Love makes people equal.
『恋に上下の隔てなし』
ぼんやりと見つめる天井に霞んでは浮かぶ面影を見て微笑みを浮かべる。
「ひっ…あッ!」
突然、電流のような刺激が背筋から脳天を突き抜け、背がしなり口から信じられないほど甘い叫び声が上がった。
「随分…余裕ですね?虎徹さん」
「っは…ぁ…」
するすると腰を撫でる手が擽ったく、身を捩ればナカに埋められた楔を意識してしまい、きゅっと締めつける。ぞくぞくと駆けあがる悦楽の波を、熱い吐息を漏らしてやり過ごせば上から低く掠れた声が降り注いだ。
「この僕に抱かれてるっていうのに…考え事ですか?」
「っく…ふ…」
軽く揺さぶられて内壁が押し上げられる…それだけで躯中が甘く痺れたように疼いた。乱れる呼吸を繰り返しながら…ゆるり…と見上げれば、薄く笑みを浮かべる雄の貌がある。仄暗いルームライトに照らされた瞳がキラリと光る様はまるで獲物を目の前にした獣のようだ。普段の澄ました顔からは連想出来ない飢えた表情にまたぞくりと腰の奥が疼く。
「だぁって…バニーちゃん…動かないんだもん…」
「貴方がぎゅうぎゅうに締め付けるから慣れるのを待ってたんですけど。」
「…やっさしぃねぇ…」
少し拗ねたような貌をするバーナビーに小さく笑いを零していると、握られたままの雄をきゅっと擦り上げられる。連動して絞まる菊華に咥えさせられた楔の熱さを感じ取り鋭く息を飲み込んで仰け反ると、晒した喉に歯を立てられた。
「ぁ…ちょ…ばにぃ…ちゃっ…」
ちょっとの刺激もすべて快感に変換してしまう躯が首を甘咬みされる度にぴくぴくと跳ねる。さらに火照る肌に沸き立つ熱がすべて躯の中心へと集まり、重く圧し掛かるような感覚が四肢を疼かせた。震える内腿をバーナビーの腰へ摺り寄せ、雄の先端をぐりぐりと弄る指へ押し付けるように腰が浮かぶ。空気の流れすら敏感に拾い上げる胸の実はぷくりと膨れて色濃く熟し、噛り付いて欲しそうに見えた。
「お、いっ…ッん…ば、にぃ…ッ!」
「なんれふか?」
「んぁあ!」
呼びかければ舌先で首筋から胸元に移動して、実を舐め上げながら返事を返してくる。ぬるり、と滑る舌と吹きかけられる湿った吐息にぶるりと肌が震えた。
「もっ…じらす…なっ…てぇ…ッ!」
「焦らしてなんかいませんよ?虎徹さんのナカが僕の大きさに馴染むのを待ってあげてるんです」
「っだか、ら…っ…」
「まだ辛いでしょう?さっきからずっと締め付けてきていますよ?」
「それっ…は、ぁ…ッ!」
バーナビーがあちらこちらと『悪戯』を仕掛けてくるからだ…と文句を言ってやりたいのに胸元を噛まれてしまうと言葉は嬌声へと変わってしまう。敏感になった場所ばかりピンポイントで攻められれば、感じ過ぎて必然と菊華を締め付けてしまう…それなのに彼はしつこいくらいに同じ事ばかり繰り返しをしてきて、先に進もうとはしない。
何故か…なんて分かりきっている…さきほど虎徹がぼんやりと別の事を考えていたからだ。彼なりの嫉妬の表し方に煽られ続ける躯はぐずぐずに溶けていく。
「ぁ…ぁっ…ば…にぃっ…」
「何ですか?虎徹さん」
「んっ…くぅ……ん…もっ…」
「言わないと分かりませんよ?」
いくら身を捩ろうと、腰を揺らそうと…しっかりと押さえつける手にびくとも動けない。かと言って全くの『静止』ではなく…じれったいほど緩やかにじわじわと揺らしていた。腰の奥に溜まり続ける疼きで頭が可笑しくなりそうになる。
「っや…もぉ……つき…あげ、ろっ…」
「…厭らしい人…」
「おっ…お前がッ…ぅあぁ!」
