さきほどまできつく締め付けていた内壁がやわやわと揉みあげるような動きに変わっていく。その変化を突き立てた楔で感じ入りながら極上の悦楽に浸っていた。本音で言えば今すぐに腰を振るい包み込んでくる粘膜を擦り上げたいのだ。けれど、自分たちの置かれている状況を分かっている以上は傷つけることも、酷く扱うことも躊躇われる。……それだけが理由ではないのだが……

「……んっ……ぅんっ……」

 ほぼ力が入っていないのだろう躯は上体をシーツに押し付け腰だけが高く上がった姿勢になっている。少しずつ出し入れし始めている楔に刹那の甘い吐息が吐きだされていった。敏感な躯中を撫で、柔らかな胸の感触を楽しみ、腰の括れをなぞってはまろい桃尻まで撫で摩る。手のひらに吸いつく肌にうっとりしながら徐々に腰の動きを大きくしていった。

「あぅっ……んっく……ぅんっ!」

 感じ入っているのを気づかれたくないのか、必死に嬌声を噛み殺そうとしている刹那に淡く笑みが浮かんできた。小さな抵抗が可愛く、もっと我慢が出来なくなるほどに啼かせたくなってくる。腹部を撫でて上り詰めた先で胸を鷲掴みにすると背筋がぴんっと反らされた。張りつめた実を摘みながら全体を揉み込むと堪らないのだろう、小さく啼き声が漏れ始める。

「っひ……ぅうん……」
「……気持ちよくない?」
「んっ……う……」
「じゃあ……もっと、弄ってみるか……」
「っやぁ……ッ!」

 必死に感じていないふりをする刹那には悪いが、ライルにはどれだけ悦楽に侵されているのか筒抜けだった。包みこまれた楔をきゅきゅっと絞め付けているし、内腿を撫でまわす片手に花弁から流れ出ている蜜が伝ってきている。くにくにと実を摘み上げてシーツに擦りつけると腰を跳ねあがった。良好な反応示す躯をもっと乱れさせようと蜜を辿り花弁を指で擦り上げるとさすがに声を我慢できなくなったようだ。

「はぁんっ!」
「ん……いい声……」

 きゅっと絞まる菊花に息が詰まるが、くちゅくちゅと卑猥な音をさせる花弁を弄り回すと刹那の嬌声が上がる。耳に心地よく響く声に笑みを深めて乳首を抓り上げると背がびくびくっと仰け反った。

「ひぁっあ!」

 今ので軽くイったのか、花弁からこぷりと蜜が溢れだす。更にかたかたと震える躯が気持ちいいのだと克明に訴えてきていた。手のひらにまで滴る蜜にそろそろか、と腰を大きく揺らすと思った通り甘い嬌声が上がる。

「っあぁぁ!」
「っ……んぅ……」

 ずるりと大半を引き抜くと、離すまいと菊花が引き締まる。一瞬の後に弛む瞬間を狙って再び押し込めばぶるりと震えて迎え入れてくれた。そのまままた動かずにいるときゅうきゅう絞め上げていた菊花がひくひくと蠢きだす。

「……きもちいい?」
「んっ……ふっ……」

 そっと耳へ吹き込むように聞くと予想通りふるふると首が振られる。

「ったく……素直じゃないなぁ……」
「あっ!?っあぁん!!」

 くすくすと笑い、花弁を擦るばかりだった指を蜜壺へと滑り込ませた。たったそれだけだというのに刹那の躯は面白いほど跳ねあがる。もっと虐めようと胸を解放し花芽へと指を添わせると躯が逃げ打つが、深く穿たれた楔に叶わずに甘い啼き声と菊花を蠢かせるだけに終わった。指の腹で押しつぶしては捏ねるように撫でまわし、弾くように擦り上げると喉を仰け反らせると狂ったように頭を打ち振るっては啼き叫ぶ。

「ひぁっあんっんっふあぁっ!」
「……くっ……いい絞め付け……もっと絞めてみな?」
「やっあぅんっひんっ」

 悲鳴に近い嬌声が漏れ始めたのをきっかけに留めていた腰も振るい始めた。ぐちゃぐちゃと厭らしい音を奏でる花弁に羞恥を煽られるのだろう、逃げ打つ腰は楔の動きに合わせて突き出しているようだ。きゅっきゅっと摘みあげる花芽の快感が強いのかびくびくと背が仰け反り花弁からさらに蜜を溢れさせている。

