「口でもしてあげますね」
 さきほど熱烈過ぎる抱擁をされた時とは逆に、今度は律子が俺の胸に顔を埋めてきた。ぷにぷにした唇が吸いつき、ぬるぬるして
ザラついた舌が乱暴に皮膚の表面を這いずり回る。
 「あ……っう……」
 切なくなるようなもどかしい刺激に、喉の奥から溜め息混じりに声が絞り出されていく。きっと、俺の顔はリンゴみたいに赤くな
っているに違いない。できることなら、この場から逃げ出してしまいたい。穴を掘れるなら今すぐ掘りたい。
 「うふふ……声出しちゃって、可愛い」
 律子はわざとらしく音を立てて俺の乳首を吸い上げる。背筋に流れる電圧が高くなった。触られてもいない性器にまで、なぜかジ
ンを疼くような快感が走り、そこに血液が集中してきているのを感じる。
 「お、音立てるなよっ……!」
 「却下。そんなこと言われて止めるわけが無いじゃないですか」
 部屋に響き渡るほどの強さで、律子の唇が吸い付いてくる。普段の俺だって、こんなに強くはしていないかもしれない。それにし
ても、さっきからの律子の発言の数々は、何だか男が言いそうなものだ。ただ俺の真似をしているだけなのかもしれないが、それに
しては台詞の数々が板につきすぎている。元々論理的に物事を考える傾向のある律子は、男性的な思考も強いのかもしれない。
 「……いい表情するんですね。歯止め……効かなくなっちゃいそう」
 (こんな艶っぽい喋り方、いったいどこで覚えてきたんだ)
 このまま律子に責められていたい……と、そんな思いが一瞬脳裏をよぎって、慌てて頭を振って振り払った。
 俺は、マゾヒストでは無いつもりだ……とはいえ、この状況で、ペニスを硬くしてしまっていては、説得力には欠ける。
 「そろそろ、こっちも……かしら?」
 頬を上気させた律子が俺のお腹をなぞり、ベルトに手をかけた。スムーズにベルトを外すと、スラックスのファスナーを、わざと
らしく音を立てながら下げていった。
 女と違って男の性的興奮は本当に分かりやすく、隠しようが無い。自分からは何もしていないにも関わらず、下着の中で俺のペニ
スは目一杯に膨れ上がっていた。ぴんと張ったテントに律子が視線を落とす。
 「ふふっ、やっぱり元気になってる。なんか……いつもより大きいような気がするのは、私の思い違いかしら?」
 「そ、そんなことは無いぞ! 至っていつも通りだ」
 「そうねー。両手に手錠をハメられて、ここをペロペロされてこんなカチカチにしちゃうなんて、ねぇ」
 唾液で濡れて蛍光灯を反射する俺の乳首を指差しながら律子が言う。
 「……くっ」
 確かにこれでは、両手を縛られているのに興奮していると取られても、言い逃れのしようが無い。
 「でも仕方無いだろ。相手が……俺の可愛い恋人なんだから……」
 「う………そ、そんなこと言って揺さぶろうったって、そうは行きませんよ! まだ解いてあげないっ!」
 一瞬律子は嬉しそうに照れたが、あまり良くない意味で刺激してしまったようだ。どうやら、まだ解放してくれそうには無い。
 「四の五の言えないようにさっさと始めちゃいますかね」
 そう言うが早いか、律子は無遠慮にパンツの中へ手を滑り込ませてくる。
 「あ……ッ」
 ギュウゥ、と、固くなりきったペニスを握り締められ、腰全体に重たく鈍い快楽が沸き起こる。先端から根元へと指が降りてきて
全体の輪郭を確かめるかのように歩き回る。
 「すっごい……硬いですよ、コレ。本当に骨が入ってないのかしら……」
 ズルッとパンツが引き下されると、天を向いた猛々しい欲の塊が現れた。男性の生理機能としてそれが正常に働いていることを確
かめて目を細めると、律子がポーチの中から小袋を幾つか取り出した。ギザギザのパッケージを破いて無色透明なタイプの中身を取
り出すと、広げて俺のペニスに覆い被せてくる。
 「よし、準備完了って所かな。じゃ、バッチリ観察させてもらいますよ」
 (いきなりコンドームをつけるなんて、もう挿入するのかな)
 一瞬そう思ったが、律子自身が覆いかぶさってくる様子は無く、どうやら違うようだ。硬くなった男の欲望の真正面に律子の顔が
あって、息がかかりそうなぐらいに近い。