言い掛かりをつけられたものだから言い返してやろうとしたのに、ずるりと抜ける楔が内壁を擦り上げて背を仰け反らせるしか出来なくなった。びくびくっと跳ねる肌にひたりと手を当てられて感触を楽しむように撫でまわされる。胸の実を掠ると再び跳ねる体に詰めた息を吐き出すと、途中まで抜いた楔を勢い良く詰め込まれた。
「ぅんッ!!」
びりっと走り抜ける悦楽に達しかけたが、欲望の根元を戒めるバーナビーの指に阻まれて足の指を丸めるだけに終わる。もどかしい…苦しい…気持ちいい…辛い…色んな感情がごちゃ混ぜになる中、バーナビーは続けざまに腰を打ち付けてくる。
「んっ…ふあっ…っく…んんっ…」
「…っ…こえ…我慢しないで…って…いつも…言ってるじゃ…ないですか…」
「んっ…ん……ぅんんっ…」
「それ以上…我慢…する、なら…イかせて…あげません、よ?」
「ぅあっ…や、ぁあ!」
掴まれた欲望をきゅっと更に締め上げられる。後腔から絶え間なく送り込まれる悦楽が全身を快楽の渦に痺れさせ思考を滅茶苦茶にしていった。絶えようのない快感に足をバーナビーの腰に巻きつけて「もっと。」と強請る一方、詰め込まれるばかりの悦楽に苦しみすら沸きあがってくる。
「やっ…ぃや、だ!…ば、にぃ!」
「イきたい…ですか?」
「んっ…イき、たいっ…イきた、いぃ…ッ!」
打ち付ける腰の速さが徐々に荒く、激しく…叩きつけるようになっていく。彼も絶頂が近いのだろう。一つ突き上げられる度に喉の奥から吐息に混ぜた嬌声を零し続ける…もう何も分からなくなっていく中で、バーナビーが顔を覗き込んできた。
ちろり…と唇を舐めて吐息を奪うほど深く重ね合わせられる。それとともに戒められた欲望を擦り上げられた。
「んっんーーーーーッ!!!」
最奥を一際強く突き上げられ先端を引っ掻かれると内腿が痙攣を起こし、目の前が真っ白に染まった。口の中に差し込まれた舌に、己の舌を絡め取られ弾けるように絶頂を極める。体内に広がる…じん…とした熱に躯がぶるりと震えた。銀糸を引きながら離れる唇を見上げていたらふと緑の瞳が動く…
「…はぁ……はぁ…」
「………」
忙しなく胸を上下させているとそろりと伸びた手がシーツを握り締める両手に重ねられた。その行為に彼が何を言いたいのか…虎徹は理解している…けれど…あえて知らぬふりを貫く。
そんな虎徹に恨みがましい視線を向けつつもバーナビーは何も言わない。言わない代わりに…唇を深く重ねてきた。
* * * * *
「…昨日はバーナビーさんと?」
「ん?え?」
休憩室にあるソファに腰掛けて雑誌を捲っていると突然声を掛けられた。声の主を探すように右を見て左を見て…最後に見上げると背凭れを隔てた所にイワンが立っている。最近では滅多に見なくなった眉間の皺を深く刻んだその顔にぱちくりと瞬いた。
「えー…っと?」
「甘いムスクの香りがします。」
「んー?…ムスクはいつもつけてるやつにも混ざってるだろ?」
「いいえ。いつもの方はこんなに甘ったるくありません」
そう言って首筋に顔を埋めてくる彼に苦笑を浮かべる。鼻先を耳の裏に擦りつけられると首筋にかかる吐息がくすぐったい。
「お前は…いつから麻薬捜査犬になったんだ?」
くすくすと笑いを溢していると肩に腕が回される。緩い拘束ではあるが、大人しくお縄を頂戴していると耳に噛り付かれた。小さく息を詰めて肩を跳ね上げれば癒すように舌が這い回る。
「…んっ…」
「…タイガーさんは…体臭が薄いから移り香が分かりやすい…」
「…あー…なるほどなぁ…」
表には出さない苛立ちをぶつける様に項へと咬み付かれ声が漏れた。けれどすぐに舌先が癒すように肌を舐め上げる。
