つまらない世界。こんな世界いらない。








1st Day











授業中で静まり返っている校舎。

その校舎の立ち入り禁止のはずの屋上に、一人の少女の姿があった。








「死にたい…。」



カシャンと屋上のフェンスを握りしめ、呟く。

そのまま手に力を入れ、足を掛けるごとに耳触りな音を立てるフェンスを登り切り、その上に腰かける。

このまま、手の力を抜いて、前に倒れれば…私は死ねる。



「痛いのは嫌だけど…贅沢言えないよね。」



この無機質で無感動で、つまらない世界からオサラバできるのだ。

多少の痛みは我慢しよう。




「ばいばい。」



手の力を抜いて、前かがみになろうとした瞬間、ガシリと手をつかまれ、そのまま屋上へと引き倒された。

視界がぐるりと回って、ガツンと背中と頭に衝撃を受けた後、視界に入ったのは青い空と白い雲だった。



「痛い…」

「何しとるんじゃ。」



落ちた反動で圧迫された肺が痛くて、起き上がって数回せき込むと、私の頭上に影ができた。



「何って…見てわからない?」



邪魔をされた上に引き倒されて痛い思いをした私は、思わずその声の主を睨みつける。

その声の主は私の顔を見ると一瞬驚いた表情をしたけど、すぐに何でもないような顔に戻った。



「自殺。か?」

「そんなとこ。どっかの誰かさんに邪魔されたけどね。」



私は制服についた汚れを手で払いながら立ち上がる。

今日はやめだ。この調子では死ねそうにない。

たまに死のうとするとこれだ。

正義感にあふれたヤツが邪魔してくるのだ。

そいつらからすれば、良いことをしているつもりなのかもしれないが、はっきり言ってウザイ。



「ふーん。それは、悪いことをしたのぅ」



今までのヤツらとは違った反応に驚いたけど、顔には出さずに無視して屋上から出ていこうとする。

邪魔されて、怒っているのだ。私は。イライラの原因となっているやつの顔なんて見ていたくない。

するとまたしても奴に腕をつかまれる。



「何?」



心底嫌そうに眉をしかめる私に苦笑しながらそいつは信じられないことを言ってきた。



「賭け、せんか?」

「はぁ?」



頭がおかしいのだろうか。

死のうとしてたやつを止めておいて諌めないどころか、賭けなどと…。

あんな場面を見てしまって混乱しているのだろうか。



「お前さんは一週間、俺と過ごす。この間に死ぬのはなしじゃ。」



唐突な言葉に私が唖然として黙っているのをいいことに、そいつは次々と言葉を紡いでいく。



「一週間後、お前さんが死ぬ気がなくなったら俺の勝ち。」

「はぁ……?何それ。」

「まぁ、聞きんしゃい。もし一週間後も死にたいと思うとったら、お前さんの勝ち。」

「意味わかんない。その賭けにのっても私にメリットないじゃない。」



呆れたように見つめる私に、意味ありげに笑ったそいつは、こうのたまった。



「お前さんが勝ったら、そうじゃな。俺がお前さんが苦しまん方法で殺してやるけぇ。」

「はあああぁぁっ!?あんた大丈夫?どっか打った?」

「残念ながら俺は正常じゃ。」



どう考えても正常な人間の言うことではないだろう。と私は心の中でツッコミを入れる。

普通の人間なら殺してやるとか言わないのではないだろうか。

世の中いろんな人間がいるものである…。



「で?どうする?受けるか?それとも逃げるか?」



そいつは意地悪い表情でこちらを見ている。

どう見ても私が勝つような賭けだ。相手のリスクが大きすぎるし。

でも。と私は考える。

苦しまないように殺してくれるのだ。

私だって痛い思いをして死ぬよりは、苦しまずに死にたい。

苦しまずに死ねるなら、いいかもしれない。


それに、こんな私でも一応クリスチャンなのだ。

キリスト教徒にとって自殺は最も重い罪の一つなのである。


そこまで考えて私はそいつに目を合わせる。

唇の端を上げて興味深そうにこちらを見ているそいつに、挑戦的な笑顔で言った。



「いいわよ。受けてあげる。」

「賭けは成立。じゃな。」

「一週間の間は、死のうとしないわ。条件はそれだけでしょ?」

「そうじゃ。ほかに何か、質問はあるか?」



名前ぐらい、知っておいてもいいかもしれない。

最後の瞬間に一緒にいることになるのだから。

他人に興味を持つことのない私にしては珍しくそんなことを思った。



「名前は?」

「仁王 雅治じゃ。お前さんは?」



賭けについてではなく、名前を聞いたことに軽く目をみはった仁王は、そう答えた。



「私は、 。」



そう言って差し出した手が確かに握られるのを見て、人と握手をするのは久しぶりだなと思った。



「これから一週間よろしくね。仁王サン?」



















どうせ私が勝つ賭け

人生の最後ぐらい勝利でおさめるのも悪くないと思ったのだ











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後書き

はい、始めてしまいましたー。
モロシリアス仁王連載!!

いやね、突然降って湧いたように思いついたのです。
このお話はもうすでに頭の中では完結しております。
ここまで一瞬で構想が練れたのは初めてなので、書かねば!と。(笑)

それにしてもしょっぱなから重い内容で申し訳ありません。
結構最初から最後まで重いです(死)
それでも皆さんに何かしら伝えることができればなと思っております。
最後までお付き合いいただければ幸いです!

2007/8/25 管理人@紅牡丹


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