「あ、まだ名前言ってなかったね・・・僕はあやと」
「どんな字を書くの?」
「彩るに人で、彩人・・・なんだか自分の名前恥ずかしくて・・・いい出せなかったんだ」
ふと、少年らしいはにかんだ顔を見せ小さく照れていた。
「そう?いい名前だと思うよ」
「でも・・元気だったら自分の人生も彩れたのかなって考えると・・・なんか名前負けかなって」
最後の方は、自嘲気味に笑っていた・・・。
それがすごく悲しくみえて、そのまま雨に溶けて紫陽花の花になってしまいそうだった。
「そうだ、貴女の名前は?」
「私?私は・・せいこ。静かな子と書くの」
「静子・・・さん?で呼び方いいのかな。年上の人だから、、やっぱ『さん』だよね」
そんな事をぶつぶつ呟いていて、それが止んだと同時に彼が聞いてきた。
「あの・・静子さんって恋とか・・・した事ある?」
突然の問いかけに、私の鼓動は忙しく動き出す。
そこで、気がついた。
どうやら私が彼に対して抱いている感情は、
自分でも気がつかないうちに大きくなってきているようだった。
「あ、ごめん。変な事聞いちゃったね・・・」
私が返事に困ってるのを、彼は聞いてはいけなかった事だと思い慌てて謝る。
「あ、ううん。気にしないで」
そのまま二人の間に沈黙が流れた。
初めはただ気になるという程度だった。
しかし、私はこの場所から離れる事を忘れてしまうほど、彼に引かれているらしい。
彼からの質問で、自分の気持ちに気がついてしまうなんておかしくて少し吹きだしてしまった・・・。
「どしたの?」
「あ、なんでもないの・・えっと・・・恋ね恋・・・あるよ、した事。って今もだけど」
「そっ・・・か」
そのまま彼は黙り込んでしまった。
しばらくして遠い目をして彼が私にだけ聞こえる声で呟いた。
「静子さんが、恋をするような人ってどんな人なのかな・・・」
私はそれに、自分でも恥ずかしくなるくらいの赤い顔で応えた。
「その人は・・・紫陽花みたいな人かな・・ん〜・・なんかそう言うと変な感じだけど・・不思議な人」
「そうなんだ・・・かなわないのかな・・・僕は」
彼の目が曇る。
「・・・ねぇ・・・君は誰なの?紫陽花の・・・妖精?」
言ってから、あまりにも変な発言だと気付きあわてて口を押さえたが、遅かった。
「紫陽花って・・僕が?・・・じゃあ、紫陽花のような人って・・・」
どうやら私の言った意味がわかったらしい彼は、驚きを顔いっぱいに表現して言った。