「あぁっあんッあぁんっあっあぁっ!」
「……っくぅ……」
「やっぃいっもっいっくぅ!」

 がくがくと痙攣し始めた躯に刹那の限界が近いことを知る。それに連動して楔に食いつく菊花の動きが複雑にうねるようになってきた。蜜壺の熱い内壁を指で擦ると痙攣の間隔が狭くなってくる。ぞくぞくっと背を走る悪寒に似た悦楽に己の絶頂も見えてきた。

「くっ……せつなっ……」
「いぁあんっ!」
「せつなっ……せつ、なぁっ……」

 蜜壺に絡め取られそうな指の本数をさらに増やしてじゅぷじゅぷと音がするほどに掻き回し、腰を打ちつけるタイミングに合わせて花芽を摘み上げると言葉らしいものを紡げなくなっていく。擦り上げる楔の快感と絞められる悦楽に無意識の内に名前を呼び続けた。その声にも感じるのか、絞め付けが強くなる。

「あっもッもぉっ!」
「んっ……イくっ……出す、ぜ!」
「あっん!き、て!きてぇ!」
「……せつっなぁ……!」
「あっあんっ!ッらぃるっ!らいるぅぅっ!」

 舌っ足らずな声で呼ばれる名前に腰の奥がかっと熱くなり、一際大きく、強く打ちつける。連動してぎゅっと絞まる内壁に求められるがまま迸りを奥へと叩きつけた。

「あっあっあっ……」
「んっくっ……ぅぅ……」

 ぶるっと震えて吐き出し終えると仰け反っていた背がくたりと落ちていく。その光景に刹那が自分の名を呼んだ事へ歓喜が広がる片側で、ここまでしても兄の代わりになれない事実に打ちのめされてしまった。

 * * * * *

「………」
「……?……どうした?」
「……なんであんたはそんなに元気なわけ?」
「……は?」

 じっと見つめる先ではいつもと変わらず無表情な刹那がケルディムのビットの点検を手伝ってくれている。よどみなく動く手足に昨夜は夢でも見たのか?と自身を疑いそうになった。
 あの後、刹那が気を失うまで抱きつぶしたはずなのだが、腰がだるい己に比べて刹那はふらついている様子もなく健康そのもの。むしろストレスが解消したといわんばかりに肌艶がいいようにすら見える。なんだか不公平な気分に陥るライルに刹那は首を傾げるばかりだ。

「やはり昨日何かあったのか?」

 いつの間にいたのか、振り向いた先には『教官殿』が不動明王のごとく険しい表情で立っていた。

「やはりって……」
「不穏に思ってな。同席しようとしたが刹那に断られた。」
「……へぇ……」

 刹那の様子から特に何か言われたのではないと思っていたが、どうやらその予想は外れていたらしい。不機嫌極まりない表情のティエリアから思わず顔を反らせてしまう。

「刹那に何をした?」
「や、そんな目くじら立てるような内容じゃ……」
「ないわね。」

 ティエリアの気迫でたじたじになっていると助け舟を出してくれる人がいた。

「……知っているのですか?」
「えぇ、だって私の代役してもらったんだもの。ね?」

 首をひねると朗らかな笑みを浮かべたスメラギだ。噛みつかんばかりの雰囲気があるティエリアに対して全く動じていないのかまったく態度がかわらない。

「代役?詳しく教えてください。事と次第によっては彼の行動制限をかけます。」
「いやだから……さ……」
「ちょっとした祝い酒よ。」
「祝い……酒?」
「二十歳になったらお酒も堂々と飲めるでしょ?だから私なりの祝いの形として一晩二人酒しようって思ってたのよ。でも禁酒しちゃったからねー……」
「せっかく止めれたのにまた呑んだら元も子もないからって。白羽の矢が立てられたんですよ、教官殿。」