 「か、観察……って、ゴムなんて被せて何を観察するんだ?」
 「そんなの、決まってるじゃないですか。さ、見せてください」
 手伝ってあげますから、と言いながら、律子は俺のペニスを握り締めたまま手を上下に往復させ始めた。血液が密集して今か今か
と刺激を待ち望んでいた肉茎は敏感に反応し、律子の手からかかる圧力を押し返すようにビクンと跳ねた。
 「あ……ぁっ……こ、声が………っっ」
 細くて、繊細で、柔らかく、スベスベした律子の指と掌で刺激されるのは、正直言ってたまらなく気持ちいい。それを認めてしま
うのは律子の思惑に一方的に乗せられるようで悔しいが、逃れる術も無いと思い知らされざるを得なかった。
 「いいじゃない。ここには私しかいないんだから……もっと声、聞かせてよ」
 ズリズリとベッドの上を壁際まで追いやられて壁に寄りかかる俺に、律子の上半身がもたれかかってきた。上目遣いで見上げてく
るガラスの奥の瞳は、やけに妖しく、艶かしく輝いていた。静かな情欲がその瞳の奥でちりちりと燃えている。いいようにされてた
まるか、と、わざと関係無いことを考えて気を逸らそうとしてみたが、その考えも読まれていたのか、しっとり濡れた唇が覆いかぶ
さってきて思考を遮断されてしまう。律子の手は、カリのくびれや裏筋や、粘膜と皮膚の境目など、俺の気持ちいい所を、正確に、
的確な強さで刺激してくる。
 「手の中でどんどん大きくなってますよ。ゴム越しなのに、凄く熱い……」
 触れるか触れないかのラインにわざと留まって俺がじれったさを感じ始めると、痛くなる寸前の力で急激に握り締められ、そのま
ま乱暴にゴシゴシと扱き上げられる。頭がぼんやりするようなキスの快感と、腰全体が浮き上がるような、性器からの荒々しい快感
に、みるみる内に射精欲が込み上げてくる。堤防を乗り越えて、いよいよ限界を超えて溜まった欲望を解き放つ……といった所で、
律子の手がぴたりと止まってしまった。
 「な、なんで止めるんだ……?」
 俺の身体にもたれたまま、律子が不敵に、ニヤリと笑った。達しそうだった快楽が一気に冷めていく。
 「ふふ……そろそろかなーと思って。出したいですか?」
 否定することを忘れて思わず俺は頷くと、律子が口に手を当てて含み笑いをした。
 「じゃあ……おねだりして下さいよ」
 「なっ……!」
 ──男にそんなことを言わせるつもりなのか、律子は。俺が言うのもなんだが、エロ漫画の読みすぎなんじゃあないのか。そりゃ
あ、硬くなった乳首を指で延々といじめたり、よく濡れた秘所を指で焦らすように責め立てたり、いざ貫いた後もわざと動きを止め
たり、絶頂を迎えそうになった所で動けなくなるように腰を押さえつけたりして、もうたまらなくなった律子に愛撫を請わせたこと
は何度もあるが。……こう列挙してみると、律子が同じようなことをしたがるのも納得しないでもない。
 「あなたの口から『イキたい』って、言って欲しいなぁ〜……」
 そう言いながら、律子はゆっくりと右手を上下させ始めた。最も気持ちいい先端部分を避けて、刺激の弱い根元の辺りに緩い快感
が走る……が、緩すぎて射精に至るには不十分で、もどかしかった。
 「ね、どうなの?」
 「おうっ……」
 もどかしい刺激が続く中、そろりそろりと、人差し指と思われる細長い指が裏筋をつつーっとなぞった。張り詰めたペニスがビク
ンと跳ねるが、あと一歩、もう少しが足りなくて、全身がムズ痒くなる。律子の着た衣装の開いた襟からは美味しそうなご馳走が谷
間を覗かせているし、短いスカートからはむしゃぶりつきたくなるような脚が伸びている。それに、ほんのり頬を染めてうっとりし
たようなこの表情。もしも両手が自由に動かせたなら、目の前にいる律子を今すぐ押し倒して犯してしまいたいぐらい、昂ぶってい
る。それほどまでに情欲を煽られた上に散々恥ずかしい思いをさせられ、両手を拘束された状態での生殺しは、拷問以外の何物でも
ない。
 できるなら、早くこの天国のような地獄から抜け出したい、解放されたいと強く思っていた。
 「り、律子……」
 「なに?」
 「頼む……」
 「何を頼むんですか?」
