アイルランドとインド
"ギリシア神話においては、ヘーシオドスが語る五つの時代の最後の時代、すなわち現在である「鉄の時代」の前に、「英雄の時代」があったとされる。英雄とは、古代ギリシア語でヘーロース(heeroos、 ηρως)と呼ぶが、この言葉の原義は「守護者・防衛者」である。しかしホメーロスでは、君公とか殿の意味で支配者・貴族・主人について普通に使用されていた[67] [68]。"神話学者キャンベルは、英雄神話を神話の基幹に置いたが、彼の描く英雄とは、危険を犯して超自然的領域に分け入り勝利し、人々に恩恵を授ける力(force)を獲得した者である[69]。古代ギリシアの英雄は、守護者の原義を持つことからも分かる通り、超自然の世界に分け入って「力」を獲得する者ではない。文献や考古学によれば、ミュケーナイ時代には存在しなかった「英雄崇拝」が、ギリシアの暗黒時代[70]を通じて、ホメーロスの頃に出現する。ここで崇拝される英雄は「力に満ちる死者」であり、その儀礼は、親族の死者への儀礼と、神々への儀礼の中間程度に位置していた[71]。祀られる英雄ごとで様々な解釈があったが、祭儀におけるヘーロースは、都市共同体や個人を病や危機から救済し恩恵を齎した者として理解された。このような崇拝の対象が叙事詩に登場する英雄に比定された。ときが経るにつれ、ヘーロースの範型に該当すると判断された人物、すなわち神への祭祀を創始した者や、都市の創立者などには、神託に基づいて英雄たる栄誉が授与され、彼らは「英雄」と見なされた[72]。
エジプトにおける天地創造はやはり地域差があって一概にいえないが、ヘリオポリス神話においては広い海原からラー(アトゥム)が誕生し、独力で神々と世界を形作っていたとされている(創造神話)。ヘルモポリスでは八位一体の虚無を表す神々(オグドアド)が世界創生の中心的役割を担った。メンフィス周辺ではプタハが天地創造の主導的役割を果たし、彼は言葉と思念によって世界のあらゆるものを作り出したとされる。エレファンティンではクヌムが主神として世界を形作った。クヌムは粘土から人間を作り出した神として知られる。このように、天地創造の神話も地方ごとに異なる。エジプトにおいて天はヌトという女神であり、地はゲブという男神であった。両者は夫婦であり、最初は隙間なくくっついていたが、父たるシュウ(湿気)とテフヌト(空気)によって引き離されて現在の姿になったという。ゲブはヌトに少しでも近づこうと山々を作り出したとされる。古代エジプト人にとって地は平面であり、ナイル川によって分断された二つの大地と海によりできていると考えられていた。地の底には冥界があり、ラーは夜ここを通って再び地上に現れるとされた。エジプト人の生活においてナイル川は重要な役割を果たした。そのため、神話でも多く登場する舞台の一つとなっている。例えばオシリスがセトに騙されて棺に封じ込められた後、ナイルに流されたという説話がある。ナイル川の洪水は”ヌビアの女主人”であるサテトによって起こされると信じられていた。そのため彼女はエジプトで崇敬の対象となった。ナイル川の増水とシリウスの運行に一定の関連があることが知られており、シリウス(ソプデト)も神としての尊敬を受けた。シリウスはイシスの魂と呼ばれており、このようなナイル川への関連性からサテトとソプデトは後に習合されるに至った。
神話を対象とするヨーロッパでの近代的研究は17世紀終わりから始まり、19世紀中葉に至って本格的に展開するようになり[1]、いくつかの研究の流れが現れた。例えばヴィルヘルム・ヴントの民族心理学、デュルケームの社会学、ジェームズ・フレイザーらの民俗学によるものなどがある。特に20世紀に入ってから、種々の観点から神話に対して膨大な研究が行われ、神話学は広い学問分野となった。代表的なものとしては、ジョルジュ・デュメジルらによる比較言語学的な比較神話研究、クロード・レヴィ=ストロースの文化人類学からの研究などがある。またカール・ユングは心理学と神話研究を結び付け、独自の分析心理学理論を構築した。さらに文学批評理論に基づく研究、比較宗教学的な研究(ミルチャ・エリアーデら)等がある。現代の一般神話理論の研究者としてはジョゼフ・キャンベルがよく知られる。比較神話研究からは、異なる神話(体系)に共通する神話類型やモチーフ(神話素)が明らかにされ、これらは民族学的な関係の有無や心理的基盤に関して議論されている。
フィンランドの古代の神々が「マイナーな異教神」になってしまっても、その精神は長年の伝統となって大多数のフィン族の生活に浸透しており、習慣としてその神々を大切にしている。驚くべき事でもないが、神の大部分は、森や水路、湖や農業といった自然の事象と密接に関連している。"歴史上フィン族の信仰に関する最初の記述は、1551年にフィンランドの司教のミカエル・アグリコラ (Mikael Agricola) が新約聖書のフィンランド語版を紹介した時のものである。彼はタヴァスティア (Tavastians) 地方やカレリア地方の神や精霊について多く記述している。だがこれ以降、19世紀にエリアス・リョンロートがカレワラを編纂するまで、それ以上記録に留める人はいなかった。ただし彼も多少の改竄を加えているために原文とは異なる。"フィンランド神話の中では、この世界は鳥の卵が破裂してできあがったものだとされている。また空は卵の殻かテントのようで、北にある北極星まで届く大きな柱がそれを支えているのだと考えられていた。