「こ、ここは…」

「そ、山小屋さ」

「なんで、わざわざこんなところまで?」

「アレンが、俺を避けようとするからだろ?」

気まずそうにアレンが視線を逸らす。

「だからって、こんな所まで…」

「逃げらんない様にさ…」

「逃げられないって…」

「だって、アレン、ここからひとりじゃ帰れないだろ?」

暗い夜道だからだけじゃない理由が、アレンにはある。
アレンは極度の方向音痴だからだ。
きっと明るい陽射しが降り注いでいても、普通の人間なら簡単で迷うことのない一本道であろうとも、アレンなら80パーセントの確立で迷子になるであろうことを、俺は知っている。
だからこそ、わざわざこんな所まで引っ張ってきたのだ。
アレン自身も自覚があるのか、悔しそうな顔をして床を睨んでいる。

「…なあ、俺、何かした?」

ピクリと、アレンの肩が小さく震えた。

「アレン…」

「…帰りましょう、ラビ先輩…。僕らがいないことに気付いたら、リーバー先生も心配す―――」

追い詰めたアレンの身体を壁に押し付けることで、続けられようとした言葉の先を封じ込める。

「そんなに、リーバーのところに帰りたいんさ?」

「何、言って……?」

「リーバーの事が、好きなんか?」

「なんで、そんなこと……?」

「どうして俺から逃げた?なんで俺を避けるんさ?」

「ラビ、せんぱ……」

畳み掛けるように質問を投げかける俺に、アレンの瞳が戸惑うように揺れる。

「どうなんさ?アレン!」

「ラ、ビ…」

「正直に答えたら、帰してやるさ…?…なあ、リーバーの事が好きなん?」

恐れ、戸惑うばかりだったアレンの瞳に、強い光が宿る。

「僕が、リーバー先生を好きだと言ったら、どうだって言うんですか?僕が誰を好きだろうと、ラビ先輩には関係ないでしょう!?」

挑むようなアレンの瞳。
こんな時でさえ、綺麗だと思う。
それと同時に、この瞳に俺以外を映してほしくないと強く思う。
俺はその気持ちのままに、アレンの身体を強く掻き抱いていた。

「帰したくないっ!リーバーのところになんてっ、リーバーにも誰にも、渡したくない!」

「……な、んで、そんな…こと……」

突っ張るアレンの腕を押さえつけて、俺は無理矢理その唇を奪った。

「ん、ぅ……や、ぁっ…!!」

「好きなんさ!!アレンが!!」

「やっ…そんなの、嘘だ!」

腕の中のアレンの身体が、再び我武者羅に逃れようともがき始める。

「嘘じゃねえさ!」

「嫌だっ!信じませんっ!信じられ、ないっ…」

「アレン!」

「だって………だったら…僕はっ……」

突き放されても、突き放されても、俺はアレンを手放すことなどできなくて、ただ抱きしめることしか出来ない。

「何のために、あんなに…苦しい思いを……」

「……ア、レン?」

「苦しくて…辛くて……それでも、気持ち、抑えようとしたのにっ…!」

「それ…って?」

涙交じりのアレンの告白に、俺の身体にふつふつと熱が籠もっていく。

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