新世紀エヴァンゲリオン 外伝 


シンジ、18歳の誕生日(中編)

 サードインパクトから何年も経ったが、アタシの戦いは終わっていない。そう、以前は 頼もしい戦友であった綾波レイとの戦いがだ。だが、アタシはレイとの戦いに決着を付け るべく、覚悟を決めた。そう、今日は2019年6月6日の木曜日。今日こそ決着を付け る運命の日なのだ。 ***  タッチの差で、アタシは窓口の女の人に婚姻届などの書類を手渡すことが出来た。呆然 とするレイ。そう、アタシはレイとの戦いに終止符を打ったのだ。だが…。 「あのお、この書類はお受け出来ないのですが。」 が〜ん。アタシは目の前が真っ暗になった。そして窓口に駆け寄って、理由を尋ねたが、 『書類に不備があるからです。』の一点張りで、理由は教えてくれなかった。 「アスカ、残念ね。理由は私が教えてあげるわ。」 そういいつつ、レイはアタシに背を向けて歩き出した。アタシは少し迷ったが、レイの後 に付いて行った。 レイは役所の中のドトールに入って行った。安いコーヒーを出してくれるチェーン店だ。 レイが先に注文し、アイスコーヒーを受け取ると席に着いた。アタシもそれに倣ってアイ スコーヒーを持ってレイの前に座った。 「レイ、教えてもらおうじゃない。一体何で受理されなかったの?」 「それはね、私の方が先に受理されていたからよ。」 「でも、アタシの方が先に書類を出したのに、何故?」 「昔ね、日曜日に飛行機が墜落して、新婚カップルが大勢死んだことがあったらしいの。 それがね、そのカップルの半分以上が入籍していなくて、物凄いトラブルがあったらしい の。それ以来、役所では夜間休日を問わず、24時間婚姻届を受理するようになったらし いの。理由はともかく、今は24時間婚姻届を受け取ってくれるから、私の分は昨日の夜 12時きっかり、というか今朝の0時丁度に出したの。アスカが来るんじゃないかと思っ てビクビクしていたけど、来なくて安心したわ。」 「じゃあ、レイが先に出したから、アタシのが受け取ってもらえなかったの?」 アタシの顔は真っ青になっていた。 「そうよ。アスカも書類に不備が無いか、何度も確認してるでしょ。それなのに駄目だっ たっていうことは、他に説明がつかないんじゃない。」 「じゃあ…。」 「そうよ。今日から私のことは碇レイって呼んでね。」 「アタシは認めないわ。それにシンジも認める訳は無いわ。」 「アスカ、往生際が悪いわね。あなたも、碇君が離婚届を出すなんて思わないでしょ。そ れに裁判を起こすことも。」 そう、アタシは何かの話で聞いたのだが、一度出された婚姻届は、本人がいくら無効だと言 っても、撤回されないらしいのだ。だから、方法は2つ。裁判を起こして無効であることを 証明するか、離婚届を出すかだ。アタシはシンジがそんなことをする筈が無いと思ってこの 作戦を思いついたのだが、レイも同じ考えらしい。 「でも、アタシはあきらめないわ。」 「まあ、ご勝手に。私はこれから学校に行くから。じゃあね、残念だったわね。」 レイはそう言い残して去って行った。アタシはレイが去った後、涙がポロポロと流れて止 まらなくなった。 ***  その日、学校ではレイは何も言わなかった。不気味なほどに沈黙を守っていたのだ。だ が、時折アタシに向かって勝ち誇ったような笑みを向けてきていた。はっきり言って凄く 頭に来た。 授業中のアタシはどうしたら良いのかずっと考えていた。やっぱりアタシはシンジのこと が好きだ。だから、絶対に諦められない。何とかして挽回しないといけない。 案その1:シンジと二人で駆け落ちする。 駄目だ。シンジがウンと言わないだろう。 案その2:レイを亡き者にする。 駄目だ。そんなことをしたら、シンジに間違いなく嫌われてしまう。ていうか、アタシは 何て恐ろしいことを考えてしまったのだろう。 案その3:愛人になり、事実上シンジを独占する。 アタシのプライドが許さないし、それは置いておいても独占する妙案も無い。却下だ。 案その4:レイに土下座してシンジを譲ってもらう。 駄目だ。レイがそんなことでシンジを譲ってくれる訳がない。 案その5:MAGIで戸籍を書き換える。 駄目だ。リツコはおそらくレイの味方だろう。それに、これは犯罪行為になる。 案その6:とにかく行動あるのみ。 そうだ、これしかない。色々考えてもしょうがない。当たって砕けろだ。もう、プライド なんかにこだわっていられない。シンジに泣きすがってでもアタシと一緒になってもらう ように頼んでみよう。 アタシは心を決めた。 *** 「ねえ、シンジ。