いろんなこと
  4 月見氷
 
 僕はマリィの部屋で、マリィのベッドの上で、マリィの中の感覚を味わっていた。
 ほんのりと赤く染まった彼女の頬をそっとなで、耳もとでささやく。
「気持ちいい?」
「うん、気持ちいい……」
 少し恥ずかしそうに彼女は微笑む。かわいい……。
「もっと気持ちよくなろう」
 そう言って僕はゆっくりと腰を動かす。
「あっ、やっ……」
 マリィはぎゅっと目を閉じて、僕の腕をぎゅっと握る。
「いや……?」
「うっ、うぅん……、気持ちいいぃ」
「どれぐらい?」
「すごくぅ……」
 僕はマリィの唇にキスする。
「目を開けて」
 僕がそう言うと、マリィはゆっくりと目を開き、色っぽい視線でじっと僕を見る。
「ミシェル……」
「うん?」
「もうだめ、いっちゃいそう……」
「だめだよ。もうちょっと我慢して」
 僕はマリィの唇に舌を入れる。マリィは僕の腕をぎゅっと握る。
「んっ、うん……、はぁっ、あっ……」
 マリィは重ねた唇からため息をもらす。彼女の中が熱い。口の中も、下も。
「だめ……、もうだめぇ。いっちゃうぅ」
 僕の唇から逃げて彼女は声をあげる。僕は少し激しく腰を動かす。彼女の中がぎゅっとしまる。
「あっ、あぁっ、すごいっ。だ、だめっ、し、死んじゃうぅ……」
「あ……、僕もいく……」
 僕は彼女の中に熱いものを出した。
「はぁ……、はぁ……」
 息をととのえ、僕は彼女の肩の辺りを唇で吸いキスマークをつける。撃墜マーク……くすっ。
「はぁ……、気持ちよかった……」
 ゆっくりと彼女の中から引き抜き、コンドームをはずしティッシュでくるんでゴミ箱に捨てる。
 そして彼女のもふきながら声をかける。
「気持ちよかった?」
「……」
 反応がない。
 マリィの手をとり、持ち上げる。力なくだらんと重い。
 え? まさか……、死んだ? いや、そんなバカな。
 僕は彼女の心臓のあたりに耳をあてる。
 ……動いてる。呼吸もしている。
 眠っているのか? でもどうしていきなり?
「ミシェル」
 マリィの声が聞こえて顔を上げる。でもマリィはまだ眠っているようだ。もう一度、耳をすます。
「ミシェル、こっちこっちー」
 マリィは夢をみているようだ。これは夢の中の声……。
 ということは僕が夢に出ているのか。どんな夢をみてるんだろう……。
 ……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけのぞかせてもらおうかな。

 まぶしい……。太陽の光が強い。白い砂浜に反射して。
「海だよ。すっごくきれい!」
 マリィは赤いハイビスカスの模様の下着みたいな形のワンピースで砂浜を走る。いくら暑いからってちょっとけしからんな。
 サンダルを脱ぎ捨てて、マリィは波打ち際を走る。水しぶきがはねる。
「あははっ、冷たいっ。気持ちいいよ。ミシェルもおいで」
「マリィ、買ったばかりの服なのに濡れちゃうよ」
 夢の中の僕が返事する。
「大丈夫だよぉ。きゃーっ」
 マリィがバランスをくずして海に倒れこみそうになると、夢の中の僕がマリィを抱きかかえた。
「もう、言ってるそばから」
「えへへ」
 マリィは僕にぎゅっと抱きつきキスをする。おいおい、こんな外で……。
「ねぇ、どうして海って青いのかなぁ?」
 マリィは夢の中の僕に尋ねる。
 なかなかいい質問だが、海は本当に青いわけではない。透明だから青く見えるんだ。なぜ透明だから青いのかというと……。
「それはね、神様が空の色を水性絵の具で青く塗ったから溶けちゃったんだよ」
 夢の中の僕が答える。そんなめちゃくちゃな。
「そっかー。なんだか素敵」
 マリィがにっこり笑って答える。素敵か? 意味がわからない。
 場面が急に変わり食堂のようなところに来た。さすが夢だな。脈絡がない。
「台湾で超人気のカキ氷だよ。まぜまぜして食べてね」
 マリィがうれしそうに夢の中の僕に話す。
 白いカキ氷の上にレーズン、甘く煮た豆、練乳、黒蜜、そこまではいい。
 だけど、なぜ……、なぜ生卵がのっている? いくら夢だからって突拍子なさすぎだろう……。
 夢の中の僕がうれしそうにそのカキ氷を混ぜる。黄身がつぶれてドロッと氷の上にひろがる。うわ……。
「美味しい?」
 マリィが夢の中の僕の顔をのぞきこむ。僕は毒見係か?
 夢の中の僕がひとさじすくって口に入れる。そしてうれしそうに言う。
「すごく美味しい」
 嘘だろ……。そしてもうひとさじすくってマリィに差し出して言う。
「はい、あーんして」
 いくら旅先だからって人前だぞ。それにマリィも同じもの注文してるじゃないか。
「ホントだー。すごく美味しい」
 マリィがにっこりとかわいく笑う。まぁ……、それならいいか。
 また場面が急に変わる。いつのまにか夜だ。僕たちは南国風インテリアの部屋にいる。
「ほら、あれが南十字星だよ」
 窓の外を指差し、夢の中の僕がマリィに教える。しかし残念ながらその方向には南十字星はない。
「わぁ、素敵。こんな星空初めて見た。キレイ……」
「マリィのほうがキレイだよ」
 夢の中の僕が言う。そんなこと言っても笑われるだけだと思うけど。
 マリィはうるんだ瞳で夢の中の僕をみつめて言う。
「うれしい……」
 あ、うけてる。これは使えるのか。覚えておこう。
「おいで、僕のお姫様」
 そう言って、夢の中の僕はマリィを抱きかかえる。
 これはやりすぎだろう……。さすがにここまではできない。いや、やってみるかな?
 夢の中の僕はマリィをベッドに寝かせた。この先の展開は興味深いな。今後の参考にしよう。
 ベッドの上で夢の中の僕がマリィにそっとキスする。そして唇の中に舌を差し入れて、それで……。

