新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第4部 ネルフ再生



第74話 狙われた?シンジ

「ねえイライザ、聞いた?正パイロット候補が発表されたんですってっ!」 イギリス支部の研修生であるアニーが、同じイギリス支部のイライザのところへと走り寄 ってきて、開口一番そう言った。 「え〜っ!本当なの、アニー?」 イライザは、アニーからの情報に、思わず立ち上がるほどに驚いた。 「ええ、そうなのよ。正パイロット候補は、中国支部のミンメイ、ドイツ支部のマリア、 アメリカ支部のキャシー、ブラジル支部のミリア、エジプト支部のサーシャ、フランス支 部のハウレーン、以上6人よ。それで、その中の隊長をハウレーンがするのよ。」 「マリアじゃないの?ハウレーンなんて嘘でしょ?」 「嘘じゃないわよ。私もてっきりアスカの親友のマリアがなるもんだとばかり思っていた んだけど、違ったのよ。」 「それじゃあ、アスカが正パイロットを決めるって言う噂は、嘘だったのね。」 そう、研修生仲間では、正パイロットはアスカが決めるという、まことしやかな噂が流れ ていて、それを信じる者も多かった。 「う〜ん、そうとも言い切れないわよ。ハウレーンも、アスカの言うことは何でも聞くら しいし。」 「冗談でしょ。あの堅物が。」 「ううん、どうも本当らしいわ。理由は分からないんだけど。」 「そうか。アスカは、とりあえずハウレーンを隊長に据えて、後で理由を付けてマリアに すげ替える気かもね。今、マリアを隊長にすると、反ドイツ派の反発が大きくなるし、ハ ウレーンをドイツ派に取り込もうっていうつもりかもしれないわ。」 「やっぱり、アスカって頭が良いわね。」 「どうしようか。えっ、でもなんて言ったの?正パイロットが6人?5人の間違いじゃな いの?」 「それがね、弐号機がドイツに配備されるそうなのよ。で、ドイツに配備予定だった機体 が、フランスに配備されるっていう訳なのよ。」 「何ですって!冗談じゃないわっ!何で、フランスなのよっ!」 「ちょ、ちょっとイライザ、怒鳴らないでよ。そんなこと、私に言われても困るわよ。」 「はっ。わ、悪かったわね。でも、急にどういうことなのよ。」 「ううん、分からないわ。でも…。」 アニーは、イライザにかいつまんで話をした。 支部に配備されるエヴァが6体になったこと。 パイロットは、 ドイツ支部のエヴァは、ドイツ支部とドイツ第2支部から選ぶこと。 エジプト支部のエヴァは、エジプト支部とインドネシア支部から選ぶこと。 フランス支部のエヴァは、フランス支部、ロシア支部、イギリス支部から選ぶこと。 アメリカ支部のエヴァは、アメリカ支部とアメリカ第3支部から選ぶこと。 中国支部のエヴァは、中国支部とインド支部から選ぶこと。 ブラジル支部のエヴァは、ブラジル支部とオーストラリア支部から選ぶこと。 但し、必要に応じて、近隣支部のパイロットを選ぶ可能性もあること。 「なによ、それじゃあ私達はフランス支部のエヴァに乗るの?しかも、正パイロットはハ ウレーンに決まったって?参ったわね。ドイツ相手なら負けても言い訳が立つけど、フラ ンス相手に負けたんじゃ、シャレにならないわよ。」 「それより、他の支部の研修生は大騒ぎよ。どうやって挽回しようかってね。特に、今ま で仲が良かったグループ内でパイロットを取り合う様になったもんだから、早くもお互い の仲がギスギスしだしてるわ。変わらないのは、前から仲が悪かった中国支部とインド支 部くらいよ。」 「しかし、本当に参ったわよね。よりによって、フランスとロシア相手に競争とはね。反 ドイツ連合が解体するのも、時間の問題ね。」 「って言うか、もう解体してるわよ。でも、どうしよう。ハウレーンは実戦経験もあるし、 支部のエヴァ部隊の隊長っていうんじゃ、正パイロットの座は動かないわよ。」 アニーの顔は、心なしか青かった。 「何か良い手はないかしら。あっ、と言う様な逆転の方法は。」 「考えつくのは、シンジ様にお願いするか、アスカに頭を下げるか、どちらかしかないと 思うけど。