ちょっと顔貸して。」 アタシは昼休みにシンジを呼び出した。そして人気の無い場所に連れて行った。 「どうしたのアスカ。こんな所に呼び出したりして。」 「そうね。まずは、シンジ。お誕生日おめでとう。」 「あ、ああ。ありがとう。」 「でも、ごめんね。アタシ、シンジの誕生日プレゼントを買っていないの。」 「えっ。ああ、気にしなくても良いよ。」 そう言いながらも、シンジはちょっとがっかりした様子だったわ。 「ううん。その代わりに、アタシはシンジに何かしてあげたいの。そうね、例えばキスと か、それ以上のことでもいいわ。」 「ア、アスカ。一体どうしちゃったのさ。急にそんなことを言い出して。」 シンジは少し面食らっているようだ。だが、ここで引いてはいけない。 「本当のことを言うわ。アタシ、シンジのことが大好きなの。好きで好きでたまらないの。 だから、物を贈るんじゃなくて、アタシの気持ちを贈ろうと思ったのよ。」 「ア、アスカ…。」 シンジは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたわ。本当に驚いたみたい。 「でも、アスカ。僕は何も取り柄がないし、アスカに釣り合うような男じゃないし。それ に、アスカは前に僕のことを嫌いだって言っていたし…。」 「シンジは、アタシのことが嫌いなの?」 「ううん、そんなことはないよ。アスカの気持ちは嬉しいし、アスカは可愛いと思うし、 でも急な話だから、悪いけど今すぐに返事は…。」 「レイのことが好きだから?」 そう言いながら、アタシは自分の涙腺が緩むのを感じていた。もし、シンジがこれでウン と言ったらどうしようかとも思ったが、アタシはどうしても聞きたかった。 「分からない。レイはきょうだいみたいなものだと思っていたし。」 アタシはそれを聞いて少しほっとした。 「他に好きな女の子がいるの?」 「ううん、いないよ。」 「じゃあ、アタシが嫌いでなければ、ウンって言ってもいいじゃない。」 「そ、そんなこと言われても…。」 「じゃあ、お願い。アタシの気持ちを少しでいいから受け止めて欲しいの。」 アタシはシンジに近寄って、シンジの唇にアタシの唇を近づけていったわ。そして、寸前 で目を瞑ったの。でも、直ぐにシンジの唇が触れたわ。アタシはシンジの背中を強く抱き しめたわ。そして、しばらくそのままの格好でいたの。 「ア、アスカ。ごめん。」 「何よ。シンジは何か悪いことをしたの?」 「いや、そうじゃないけど。」 「じゃあ、何で謝るのよ。」 「こんな、はっきりしない僕で申し訳ないと思って。」 「そう思うのなら、これから二人で出かけない?」 「えっ、何処へ?」 「海辺のペンションか、高級ホテルに行くの。そして、二人で美味しく夕食を食べるの。 もちろん、翌日の朝食も。」 「ア、アスカ、冗談は止めてよ。」 「冗談じゃないわよ。アタシがこんなことで冗談を言うと思う?」 「思わないけど、でもいつものアスカじゃないよ。」 「そうよ、いつものアタシは我慢していたの。いつかシンジから好きだって言ってもらお うと思ってね。でも、もう我慢の限界なのよ。」 「アスカ、本当に僕のことが好きなの?信じても良いの?」 シンジが乗ってきたわ。これはチャンスね。 「そうよ、信じてちょうだい。そうね、その証しとして、アタシは今晩シンジの部屋に行 くわ。そして、シンジにキスをして、その後はシンジに全てを任せるわ。」 「えっ、そ、それって…。アスカは自分の言っていることが分かっているの?僕だって、 一応男なんだけど。途中で止まらなくなるかもしれないんだよ。」 シンジはちょっと顔が赤くなったわ。もう一息ね。 「良いの。アタシ、シンジのことが好きだから。それに、そうなったら、来年の誕生日プ レゼントが赤ちゃんになるかもしれないじゃない。アタシ、シンジの赤ちゃんなら、是非 欲しいわ。」 いやだ、アタシったら何て恥ずかしいこと言ってるんだろう。 「それほど言うんなら「ちょっと待った!!」 あっ、やっぱりお邪魔虫が現れたわ。アタシは自分の計画が崩れゆくのを感じていた。 つづく つづく(後編へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき これは、以前 「Hunt EVA」さんに投稿していた作品です。 「Hunt EVA」さんが閉鎖したので、こちらに掲載することにしました。 written by red-x



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