「…えーと…刹那さん…」
「なんだ?」
「…これ、は…どういう?」
廃屋の中にぽつんと置かれた椅子。浜辺に出したいたものを運んできたわけだが…そこに座れと言われて腰掛けた途端、上半身を素っ裸にされた上に手馴れた手つきで両手、両足を縛り付けられてしまった。ちょっとしたデジャヴを感じながらも恐る恐る顔を上げると涼やかな顔に薄っすらと笑みが浮かべられる。ぞくりと背筋に走る悪寒だか快感だか判断のつかない震えに口元を引き攣らせると彼女はゆっくりと口を開いた。
「分かりやすく言えば…」
「…いえば…?」
「涙のツケを返してもらおうというとこだな。」
『いつの涙か』など聞く必要はない。今のこのタイミングで言う涙など一つしか思いつかない。
間違いなく二度目の死を味あわせた時だ。
一度のみならず二度も彼女の目の前で消えていったのだ。このくらいの『お返し』はあっていいかもしれない、と腹を括る事にした。というか括るしかない。腕を少し動かそうとしてみたが、縄がぎしりと音を立てるだけでびくともしない。それどころか縄抜けが出来ないようにと、ご丁寧に後ろで縛られた手の親指同士を括られている。
「えらく厳重に縛ってくれちゃって…」
「あんた相手なら足りないくらいだと思っている。」
「や、充分でしょう。」
邪魔なのだろう、おもむろに着ていたインナーとスパッツも脱いだ刹那を見上げる。一糸纏わぬその姿はニールにとって女神と称するのだが…状況がどちらかと言えば小悪魔…否、サキュバスと言ってもよさそうだ。そっと伸びた手が髪を掻き上げて顔を晒させた。じっと見つめて来る視線は僅かに右へと注がれている。
「……」
記憶にある彼の右目には黒い眼帯が覆われていた。傷が完治する前に出てきた為に右目への負担を軽くするべく着けているのだと言っていたのを覚えている。それが今色彩が変わってしまい瞳の周りに傷跡が残ってはいるが、確かに瞳の輝きが存在していた。そっと唇を寄せるとぴくりと反応を返してくれる。傷跡をぺろりと舐めて体温を感じ取るように頬へを唇を滑らせた。
「……ん…」
少しカサついた唇を湿らせるように舌を這わせるとじっくり重ね合わせてからゆっくりと離れる。伏せていた瞳を開けば相手も同じように伏せていたのだろう、碧の光を讃えた瞳がゆるりと揺れ動いた。
「ん…」
「…っん…」
もう一度重ねて形を確かめるように体へ手を這わせる。柔らかな髪から…しなやかな筋を浮かびあがらせた首筋へ…さらに滑り下りて緩やかなカーブを描く鎖骨をなぞり…強靭ながら柔らかさのある肩を辿り…浮かびでた骨を指先で撫でて…自分の体とは程遠い厚みのある胸元へ…
「ふ…ぁ…」
たっぷりと絡め獲られた舌を名残惜しそうに解かれ、軽く唇を吸い上げられると顎から頬を伝い耳へと移動していく。ふっ…と荒く漏れる呼気に聞き惚れているとかぷりと齧りつかれた。僅かに肩を跳ねあげると満足したのか、癒すように舌先が撫でて離れていく。首から…肩を巡り…胸へと移動していった細い指先は先ほど嵌めた指輪が時折当たって冷たさを残していった。指先でそっと触れるものだから擽ったくて仕方ない。
「…っ…」
しばらく首元に唇を押し当てたまま動かなかったと思えばちりりっと小さな痛みを与えてきた。どうやらそこに紅い華を咲かせたらしい。発情期の猫のようにねっとりと絡みついてくる四肢に腰が否応なく疼いてくる。くねる腰が黒髪の向うに垣間見え、尻尾が付いていたらゆらゆらと揺れ動いてさぞかし艶めかしいだろう。
「…ぅ…ん…」
