恋は密やかに始まる
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珍しく、任務のない日が続いていたある日。
僕らはコムイさんの要請を受けて、書室で資料集めをしていた。
「アレンくん、ごめんね。この本も探してくれないかな?」
「はい、分かりました」
ボクはリナリーから一枚のメモを受け取った。
様々な書籍が並ぶ棚に向けて歩く僕とすれ違うように、神田が腕に数冊分厚い本を抱え、リナリーとは別の机で調べ物をしているラビのところへと運んでいく。
2時間ほど前からこんな感じで、リナリーとラビが調べ物をして、僕と神田が二人に指示された本を探し運ぶと言う作業を繰り返している。
「ほらよ」
「サンキューさ、ユウ」
「名前で呼ぶな!」
「いいじゃん、今更さvvほい。次、これ頼むさ〜」
いかにも神田の反応が楽しくて仕方がないと、いたずらっ子みたいな顔をしてラビが笑って、小さなメモを渡す。
それを神田は、ひったくるようにして受け取る。
「チッ…」
「ユウたん、舌打ちはないさ〜」
そんな二人のやり取りをリナリーは、くすくすと楽しそうに笑って見ている。
暖かい陽射しに似合う平和な風景。
でも僕だけは…。
ちくんと痛む胸を、メモを持つ手で無意識に抑え、急ぎ足でラビと神田が目に入らない奥の書棚まで移動する。
いつからだろう。
僕がラビのことを、仲間以上の感情で見るようになったのは。
最初は本当に頼れるお兄さんだったラビの存在。
いつも明るくて、優しいラビ。その存在にどれだけ救われただろう。
友愛から恋愛感情に変わるまで、さほど時間はかからなかった。
加速してしまう感情。
いつからだろう。
そのラビの優しさが、胸に突き刺さる痛みになったのは。
その優しさが好きだったはずなのに。
誰にでも平等に優しいラビが好きだったはずなのに。
今はその優しさが辛い。
いつからだろう。
それが、自分の中の黒い感情であることに気づいたのは。
その感情が嫉妬と言う名であることに気づいたのは。
他の人に優しくしないで。そんな甘い瞳で笑いかけたりしないで。
そんな自分がとても卑しく思うようになったのは、そんな自分を怖いと思うようになったのはいつからなのだろう。
そうして、いつからかラビと距離を置くようになっていった。