Gimme a shot!!



 ぼんやりした頭でキーボードを叩き続けること……どれぐらいだろうか。今日はどうにも集中力が続かない。
普段ならとっくのとうに終わっているような量の事務仕事がまだ終わらなかった。頭の中では、亜美真美と律
子が営業から戻るのを待つ間に書類のチェックと会計処理を終わらせて、三人が帰ってきたら即退勤、あわよ
くば一緒に食事でも行ってまったりしたいと考えていた所だ。現に、社長室の鍵はもう閉めてある。
 「うーん……もう一息なんだから頑張れ、俺……ん?」
 オフィスの入り口から人の足音が聞こえた。腕時計を確認してみると、三人の帰社予定の時間を過ぎている。
 「たっだいまー!」
 一番に事務所に戻ってきたのは亜美だった。朝から一日働いていたとは思えないような溌剌とした元気な声
が、俺以外誰も残っていないフロアに響き渡る。
 「おかえり、亜美。どうだった?」
 「ん、カンペキだねー。TV局でやよいっちに会ったよ」
 入り口から繋がったフロアのパソコンで作業を続ける俺の下へ、亜美が駆け寄ってくる。
 「そうか、元気そうだったか?」
 「うん。亜美達と入れ違いだったからあんまりお話はできなかったけど」
 机に肘をつき、少し屈んでパソコンの画面を右から覗き込みながら亜美が言った。視線をモニターからそち
らに向ける。
 「まぁ、元気そうなら良かっ──!?」
 慌てて視線を逸らした。両肘を机について、腕組みをするような格好で画面を眺めていた亜美の、パーカー
の下に着たキャミソールの胸元に、柔らかそうな女性の膨らみがぐっと寄せ上げられているのが見えた。グラ
ビア写真で見るような、谷間を強調するようなポーズ。
 ──意外に育ってる。そうか、亜美も中学生だし……それにしても最近の子って発育いいな……。
 って、そうじゃないだろう。俺は頭をぶんぶん横に振った。
 ぴくりと反応してしまった男の本能に、猛烈な後ろめたさが込み上げる。一瞬見えた光景を頭の中から追い
出そうにも、路上に捨てられたガムを踏んでしまった時のようにベタベタとまとわりついて中々離れていこう
としない。
 「ちょっとトイレ……」
 勢い良く立ち上がって、椅子が音を立てて床に倒れた。焦る気持ちを抑えて椅子を直してから、ひとまずオ
フィスを離れて心を落ち着けることにした。


 誰もいない、トイレの個室。心頭滅却すれば火もまた涼し、とばかりに、蓋を閉めた便器の上に座り込んで
俺はストイックな思考を巡らせ続けていた。おかげで、昂りかけていた熱もようやく退いて行く所だ。
 「ああそうか、最近ずっと……」
 ここの所の忙しさに、仕事を後日に残せば雪だるま式に増えていくからと残業に明け暮れる毎日が続いてい
たせいで、自分が欲求不満な状態に陥っているのに気がつかなかった。仕事の疲れに体を休めることを優先し
ていたせいで、家に帰って自家発電することすら忘れていたのだ。
 幸い日頃の頑張りのおかげで今日の仕事は少ない。経営と兼業で、律子と二人で担当している事務だって本
来なら定時の前に終わっているような量なのだ。今からでも、さっさと終わらせてしまえば時間は作れる。
 残務が無ければ、職場で求めてもOKが貰えるかもしれない。そう思い、仕上げを済ませてしまおうとオフィ
スに足を向けた。
 パソコンの前に戻ると、『駅まで二人を送ってきます』と律子からのメモ書きが残されていた。早く仕事を
終わらせてくださいとの添え書き付きだ。
 「よし、やるか」
 もうぬるくなってしまったブラックコーヒーを一気に喉の奥に流し込み、俺は自らの頬をぱしんと叩いた。


 拍子抜けするほどにあっさりと、律子が戻ってくるまでの間に打ち込み作業は終わってしまった。集中すれ
ばこんなに僅かな時間で終わってしまう物に、俺は一体どれほど時間をかけていたというのだろう。思い返し
