始まりと参照項目

ヘーラクレースとその数々の武勇譚は、ピエール・グリマルによれば、ミュケーナイ時代に原形的な起源を持つものであり、考古学的にも裏付けがあり、またその活動は全ギリシア中に足跡を残しているとする[76]。ヘーラクレースは神と同じ扱いを受け、彼を祭祀する神殿あるいは祭礼は全ギリシア中に存在した。古代ギリシアの名家は、争ってその祖先をヘーラクレースに求め、彼らはみずから「ヘーラクレイダイ(ヘーラクレースの後裔)」と僭称した[77]。アキレウスもまた、アガメムノーンなどと同様に、いまは忘却の彼方に沈んだその原像がミュケーナイ時代に存在したと考えられるが、彼は「神々の愛した者は若くして死ぬ」とのエピグラムの通り、神々に愛された半神として、栄誉のなか、人間としてのモイラ(定業)にあって、英雄としての生涯を終えた。彼の勲と栄光はその死後にあって光彩を放ち人の心を打つのである。ギリシア神話に登場する多くの人間は、ヘーシオドスがうたった第4の時代、つまり「英雄・半神」の時代に属している。それらは、すでにホメーロスが遠い昔の伝承、栄えある祖先たちの勲の物語としてうたっていたものである。

しかし、イブン・ファドラーンの記述は実際には埋葬の儀式である。現在理解されている北欧神話では、奴隷の少女には「生贄」という隠された目的があったのではという理解がなされた。北欧神話において、死体焼却用の薪の上に置かれた男性の遺体に女性が加わって共に焼かれれば、来世でその男性の妻になれるであろうという考え方があったとも信じられている。奴隷の少女にとって、たとえ来世であっても君主の妻になるということは、明らかな地位の上昇であった。ヘイムスクリングラでは、スウェーデンの王アウンが登場する。彼は息子エーギルを殺すことを家来に止められるまで、自分の寿命を延ばすために自分の9人の息子を生贄に捧げたと言われる人物である。ブレーメンのアダムによれば、スウェーデン王はウプサラの神殿でユールの期間中、9年毎に男性の奴隷を生贄としてささげていた。当時スウェーデン人達は国王を選ぶだけでなく王の位から退けさせる権利をも持っていたために、飢饉の年の後に会議を開いて王がこの飢饉の原因であると結論付け、ドーマルディ王とオーロフ・トラタリャ王の両者が生贄にされたと言われている。知識を得るためユグドラシルの樹で首を吊ったという逸話からか、オーディンは首吊りによる死と結びつけて考えられていた。こうしてオーディンさながら首吊りで神に捧げられたと思われる古代の犠牲者は窒息死した後に遺棄されたが、ユトランド半島のボグでは酸性の水と堆積物により完全な状態で保存された。近代になって見つかったこれらの遺体が人間が生贄とされた事実の考古学的な裏付けとなっており、この一例がトーロン人である。しかし、これらの絞首が行なわれた理由を明確に説明した記録は存在しない。

世界の起源と終局は、『詩のエッダ』の中の重要な一節『巫女の予言(ヴォルヴァの予言)』に描かれている。これらの詩には宗教的なすべての歴史についての、最も鮮明な創造の記述と、詳述されている最終的な世界の滅亡の描写が含まれている。この『巫女の予言』では、ヴァルハラの主神オーディンが、一度死んだヴォルヴァ(巫女)の魂を呼び出し、過去と未来を明らかにするよう命じる。巫女はこの命令に気が進まず、「私にそなたは何を問うのか? なぜ私を試すのか?」と述べる。彼女はすでに死んでいるため、オーディンに対する畏怖は無く、より多くを知りたいかと続けて嘲った。しかしオーディンは、神々の王としての務めを果たす男ならば、すべての叡智を持たなければならないはずであると主張する。すると巫女は過去と未来の秘密を明かし、忘却に陥ると口を閉じた。北欧神話においては、生命の始まりは火と氷で、ムスペルヘイムとニヴルヘイムの2つの世界しか存在しなかったという。ムスペルヘイムの熱い空気がニヴルヘイムの冷たい氷に触れた時、巨人ユミルと氷の雌牛アウズンブラが創り出された。ユミルの足は息子を産み、脇の下から男と女が1人ずつ現れた。こうしてユミルは彼らから産まれたヨトゥン及び巨人達の親となる。

一連の小説世界はラヴクラフトによって創始され、彼の死後にその友人である作家オーガスト・ダーレスがいくつかの重要な設定を付加して「クトゥルフ神話」として体系化した。ラヴクラフト自身は人知や時空を超越した宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)を描く新しいジャンルの小説を構想しており、事実後期の作品群には共通した人名、地名、怪物名、書名等が現れ、作品間の時系列的関係にも考慮の跡がみられる。しかし、背景をなす神話世界の全体像に関してはもっぱら暗示するにとどまった(これは怪奇文学の表現技法の一つでもある→朦朧法)。ラヴクラフトの理解者を自認するダーレスは、これらの作品群が“分かりやすく”なるようにしたのである。1931年にダーレスは『潜伏するもの』を執筆し、「旧神」が邪悪な旧支配者を封印したとする独自の見解を発表した。ダーレスは旧神と旧支配者の対立構造を持ち込み、旧支配者に四大属性を割り当てるなど新たな解釈を行なった。そのため、ラヴクラフトの作品に明記されていない設定が数多く追加されることになった。だがラヴクラフトはダーレスを咎めず、「潜伏するもの」を力作と褒めて彼を激励した。その後、ダーレスの体系化に従った作品が多数発表され、これにより「クトゥルフ神話」は確立する。ダーレスによると、「クトゥルフ神話」という名称は、神話の基本的な枠組を明らかにした作品がラヴクラフトの『クトゥルフの呼び声』であることに基づいており、神名ではなく作品名に由来するものである。ダーレスはアーカム・ハウスという出版社を創設してラヴクラフトの作品を出版する一方、「クトゥルフ神話」体系の普及に努め、他の作家がこの体系に従った「クトゥルフ神話」作品を書くように働きかけた。これによってラヴクラフトという作家は広く認知されることとなったが、ダーレスは、ラヴクラフトの文学を後世に伝え広めた最大の貢献者として称賛される一方で、ラヴクラフトのコズミック・ホラーを世俗的な善vs悪の図式に単純化したという理由で批判されることにもなった。

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