「ん、重いぃ」
 マリィの声が近くではっきりと聞こえる。マリィが僕の肩を揺らしている。
 起きちゃったのか。いいところだったのに……。
「もう、ミシェル。こんなところで寝ないでよ」
「寝てないよ。寝てたのはマリィだろ」
「はいはい。わたし、ちょっとシャワー浴びてくるね」
 そう言ってマリィは手で僕の頭をどかして起き上がる。扱いが雑だなぁ。
 服を着ながら僕は考える。
 あのカキ氷はどうかと思うけど、なかなかいい内容の夢だったな。
 南国のキレイな海と星空の見えるリゾートホテルで一日中ずっといっしょで……。
「なに、にやけてるの?」
 マリィに声をかけられる。
「え? うそ? にやけてた? もうシャワー浴びたの? 早いね」
「別に普通だと思うけど。あ、そうだ。新しいデザート作ってみたの。食べよう」
「新しいデザート?」
「そう、新感覚の冷たいデザート」
 夢の中の光景が思い浮かぶ。
「……それってもしかして卵を使った?」
「あ、のぞいたでしょ?」
「の、のぞかないよ! そんなことしない……。いや、ごめん。ほんのちょっとだけ……」
「別に冷蔵庫のぞいたぐらいでそんなに怒らないよ。はい、どうぞ」
 マリィは冷蔵庫を開け陶器のカップを二つ取り出し、スプーンと共にテーブルに並べる。それはどう見てもプリンだった。
「……プリンだろ? 何が新しいの?」
 僕がそう言うと、マリィはいたずらっぽく笑う。
「食べてみるとわかるよ」
 器を持ち上げると表面がプルプルと動く。スプーンがすっと入っていく。
「やわらかい」
「某なめらかプリンのレシピで作ってみました。ぎりぎり固まるぐらいの火加減を保つのがちょっと難しかったの」
 うれしそうにマリィが説明する。
 口に入れると生クリームの風味がひろがり、なめらかに溶けていく。
「美味しい」
 僕がそう言うと、マリィがうれしそうに笑う。
「ホント? よかった」
「本当だよ。はい、あーんして」
 ひとさじすくってマリィの唇の前に差し出す。マリィはちょっとびっくりした顔をする。
「え? わたし、自分の分あるし……。あ、ありがとう」
 少し恥ずかしそうにマリィは僕の差し出したプリンを口に入れる。
「ホントだ。美味しい」
 マリィがにっこりとかわいく笑う。僕もにっこりと微笑む。
「マリィ、台湾に行ったことあるの?」
 僕が聞くとマリィは不思議そうな顔をする。
「え? ないよ。なんで?」
「いや、べつに……」
 よけいなこと聞くんじゃなかったかな? でも行ったことないのにあんなにはっきりした夢をみるのか。不思議だな。
「もしかして、これ見た?」
 そう言ってマリィはベッドの脇にあるマガジンラックから雑誌を取り出した。飲茶満喫・台湾リゾート特集と表紙に書かれている。
 なるほど、この内容だったのか。僕はページをパラパラとめくる。
「素敵よねー。飲茶満喫したいなぁ。豆花、太陽餅、愛玉子、パイナップルケーキ……」
 マリィがうっとりと話す。甘いものばかりだ。小龍包とかはいいのか?
「南十字星は春じゃないとね」
 僕がそう言うと、マリィはちょっと首をかしげる。
「それってなんだっけ? 美味しいの?」
 夢の中ではちゃんと星だとわかっていたみたいなのに……。おもしろいな。
「え……」
 思わずページをめくる手が止まる。生卵をのせたカキ氷……。実在するのか、これは……。
「ん? なになに? あ、月見氷! 超おいしそうだよねー。食べてみたいなぁ」
 マリィもそのページをのぞきこみうれしそうにはしゃぐ。美味しそうか……?
 僕は次のページをめくる。ビーチリゾートを紹介した記事だ。
「わぁ、キレイな海……」
 海の写真を見てマリィが声をあげる。あ、そうだ。あれを……。
「マリィのほうがキレイだよ」
 僕が微笑んでそう言うと、マリィはしばらく僕の顔をじっと見た。そして笑い出した。
「あはっ、あはは。ミシェル、なんか冗談のセンスあがってきたよね。あはは……」
 マリィは楽しそうに笑い続ける。違う意味でうけてる……。もうこうなったらあれもやるか。
「おいで、僕のお姫様」
「きゃーっ! ちょっ、ちょっとなにぃ?」
 僕はマリィを抱きかかえてベッドに寝かせる。
「えっ、やだぁ。せっかくシャワー浴びてきたのにぃ」
 マリィがあまり嫌じゃなさそうに抗議する。
「もう一度浴びればいいよ」
 僕はマリィの唇にキスしながら服を脱がせる。
 やっぱりあの続きを見られなかったのは残念だなぁ……。
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written by nano 2008/04/02

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