唇で、舌で彼の体温を確かめながら頬や目尻を巡り回る。閉じた瞳の上に唇を寄せるとふるりと揺れる長い睫がくすぐったい。大きく開いても足りない大きな胸元を撫で回すと左胸でとくとくと奏で続ける鼓動の動きに気づいた。誘われるように肌の上に頬を寄せて滑り落ちていく。
「………」
外の風や波の音が響く小屋で刹那の耳元では命の音が鳴り続けている。『それ』は彼が生きていることの確かな証明であり、愛おしさの降り積もる温かな音だ。誘われるように音の上へ唇を寄せると鼓動が早まった気がした。
「っ…!」
黒い髪が肌の上を撫で降りていき、しばらく止まったかと思えば心臓の上に口付けを落とされる。…愛されてるなぁ…などと感激していると胸元で紅く色づき主張している実へ口付けられた。触れる指先や手のひらから愛おしいと口以上に示されていたところへ不意打ちになる刺激だった。思わず体を大きく跳ねてしまうと、口づけたままに紅い瞳が見上げてくる。
「……」
その瞳が少し悪戯めいた色を宿したのを見逃さなかった。ちゅっと愛らしい音を立てて一度唇が離れていく。けれどすぐに敏感になっている実にたっぷりと舌を這わせて口へと含んでしまった。
「…ん…ん…」
子猫がミルクを舐めるようにちゅくちゅくと小さな音を立てて実を弄られる。少し伏し目がちな表情が更に劣情を掻き立てた。いつもならば顔に掛かる髪を掻き上げてその可愛い顔をもっと堪能したのだが、生憎と縛りあげられた手では動かすことすら出来ない。
「…ふ…ぅ…」
男の人も感じるのだと聞いた事のある胸に舌を這わせ続けていると、上で荒く吐き出される呼気を聞いた。乱れる呼吸に拙い愛撫でも感じてくれているのだと知って喜びが湧きあがる。
「…ぁ…」
そっと解放すると物足りなさそうな声を聞いた。心の底から噴き出てくる歓喜にもう片方へと唇を移動させる。
名残惜しげにゆったりと離れるから解放されるのかと思いきや、もう片方にも口づけられてしまった。これは長丁場になりそうだ、と小さく苦笑を洩らしてちろちろと動く舌先に酔い痴れていく。
「んっ…むぅ…」
いつも翻弄されてばかりいるニールの愛撫を思い出しながら触れていく。自分の胸と違って張り詰めた布のような胸元は揉み上げる事は出来ないので固くなった実を弄り続けた。その間に脇腹を撫で開いて固定した太股を撫でさする。すると手の下で小さく跳ね震える筋に悦びが滲み出てきた。
「っ…は…」
ころころと転がされては唇に挟まれて、軽く歯を立てられると背筋をぞくぞくと悦楽が駆けあがる。その感覚を助長するように先ほどから手が内腿や腰骨を撫でてきていた。迷いのない手の動きに疑問が湧きあがりそうになったが、よくよく考えてみればこの攻め順はいつも刹那にしていた順序であり、刹那がとろとろに悶えよがる方法でもあった。焦らして焦らして…根を上げるまで肝心な場所には触れないでいる。
「…っん…ふ…」
ニールの荒い呼気に交じり小さく呻く声が聞こえるようになってきた頃、ようやく刹那に動きが出た。中心を辿り下りてへそまでくるとちゅっと軽く音を立ててキスをする。勿体つけるようにボタンを外してゆっくりとファスナーを下ろしていった。
「…ぁ…おっきぃ…」
擦り寄る様に上体を預けに来た刹那が首元に顔を埋めてうっとりと囁く。ズボンの中に忍び込ませた手がそっとアンダーの上から撫でてきた。
「…もぅ…こんなに…」
形を確かめるように両手を沿わせ、壊れ物でも扱うかのようにゆるりと撫でさすってくる。腰にぞくぞくと震える悦楽に駆られながら、今にも刹那に襲いかかりたいと牙を向く本能が縄に阻まれ続けていた。早く解放してもらいたくて、夢見心地に呟く刹那に話しかける。
「…そりゃ、ね…」
「…え…?」
「ダイナマイトセクシーなお姉さんに弄ばれりゃ…どう堪えようとしても勃っちゃうもんでしょうに。」