 観念して懇願しようという俺の、自分でも弱々しいと分かる声に、律子は意地悪くそう言う。くそっ、どうしてそんなにワクワク
した顔をしているんだ。
 「イかせてくれ……もう限界なんだ」
 恥を捨て、男のプライドも失った気がするが、俺が何とかそこまで言うと、律子は待ってましたとにんまり口角を上げた。
 「ふふっ……了解です」
 ペニスを握る手に力がこもり、待ち焦がれていた愛撫が再開される。遠慮なく、容赦なく、俺の最も気持ちいい所を集中的に責め
る律子の手からの刺激を俺はもう我慢しなかったし、我慢もできなかった。爆発的な快楽が紙に火を点けた時のように燃え広がって
いき、あっという間に溢れ出して行って腰が浮く。
 「うっ……」
 くすぶっていた熱塊が、尿道を駆け上って外界へと飛び出していった。一回、二回、三回、と、鼓動のリズムに合わせるようにし
て放たれる白濁液が、外へ飛び出していく勢いと引き換えに強烈な快感を体内に残していく。止まらない律子の手の動きが、次の拍
動を無理やり引きずり出し、中々射精は収まらない。
 「おぉ〜、出てる出てる……」
 「あ、止め……そ、そんなじっくり……ぉ……見るなっ…」
 ゴムの中に射精を続ける俺のペニスに、律子はかぶりつくような姿勢で目一杯に視線を注いでいた。さっき『観察したい』とか言
っていたのは、どうやらこれのことだったようだ。
 「ハァ……ハァ……ハァ……」
 ようやく射精が止まり荒くなった息を整えていると、律子はコンドームを外し、溜まったゲル状の液体をしげしげと眺めていた。
 「いっぱい出ましたね……気持ちよかった?」
 コンドームの口を縛りながら問いかける律子に、俺はただ頷くことしか出来なかった。
 「さ、じゃあ第二ラウンドと行きましょうか」
 「なにっ! か、観察ってアレで終わりじゃないのか!?」
 「まだ『顔』を見てませんからね……って」
 律子が、一度役目を終えてのんびり休憩中の我が息子を見やる。先ほどの猛りはどこへやら、二回りも小さくなって、荒くなった
息を整えて体力の回復を待っているかのようだった。
 「ちょっと、頑張ってくださいよ」と、律子がそこに視線を落としたまま言った。
 「おいおい、そっちに言ってどうするんだ……すぐには無理だよ」
 「はいそこ、無理とか言わない。しょうがないなぁ、もう一肌脱ぎますか」
 俺の身体に前からもたれかかっていた律子が、壁と俺の背中の間に割って入ってきて、丁度後ろから律子に抱きかかえられる形に
なった。腰の辺りで拘束されたままの俺の右手を取ると、そのまま背中側へと持ち上げていく。
 「いいですよ、触って」
 ふにょん、と、お湯を入れた水風船のような弾力と、この覚えのある柔らかさ。手の甲に布地の感触がする所からすると、服の中
へと右手が導かれていったようだ。
 「んっ……」
 取れる行動も限られている以上、素直に律子の導きに従って、『ご馳走』にありつく。あまり力が入らないが、スベスベした肌を
撫で、弾力に富んだ乳房を掌で弄ぶと、背中に熱っぽい吐息がかかった。乳首はどこにあるだろう……と、指先に意識を集中して探
ると、一箇所だけやや硬い箇所を見つけることができた。そこの頂点を捕まえ、指先で転がすと、こらえるような律子の声と共に硬
さを増していく。
 「あ、はっ……そこ……ん……そうされると、気持ちいいです……もっと……ぁ」
 こんな無理矢理な体勢を取っていてもそれなりに律子の性感帯を見つけられるのは、やはり慣れなのだろうか。それにしても、わざ
となのだろうが、こんなに耳元で甘い嬌声をあげられると、聴覚からの刺激が強すぎる。視界に律子の姿が見えない事も手伝い、さっ
き萎えたばかりのペニスにはもう血液が集まりつつある。
 「はぁ……ふふっ……ぁ……ちょ、ちょっと元気戻ってきましたね……ぅ」
 律子の手が身体の前に回ってきて、ほぼ硬くなったペニスを握り、そのまま扱き始めた。何度か往復した所で、その刺激に反応し
て目一杯まで血液が集まり、元の硬さを完全に取り戻した。同時に、右手に感じていた柔らかさが離れていく。
 「さ、じゃあサービスタイムは終了。あんまり長引いてもアレですからね」
 後ろにいた律子が再び前に回ってきて、さっきの続きとばかりにもう一度、別のゴムを取り出して被せてきた。
