボクがおウチに連れてってあげますからね〜。
会いにきてくださいね〜。
―――では、始めましょうか。
このゲームの名称は―――バトルロワイアル―――です』
30分は話していただろうか。
他の者が話しているならばダラダラと話すふざけた男だと思う筈だ。
最後の言葉だけはトーンが変わっていた。本来の話し方は此方だと知っている。
信じられない内容の言葉だったが傍らに転がるバッグから覗く黒い筒は現実を見せている。
手に取って見ると矢張り偽者だとは思えない重さを感じる。
周囲を見渡せば遠くに森が見えた。人影は無い。
第一声で誰の声かに気付いた時点で選択は一つしか無かった。
森とは反対の方向に見えた家屋らしき影に向かい歩く。
手には先程確認した銃を構えている。だが目立つ武器は好ましくない。
近付いてきた家屋にも人影は見られない。
それでも気配を殺しドアへと回り中へと入る。
鼻を突く埃臭さが人が絶えて時が流れている事を教える。
だが感傷に浸る暇は無い。台所へと向かい片端から戸棚を開ける。
出て来たのは包丁が三本とアイスピックだった。
一本は必要だが残りは処分しなければならない。誰かが使わないとも限らないからだ。
包丁二本を早速使いカーテンを引き千切る。そのカーテンに全ての刃物を包む。
包んだ刃物と手にした銃をバッグに詰め不要だと思われる物を代わりに出す。
地図と磁石と食糧は必要、筆記具とルールブックと時計は不要だ。
分別を終え不用と断じた物を屑篭へと捨て家屋を後にした。
一時使えそうな武器の調達は出来た。此れから此の島を染めていく。
俺は此処で頂点に立つ。
紅く染まった穢れた勝利を手にする。
「そして、貴方に会いに……いえ、殺されに行きます」
右手で左肘を擦る。痛みも嫌悪も貴方との大切な思い出の一つに成った。
この先にある現実もそうなるだろう。
血塗れの甘美な夢が目前に広がっていた。
家屋を出て森へ向かう。一度は銃を撃って置きたい。
反動や衝撃がどれほどなのかを知って置く方が有利に事を進められる。
森に入るとバッグを下ろし銃を持った。再びバッグを背負い奥へと向かう。
反響する可能性は高いと見ている。なるべく奥が望ましい。
思考を巡らせゆっくりと進んでいた足が止まる。歩く先に二つの人影が見えた。
此処からでも解るトリコロール。明らかに小さい人影。
最初に会いたくは無かった。
麻痺した神経が後押ししなければ引き金を引けないだろう相手だ。
だが甦る言葉がある。
――会いにきてください――
貴方の言葉が俺を進ませる。その道が狂気の泥濘でも俺は進む。
あの時から貴方が導くままに動く事が俺の存在証明になった。
持っていた銃のセイフティを外しトリコロールへ向け引き金を引く。
続け様に響いた銃声は四発。
(謝りはしない。謝罪できる資格は捨てた。お前たちの全てを裏切ったとしてもと、俺は望んだ)
見えていた人影は位置を低くし動かない。其処へと重い足を進ませた。
目の前に居るのは二度と動かない次代の青学の柱。胸部と喉に紅い流れを作っている。
重なる様に倒れ伏した青学の曲者の頭部からも紅い流れは伝っている。
此方も二度と動かない。
痛むのは胸で有る筈が無い。
俺が為した行為の結果で有り、望む道への一歩なのだから。
視界に膜を張るのはレンズの曇りだ。震えるのは先程撃った銃の痺れだ。
そうで有らねばならない。
倒れ伏す二人から赤の増えたジャージの上衣を剥ぎ取る。
感傷ではない。此れは首級の代わりだ。
そうで有らねばならない。
越前の手に握られた短刀が光を弾く。惹かれた様に其れを手にし手首へと当てた。
二本の紅いラインが掌へと伝う。
此れは……此れは……謝罪では無い!
……星を描く代わりだ。
(そうで有らねばならない!)
桃城のバッグを漁ると小さな銃が有った。短刀と元々の武器をバッグに仕舞う。
もう森に用は無い。此処に長く居てはならない。
砕ける心を見てはならない。
奪った小型の銃をポケットへ入れた後は逃げる様に早足で進む。
罅割れていく精神が悲鳴を上げるのを黙殺する。
行き先は決まらない。それでも人の居る所へ向かわなければならない。
俺は視界が歪むのをクリアにする資格も捨てた。
震える体の理由を知る事も許されはしない。
何時の間にか走っていた俺に再び声が聞こえた。
『みなさ〜ん、早速の行動ありがとうございま〜す。
タダイマ首輪に付いたセンサーが二人の死亡を確認しましたよ〜。
青春学園二年、桃城武くんと、青春学園一年、越前リョーマくんで〜す。
この調子でがんばってくださいね〜。ボクは待ってますよ〜』
貴方の言葉があれば何もいらない。貴方が待っているならば何でもしよう。
それがどんなに非道な道でも、どんなに穢れた道でも構わない。
貴方の言葉に俺の震えは止まる。左肘が疼き熱く燃える。
目は次の標的を探していた。
【越前リョーマ、桃城武死亡】
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