ミスタは壁にべったりと張り付き硬直していた。ついでに角を4回曲がってきたことに気づいて酷く後悔している。
「(マジかっ!!!)」
びっしりと汗を浮かべながらその場から立ち去ることも出来ず動かない足に動揺していた。
事の始まりはほんの数分前だ。
強者が互いの拳で制しあう大会に参加していたミスタは待機時間をどう潰そうかと考えていた。
最初こそ次元の歪みだの、知らない顔ぶれだので混乱はしていたが、開き直るのも早かったミスタは部屋から出て、まだ探検していない場内を見て回ることにした。試合のない参加者や応援したいメンバーは控え室でティータイムを楽しんでいる。何人か見当たらないのは各々どこかしらうろついているのだろう。ならば自分もふらっと出歩いても問題はないはずだ。
そうして歩き回ること数分。交差したり直角に曲がっていたりする廊下を何気なく歩いていると、控え室から随分と離れてきたことに気がついた。なかなかに歩きがいのある会場だが、規模からそろそろ端まで来ただろうと目星をつけると次の角を覗いて見てから引き返すことにする。
「ん?」
もうあと数歩で曲がり角に到達する所まで来ると微かに声が聞こえる。誰かいるのかな?と思いつつ更に近づく。声は途切れ途切れで誰と確定は出来ない。
覗けば済む話だ、と特に考えず顔をだす。が、すぐに引っ込めて壁に背を押し付けた。
「ッ!?!」
うっかり叫びそうな口に手を押し当てて今見た光景が幻だったのではなかろうか、という現実逃避からもう一度覗き込む。けれど結果は同じでまたすぐに顔を引っ込めた。
「(なっなっなっ!?)」
どっと汗が噴出すと同時に顔がかぁ〜っと熱くなる。
意味なく天井へと向けた目に今しがた見た光景がちらちらと浮かんで消える。自然と荒くなる呼吸に三度目の正直と心で唱えながら再度確認を取った。しかし、一寸たりとも変わらない光景に今度はゆっくりと浮かせた背を壁に押し当てた。
「〜〜〜ッ」
覗きこんだ通路には確かに人が二人いた。ただ、いただけではここまで慌てる必要はない。
では何があったのか。簡単に言えば、重なり合っていた、のだ。
しかも、かなり『蜜』な雰囲気を纏いながら。
片方が壁に両手をついて背を撓らせながら悩ましげな声を零し、その人物を背中から抱き込むように寄り添っている。つまり、体によるコミュニケーションの真っ最中だった。
「っ……ふ、ぅ……!」
「っ!」
聞こえてくる荒い呼吸に喉がなる。今しがた見た二人をさきほどまでの認識の中の姿と照らし合わせた。
今、壁に手をつき切れ切れに艶やかな呼気を零している人物は、先ほど涼しげな顔で長い上着を翻しながら強烈にかつ鮮やかに相手を地面に叩きつけていた。所作の一つ一つが格好いいの一言に尽き、鋭い瞳が見下す様は男であっても惚れてしまいそうだ。簡単な人物リストで確認した彼は、若い頃の空条承太郎。自分が住んでいた世界よりも十年少し前の姿らしい。
そんな彼に身を寄せているのはやけにパンクな髪型をした少年だった。リストで確認をしたところ、康一と友達で承太郎の叔父にあたる東方仗助だ。待機中や試合の合間でよく二人でいるところを見かけていたが、まさか『こういう関係』だとは思わなかった。
頬を伝い流れてきた汗を袖で乱暴に拭う。
そうして冒頭へと繋がるのだ。
うっかり目撃してしまった蜜事にやはり4という数字はロクなことがない、とつくづく実感をしてしまった。
「(しっかし……あの男前がネコとは……)」
意外なことを知ってしまった上に滅多と拝めない状況なのでは?と気づいたミスタはもうちょっとだけ拝んでから帰ってもいいかも、とうっかり好奇心を覗かせてしまった。
もう一度だけ。ちょっとだけ、と、そろそろ覗き込もうとしたところ……
「ミスタ?こんな所で何しているんですか?」
「ッ!」
呼ばれた名前に大げさなくらい体が跳ねた。一瞬止まった呼吸で心臓が一気に早打ちを始める。そろりと振り返ると小首を傾げたジョルノがこちらに向かってきていた。
「ミスタ?」
「お、おぅ。その、だな」
「はい?」
「タバコふかそうと思ったけどうろうろしてる内にもういっかぁ、って思ってだな」
「はぁ」
「で、今戻ろうとしてたんだ」
しどろもどろではあるだろうけれど、何とか言い募れたことに内心ガッツポーズを決めて壁から背を離すと手をついてジョルノへと向き直る。にっと笑みを浮かべてどうにかやり過ごそうとしたのだが、彼の表情は晴れない。
明らかに納得のしていないジョルノに笑みを浮かべ続ける。なんとか誤魔化されてくれ!と祈り続けていると、ミスタに釣られたように彼の顔へ笑みが広がったので強張っていた肩から力を抜いた。
「!」
