欲求が無くなった安岡は、平山から自身を抜くとその身体の横に寝転がった。腰を上げた体勢は、安岡と言う支えを失い蹲るしかなかった。
繋がっていた場所から出てくる精液が内股に伝っていくのを感じ取り、散らかされた自分の下着を引き寄せシーツに垂れない様に、白い液体に混じった血液に顔を歪めながらも、湛然に拭う。
もう垂れて来ないと判断すれば、汚れた下着はつけずに、ズボンを履き。シーツに付いてしまった赤色にはただ、苦笑するほかなかった。
やけに静かな安岡の方へ平山が「眠ったのだろうか」と、顔を向けると目が合ってしまった。同時に視線を逸らしたが、安岡が口を開くのが視界の端に入った。
その唇が言葉を発する前に、ベッドから立ち上がる。傷口が持つ独特の熱が、既に痛みに変ってしまった身体を引き上げるのは容易な事では無かったが、平山はもうこれ以上安岡の傍には居たくなかった。居ても、何も変わらないと。
壁に手をつき、痛む身体を引き摺るように歩いて寝室の扉まで行けば、そんな自分が情けなくて笑えてきた。
くっくっと肩を揺らす度に、じくじくと腹部が痛み、それに対してもまた自嘲してしまい、会話になる言葉を発しないまま寝室を抜けだした。
真っ直ぐ歩けば、自由の利かないふらつく足が絡み上体が揺れる。倒れるのを防ぐ為に平山がリビングの壁に背を強く押し付けたら、背中よりも後頭部の方を打ち付けてしまい、思いの外大きな音が響いた。
その音を聞きつけ、寝室からリビングに出てきた安岡が不思議なものを見る目で平山を見ている。しかし平山はそんな安岡の事など気にも止めずに声を上げて笑えば、くっ付きかけていた口の端の傷口が又開いて、血の味が口内に広がった。
安岡と組んで何年経っただろうか、いつから肉体関係を持つ様になったのだろうか。
安岡は最初の頃は、今朝の彼女のように優しい手付きで、自分に触れていた。その事を思い出すと唇が震えだす。自分の全ては安岡に囚われていて、徐々にそれが変わっていく事にさえ、些細な愛情があるのならと受け入れてしまっていた。
だが、そんな愛など錯覚だと気付いてしまった。
この関係が無くなれば、安岡との縁は切れてしまうだろうが、その方が互いにとっても良いのかも知れない。
気付くのが遅過ぎた。
そう思い、その笑いに涙が混じるまではそう時間はかからなかった。乱れた髪を掻き上げて、強く握りしめ、天井を見上げた。
安岡の顔が今まで平山が見た事が無い表情をしていて、どんな感情で平山を見ているのかが読み取れない。視線の端で確認して、緩く息を吐き出す。
そうして息を整えれば、安岡の方へ振り返り、不器用に口の端を上げて笑った。
「…もう、此処に呼ばないで下さい。いえ、…呼ばれても来ませんから。」
承諾をして欲しい訳では無い、もうそう決めたのだ。
平山ははっきりと自分の意志を伝え、それじゃ。と続けて言って、部屋を出ていった。
安岡が平山の死を知ったのはそれから数週間後だった───。
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いちおう続きも考えてますが、とりあえず此処で一時終わりです。
暗すぎる…。