てみると、途中で余計なことばかり考えて一向に進んでいなかった気がする。そんなことを律子に知られたら
きっとおかんむりだろうな、と思っていると、やがて事務所のドアの向こうから青いストライプが見えた。

 「お帰り、律子」
 「お疲れ様です」
 一日が終わってホッとした表情で律子が笑う。
 「今日はどうだった?」
 「んー、まぁトラブルも特に無く順調でしたよ。今日の収録で会ったディレクターさんと新たにコネができ
そうなんで、もっと大きい番組に出られるのも近いかもね」
 「そいつは吉報だな」
 俺と律子が一緒に活動していた頃に知り合った業界人も多いとはいえ、高木社長のコネに助けられていた部
分も多い。あちこちと交流を深めてくるのは本来俺の仕事なのだが、こうして律子が新たなプロモーションの
切口を作り出すことも多かった。役職は互いに異なるものの、実際には二人で様々な業務を共有している。ま
ぁ、その方が俺と律子の性に合っているかもしれない。
 「……今日は、もう終わり?」
 デスクトップを表示したままのモニターをちらりと見て、律子が俺に目線を送った。
 「ああ、ここの所先手先手で動いてたおかげで、仕事が溜まらずに済んだ」
 「ふふっ、常にこうありたいものですよね」
 さて、もう律子から報告して来るような事項も無さそうだし、あったとしても後から聞けばいい。急ぎの用
事なら真っ先に知らせてくるのだから。仕事モードからプライベートモードに頭が切り替わり始め、途端に性
欲が肥大化する。腰の奥がズンと重たくなってきた。
 「律子」
 今すぐにでも押し倒してしまいたい衝動を必死に理性で押さえ込みながら、律子に呼びかける。雇用主と従
業員という関係を踏み越えて、プロデューサーとアイドルという垣根も取り払い、男と女の距離へ──。
 「あ……」
 肩を抱き、右手で顎のラインをなぞると、何をされるのかを悟った律子が息を漏らすような声を出した。困
ったような顔の律子と見詰め合うこと数秒。レンズの向こう側の目蓋が閉じられて、顎が差し出される。血色
のいい、つやつやした律子の唇。もう何度も口付けを交わしてきたのに、いざこの瞬間になるといつもドキド
キしてしまう。
 「んっ……」
 しっとりしていて、程よい弾力。軽く唇を重ねるだけで一気に体温が上がるようだった。待ち望んでいた、
律子との逢瀬の時間が訪れたことに、安堵と興奮が同時に湧き起こってくる。抱擁や接吻なんかじゃ満たされ
ない。しばらくご無沙汰だった行為への期待が否応無しに高まって、そのまま舌を差し入れる。
 「んんっ!?」
 てっきり向こうからも舌を絡め返してくれると思っていた所、驚いたような声と共に律子の顔が離れて行っ
てしまった。眉をひそめて嫌がる、なんていう素振りでは無いが、どうしたというのだろう。するべき事務も
ちゃんと済ませたし、亜美も真美も事務所を後にして、ここにはもう、俺と律子の二人だけだ。
 「どうしたんだ?」
 高まる鼓動に焦りのようなものを感じながら、律子に尋ねる。
 「ごめん……今日は無理なのよ……その」
 怒っていたり苛立っていたりということは無いが、頬を赤くしながら胸の前で人差し指の爪をもじもじと擦
り合わせ、律子は申し訳無さそうにしている。尻すぼみに小さくなっていく声の調子からすると、打ち明ける
のが恥ずかしいような理由を抱えているようだ。
 「もしかして……アレ?」
 「うん……女の子の日……」
 「体調、平気か?」
 まず始めに出てきた言葉だった。男の俺にはどうしても女性の生理の辛さが理解できずに心苦しいが、体調
を崩してしまう人も多いらしく、仕事ができなくなる程に辛い時もあると耳にしたことがあったので、律子は
平気だったのか、一日中無理をしてたんじゃないか、と気になった。
 「私の場合はそこまで重くないから大丈夫ですよ。少しだるくなるぐらい。今日も痛み止め飲んでるんで」
 「そうか、それなら良かった」