酷く嫉妬に駆られているくせに…イワンはいつも優しく接してくれる。日を増すごとに…年を重ねるごとに…前向きに…自分に少しずつ自信をつけ始めた彼は…殻を破った雛のように、身長も伸び、少年のイメージを脱ぎ去ってしまった。
そんな彼から恋人のお付き合いを申し込まれたのは一昨年の事。
ランキング最下位から脱出した日に、ガッチガチに緊張した折紙サイクロンが直角のお辞儀をしながら「付き合ってください!」と、言ってきた。マスクで表情が見えないからてっきりどこか出かけるのに付き合うのだとベタな思い込みをしていたのだが…改めて告白されて頭を抱えてしまった記憶はまだまだ鮮明だ。
一時の感情だろう…と宥め賺して流してきたのだが…
まっすぐに射抜いてくる視線…じっと向けられる感情の篭った眼差しに耐え切れなくなったのは虎徹の方だった。
可愛い小動物だと思っていたのに…とんだ誤算だ。
いつの間にかじわじわと角に追い詰められて逃げられなくなってしまった。
「…タイガーさん…来月…僕の誕生日なんです…」
「んー?…そっかぁ…もうそんな時期かぁ…」
受け入れたからといって…すぐに切り替えられるかといえばそんなわけもなく…何せ…虎徹の体は『まっさら』なわけではない。
最愛の人を失った喪失感を埋めて隠してしまおうと誰彼かまわず…抱いたし、抱かれた…『埋める』…という意識からか…『誰かを咥え込む』ことが多く、その行為に慣れた躯は今でも『咥えるモノ』を欲して度々疼く。
「解禁…ですよね?」
「…そうだな…」
耳元で聞こえる声が僅かに掠れた…その変化に感化されたのか、虎徹の吐く呼気も僅かに熱が上がる。
どこまでも…いつまでも飢え続ける躯…いくら特定の人物が出来たとて、今までのスタイルは変わらないだろう。
しかし…相手は青年の域に達したばかりの若者。一時の感情ではなくても、湧き上がる罪悪感は拭えず…おいそれと穢すわけにはいかないと思った。己の年齢にしても…もう後戻りも、やり直しも出来るような歳ではない。
それらを考慮に入れてイワンに付き合う上で条件を出した。
・スキンシップはハグとバードキスと甘噛みまでOK。
・成人まで体のお付き合いはしない。
・互いに拘束しない、干渉しない。
このくらい受け入れてもらえるような器はないと、ふらふら渡り歩きがちな自分とはうまくやっていけないだろう…優に一年以上はある期間をその条件付きで付き合えなければそれまで。二人きりになっても行為には及ばない…他人の体温が好きな虎徹にとってもこれは一種の試練だ。
イワンが我慢出来なくなっても…自分が我慢出来なくなってもこの関係は終わり…傷は浅い方がいい…もう二度と特定の人物を作らないと思っていた虎徹の…最後の賭け。
「…虎徹殿…」
「…うん?」
イワンが虎徹の名を呼ぶ瞬間はいつも2人きりで秘め事を孕む時だ。耳を擽る熱い吐息に瞳を眇めると、直接鼓膜に吹きかけるように唇を寄せてくる。
「誕生日プレゼント…強請っても良いですか?」
正直なところ…続くとは思わなかった。
いくら淡泊そうに見えても盛り盛りの青少年…今までそういった対象に見ていなかったとはいえ…匂い立つ若者特有の香りに虎徹の方も惹かれないわけがない。うっかり押し倒して乗り上げてしまった事だってある。けれど…最初の頃こそ顔を真っ赤にして大慌てしていたイワンだが…最近では笑みを浮かべて虎徹を宥められるようになってきていた。
−若者の成長は大したものだ。
苦笑を浮かべながらそんな事を思っていたのはほんの数日前。
