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どんなに足掻いてみても、コムイとリナリーに口で敵うはずもなくアレンはラビと一緒に室長室から追い出され、今は自分の部屋に戻る途中であった。
隣でうな垂れながら何度も溜息を吐くアレンを、多少は不憫に思いながらも嬉しそうに笑って見下ろしていた。
「もう…ラビ、どうして反対してくれなかったんですか?」
「へ?」
「ラビだって、いくらお芝居とはいえ、女の子のほうが良かったでしょう?」
暗に、ラビが女好きだというところを指摘しているのだろう。
「リナリーのほうが、絶対ジュリエットの衣装似合うのに…僕が女装なんかしたら、ただのコメディですよ…」
アレンの言葉に、ラビはがっくりと肩を落とす。
アレンは自分のことを分かっていない。自分がどれほど魅力的な容姿をしているのかも…。そしてどれほど多くの人間を魅了しているのかと言うことにも。
「仕方ないさぁ…シスコンのコムイが、リナリーにそんなこと許可するわけがないし、もうそんなことになったらきっとコムリンを暴走させるに違いないさぁ…」
過去に何度もその被害にあっているアレンに、そのラビの立てた予測はありありと想像できた。
「う…確かに…」
「だろ?」
「だったら、だったら!神田なんてどうですか!?神田なら、綺麗な顔してますし髪の毛も長いから、女装も似合うと思いませんか!?」
神田が聞いていたら、速攻で愛刀の夢幻で切り殺されそうな台詞を吐くアレンに、流石のラビもギョッとする。
「ユウの前でそんなこと言ったら、速攻殺されるさアレン!…それに、あのユウが簡単に承諾するわけもないし…まず間違いなく血の海になるさぁ…」
そのラビの予測に、今度もまた容易に予測できてアレンは震える。
「うう…確かに…」
「それに、あのユウに演技が出来ると思うか?」
万が一引き受けることになったとして(リナリーに脅されれば流石の神田でも、断れない可能性は捨てきれなかったり…)舞台に立ったとしても、演技などするとは思えない。きっと超不機嫌そうな顔を隠すこともなく会場中を凍りつかせるのがオチのような気がする。
「それなら僕だって、演技なんて自信ありませんよ…」
「でも、アレンは昔道化師を演じてたんだろ?それと変わらないんじゃない?」
確かに幼い頃の自分は、養父であるマナと一緒に各地を回り道化師に扮していた。
「ジェリーだって、俺たちが素人だって言うことくらい承知のうえだろ?完璧なんて求めてないさ…」
寧ろ、アレンの可愛い姿を見たいが為じゃないかと思っている。可愛いものや綺麗なものなどが好きだからだ。
「それに、リナリーにも言われてたじゃん?アレンが一番お世話になってるんだからってさ」
「うぐっ」
軽く図星を突かれて、今度こそアレンは反論できなくなってしまった。
これも確かに、毎回大食いであるアレンが一番ジェリーの世話になっているのは、間違いないであろう。
それでも未だ吹っ切りきれないアレンの様子を見て、ラビはやわらかい笑顔でアレンの頭を撫でる。
「ラビ?」