 「なんだ……あれだけか……」
 もうちょっと触っていたかったのにな、と思ったが、まぁそれは今日でない別の機会でもいいだろう。
 (……いやいや、それは違う気がするぞ)
 段々この状況に慣れて、プレイの一環だと考え始めていた自分に、背筋が薄ら寒くなった。違う。決して俺はMなわけではない。
 ……はずだ。
 「ま、今度はダイレクトに視覚的な刺激も与えてあげますから。ちょっと恥ずかしいけど……よいしょっと」
 律子はそう言うと、自ら衣装の襟から手を突っ込み、布地に覆われていた乳房を自ら持ち上げてぽろんと露出させた。さっき俺が
触っていた……向かって右側の乳房の頂点は、目に見えて分かるぐらいに勃起しているようだった。
 などと考えていると、律子の手が俺の熱くなったカタマリを弄り回し始めた。その手が動く度に、胸元の豊かな実りがふるふる揺
れる。その光景に、ますます勃起した塊が硬度を増すような心地だった。
 「うっ……ぁ」
 今回は焦らす気はあまり無いのか、始めから先端と裏筋を中心に責めてくる。敏感な裏筋の縫い目の辺りを親指でグリグリと圧迫
され、疼くような快楽にたまらなくなり、思わず腰が動く。
 律子は五本の指を巧みに絡みつかせて、俺のツボを満遍なく刺激してくる。肌を重ねる内に俺の弱い所も知られてしまっている以
上、一度出しているとはいえあまり長くは我慢できそうに無い。
 「なぁ、まだこれ……解いてくれないのか?」
 美味しそうな、その気持ちよさもよく知っている律子の肉体が目の前にあるのに、見ているだけで手出しできないというのは、エ
サを取り上げられた犬のようだった。手を動かす度にぷるぷる揺れている豊かな双丘を目にしていると、尚更だ。
 「まだダメ。もう一回……イってる所見せてくれたら、考えてあげますよ」
 「考えてあげます……ってことは、解いてくれないかもしれないわけか」
 「いいじゃないですか。たまには私が終始主導権を握ったって構わないでしょう」
 ああ、やっぱりそういうことだったのか。エッチする時は大抵俺がリードしていたから。仕切りたがりの律子は不満があったのか
もしれない。手段が少々強引過ぎる気がするが、この際それには目を瞑ろう。
 「あ、別にダーリンとするのに不満があるってわけじゃないわよ。私だって試してみたいことがあるってだけ。今度リクエストに
お応えして差し上げますから、今日は大人しく受けに回っててくださいよ」
 「あ……あぁ、分かった……そういうことなら」
 動きを止めていた律子の手が再び俺の性感帯を嬲り始める。単なる上下動に留まらず、緩急をつけたりひねったりとバリエーショ
ンに富んだ律子の手に、ジワジワと上がってきたボルテージも最高点に近付いてきた。
 「……ビクビクしてきましたよ。ね、そろそろ……イきそう?」
 俺は黙って頷く。
 「今度は変に我慢させたりしないから……いいですよ、このまま……イっちゃう所、見せて」
 今は、逆らったり抵抗したりしようとは、思わなかった。伝わってくる快楽に、律子からの愛情が混ざっているのを感じたから。
 「ぁ……で、でる……」
 二回目の射精。湧き上がるドロドロの熱を、あるがままに解放する。二度目であっても、さっきと勢いも量も、気持ちよさも変わ
らない。亀頭の先端で快楽が弾ける度に視界がスパークして、腰が蕩けそうだった。律子は、そんな俺のきっとだらしないであろう
表情を、一瞬たりとも視線を外さずにじっと見つめていた。
 精を放ち終えると、残りを搾り出すように何度か根元から扱き上げられ、一回目と同じように外したゴムの中身を観察された。
 「どうして白なんでしょうね、これ」
 「そ、そんなに見るなよ……恥ずかしい」
 「うふふ……可愛かったわよ、ダーリンのイッてる顔」
 どこか恍惚としたような表情の律子。散々俺を好き放題にしてご満悦の様子だった。
 「さてと、そろそろ……」
 まだ何かするつもりらしい律子は、縛ったゴムをビニールに入れると俺の方に向き直った。



次へ

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル