新世紀エヴァンゲリオン 外伝 超少女アスカ

第29話

 そうそう、食事の時間に何を話したのか、説明しなくちゃね。だから、ちょっと時間を 遡るわね。 *** 「このお魚、美味しいわね、シンジ君。モグモグ。」 「そうですね、ミサトさん。良く味わって食べないと。」 あら、いやだ。ミサトもシンジも貧乏ったらしいこと言っちゃって。アタシはさりげなく 周囲に目配りしたけれど、誰も気付いていないみたい。ほっ、良かった。 オードヴルを食べている時は、4人とも無言だったの。ミサトは恥ずかしかったみたい。 まあ、当たり前よねえ。勝手に誤解して、勝手に泣いて、誤解が解けたら驚いて、次に怒 って、シンジに凹まされて、そうしたらプロポーズされて、嬉しくて泣いて。短い時間の 中で表情がくるくる変わったんですもの。 それに、誤解の内容が内容だから、物凄く恥ずかしいわよねえ。ミサトが加持さんのこと を好きで好きでたまらないって、言ったようなものだから、きっと今でも心臓がバクバク しているわよね、絶対に。 でも、シンジって、思った以上に鈍いのよねえ。あの修羅場の中にいて、どうやら何も分 からなかったみたいなの。何故ミサトが泣いたのか、何故驚いたのか、何故アタシのこと を睨んだのか。やっぱりシンジは、『汎用人型決戦兵器』よりも『超絶人型大ボケ兵器』 の方が似合うのよね。 けれど、良い所もあるわ。何も気付かないおかげで、ミサトもシンジに対しては話し易い みたいだしね。もし、シンジが鋭かったら、ミサトもシンジに話しかけられなかったでし ょうね。ミサトもシンジと当たり障り無い話をして、落ち着きを取り戻しつつあるようね。 でも、そろそろいいかしら。アタシは本題に戻ることにしたわ。 「ねえ、ミサトに加持さん。そろそろ本題に入りたいんだけど、いいかしら。」 アタシの問いかけに対して、ミサトも加持さんも頷いて、了承の意を示したわ。 「もう、お分かりの通り、アタシとシンジは婚約することにしたのよ。それで、今日はア タシ達の実質的な保護者の二人に来てもらって、報告しようと思ったのよ。ちょっと話が それちゃったけど、今日の本題はそのことなのよ。」 そこまで言うと、アタシはミサトの反応を待ったわ。こういう時は、加持さんは多分何も 言わないわね。まず、ミサトが聞くだけ聞いてからっていう魂胆だと思うわ。案の定、加 持さんは何も言わずに、ミサトが質問して来たわ。 「あの、アスカとシンちゃんって、会ってから2日しか経っていないと思うけど、婚約な んかしても良いの?ちょっと急じゃないかしら。最初は、シンちゃんから理由を聞きたい わね。」 ちっ。ミサトの奴、シンジから攻めてきたわね。ふふふっ。でもそんなこと、お見通しな のよ。シンジが答えるよりも早く、加持さんが言ってくれたわ。 「おい、葛城。シンジ君も男だ。アスカみたいなとびっきりの美少女と婚約出来るんだ。 理由なんていらないさ。だって、こんな機会を逃したら、アスカみたいな美少女と仲良く なれる機会なんて、二度と来ないかもしれないって思うに決まってるさ。なあ、そうだろ う、シンジ君。」 さすが、加持さん。ナイスフォローね。ダイヤの指輪の代金は、チャラにしようかしら。 加持さんを味方に付けておいて正解ね。まあ、加持さんにしても、ミサトと婚約出来たう えに、ダイヤの指輪の代金を払わなくても済むかもしれないって思っているから、必死よ ねえ。 「ええ、その通りです、加持さん。アスカは、僕にはもったいない位に綺麗な女の子です。 こんなに綺麗な女の子なんて、生まれてこの方、見た事ありません。そんな子が僕の恋人 になってくれるだけでも嬉しいです。他の男に取られたくありませんから、婚約してくれ るなんて、嬉しくてたまりません。」 まあ、シンジったら、素直すぎるわ。こっちも恥ずかしくなっちゃうわ。でも、ミサトも 納得したみたい。