新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第4部 ネルフ再生



第63話 みんなでテニス

「ねえ、シンジ。何かスポーツで得意なものはないかしら。」 日曜日の朝、アスカは急にシンジに問いかけた。シンジは何となく身の危険を感じたよう だったが、それをアスカに悟られぬよう、気をつけて答えた。 「ええっ、スポーツで?特にないよ。」 「じゃあさ、テニス部に入ろうよ。実はね、ユキがテニス部なのよ。今までは休部してい たんだけど、またやるって言うのよ。それでね、一緒に入りませんかって、誘われている のよ。」 「ええっ、急にそんなこと言われても…。」 シンジは戸惑った。スポーツが得意ではないシンジにとって、スポーツ系の部活は避けた かったのだ。 「ふうん、アタシと一緒にテニスをしたくないんだ。」 アスカの眉が僅かにつり上がる。 「そ、そうじゃないよ。でもさ、ネルフの訓練があるでしょ。テニスなんてやってる暇は 無いんじゃないのかな。」 シンジはびくびくしている。 「アタシが良いって言ったら良いのよ。それに、毎日じゃないし、良い気晴らしになるじ ゃない。そうねえ、週に2回位かしら。ヒカリも入るし、相田や鈴原達も入るんだけど。」 さらにアスカの眉がつり上がる。 「でも、やっぱりイヤだな。」 「じゃあ、こうしましょうよ。アタシを嫌いになったんなら入らない。まだ好きなら入る。 さ〜て、どっちかしら。」 もちろん、答は一つだった。こうして、シンジは半ば脅されてテニス部に入る事になった のである。 *** 「惣流さん、例の件のお返事はどうでしょうか。」 「ああ、OKよ。シンジも喜んでOKしたわ。」 いつもの朝食の時間、ユキの問いかけにアスカはにこやかに答えた。シンジは苦笑するの みである。 「そうか、シンジ。持つべきものは友達だな。ありがとう。」 ケンスケは、何故かシンジに向かって礼を言った。シンジが不審に思って聞こうとしたら、 邪魔が入った。 「えっ、なによお〜っ。お姉さんにも教えてよお〜っ。」 結婚しても、何故か料理もせずに、朝食をタカリに来ているミサトが聞いてきた。横では、 加持姓から葛城姓に変わったリョウジが笑っている。 「ええ、いいですよ。惣流さんと碇君が、テニス部に入ることになったんですよ。洞木さ ん、鈴原君、相田君も一緒です。そうだ、渚君も入部しませんか。」 「ああ、いいねえ。シンジ君達が入るなら、僕もご一緒させてもらうよ。」 「じゃあ、これからみんなでテニスラケットやテニスウエアを買いに行きましょうよ。」 とユキ。 「良いわねえ。そうしましょうよ、シンジ。ヒカリ達も誘ってさあ。もちろん、喜んで行 くわよねえ。」 と、目は笑ってないアスカ。 こうして、みんなで買い物に行くこととなった。だが…。 「私は仕事があるから。」 リツコを誘ったが、仕事を理由に断られた。結局、ミサトを代わりに誘うことになり、な らば俺も行くと、リョウジも付いて来ることになった。 *** 「ねえ、シンジ!これなんかどうかしら?」 テニスウエアを選ぶ段になって、アスカは色々と手に取って、いちいちシンジに聞いてい た。これにどう応えるかで、今日のアスカの機嫌が左右されるのだから、シンジも内心で は呆れて疲れ果てながらも、顔はニコニコしながら律儀に応える。 「アスカって、青い色も良く似合うんだね。」 (そう、もちろんよ。) 「白いのを着ると、より一層清楚な感じになるね。」 (良く分かっているじゃない。) 「黄色はちょっと派手な感じもするけど、明るい感じがして良いね。」 (シンジにしては、上出来ね。) 「明るい緑も良いね。清楚で可愛らしく感じるよ。」 (これからも、ちゃんと言えるようになればいいけど。) 「ピンクは、これぞ女の子っていう感じがするね。良く似合うよ。」 (アタシって、何を着ても似合うのよね。) 「やっぱり、アスカには赤が一番似合うよ。」 (へへへっ。でも、そうなのよね。赤が一番似合うのよ。) アスカは、シンジがリョウジに頼んで教えてもらったセリフを言っているとは気づかなか った。そのため、アスカの機嫌はすこぶる良好であった。 「じゃあ、これ全部買おうっと。加持さん、支払いよろしくね。」 と、ニコニコ顔のアスカである。 「ああ、良いよ。」 アスカは慣れないせいか、未だに加持と呼んでしまうが、リョウジは気にした様子はない。 一方、シンジは驚いていた。そんなに買うとは思っていなかったのだ。