「…そう…なのか?」
動けないなりにも何とか顔を動かして首に凭れかかる黒髪に頬擦りをする。きっと本能的に動いていたのだろう、刹那の意外そうな声に苦笑が浮かんできた。
「ただでさえ煽られるのに…その相手が刹那だったら…俺は一溜まりもないな。」
「おれ…だから?」
「好きな娘に散々弄られるのは興奮するもんなんだよ。」
「……」
さらりと愛の言葉を織り交ぜてくるニールに刹那は頬を赤くして手の中で脈打つ彼の分身を撫でて可愛がる。薄いアンダーウェアの上からでも分かる灼熱の如き熱さとどくどくと脈打つ逞しさに胸が高鳴った。
ニールの躯に愛撫を与えるとどうなるのか結果がイマイチ思い浮かんでいなかったのだが…こんな風に顕著な反応を見せてもらえるとは思ってもみなかった。いつもは流されるままに悦楽の海へと沈められるのだが、先にニールを沈めてもいいかもしれない。
「…刹那?」
なんとなく纏う空気が変わった気がして呼びかけてみたが、反応は返ってこなかった。代わりに固定された太股の上に腰掛けられて首元に懐いてくる。額を押しつけて頬を擦り寄せ、首に牙を立てるヴァンパイアのように唇を沿わせてきた。耳朶へと熱い息がかかると柔らかな唇が耳を食む。一連の動きに躯の芯がかっと熱く火照り腰の奥が際限なく疼いてきた。
「っ…せつな…?」
ふと顔を出した欲望に駆られてニールを弄りつくす事にした刹那は、彼の膝に腰掛けて己の躯を擦り寄せる。屈強な胸板に固くなり始めた胸の実が押しつぶされて気持ちいい。ニールの雄に掛けた手は離すことなくやわやわと撫で続ける。…いい子…と褒めるように…可愛い…と愛でるように。
「…んっ…」
胸へと押しつけられる素肌の柔らかさに脳が溶けそうになっていく。滑らかな肌を押し付けられて細い指は尚も息子を可愛がってくれた。否応なく切れる呼気に喉の奥が焼けそうな熱を感じ、荒々しく吐き出していれば耳元でも僅かに呼吸の乱れる刹那の声が聞こえる。
「(刹那も…興奮してんだ…)」
いつにない攻めの体勢を崩さない刹那の唇は耳から離れ米神に辿り着くと、自然とニールの顎先へ豊満な胸が迫りくる。すぐ目の前まで来た美味しそうな膨らみに、無意識のうちに喉が鳴った。
「ぅ…っ…」
布の上から撫でていたのだが、もっと熱を感じたくて片手を中へと忍ばせる。指先に灼熱の塊が揺れると下でニールが小さく呻いた。途端に大きく跳ねる鼓動を感じながら手を沿わせていく。布に包まれた時は分からなかったが、表面はぬるぬると滑り血管が浮かび出ているだろう、筋状の凹凸が感じ取れた。心臓と同じくらいにどくどくと脈打つ楔に吐息を吐く喉が震えてくる。
「んっ…っく…」
沿わせた手で扱き上げるように擦れば凭れかかった先の躯がびくりと震える。次いで押し込めるような声が聞こえて胸の内が熱くなった。薄くぴったりと寄り添う布の中はもう窮屈だろう、とアンダーをずらして取り出せばぶるりと大きく震えて飛び出してくる。先端が寄り添った躯の下腹を叩き、長大に育ち切っている事を思い知らされた。
「…すごぃ…」
「ん…ぅ…?」
「…びくびくして…あつぃ…」
片腕を首に回して更に密着してきた刹那の声が鼓膜を擽る。まるで抱えるように添えられる手が髪を掻き乱し、外気へと放り出された楔を包み込んだ。擦りつけるように押し付けてくる下腹が己の先走りで濡れ、ぬるりと滑っていく。もっと…と強請る様に擦りよってくる腰のせいで、己の腹と刹那の腹に挟まれて擦りあげられていった。
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