 首輪に鎖でも付けられそうな予感にハラハラしながらも彼女の話に合わせると一際訝しげな表情をされる。しばらく凝視されるとつと顔をそ向けられた。

「……そうなのか?」
「あぁ。切りのいいところというのが分からなくて……」

 質問の矛先を刹那に切り替えたらしい。真偽のほどを確認するティエリアに刹那がどう返すのかドキドキしていたが、うまく合わせてくれたようだ。

 実は、この話は半分本当である。ニールが消えてからライルは刹那の様子が気になって仕方なかった。あの日はフェルトと一緒に寝たと言っていたから安心していたが、次の日から明らかに寝不足だと気付いた。まったく普段通りに振る舞っているつもりらしいが、僅かに充血した瞳をライルは見逃さなかった。
 そこで相談したのはスメラギ。刹那の様子を話して、あまり酒を飲まないらしいので潰せるだろうと助言を受けるのだが、二日酔いになられるのもなぁ、と考えた結果が昨夜だった。
 スメラギはきっと酒を飲んだと思っているだろう、少し後ろめたさも感じるが、己の心も満たされたので結果オーライ、とひとりごちる。
 刹那の言葉でようやく信じてくれたらしく、「……ならいい。」とまだ少し不満そうではあるが引いてくれた。ついでにオーライザーの設定でミレイナが聞きたいことがあるらしくティエリアと刹那はキャットウォークを登って行ってしまう。その後ろ姿を見ているとスメラギがため息を吐き出した。

「ま、どのくらいしたとかはあえて聞かないけど?」
「……え?」
「ナニを聞くなんておばはん根性は持ち合わせてないから。」
「………えぇ??!」
「なぁに?隠せてるとでも思ってたの?」
「いや……それは……」
「気だるそうなくせに清清しい表情してたら分かるっての。」
「は……はは……すんません……」

 ざくざくと刺さる棘に苦笑いを浮かべるしかない。少々迂闊だったか、と今更ながらに反省をしてみる。

「ロックオンの宿命なのかしらねー?」
「?……何のことですか?」
「『刹那に構わなくちゃいけない宿命』っていうのかな?」
「………あー……」

 さもおかしそうに言われた言葉に己も呆れてしまいそうになる。けれど頭の中で何度か反芻してみて、うーん、と唸った。確かに間違いではない気もするが。しっくりこない。その理由は考えなくてもすんなりと浮かんできた。

「でもそれは……きっと……」
「うん?」
「『ロックオンの』じゃなくて『双子の』宿命ですよ。」
「……なーるほどね。」

 素直に答えると苦笑を浮かべられてしまった。自分でも苦い思いに駆られるのだ、仕方ないかもしれない。

「ロックオン!」
「ん?はいはーい??」

 そんなやり取りをしていると呼びかけられる。慣れたようで慣れない呼ばれ方になんとか返事するとキャットウォークの手すりから身を乗り出している刹那の声だった。

「迷惑じゃないならまた付き合ってくれ。」
「……はい???!」
「それから俺はストレートがいい。」
「え?……えぇ???」
「また後で。」
「え?ちょ、おい!」

 一方的に言い放たれて何の事だかさっぱりわからなくなる。ひとしきり首を捻って言葉の意味を考え込んだ。

「……ストレート?氷もソーダもなしってことか?いや……でも酒飲んでねぇし……」
「ぷ……ふふふふふ……」
「え?なんですか?分かるんですか??」

 うんうんと唸っていると横から笑い声が聞こえる。振り向いてみるとスメラギが必死に堪えて腹を抱えていた。その反応に首を傾げると眼尻に浮かんだ涙をぬぐいながら教えてくれる。

「ホントに……何したか知らないけど。回りくどいことはイヤだって事でしょ?」
「へ?」
「刹那の方が一枚上手だったようね?」
「えー……なんだよ……頑張ったのに……」
「ま、擬似人格がずば抜けて上手い刹那相手じゃ勝ち目はないわね。」
「……あー……もぉー……」

 ライルなりに拒否されるだろう、とかニールを超えるのは無理だとか、傷つける気はないだとか色々考えての結果があの態度だったのだ。悪ぶって己のわがままにつき合わせることで刹那を正当化させるつもりだったのだが、聡い刹那相手では筒抜けだったらしい。しかも昨夜を振り返れば刹那の方がライルの芝居の意図が分からないながらも合わせてくれていたと思われる。

「…………………あれ?」

 頭を抱えて座り込むライルを慰めるように肩を軽く叩くとスメラギは格納庫から出て行ってしまった。その後ろ姿を憮然とした表情で眺めていたが、ふと気づく。

「……普通に誘えって……事?????それって……普通にヤっちゃって……おっけー??」

 刹那の言葉に何やら大変なことに気づいた気がして一人百面相をするライルだった。


11/01/25 脱稿
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