スカートの件をす っかり忘れているシンジであった。色別に10着のスカートを買ったアスカが、赤いのを 1着で満足する訳がないのである。シンジは、まだまだ修行が足りない。 「あの〜、本当に良いんですか?」 今度は、ヒカリが恐る恐る聞いてきた。今日の支払いはリョウジが全て持つと聞いたのだ が、流石に気が引けるのだろう。だが、アスカが6着のテニスウエアを買ったのを見て、 ヒカリは3着ほどを選んだ。 「おいおい、それじゃあ少ないぞ。遠慮しないでアスカと同じだけ買う事。良いね。そっ ちの森川さんも同じだ。最低6着は買ってくれよ。」 「は、はい。」 「そんなあ、申し訳ないです。」 ヒカリとユキは、恐れ入るといった感じだ。内心では、飛び上がって喜んでいるのであろ うが、そんな様子は微塵も感じられない。大した役者である。 「大丈夫よ。ミサトも加持さんも大活躍したんで、ボーナスを弾んでもらったのよ。アタ シは、もう6着買うからね。アンタ達が遠慮すると、アタシが困るじゃない。だから、も っと買いなさいよ。」 これは大嘘である。今回の支払いは、全てアスカ持ちなのだ。だが、本当のことを言うと 二人が、特にユキが遠慮すると思って、リョウジを引っ張り出したのだ。 むろん、5兆円という途方もない資金を手にしたアスカにとって、こんなものは、はした 金にもならない。 「じゃあ、遠慮なく。」 「すみません。お言葉に甘えさせていただきます。」 ヒカリとユキはそう言って頭を下げると、アスカとキャアキャア言いながらテニスウエア を選んでいった。もちろん、男共はネルフから給料をもらっている身なので、自腹である。 「鈴原〜っ!早くこっちに来なさいよっ!ヒカリのテニスウエア姿を見てあげなさいよ!」 「相田も来なさい!ユキに似合うかどうか、言ってあげるのよ!」 むろん、二人とも鼻の下を伸ばして来たが、ヒカリは嬉しそうである。ユキは少し戸惑っ ているようだが、ケンスケには水着姿を何度も見られているので、恥ずかしさはそれほど ない。 アスカは、ヒカリとユキにトウジとケンスケをあてがうと、自分の分は選び終わったため、 シンジのテニスウエアを選び始めた。あぶれたカヲルは、ミサトに選んでもらっている。 こんな調子で、テニスウエアやラケット、シューズなどを買って、午前中は瞬く間に過ぎ ていった。 *** 「お昼も、加持さんの奢りね。よろしくね。」 「ああ、良いとも。好きなものを食べてくれ。」 と言うやり取りがあって、近くのレストランへと一行は入っていった。女性陣の好みによ り、イタリアンレストランである。 「このスパゲッティーって、美味しいって評判なのよねえ。」 「何種類か頼んで、女の子だけで分け合おうか。」 そんな訳で、席は女性陣と男共は別れてしまった。 「ふう、一杯買ったね。」 シンジはため息をつく。 「ああ、そうやな。でも、テニスやなんて、ワイがやるなんて、想像出来へんな。」 「悪いなあ、トウジ。付き合わせちゃって。」 とケンスケ。 「そんなこと、かまへんが。ワイとケンスケの仲やないか。」 そう、今回の件は、ケンスケがユキと仲良くしたいがために、トウジを引っ張り込み、ヒ カリを道連れにして、アスカを巻き込んだのである。 トウジを落とすと、ヒカリを攻略しやすくなる。ヒカリを攻略すれば、アスカをその気に させるのは簡単である。アスカがその気になれば、シンジとユキは逆らわない。だから、 ケンスケは最初にトウジを泣き落としに近い方法で説得して、みんなでテニス部に入るよ うに仕向けたのである。 アスカの下僕であるケンスケにとって、アスカの意向は絶対であるため、考えに考え抜い たのが、この方法だったのだ。本来、ケンスケは研修生に混ざって色々な訓練をしなけれ ばならないのだが、アスカの協力を得られたおかげで、何とか週2回は部活に出る事が可 能になったのだ。 ユキと同じ部活に入れば、一緒にいる機会も増えるし、共通の話題も増える。そうなると、 自然に話せるようになるだろうし、心の距離も縮まるだろう。今はとてもじゃないが、ユ キを恋人だと公言出来るような状態ではないが、いずれはそうなりたいと考えるケンスケ にとっては、同じ部活に入ることは、かなり重要な意味を持つのである。 「ありがとう。持つべきものは、友達だよ。」 ケンスケは、トウジの手を強く握りしめた。 「青春してるなあ〜。」 自分のことを棚において、言いたいことを言うシンジであった。その罰なのか、アスカが 急に嫌な提案をしてきた。