ふふふっ。美しいって、罪なのね。シンジにここまで言わせるなんて。 「そうね、シンちゃんは普通の男の子だものね。それが普通の反応か。でも、アスカはど うなの。アスカは、男なんて眼中に無かったじゃない。それが、どうして急に変わっちゃ ったのよ。」 ミサトは疑いの眼でアタシを見たわ。さあて、ここからが勝負ね。ここでミサトを納得さ せて、味方に付けないと。アタシは、ポケットからペンダントを出して、ミサトに見せた の。その中には、アタシが作った古びた感じの合成写真が入っているのよ。シンジにも見 せたやつね。 「ミサト、ちょっとこれを見て欲しいの。」 「うん、どれどれ?えっ、もしかして、この小さな女の子って、アスカなの。気が強そう なのは、小さな頃から変わらないのね。」 ふん、大きなお世話よ。 「あれっ、この男の子はだあれ。」 「それはねえ、シンジらしいのよ。」 そう、シンジだって言い切らないのがポイントね。後で、これがシンジじゃ無いっていう ことになっても誤魔化せるものね。 「ええっ。何でシンちゃんとアスカが一緒に写ってんのよ。」 「それがね、アタシのママとシンジのママが知り合いだったらしいのよ。だからだと思う わ。」 「で、それと婚約と、どう関係があるのよ。」 「ミサトには前に言ったことがあると思うけど、小さい頃のアタシは、しょっちゅう苛め られていたのよ。でも、ある日、優しい男の子が、一緒に遊んでくれたの。短い間だった けど、とても楽しかったわ。だから、アタシはその男の子のことがとっても気に入ったの よ。でも、二度と会うことが出来なかったの。」 そこまで言うと、アタシは少し俯いたわ。 「アタシは、いつかその男の子に会いたいなあって思っていたんだけど、いつの間にか、 それが好きっていう感情に変わっていたみたいね。今まで会うことが出来なかったから、 何て言うか、良いイメージだけが残っていたのよ。でもね、実際のシンジは、思った以上 に優しかったのよ。アタシに下心丸出しで近付く男は多かったけど、シンジは違ったの。 だから、アタシの心は直ぐにシンジに惹かれてしまったの。」 アタシはさらに俯いたわ。 「シンジなら、変な打算抜きで、アタシに優しくしてくれる、そう思ったの。シンジなら、 凍てついたアタシの心を癒してくれる、そう思ったのよ。だから、シンジを誰にも取られ たくないのよ。我が儘かもしれないけど、シンジには悪いかもしれないけど、理由はとも あれ、アタシはシンジが好きで、離れたくないのよ。」 そこまで言うと、アタシは黙り込んだわ。シンジも少し驚いたみたい。ここまで言うとは 思っていなかったと思うわ。それに、今まではシンジも半信半疑だったと思うけど、これ で完全に信用した筈よ。だって、普通はこんなことで大人を騙すなんて思う訳がないじゃ ない。 「アスカ、分かったわ。ど〜んと私に任せなさい。そういうことなら、このミサト、可愛 い妹分のアスカの味方になってやろうじゃないの。」 やった!うまくミサトを騙せたわ。ミサトは勘が鋭いから、騙すのは難しいと思っていた けど、酒と加持さんのお蔭で、その勘も少し鈍ったみたいね。これで、アタシの作戦は、 大きく前進するわ。 「シンちゃんも、アスカに優しくしてあげてね。こう見えても、繊細な心の持ち主なんだ から。」 「あっ、ひっど〜い。こう見えてもって、どういう意味よ。」 アタシはぷりぷりしたわ。でも、アタシの企みは上手くいったわね。アタシは、内心では ほくそえんでいたわ。 つづく(第30話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2002.7.16  written by red-x



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