体の形を確かめるようになぞる指と唇にぴくりと跳ねてしまう。舌が肌を滑る感触に震える体が浅ましく顔を反らしてシーツに押し付けた。躯の隅々まで撫でるとしばらくジンジンと疼いていた胸の実を弄られる。

「ぁ……う……」

 否応なく上がる呼気に混じって押し込み切れなかった嬌声が混ざり始める。その変化をちらりと見遣ってそろりと手を滑り下ろしていった。唇による胸への愛撫をそのままにきゅっと閉じられた足を割り開き体を滑り込ませる。そっと指を滑らせれば予想通りとろりとした蜜で濡れていた。

「っん……ふぅ……」

 容赦なく花弁へ指を突き立てられるのかと構えていたが、その想像は裏切られ入り口を何度も行き来されてからそろりと突き入れられた。中をゆっくりと擦り上げる指に敏感になっている躯がぶるりと震える。まるで傷がないかと探るような慎重な動きに腰が揺れ動いてしまった。それでもニールの手の動きは変わらずゆったりと動いては気まぐれのように奥へと差し入れてはかき回すように出て行く。

「んっぅ……んん……」

 ぐずぐずに溶けてしまいそうな感覚が渦巻く躯をどうにかしたくて身を捩るが彼の手は執拗に追いかけ緩やかに攻め上げてくる。逃げ打つように捩る躯に縄が擦れ余計に熱を煽られてしまった。
 ボールによって無理矢理開いたままになった刹那の口から荒々しい呼吸が聞こえてきた頃ニールはふと顔を上げた。以前と違って目隠しに使った布は薄い色をしているので水分が染み込んで出来る染みが見やすいだろう。けれど見る限りには少しも濡れていないようだ。どうやらまだ我慢出来る程度であるらしい。予想はしていたが、思った以上に粘る刹那に小さく笑いを漏らした。
 濡れそぼった花弁から手を引くとぽたりと雫が落ちるほどの蜜が指に絡まっている。その濡れ具合からそろそろ頃合か、と取り出した雄を押し付けた。すると予想通り、花弁が物欲しげに蠢いてみせる。しかし突き入れずに入り口を浅く突いては蜜を擦り付けるように動かすばかりでいた。

「ぅうっ……んッ!」
「うん?」

 ぬるぬると行き来する雄に腰が砕けそうなほどの疼きが湧きあがり続ける。情欲ばかりを煽る動きに耐えられず声を上げた。するとその声をちゃんと名前を呼んだものだと判断してくれたニールは喋れるようにと口に含ませたボールを緩めてくれる。

「……ひどく……あつかえ……とっ……」
「だから、充分酷いだろ?」
「……どこっがっ……!」
「酷いだろ?優しすぎて。」
「!」

 噛み付くように荒げた言葉に平然とした声が返される。更に頭を撫でられているらしい耳元でさらさらと髪が流れる音がした。

「悪いな、刹那。俺はお前さんを大切にして甘やかしたいんだよ。」
「なっ……!?」
「俺には怒りも憤りもないんだ。」
「そんなっはず……ないっ……!」
「あるさ。その証拠にうんと気持ちよくしてやってるだろ?」

 唇を撫でながら教えてやると、ショックを受けただろう、躯が僅かに戦慄き始めた。このままではきっと逃げようとのた打ち回るはずだ、と先回りして腰を密着させる。そうすれば狙った通り押し付けていた楔が花弁を貫きその場に繋ぎ止められた。

「やぁあッ!!」
「ほら、いい子だからもっとなきな?」
「やめっ……あぅ……!」

 びくりと躯を竦めた隙に口の拘束を戻す。そうしておかなくては刹那のことだから唇を噛み締め、声を殺してしまうだろう。すると意図を悟ったのだろう、首を打ち奮い逃れようとし始めたが、突き上げる度にびくっと跳ねて僅かに硬直してしまえば無駄な足掻きに終わってしまった。

「あんま暴れんなよ……縄で傷がついちまうだろ?」
「んぅッ……くぁ……」
「ま……お前さんの、ことだから、構わない、とか言う、んだろうけど……」
「はっ……あっ!」
「そろそろっ……イくか……?」