これからテニスをしようと言うのである。 「え〜っ!午後からテニスをやるって?!」 シンジは思わず叫んでいた。シンジは、ろくにラケットを握ったことすらない。無様な姿 を晒すのが目に見えている。 「いいから、やるのよっ!もう、決まったからねっ!」 だが、アスカのこの一言で黙ってしまった。 「大丈夫だよ、シンジ君。何事も、チャレンジさ。」 リョウジが励ます。 「でも、僕って運動神経悪いんです。」 涙がこぼれそうになるシンジを見て、リョウジは苦笑した。 結局、近くのテニスコートを2面、3時間借りることになり、マリアを呼んで10人でテ ニスをすることになった。 最初は軽くボールを打ち合ったが、シンジはなかなか思うようにボールが打てずに苦労し ていた。どうしても真っ直ぐに打てないのだ。だが、そのうちにペアを組んで試合をする ことになってしまった。 ペアを組むのは、アスカとシンジ、ヒカリとトウジ、ユキとケンスケ、マリアとカヲルの 4組で、ミサトとリョウジは審判だ。最初は、アスカとシンジペア対ユキとケンスケペア で試合をすることになった。むろん、もう一つのコートでは、残る2組の試合である。 「いくわよっ!シンジ!」 アスカに、気合の入った激励を受けたシンジだったが、結果は6−2で負けてしまった。 ユキのサービスを、シンジは相手コートに返すことすら出来なかった。ケンスケのサービ スも、3回に1回は返し損なったのである。 これでは、いかにアスカが上手だとしても、対処のしようがない。アスカのサービスの時 だけなんとかキープしたが、それ以外ではシンジが思いっきり足を引っ張ったのだ。 他の試合も、結果は散々だった。マリア達にも見事に負けてしまったし、ヒカリ達には接 戦で勝ったが、それもトウジがヒカリの足を引っ張ったからである。 「もうっ!負けたのは、シンジのせいよっ!」 アスカは、頬を膨らませて怒った。それを見て、シンジはがっくりと肩を落としたのであ る。 「落ち込むくらいなら、特訓しなさいよっ!」 情け容赦のないアスカの言葉に、ユキとヒカリが必死になだめて、その場はなんとか収ま った。 *** 「ねえ、シンジ。テニスのこと、気にしてる?」 その日の夜、寝る頃になって、アスカはシンジに声をかけてきた。ちなみに、悪夢を見る のが嫌で、未だにアスカはシンジに添い寝をしてもらっている。 「あ、ああ。ごめんね、僕のせいで負けちゃって。」 「ううん、良いのよ。正直言うとね、アタシは手を抜いていたのよ。」 「ええっ、ほんと?」 「相田がね、ユキの前で勝ちたいって言うのよ。だから、しょうがないから負けてあげた のよ。シンジに怒ったフリをしたのは、照れ隠しだから、気にしなくていいわよ。」 「な、なんだあ。てっきり、アスカが猛烈に怒っているんじゃないかと思っていたよ。」 ふうっと、息を吐くシンジ。 「ふうん、シンジ、本気でそう思った?だったら、みんなも騙せたかしら。」 「うん、多分間違いないよ。」 「ユキと相田はね、今は結構微妙な感じなのよ。一応付き合っていることになっているけ ど、やっぱり距離があるのよね。相田は、ユキの心を掴もうと、必死なのよ。アンタも友 達なら、協力するなりしなさいよね。」 「うん、分かったよ。アスカって優しいんだね。」 「何よ、今頃気付いたの?」 「ううん、分かってはいたけどね。でも、僕以外の男に優しくするなんて、ちょっと妬け るな。」 「何よ〜っ。ナマ言っちゃってさ。」 「あ、ごめん。」 シンジは、少し青くなった。アスカの機嫌を損ねたと感じたからである。 「ほら、すぐ謝る癖が出る。」 「あっ。」 続けてポカをするシンジであった。 「まあ、いいわ。シンジ、おやすみなさい。それから、今日は買い物に付き合ってくれて ありがとう。」 だが幸いにも、アスカの機嫌は損なわれず、口調にもトゲは無かった。 「うん、アスカ。おやすみなさい。」 こうして、アスカとシンジは眠りについた。 (第63.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  どうしても、愛するアスカの言葉に振り回されてしまう、可哀相なシンジです。でも、 今のアスカにはシンジを気遣う余裕があるため、2人の仲は良好と言えるでしょう。 2002.11.24  written by red-x



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