抜いた瞬間ジョルノが角の向こうを覗こうと身を乗り出すのでその鼻先に体を滑り込ませる。すると、当然だろうけれど、訝しげな表情を浮かべたジョルノが見上げてきた。
「……ミスタ?」
「うん?」
引きつっているとは自覚をしているが、何とか浮かべた笑みを引っ込めることは出来なかった。
「何を隠しているんですか?」
「いや、別に隠してなんか……」
「んっ……ふ、ぅ!」
「「!!」」
詰め寄るジョルノに後ずさりしたいところだが、もう曲がり角の際まで来ているから動けない。必死に手を翳すだけの防御に出ていたのだが、大きめの声が聞こえてきて二人揃ってびくりと跳ねてしまった。数度瞬いて通路の角をちらりと見たジョルノがミスタを見上げてくる。その視線に耐えかねて顔を逸らすと赤くなる頬を伏せるように手で覆い隠した。再び覗こうとするジョルノに今度は体をどけて隙間を作ってやる。もう隠しても意味がないと思ったからだ。
腕にそっと手を当ててバランスを取りながら通路の先を覗いたジョルノが驚きを隠せない表情で戻ってくる。
「……意外過ぎる組み合わせでした」
「奇遇だな。俺もさっきそう思った」
今もまだ押し殺しきれていない甘い声が切れ切れに漏れ聞こえる。その中、気まずげに顔を逸らすミスタと未だショックから立ち直れていないジョルノの間に妙な沈黙が広がり続けた。
「……ちょっと羨ましいですね」
「んあ?」
とりあえず何も見なかった聞かなかったって事でこの場を離れようぜ、と提案をしようと思った矢先、ジョルノのつぶやくような言葉が発せられた。よく聞き取れなくて首を傾げていると、ふと俯いていた顔があげられる。その顔にとんでもなく綺麗な笑みを浮かべながら。
あ。『これ』はマズイ。
そう思った時には既に手遅れだった。絡みつくように伸ばされた腕が首に絡まると引き寄せられごくごく自然に抱きしめられる。頬を伝い落ちる冷や汗に抑止の声を上げるがその音は重ねられた彼の口の中へと消えていった。
ミスタの口がジョルノによって塞がれている頃、壁についた手へずり落ちないようにと必死に力を籠めていた承太郎はちらりと視線を動かしていた。見た先は曲がり角の方だ。
「(大人しくなったか?)」
この状態に縺れ込んでからどれくらいの時間が経過したかは分からないが、角に人影を見た。身を正すべきかと焦ったが、その人物は何度かちらちら盗み見はしたものの、それ以外は何もしてこない。むしろ、邪魔しないように気遣ってくれているようにも感じる。だが、今しがたまた覗いていたように思えたので、またか、と内心呆れていたのだが、結局それを最後に静かになったようだ。
なんにせよ、空気を読んでくれているようで助かる。
「ッあ!ぅう……っ!」
「余所見はダメっスよ、承太郎さん」
体内に埋められた指がぐりっと内壁を押し上げる。喉を突くように出た嬌声に慌てて唇を噛むが零れてしまったあとでは意味がない。攻めるように尚も押してくる指に膝ががくがくと震える。
「んっ、あ、じょ、すけぇっ」
「なんスか?」
「もっ、もぉ……!」
「ダメっス。まだ硬いじゃないっスか」
「は、ぁあ!」
カチカチと噛み合わない歯が音を立て、絶頂が近いのに達することを許されなかった。というのも、濡れそぼった肉棒の根元を握り込まれ、イく事ができないのだ。躯中が熱に浮かされ疼く中に比例して肌が敏感になってくる。さらに埋める指の本数を増やされて声が上ずっていった。
「ずいぶんと甘い声が出てすね。興奮しますか?」
「っふ……う、っく……!」
死角になる曲がり角ではミスタの足元にジョルノが膝をついていた。片手で太ももを撫で摩りながらもう片方の手は寛げたズボンの中に差し込まれ、細い指が後ろにまで這わされている。その奥で潜んでいる菊華に指を添わせて思わせぶりに入口を揉みこんでいた。さらに離した口を目の前でそそり立つ彼の雄芯に擦り付け、差し出した舌で付け根から先端へとゆっくり舐め上げる。すると、内腿がぴくぴくっと跳ね、背を丸めたミスタの手がくしゃり、とジョルノの髪をかき乱す。
「足りませんか?」
「ん、ぅう……!」
見上げる先にある悩ましげに歪めた表情に狭間へ埋めた指を軽く立てると必死に首を振った。その姿が愛らしくて攻めの手がますますエスカレートしてしまう。先端を口に含み滲み出てくる蜜を嘗め回すと丸めた背が仰け反られ、引き剥がすように手へと力が篭った。ついで躯を逃がすように踵を上げて無駄な抵抗を見せる彼に、ジョルノは壁に手を伸ばす。
「産まれろ、生命よ」
「ッ!?」
途端に壁から木の根が生えてきてミスタの四肢へと絡まってきた。ぎょっと目を見開き驚いている間にも絡まる根は体を巻き込み埋もれてしまう。恐る恐る相手の顔を見下ろすと綺麗な笑みを浮かべて見上げてきていた。