それも、効果はあんまり期待出来ないわね。」 「う〜ん、何か良い方法は…。」 イライザとアニーは、額を寄せ合って考えた。だが、妙案が浮かぶはずも無かった。 *** 「さあて、研修生達の動きを教えてもらおうかしら。」 アスカはその頃、研修生達の情報を集めるため、アメリカ支部のアールコート、ドイツ第 2支部所属のウィチタ、それにマリアを呼んでいた。もちろん、シンジも一緒である。 「じゃあ、私から言うわよ。」 最初に口を開いたのは、ウィチタだった。ちなみに、ウィチタはラブリーエンジェルの一 員である。 「ドイツ支部は、特に大きな騒ぎにはなっていないわ。アスカと碇君の仲が良いのは知ら れているし、アスカと仲が良いマリアが正パイロットになるのは、みんな予想していたか ら。でも、フランスやイギリスの研修生と争うと思っていたもんだから、可能性が大きく なったって喜んでいるわね。みんな、サブパイロットの座ならゲットできるかもしれない って、目の色を変えているわ。」 「トホホ。私は、アスカと仲が良いから正パイロットに選ばれたと思われてるの?いや〜 な感じね。まあ、どうでもいいけどさあ〜。」 マリアは、少し頬を膨らませた。 「でもね、残る6人のうちから、サブが1人に予備役が2人でしょ。2分の1の確率じゃ ない。張り切る訳よ。でもね、エジプトとインドネシアの間でサブパイロットの座を取り 合う様になったでしょ。だから、あっちの支部の人達は、結構ピリピリしだしたわ。」 「ふうん、思った通りね。」 と、アスカ。 「で、中国支部の方は大喜びよ。何たって、仮とはいえ正パイロットの座をインドに奪わ れなかったもんだから。これで、エヴァの配備も間違いないって感じのこと言ってたわ。」 「そうねえ、地理的にはインドでも良いと思うかもしれないけど、インドに配備したら、 日本の負担が増えるしね。」 そのアスカの言葉に、残る3人はなるほどと頷いた。 「じゃあ、アールコートの方はどうなのよ。」 「はい、アメリカ支部の方は、私かアリオス君が正パイロットになるものだと思っていま したから、みんな驚いています。それで、ちょっと困ったことになってます。」 「ふうん、なあに。」 「テリーさんとニールさんが正パイロットに選ばれた訳を教えろって、キャシーさんに凄 い剣幕で詰め寄ったんです。」 「ええっ。そりゃあまずいわね。」 とマリア。 「キャシーって、あの、碇君並にボケボケっとしてる子でしょ。可哀相よねえ。」 とウィチタ 「ええ、でも…。」 アールコートが口ごもっていたが、アスカは笑って言った。 「テリーもニールも、逆に叩きのめされたんでしょ。」 「え、ええっ。そうですけど…。でも、どうして分かったんですか。」 「分かるわよ、それくらい。ふふん、あいつらもいい気味だわ。」 くっくっくっと笑うアスカに、マリアが叫んだ。 「あ〜っ、アスカッ!それを狙って、キャシーを正パイロットにしたんでしょっ!」 「ち、違うわよ、何を言ってるのよ。」 アスカの顔がなぜか赤くなる。 「でも、それだけじゃないんです。ちょっとまずいことになりそうなんです。」 「何よ、言ってみなさいよ。」 「それが、その、とにかくまずいんです。」 「それじゃあ、分からないでしょ。ちゃんと言いなさいよ。」 「実は、何人かの女の子が集まって話しているのを聞いちゃったんです。正パイロットに 選ばれたのはみんな女の子だから、きっと碇君の意向に違いない。だから、碇君に頼んで パイロットに選んでもらおうって。」 「はあっ、馬鹿ねえ。シンジに頼んだくらいで、何とかなる訳ないでしょうに。」 アスカはケラケラと笑った。 「それが…。体を張って頼むって言ってたんです。」 「えっ、何ですって。」 (ぬあんですってっ!!!) アスカの笑いは止まり、途端にアスカの声が低くなった。 「えっ、体を張ってって、どういう意味なの?」 シンジが聞いたが、アスカが睨み付けたため、黙ってしまった。 「お子ちゃまのシンジには、関係無いのよ。黙ってなさいよ。」 「う、うん。」 