 折角いい状況だったのに肌を重ねられないのは残念と言えば残念だが、そう焦ることも無い。今回がダメな
ら次がある。自分にそう言い聞かせるようにして、律子の体をそっと抱き締めた。ぽんぽんと背中を叩くと、
律子もおずおずと俺の腰に腕を回してきてくれた。
 「ごめんね……嫌ってわけじゃないのよ。私だって、それなりに……」
 「いいよ、また別の機会だな。俺、戸締りしてくるよ。終わったら上がろう」
 そう言って体を離し、背を向けようとすると、「あ、待って」と律子に呼び止められた。
 「戸締り終わったら、仮眠室に……」
 「え?」
 「ム……ムラムラしてるんでしょ? 『したい』って顔に書いてあったし、それに……」
 またもや小さくなる声と共に、律子が視線を逸らした。
 「さっき、その、当たってたから……最近……ご、ご無沙汰だったでしょ……?」
 「いや、それはそうだが、でも、律子は……」
 「す……す、スッキリ、させてあげるぐらいなら……できますから」
 先程キスしたばかりの唇を指差しながら、耳まで真っ赤にして律子がたどたどしい口調で言った。
 『抜いてあげます』と婉曲的に示す大胆な申し出に、鎮まりかけていた熱が再び燃え上がるのを感じた。節
操も無く、股間の性器が硬く膨らんでくる。
 「う、うん……」
 「……じゃ、そういうことで」
 俺が答えに迷って出した生返事を聞き届けると、律子はさっさと歩いて行ってしまった。


 体が勝手に動いて、事務所の戸締りも電気系統のチェックも済ませていた。コンピューターのファンの音さ
えもしなくなってしんと静まり返ったオフィスの中、後はドアを開けて外に出て行くだけで帰ることができる
状態にしてから、俺は仮眠室に向かって足を進めていた。
 本当にいいのだろうか、と遠慮する気持ちと、早く律子に気持ちよくしてもらいたい、という欲求とが頭の
中で音を立ててぶつかりあっていた。どちらが優位かは、ズボンの中で整った臨戦態勢が物語っていた。
 変にかしこまってしまい、ノックしてからドアを開く。
 「あ……」
 「よ、よう」
 律子は、ベッドサイドに腰を落ち着けていた。皺の無いシーツが妙にしっかり整えられていて、ベッド脇の
テーブルの上には緑茶のペットボトルが二つ並んで立っている。律子の隣に俺が腰を下ろすと、ちらり、と流
し目で俺の顔が見られたのを感じた。
 「電気、消していいですか?」
 「電気?」
 復唱する俺に、「今日は見られたくないから」と自信なさげな調子で律子が答えた。きっと、女性の事情が
関係しているのだろう、と、俺は何の疑問も持たずに頷いた。特に断る理由も無い。
 促されるままに、電気を消す。つい二秒前まで見えていた部屋の輪郭が消滅した。人間は情報の認識の約八
割を視覚に依存しているとはよく言われることだが、視界がひたすら真っ暗という状況は、隣に愛しい恋人が
いてもなおどこか不安をかきたてるもので、薄ら寒かった。
 鼻で呼吸すると、嗅ぎなれた、それでいて何度でも胸いっぱいに吸い込みたくなる、律子の甘い匂いが香っ
た。すぐ傍に、俺の大好きな律子がいる。耳を済ませればその呼吸までも聞き取れそうだった。
 「ちょっと待ってね……」
 すっと空気が揺れて、声が上方に伸びて行った。立ち上がったのだろうか。何をするのかと思っていると、
衣擦れの音が聞こえてきた。指が引っかかってボタンの外れる音。ぱさり、と布が床に落ちた。ベルトのバッ
クルが鳴った。ファスナーがジジジと鳴き声をあげる。
 ──脱いでるのか……。
 思わず生唾を飲み込むと、仮眠室の空気を震わせてその音が部屋中に響き渡ったように感じられた。律子の
裸が見たい。しかし、このまま音だけを聞いて豊満な裸体を浮かべるのも、たまらなく興奮する。
 やがて衣擦れの音が止むと、シャンプーの香りがふわっと漂ってきて、体重を受けたベッドがきしんだ。手