「僕の能力ってこういう時便利ですよね」
「っ能力の無駄使いって言ってやるよ」
「おや?まだ余裕がありそうですね。ではもう少し攻めの手を加えてみましょうか」
「っ!!」
ミスタの顔がさっと青ざめた時、承太郎は体の中に蟠る熱を開放出来ないままに絶頂を極めていた。
「ッ〜〜〜!!!」
「あれ?イっちゃいました?」
「ッは!ふっ……ふっ……」
大きく仰け反った背がぶるぶると震えたかと思うとくたりと力を失くし上体を壁に寄りかからせる。胸を忙しなく通り過ぎる息が酷く熱い。なんとか嬌声を押さえ込めたが、戒められたままの熱が燻り続けて気が狂いそうになっていた。膝には相変わらず力が入らない為に、もし腰を抱えられていなければその場に崩れ落ちていただろう。
「な、ぁ……」
「我慢できないっスか?」
なおも焦らそうとする相手を肩ごしに睨みつけると苦笑が返ってきた。
「まだちょっと硬いんスけどね」
「んッ!」
未だ中に埋められたままだった指がぐりぐりと回されて喉が反る。イった直後の躯にはそれだけでびくびくと震え上がるほどの快感を与えてきていた。またしばらく嬲られるのかと思ったそれは予想に反してあっさりと抜け出ていく。
「承太郎さんがあっさり乗ってくるなんて滅多にないから堪能したかったんスけど」
「っ……しるか」
米神に唇を寄せながら囁く言葉から顔を背ける。
仗助が言っているのは、今の承太郎から10年ほど後の承太郎だという。この得体の知れない大会が、いくつかの時代を引き寄せて一つの次元に巻き込んでいることは祖父や高祖父の姿を見た時点であらかたの予想はついていた。けれど未来の自分に『こういった』相手が出来るとは予想外にも程がある。
そもそも最初顔を合わせた時は仗助も承太郎が『自分のよく知る』承太郎と同じだとは知らなかったらしい。けれど試合が終わったあとの治療中に話しをしていれば互いの正体が分かり、それ以降は忠犬よろしく付いてくる始末。アヴドゥルは微笑ましい表情を浮かべるし、ポルナレフには笑われるし、花京院に至っては何故か非難がましい目で見つめてくる。
なんなんだ、一体。
それでも何度も甲斐甲斐しく治療を施しに来る手を邪険に扱うことも遠ざける事も出来ず。むしろ一方的に与えられるそれがもどかしくて何か礼が出来るなら、と聞いてみればこの状況だ。
正直、後悔している。なにに対してか、って一番は数分前に、怖いのか、と聞かれて、そんなわけねぇ、と啖呵を切った自分にだ。
男に二言はなし、と甘んじているのだが、これほどまでどうにもならないとは思わなかった。
「ッ!」
ひたりと熱の塊が押し当てられて息を飲む。ヤり始めた時こそ入るわけがない、と思っていたが、指によって慣らされた今になるとどうなるか分からない。入らないだろう、と高を括る傍から、入るんじゃないだろうか、と思ってしまっていた。
「ちょっとだけ我慢してくださいね?」
ということは痛いということか。内心げっそりとしつつも、どこかに淡く期待をしている自分がいる。先ほどから宥める為か、項や耳に口付けてくる唇がやけに気持ちよかった。これに紛らわされながらならそう悪くはなさそうだ。
「あぁ、でもその前に」
「!?」
壁についていた両手を取り上げられると目の前にクレイジーダイヤモンドが出現した。反射的に警戒してしまい、体が強ばったが柔らかく上体を抱き込みにきて目を白黒させる。
「後で治せるとはいえ、爪割れちゃったら痛いでしょうし、しがみついた方が楽かと思って」
「……なるほどな」
スタンドの太い首に腕を絡めるように促されてきゅっと抱きついてみると先程よりはうんと安定感がある。しかもそろそろと頭や肩を撫でてくる手が無表情な顔と見た目の無骨さに反して優しいものだから、ふ、と体から力が抜け落ちていった。
「入れますよ」
「……ん」
わざわざ聞くな、と言いたいところだが、黙ったままというのもどうかと思えて小さく返事をすると、後ろからぐっと押し付けられる熱に息を飲んだ。
「息、吐いて下さい」
体が裂けるような痛みに歯を食い縛っていると耳に穏やかな声が吹き込まれる。宥めるように背中を撫でられると、温度のない手が慰めるように頭を撫でてきた。どこまでも優しい手つきに体の緊張がほぐれ、詰めた呼気が吐き出されていく。すると見計らったようにぐいっと押し込まれた。
「ッうぁあ!!」
ずるりと中に侵入してきた塊に全身がぶわっと熱を放つ。目の前がちかちかとハレーションを起こし、膝ががくがくと震えた。最初の衝撃がようやく落ち着いてくると呼吸の苦しさに目の前のスタンドに縋りつく。
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