シンジも、アスカには逆らえない。小さくなってしまう。 「アールコート、後でどの支部の誰なのか報告するのよ、いいわね。」 「は、はい。分かりました。」 気弱なアールコートは、ちょっと体が震えている。 (しまったっ!そう来たのね。これは、何とかしないとね。) アスカはシンジを見て、こう言った。 「シンジ、アンタはしばらくの間、絶対に独りにならないこと、いいわね。」 「あ、う、うん、いいよ。」 アスカの睨み付ける様な視線に押されてか、シンジは少し怯えている。 「そうねえ、必ず鈴原か、相田か、渚と一緒にいなさい。アリオスかマックスでもいいわ。 どうしても駄目なら、マリア、サーシャ、ミンメイ、ハウレーン、アールコート、キャシ ーにミリア。誰でもいいから一緒にいなさいよね。」 「う、うん。分かったよ。」 シンジは、カクカクと首を縦に振る。 「絶対よ。」 「うん、絶対だ。」 シンジは、首を縦に振り続ける 「アンタ、2度も約束破っているんだから、今度約束破ったら承知しないからね。」 「う、うん、分かってるよ。」 「まあ、いいわ。アンタが約束破るなら、アタシも破るからね。」 「えっ、それって。」 シンジの目が、大きく見開かれた。 「アタシがアンタと交わした約束は一つだけだから、分かるわよね。」 「そ、そんなのないよお。」 シンジは、泣きそうな顔をした。よっぽどアスカとの約束が大事なのだろう。 「アンタが約束を守ればいいのよ。簡単でしょ。」 (ふん、このドスケベ!そんなにあの約束を守って欲しいわけ?) 「で、でもさ。不可抗力ってこともあるじゃない。」 シンジは必死である。 「でもも、かかしもないの。いいから、アタシの言うことを聞きなさいよね。」 「う、うん、もちろんだよ。だって、アスカのことが大好きだから。」 「は、恥ずかしいことを言わないでよねっ!」 (まったく、こいつはっ!他人がいるところでは言うなっつ〜の!) アスカの顔が真っ赤になった。だが、怖くて誰も突っ込みを入れることが出来なかった。 *** 「シンジ、もう寝た?」 「ううん、まだだよ。」 その晩、アスカはシンジに話しかけた。 「シンジ、分かっているとは思うけど、女の子の誘いに乗ったら駄目よ。」 「ああ、分かってるよ。」 「何よ、2回も引っかかったくせに、よく言うわよ。」 「それは、ごめん…。」 「あのねえ、アタシはシンジの体のことが心配で言ってるのよ。研修生達だって、一応身 元ははっきりしてるけど、ゼーレや他の組織の息がかかっていないとは言い切れないんだ から。」 「そ、そうなの。」 「そうよ。だから、鼻の下を伸ばして行ったりしたら、銃でバン!って撃たれる可能性も あるのよ。シンジの性格からして、他の女の子を楯にされたら、逆らえないでしょ。」 「そ、そうかもしれない。」 「だからね、人気の無いところへは行かないこと、独りでは行動しないこと、いいわね。」 「うん、分かったよ。アスカは、僕のことを心配してくれているんだね。ありがとう、嬉 しいよ。」 「ふ、ふん。今頃分かったの?そんなんだから、みんなに『ボケボケっとしてる。』なん て言われるのよ。」 「そうだね、これから気をつけるよ。だから、約束を守ってね。」 「ふん、シンジのスケベ。」 「だって、しょうがないよ。僕だって男だもん。」 「あ〜っ、開き直ったわね。」 「そ、そうじゃないよ。」 「そんなんじゃ、やっぱり考え直そうかなあ。」 「それだけは勘弁してよ、アスカ〜っ。」 涙声になるシンジに、アスカは呆れるのだった。 (第74.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  アスカの思惑通り、支部間の対立は下火になりつつあります。その代わりに、巻き返し を画策する者が当然出てくるわけで、その矛先がシンジに向かいそうです。さて、アスカ はどうするのでしょうか。 2003.5.27  written by red-x



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