を伸ばしてみると、滑らかで温かい剥き出しの肌を掌に感じた。下げてみると、尖った硬い感触が先端にあっ
た。これは肘? 逆方向に掌を滑り上げると、ふにふにした柔らかい肉が下向きについている。二の腕か。丸
く硬い肩の骨を感じ、律子の顔がどの辺りにあるかが掴めそうに思ったその時、細い指が俺の首に触れて、顎
へと上がってきた。
 「あ、見つけた……」
 親指と思しき太くて短い指が俺の唇をなぞった。律子の香りが濃くなる。
 「ぁ、ん…………」
 鼻息のかかるのを感じながら、覆い被さってきた唇を迎え入れる。しっとりと湿って、ぷりっとしている。
舌が入ってきた。唾液で滑っていて、熱い。
 視覚が塞がっているということは、他の四つの知覚に意識が集中するということである。髪の匂いに混じっ
た律子の体の温かな香り。舌を絡み合わせる液体の音と、鼻から漏れてくる甘い声。俺の鎖骨をくすぐる細い
指先の感触に、俺が撫でる肌の滑らかさ。命の存在を感じる体温。舌に微かに伝わってくる、緑茶の物と思わ
れる苦味。伝わってくる全ての情報が新鮮で、半分程しか血液の溜まっていなかった性器にどっと情欲が押し
寄せる。
 「ねぇ」
 唇を離して律子が言う。
 「……さ……」
 触ってもいい? と耳元で囁く無声音。俺は頷いたが、頷いても見えていなければ伝わらないことに気付き、
 「触って欲しい……」
 と口に出した。
 「……はい」
 俺の顎を掴んでいた手が下がっていく。輪郭をなぞるようにして首筋、胸板、腹……と、下腹部に辿り着い
た。ベルトが緩み、金具が鳴る。耳に慣れているはずのファスナーを下ろす音が、この上無く卑猥に響いた。
 「硬い……石みたいになってる……」
 硬くなった性器に律子の指が触れた。少しひんやりしている掌に包まれて、下着から芋のような肉塊が引き
ずり出される。外気が冷たく感じられた。
 「痛かったら、言ってね」
 股間の熱を包み込む圧力が高まった。そのまま、律子の手が上下に動き始める。性衝動という目に見えない
感情が最も外界に近付く場所、そこを刺激されて、腰が跳ねそうになる。自慰とほとんど同じ動きなのに、他
人にされるというだけでこうも感覚が違う。ましてや、律子の手というなら、なおさらだ。
 たちまち、肌の擦れるだけだった所に、ねちょっとした卑猥な水音が混ざり始める。先走りが出ているのを
自分でも感じていた。
 「濡れてますね……凄い音……」
 部屋が真っ暗で無ければ聞き逃してしまいそうなほどの、小さい声だった。いつの間にか荒くなっていた俺
の吐息の方が大きいぐらいだ。
 数週間ほど遠ざかっていた久しぶりの快楽に、射精感を意識し始めるのは早かった。律子の手の中で肉茎が
びくびくと跳ねて外側に膨らもうとすると、その動きを押さえつけるように締め付けが強くなった。思わず腰
を揺すると、性器とぶつかり合うような逆方向の動きで律子の手は俺を扱き立てた。親指か何かが裏筋の縫い
目に当たって、振動が伝わってくる。
 「律子、俺、もう……」
 「うん、いいよ……」
 熱を持った囁きが耳元をくすぐり、茎を中心に擦っていた刺激が亀頭に集中する。ボーダーラインを超えて
数秒、脳を打つ快楽と共に尿道がこじ開けられて精が外に放たれていく。
 「んっ……く、は……」
 焼けるような性感に声が漏れる。飛び出したばかりの熱い粘液が、壁のようなものに跳ね返ってべっとりと
幹に垂れてくるのを感じる。どうやら、掌で鈴口の辺りを抑え付けられているようだ。
 「こんな熱いのに、中からもっと熱いのが……」
 更なる射精を促すかのように、亀頭の先端をグリグリと圧迫された。下から絞り上げるようにして、尿道に
残る精液が押し出されてくる。扱きあげられるに連れて、生々しいすえた臭いが鼻を突く。





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