生きていることに、意味なんてないでしょ
3rd day
今日もなんとなく来てしまった。
何で来てしまうのか、自分でもわからない。
昨日は不覚にも隣でぐーすか寝てしまって、起きたときにニヤニヤ笑いながら「おはよーさん」と言われてしまった。
乙女が寝顔を見られるなど…屈辱だ。
目で仁王を探す。
あいつは目立つ髪の色をしているからすぐに見つかる。
ほら、いた。今日は私よりも先に来ていた。私を待っていたのだろうか。
例の如く寝転んでいるあいつの横に私も寝ころぶ。
仰向けになった私に降り注ぐ日光がまぶしくて少し目を細める。
「ねぇ。こんなに授業さぼって大丈夫なの?」
「よかよ。」
「ふーん」
どうでもいいけどね。と付け足し、仁王に向けていた視線を空に戻す。
「そういうは大丈夫なんか?」
「あと5日ぐらい好きに過ごしたいじゃない。」
「そうか」
こちらに視線を向けていた仁王も空を見上げ、それきり会話が途切れる。
こうして同じ空を見上げていても、仁王と私の考えることはまったく違っているのだろう。
今日は雲ひとつない真っ青な空。その澄んだ青は自分とはあまりにもかけ離れていて、拒絶されているような気がする。
疎外感をさえぎるように、空に手をかざしてみる。
こんな私でも、ちゃんと血は流れているようで、手が太陽の光にさらされて何となく血の色に染まって見える。
そのことに少しだけ安堵感を覚えて、手をじっと見つめる。
だから、いつの間にか仁王がこちらを見つめているのに気がつかなかった。
「なぁ。何を考えちょるん?」
突然、現実に引き戻された私は、声の主に視線を送る。
「血が流れてるなーって。」
「あたりまえじゃろ?生きとるんじゃから。」
掲げられた私の手を見ながらそういう仁王。
確かに。そうだ。私はまだ生きているのだし。
「そうだねー。切られたら血が出てくるしね。」
「普通、切られたらじゃのうて、切れたら、じゃないんか」
物騒極まりない私の言葉に苦笑している。
普通の人の感覚なんて知らないし。第一『普通』の感覚とはどんなものなんだろう。
仁王の感覚も相当おかしいとは思うけど…
「失礼だなー。死にたいとは思うけど、痛いのは嫌いだし自分で自分を傷つけたりはしないよ。」
まぁ、死ぬということ自体が自分を一番傷つける行為だけどね。と苦笑する。
「死にたいのは今の俺の立場上なんともいえんが、自分で自分を傷つけんのはええことじゃ。」
「変なやつ。今までそんなこと言う人いなかったよ。」
おかしくなってくつくつ笑う。
本心からではないにしても、笑ったのは久しぶりだ。
ちゃんと笑えているだろうか。明日は表情筋が筋肉痛になるのではないか。と、ふと思った。
「仁王」
「なんじゃ」
「ばーか」
言い終わったとたん、右頬を引っ張られる。
「いたひ!いたひっ…!!」
「そんなことを言うんはこの口か?」
おーよく伸びるのぅと言いながら引っ張ってくる。
左頬にも手が伸びてきて、さすがに冗談じゃないと起き上がった。
が、奴のリーチは長かった。左頬どころか、右頬をつまんでいる指からすら逃げられなかった。
本気でつまんでいるらしい。その痛さに涙がにじむ。
「もう言いませんっ!!言わないから離してぇぇっ!」
「うむ。苦しゅうない。」
苦しいわぼけぇと心の中で罵りながら、頬をさする。
赤くなっている。絶対赤くなっている。
「痛いか?」
「痛くない奴いないって」
「そうじゃろ」
何故か嬉しそうな仁王。Sなのだろうか。いや。絶対Sだ。コイツがMであり得るはずがない。
頬をかばいながら睨んでいると、ぽんぽんと頭を軽くなでられた。
「何がおかしいのさ。」
「秘密じゃ。」
それじゃ、部活あるから。と、一通り頭を撫でて納得したのか、仁王は屋上から出て行った。
残された私は、撫でられていた頭をおさえ、頭に残る手の感触に眉をしかめる。
「………変なやつ」
今まで何回か正義感にあふれたやつが私に近づいてきて、私が死にたいとか口にしたら必死に説教してきたのに。
仁王はその言葉を口にしても、何を考えているのかわからない笑顔を私に向けて「困ったのぅ」などど言うだけなのだ。
本当に、変なやつだ。
賭けの期限まであと4日。
最後ぐらい私を楽しませてよ
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後書き
プチスイート!!風味!次めっちゃシリアスです。流血表現苦手な方はご注意を。