プロローグ
目が覚めると、そこは雪国じゃった。
………。
って、違うさ!
目の前に広がるのは、綺麗な綺麗な白銀の世界などではなく。
鬱蒼と生い茂る、木、木、木。
360度、木ばっかり。
俺いつの間にこんな所に来たんさ!?
ブックマンの後継者である俺でさえ、見覚えなど微塵もない森。
と言うことは、初めてくる場所。
冷静になって考えてみる。
確か、俺は、今日1ヶ月に渡ってしまった任務から、漸く教団本部に戻ってきた。筈。
ブックマンに故郷はない。
帰りたいと思う場所もない。
筈だった。
だけど、俺は任務中、早く、一刻も早く帰ってきたかったこの場所。
足取りは軽く、周りが不気味がるほど満面の笑みを浮かべ、鼻歌交じりで帰ってきたというのに。
なのに!
「アレンくんなら、まだ帰ってきてないよ」
その一言で、楽しみも喜びも、地面へと落下しめり込んでいった。
そう帰ってきたかったのは、全て、アレンに会う為。
アレンにお帰りと言ってもらって、アレンにお帰りと言う為だったのに!
一昨日、岐路につく前にいれた無線の向こう側で、
「ラビが帰るより先に、帰ってくると思うよ」
ってにこやかに言っていたのは、嘘だったのか!?
だが、予定なんて、そうそう思う通りに進められないのが世の常と言うものだ。
特に、俺たちが従事しているエクソシストとしての任務では、余計に完璧な予定遂行なんて無理に等しい。
取りあえず、無事だと言う報告はあったようだし、我慢するしかない。
そうだよ。
俺はアレンが好きなんさ。
仲間としては勿論だけど、それ以上の感情でだ。
そうじゃなけりゃ、ただ会えるってだけでうきうきしたりしないし、会えないって聞いただけでこんなに暗雲を背負ったりしないさ。
告白はしていない。
いや。
俺としては告白したつもりだったんだけど、全くアレンには届いていないと言うか。
アレンとしては、仲間としての『好きだ』という意味にしか捕らえてもらえなかったようで。
甘い甘い関係なんて、今のところ夢のまた夢。
それどころか、最近何だか、リナリーと良い雰囲気だからかなり焦ってる。
だから今回の任務だって、本当なら行きたくなんかなかったんさ。
アレンに満面の笑みで「いってらっしゃい、ラビ。気をつけて帰ってきてくださいね」なんて言われたら、切ないけれど、行くしかないわけで。
アレンとリナリーの関係が進んでいないことを必死で祈って、そうなっていないことを早く確認して、安心したかった。
取りあえず、無線で話した時、妹大事のコムイが暴走してない様子だったから、大丈夫だと言い聞かせて帰ってきたってわけさ。
それにどうやらリナリーは、アレンとは別任務だったらしいし。
誰かに取られる前に。
もうこんなハラハラしながら、アレンと離れるのも嫌だから、今度こそ確実に伝わるように告白しよう!
それに、全く自分に望みがないわけでもない。
実は明日は俺にとって、特別な日だった。
そう、誕生日。
何人もの俺が産まれて、幾つもの誕生日があるけれど。
正真正銘。1番最初の俺が産まれた日が明日だ。
今まで特に、『特別な日』だなんて思ったことなどなかった。
でもアレンが言ってくれたんさ。
『特別』な日だって。
だから一緒に祝おうって。
アレンはちょっぴり黒いところもあって、イカサマポーカーなんて軽々とやってのけるヤツだけど、芯は、真っ直ぐでバカがつくほど真面目なヤツだ。
だからきっと約束は守ってくれる筈。たとえ、何日誕生日がずれてしまったとしても、一緒に祝ってくれる。
それを信じて、俺は待つだけだった。
そして、例え日付が違っても、俺は、特別な日に特別な関係を築きたい。
だからアレンが帰ってきたら、真っ先に告白する!
と固く誓って。