ぼんやりと滲んでいた視界も何度か瞬きを繰り返す内にクリアになっていき、蛍光灯の逆光の中で微笑みを浮かべるシーザーの顔が見える。その表情がなんだか照れくさくて、でもあからさまに顔をそらすのもどうかと思い頬を撫でる手へと擦り寄る事で誤魔化した。
「可愛いな」
「…………へ?」
 まるで猫がじゃれついてきたようなその態度にぽつりとこぼしただけなのだが、言われた当人の方がきょとり、と不思議そうな表情を浮かべた。そんなにおかしなことを言っただろうか?思わずシーザーも首を傾げてしまった。すると遅れてジョセフの頬がかぁっと赤く染まっていく。シーザーとしては当然のことを言ったまでなのに、こんな反応が返ってくるとは思わなかった。予想外にも程があるジョセフにどうしたものかと固まってしまう。
「かっ、か、か!?」
 零された言葉がじわりと脳に広がり言葉を理解した途端、頭が爆発するんじゃないかと思うほど顔が熱くなった。鏡など見なくても分かるほど赤くなっているだろう顔が恥ずかしくて思わずそっぽ向く。「可愛い」なんて言葉は毎朝スージーと交し合っている言葉にすぎないというのに、何故か今は滅茶苦茶恥ずかしい。しかし、ただ、恥ずかしいだけじゃなくて胸の奥がむずむずするような感覚に襲われ、嬉しいと感じる。思わず弛みそうな口元を隠すのに必死だ。
「可愛い」
「ッ」
「すごく可愛い」
「ッぎゃぱー!たんま!もう言わなくていい!恥ずか死ぬうッ!!」
 真っ赤な顔で視線を彷徨わせ始めたジョセフの様子に何気なく呟いただけだった言葉を重ねてみるとじたばたと暴れ悶え始めた。しまいにはうつ伏せになってシーツに顔を押し付け、うー、だの、あー、だのと呻き始める。
「(なんだ、この可愛い生き物は)」
 いままで付き合ってきた女性は照れはするものの、ここまで恥ずかしがったりなんかしなかった。貴重な生物を捕まえた気分でそっと上体を伏せると赤い耳に口付ける。すると大げさなほどに体が跳ねた。そのまま微動だにしないジョセフにもう一度口付けるとくすぐったそうに肩を竦めてそろりと顔を上げる。恥ずかしさのあまり涙目になっているのだろう、潤んだ青い瞳が見えた。にっこりと微笑みを向けて口を開く。
「  」
「ッ!!」
 ゆっくり開いた口の形で何を言おうとしたのか瞬時に気づいたジョセフの手によって言葉は音にならずに口の中へと押し込められてしまった。真っ赤な顔で真剣な表情を浮かべて両手で口を塞ぎにくる。どこまでも初心な反応に笑みを深めると押し付けられる手のひらをぺろりと舐めた。
「ひぎゃん!?」
 すると思った通りぱっと手が離れていった。ようやくこちらを向いた顔を見れば今にも泣きそうな雰囲気だ。そろそろ意地悪も控えるとするか、と行き場をなくした手を恭しく取りちゅ、と口付ける。
「今日はここまでにしようか」
「へ?あ??」
「焦らずじっくりと女を磨いてやる」
「は……はい」
 淫靡な空気から開放されたはずなのに覆いかぶさる男の顔は先ほどまで異常にドキドキする表情をしていた。首筋や胸元に未だ残る熱くて柔らかな感触が鮮明に浮かび上がってくるようで背筋がぞくぞくとする。けれどシーザーはジョセフを抱き起こすと乱れた下着や服を丁寧に直していく。
「(……もっと触ってほしいなー)」
 よどみなく動く手をじっと見つめた。自分の指よりも明らかに太く長い指は器用にボタンを閉めていく。胸元にあるその両手は邪魔に感じるくらい大きく育った己の胸を鷲掴みに出来そうな大きさをしている。節くれだった指と浮き立つ関節。明らかに逞しいと感じるその手が自分の肌を撫でる光景がフラッシュバックした瞬間、下腹部がじゅん、と濡れたようた気がした。それとともにはしたない妄想をしていたことに気づく。
「な、なーんてね!なーんてね!!」
「は?なんだ、いきなり」
 あまりの恥ずかしさにシーザーの肩をばしばしと叩いてしまった。恥ずかしさを誤魔化す為に叩いてしまったわけだが、やはりというか、当然訝しげな表情をされてしまう。曖昧に笑って更に誤魔化すと怪しまれながらも引いてくれた。
「家まで送ろう」
「え?いいよ、うち、すぐそこだし」
「こんな時間に女の子一人で外を歩かせるわけにはいかない」
 というのは建前で家の場所を知っておいていつでも訪ねられるようにしておきたい下心もある。それに我慢するのだからもう少しご褒美的なものをもらっておきたい。別れ際のハグだとか、キスだとか。そういった心づもりの元、もっともらしい理由を付けて言い出してみたのだが、ジョセフは眉尻を下げたままだった。
 家を知られるのが嫌なのだろうか?もしかして家族に知られたくないとか。この理由ならわからなくもない。まさかストーカーになるんじゃないかと警戒されているだろうか?色々な可能性を考えつつ首を傾げると、小さく頷いた。
「これから世話になるし、家くらいいっか」
「うん?」
「じゃ、ホントに近いけどお願いしまーす」
 言い聞かせるような言葉に更に首を傾げたが、ぴょんとベッドから下りた彼女に深く突っ込むことは控えておいた。
 マンションの玄関までくると途端にその歩みが止まってしまう。更に鞄を漁り始めたので何か忘れ物をしたのか、と聞こうと口を開く前に鍵が取り出される。ぱちくり、と瞬いていると彼女は慣れた手つきでパネルを操作し始めた。指が離れるとシーザーが入る時に使っていた鍵穴とはまた別の鍵穴が現れる。
「はい、どうぞ」
「え?あ??」
 開かれた扉を抜けると一番奥のエレベーターがポーン、と音を鳴らして到着した。歩いていくジョセフになんとかついていきながらも頭の中は絶好調なほど混乱してしまっている。何をどう聞いたらいいのか、と考えている内にエレベーターが止まってしまった。最上階のフロアに、だ。
「こ、ここって」
「はぁい、ただいまぁ〜。そしていらっしゃ〜い、シーザーちゃん」
 マンションの最上階は1フロアすべて管理人の居住区になっている。そこへ来た、ということは……
「お、おまえ……」
「改めまして、俺、JOJO、もとい、ジョセフィーヌ・ジョースター宅へようこそ」
 にっと笑う屈託のない笑みにシーザーは言葉を失い続けた。


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