 刹那がいつも感じすぎて啼くポイントばかりを的確に突き上げ快楽のみを積み上げていく。無意識に逃げ打つ腰を鷲掴み更に攻め立てると内腿を痙攣させ、足の指先がぴんと伸びていった。激しく収縮する蜜壷に刹那のイくタイミングを見計らい腰に足を巻きつけた瞬間、より強く叩きつける。

「ッーーーーーー!!!」

 背が限界まで反り返り痙攣を繰り返す度に縄に絞り出された胸が弾む。その光景に思わず瞳を細めぎゅうぎゅうと締め付ける内壁を味わった。しばらくその状態が続いていたのだが、まるで糸が切れた人形のように躯がシーツへと沈み巻きついていた足もずるりと落ちていく。唇を噛み締める事で湧きあがる射精感をどうにかやり過ごし力なく横たわる刹那の顔を見上げた。
 目隠しに使った布には生理的に溢れてきたのだろう涙が滲み、黒い染みを描いている。望んだ結果が得られている事を確認出来ると、腰を掴み直し貫いたままの楔を揺すった。

「っあ……あぁ……ッあ!」
「そう……ほら。もっとなけるだろ?」
「ぁうッ……んふっ……ふあぅ……ッ!」

 未だ硬度を保った楔が蜜壷を擦り上げた途端にびくりと躯を跳ねさせ逃げ打つ足を難無く掴み上げてしまう。そのまま穿てば突き上げる角度が変わったのか、身を捩り蜜壷を引き絞られた。立て続けに攻め上げると嬌声に別の色が滲んでくる。

「なけ……泣けよ……刹那……泣き叫べ……」

 * * * * *

 行く当てもなく廊下を歩いていると昼食のプレートを持った沙慈が廊下をゆっくりと移動して行くのを見つけた。

「沙慈くん?」
「あ……ライルさん……」

 声を掛けると少し気まずそうな顔をされるが特に突っ込む事もなく話しかける。

「それ、どっか持ってくのか?」
「えぇ……その……刹那に頼まれて……」
「……刹那?」

 『刹那』の名に眉を潜めてしまう。まだ内に燻った蟠りがなくなったわけではないのでほとんど無意識の反応だ。けれど今度は沙慈が俯いていたので気付かれずに済んだ。そしてそのまま話を進めていく。

「営倉にニールさんがいるらしくて……運んでやってくれって……」
「営倉?……なにやってんだ?兄さんは……」
「さぁ……僕にもさっぱり……」

 こてん、と首を傾げる沙慈にライルも傾げるしかなかった。

 * * * * *

 ご丁寧に開放禁止の張り紙と施錠を施された営倉を開くとさほど危機感もなく寝そべって読書をしているニールが居た。本当にいたよ、と内心呆れつつも近寄っていく。

「食事ですよー。」
「お?ライルが運んでくれたのか?」
「や、途中で沙慈くんにあって引き受けてきた。」
「あぁ……なるほどな。」

 まるでその一言によって状況を全て把握したような苦笑を浮かべるニールの傍までくるとプレートを手渡す。律儀に合掌してから食べ始めたその姿を壁に凭れつつ眺めていた。

「で?……なんでこんなとこにいるの?」
「んー?ちょっとな……度を越しちまったらしい。」
「?度?」
「昨日刹那にちょっかい掛けすぎてさ。怒らせちまったわけよ。」
「……あの刹那を?」
「まぁな。」

 普段のとてもクールな印象を思い浮かべる。ちょっとやそっとの事では少しも動じないイメージのある刹那が脳裏に描かれた。その刹那に営倉監禁を下されるとは……

「ったく……何やったんだか……」
「いやー刹那ってとことん頑固でさ。なんでも溜め込んで耐えようとするから。ガス抜きってのを、な?」
「……いや、な?って聞かれても……」

 にへらっと笑って首を傾げられても何のことやら、と迷惑そうな表情で見つめ返した。するとニールは特に気にした風もなく食事を平らげていく。その光景を見ながら頭の中で少しずつ整理をしてみる。
 ……何か引っかかるものがあった。
 兄の性格は子供の頃から変わっていることもなくよく知っている。それに比べると刹那に関する知識は少ないが、それなりに人となりを掴めてきていた。そしてこの二人の互いの想いや気持ち、考え方も大体把握している。けれどこの事態に繋がるには今ひとつ決定打となるキッカケが見えない。
 なんとなくいつも二人の間で時には茶化しに入り、時にはクッション材のようなことをしている。今回も何か拗れる様なら動かなければ、と無意識の内に考えている自分に思わず溜息が漏れてしまった。