柔らかな口づけだけでは物足りなくてイワンの体に乗り上げた日の事。初めの頃は…茹でダコのようになったイワンの顔に虎徹が正気を取り戻していたのだが…この頃はキスに存分に応えるが、がっちりと抱きしめられてそれ以上には発展出来ないようにされていた。しかも唇を離した途端にうっとりと優しい笑みを浮かべるものだから、毒気を抜かれてしまう始末。反対に虎徹の方が照れて顔を真っ赤にしてしまうのだ。
「あぁ、もちろんだ。何がいい?」
今日までずっと…徹底的に条件を守ってくれていたのだが…逆に興味を示されていないのでは?…などと考えてしまうようになっていた。
我ながら自分勝手な…と呆れてしまうのだが…不安になる心は隠せないわけで…その不安を誤魔化すべく他の誰かと体を重ねてしまう。付き合い初めの頃は『そういう店』で適当に引っ掛けた相手…最近は、すぐ近くにいる相棒になる事が多いのだが…
もちろん…イワンが知らないわけではない。多少の罪悪感はあるが…自分の性癖も話してあるし、干渉しない…束縛しない…との条件も出してある。その為に少し機嫌の悪い顔はするものの、何も言ってはこなかった。
そんな彼に一応は嫉妬されているんだな…と安心して…自分がいかに入れ込んでしまっているのか自覚してしまい、また恥ずかしくなる。
その繰り返しをしていた今日この頃…
「…虎徹殿の…一ヶ月分の体…」
「………!」
言われた言葉を何度か反芻させて…思わず振り向いてしまった。そこにはいつの間にこんなに大人びてしまったのか…と思うほど、涼しげな表情のイワンがいる。今聞いた言葉は空耳だったのか?と疑ってしまうような…平然とした表情…けれど…
「…え……と…」
「本当は虎徹殿の処女を頂きたかったんですが…」
「ッしょ…!!」
「一ヶ月分の清らかな体で我慢します。」
その真剣な表情に似つかわしくない卑猥な言葉がするりと繰り出されてこちらが恥ずかしくなった。まるで夜の営みについて思考を巡らせているのは虎徹だけのような錯覚が更に羞恥を高めている。
「…〜〜〜…お前…」
「はい?」
「…いつからこんな事言えるようになったの…」
「虎徹殿と付き合う上で鍛えられただけですよ?」
「…俺のせいかい…」
「はい。」
にこっと満面の笑みを浮かべる顔は今までと変わりないのに…神経が太くなってきたようだ。喜んでいいのか…嘆いていいのか…それすら判断出来ない状況に虎徹はソファの背もたれをずるり…と滑り落ちた。…ぽすり…と音を立てて横になって虎徹の正面へとイワンが回ってくる。
「………一ヶ月?」
「はい。自慰もなしでお願いします。」
「え!そっちも!?」
「はい。虎徹殿の濃厚な蜜を頂きたいので。」
「ッ〜〜〜…」
表情は…「今日は温かいですね」…とでも言っているような穏やかな笑みなのに…囁かれる言葉がとても居た堪れない。面と向かってこういった内容を言われるとおじさんにはとても恥ずかしいものがある。
「…ホント…こんなヤツになるとは…」
「嫌ですか?」
「……嫌……じゃないから困ってんの…」
にじり寄るようにソファの端へ顎を乗せたイワンが微笑みかけてくる。あんなに…あっぷあっぷしてた少年が大人になるとこんな余裕を手に入れてしまうとは…なんだか悔しくてその頭をくしゃりと掻き回した。
「一ヶ月…一ヶ月なぁ…」
「…駄目ですか?」
「んー…あ、いや。そうじゃなくてさ…もし夢とかに見て夢精した…ら…どう、しよう…って…」
うっかり滑らせてしまった言葉に虎徹はかぁっと顔を赤くした。けれどもう遅い…すぐ目の前に座っているイワンにその変化はしっかりと見られてしまっている。
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