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「コムイさん。任務ですか?」
今、アレンはコムイに呼ばれ室長室に来て、ソファに腰掛けていた。
「俺とアレンで任務さ?」
アレンの隣にはラビが並んで座っている。
「いや、今日はね。用事があるのは僕じゃなく、リナリーなんだ」
「へ?」
コムイから目配せを受けると、机の横に立っていたリナリーがにっこりと笑って二人の元へと近づき、胸元に抱えていた冊子状の書類をそれぞれに手渡した。
「なんさ、これ?」
「…ロミオと…ジュリエット?」
「台本よvv」
「「台本〜〜?」」
二人ともがパラパラと紙をめくって確認すると、確かに台詞などがびっしりとかかれていた。
「これが、何か?」
「もうすぐジェリーの誕生日でしょ?」
「ああ、そんなことを言ってましたね」
アレンたちがそのことをリナリーから聞いたのは、つい3日前の夕食時ラビに誘われてご飯を食べていた時のことだ。後から来たリナリーが、並んで座る二人の前の空いた席に着いた途端、そんなことを言われたのを覚えている。
「協力してくれるって言ったわよね?」
「あ、はい、僕に出来ることならしますけど」
「ああ、俺も協力するさ」
「で、ジェリーさんは何を?」
「あのね…」
リナリーの話によると、ここ最近団員も増えてきたおかげで食堂の方が忙しく、ジェリーは大好きなお芝居を見に行く暇がないらしい。
そこで、是非、誕生日には教団内でお芝居を見せて欲しいというのが、ジェリーからの要望だと言う。
「もしかして…それって俺たちが演じるってことか?」
「うふvvさっすがラビ。察しがいいわね」
「えええ!?演じる!?」
「そうよ。私たちでお芝居するのvv協力するって言ったでしょ?」
「言いました…けど……」
ほんの少し後悔するアレン。もう少し内容を聞いてからにすれば良かったのだろうか。
「…それで?ジュリエットはリナリーだとして、他の配役は誰がやるんですか?」
それでも気を取り直して、一番気になる配役のことを恐る恐る聞いてみる。
ラビが一緒に呼ばれていると言うことは、ロミオはラビの方が適任だろうとアレンは予想していた。
「あら、私がジュリエットをやるなんて一言も言ってないわよ?」
「え?…じゃあ、誰が?」
予想外の返答に驚いた顔をして、その後思わず隣に腰掛けるラビへと視線を向ける。
まるで、「ラビがジュリエット?」と言いたげなアレンの視線に気づいたラビ。
「俺がジュリエットのわけないさあ!」
慌ててぶんぶんと頭を降る。
「じゃあ、誰が…」
視線を戻したアレンの眼に、自分を見てニコニコと微笑んでいるリナリーとコムイの姿が映った。
嫌な予感に、アレンの背を悪寒が走りぬける。
「僕がリナリーにジュリエット役をやらせるはずがないでしょ?」
にっこり顔のコムイの背後に真っ黒なオーラを感じる。
「え?え?」
「ロミオ役は勿論、ラビで」
予測はついていたのか、ラビは仕方ないと言う風に軽く溜息をつき、「了承した」と言うように片手を挙げてみせる。
「ジュリエット役は…勿論、アレンくんよvv」
そう言って天使のような顔で微笑むリナリーの背後には、コムイが背後に背負っていたのと同じようなオーラに加え、花が咲いたように感じた。
「がんばってね♪アレンくん」
「う、う、うそだぁぁああぁあぁぁぁ〜〜〜」
アレンの悲痛な叫びが教団中に木霊した…らしい。