「ま、なんにせよ。わざわざサンキュ。」
「……別に。籠ってるのも余計辛かっただけだし。」
「それでもさ。ありがと。」

 * * * * *

 生きている限り、何が起きても活動を続ける体は栄養を欲するわけで、気が進まないながらも食堂に行くと椅子に仰け反って座る青い制服姿が目に入った。このまま引き返して無視し続けるというのも随分子供じみているので腹をくくって入って行く。ちらりと横目で窺うと濡れたタオルを目元に乗せて上を向いていた。その姿を確認して少し考え込むとおもむろに近付いてそのタオルを取り上げる。

「……ひでぇ顔。」
「……返せ。」

 突然明るくなった視界に目を眩ませながらも目の前の人物を確認して特に表情を変えず取られたタオルへと手を伸ばした。その顔は、いつもの無表情ではあるが目元が真っ赤に腫れている。随分泣いたということはひと目で分かるほどだった。

「昨夜は兄さんとそんなになるまでヤってたわけ?」
「……無理矢理だがな。」
「……またまた。」

 恥ずかしがって、とからかうように顔を歪めれば刹那が右腕をめくり上げた。その腕にはくっきりと縄の痕が付いている。それも一ヶ所どころではなく、所々摩擦で赤くなっていたり、血が固まっていたりもしていた。その光景に目を見開くと刹那は無表情のままに袖を元に戻してしまう。

「……なんだよ……散々よがって啼かされたんだろ?目元が腫れるほどにさ。」
「泣いたのは……ニールが俺の心を踏みにじるからだ。」
「……は?」
「俺に涙を流す資格などない。なのにニールがいろんな手を駆使して泣くように仕向けてきた。その結果こうなっただけだ。」

 憮然と答える刹那にライルはなおも驚かされる。刹那を周りが呆れるほどこれでもかというくらい大事に扱うあの兄が拘束を施しただけではなく刹那の心を無視したというのだ。あまりの意外さにぽかんと口が開いたままではあるが、再び目元にタオルを押しあててしまって刹那には見えていない。

「……それで……営倉行き?」
「あぁ。これ以上横にいると何をしでかすか分からない。」

 刹那の意志を丸無視したニールに未だ御立腹のようだ。答える声音が随分鋭い音を持っている。その声にライルは小さな違和感を感じ取った。

 ニールの言葉と今の刹那の言葉を照らし合わせる。
 バラバラのように見えるパズルのピースはとても単純だった。

 愛する人を失ったライルに対して、自分が温かな体温に喜びを感じてはいけないとニールに酷い扱いをして欲しいと望んだ刹那。近い未来に家族の一員になっていたかもしれないアニューを殺した自分に、同じ家族を失って傷ついているだろうニールの手で傷つけて欲しかったのだ。
 そんな刹那に対して自ら更に傷つこうと望む心を裏切ってまで優しく包み込んだニール。同じ家族を失い刹那も傷ついているのに更に傷つける事を拒んだのだ。
 その結果がニールの営倉監禁。
 この事態は確かに二人の間に出来たすれ違いによる喧嘩のような遣り取りではあるが、その行動に隠された己への気遣いに腹立たしいのか感謝していいのか混乱してしまう。

 けれど確かに感じるものはある。
 二人が自分に向ける『家族が家族を想う気持ち』が。

 ライルの心を理解し、己の罪が許せず愛する人間の手を拒む刹那。
 ライルの心を理解し、彼の望まない自虐的な罰を阻んだニール。

「あ〜ぁ……ったく……あんたも……兄さんも……」
「……なんだ?」
「(……俺に優しすぎなんだよっ……)」

 瞳にじわりと滲み出る涙を隠すように、ライルは組んだ腕に顔を埋める。
 胸につっかえていた蟠りが溶け出すのを感じながらもしばらくそのままで居続けた。


10/11/25 脱稿
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