いじめ(わるい)

注意!!!イジメっこカカシ!!!あと微シリアス?風味です。
笑って流せる方だけご利用下さい。でもどっちかというと、変態というよりサイコさんなカカシです…。
イルカ先生がやや酷い目(閉じ込められたり。)に合いがちですので、そちらもご注意下さい…。

「あ。」
「あー。またあんたー?」
受付所にこの招かれざる客がしつこく来る様になったのはいつからだったか…。憂鬱に思いながら、イルカはできる限り自然に業務を進めようとした。
「…報告書をお預かりします。」
「えー?渡したくないなー。」
「くっ…」
また始まったか…!だいたいそんなに俺に渡したくないなら、他の時間にくればいいものを、いつもいつもイルカのシフトにあわせているんじゃないかと思う くらい、提出時間と受付当番がかぶる。
「何かやって見せてよ。それがおもしろかったら渡してあげる。」
「…具体的には…?」
この理不尽な要求もいつものことだ。…この間はアカデミーの校歌を歌えとか言われたし…。今度は一体何なんだ…?
「んー?あ、そうだ!踊って?」
「は?」
「もう耳でも悪いの?それとも頭?」
「…申し訳ありません。耳を疑ったもので。」
あまりにも酷い言い様に、ついつい言い返してしまったが…しまった!流すべきだった!!!
「疑うよーな耳なんか忍にはいらないんじゃない?」
「…。」
やはり…。どうしてもこの上忍は、俺に言いがかりをつけたいらしい。
「そーいう頭悪い人にも踊れるいい踊り。知ってるんだよねー。」
「…。」
どうせろくなもんじゃないだろう。だが、焦っては逆効果だ。ここはコイツの出方をみてから…
「今から教えてあげようか?」
その時、次の受付当番の同僚があわてた様子で俺たちの間に割って入ってきた。俺の隣のの机に座り、この性格の悪い上忍に手を差し出している。
「あの!はたけ上忍!自分がお受けします!」
「なーによ?あんた?」
「次の受付担当者です!」
同僚も俺の窮状を知っているので、どうやら庇ってくれているようだ。…いいヤツだ!!!だが、このアホにはむかうのは危険だ!
「ふーん?じゃ、まだ担当はあんただよね?」
「…はい。」
やはり、イルカをいたぶるのをやめる気はないようだ。人を馬鹿にした表情で、こちらを見ている。
「イルカっ!いいから!…はたけ上忍。自分、コイツに前回当番代わって貰ったんです!だから今日早く交代する約束…」
更に同僚が言ってくれた。だがその態度が、この根性悪に気に障ったようだ。
「へー?困ってるとこ付け込んだ訳だ?いー性格してるねー。」
俺を攻撃してくるのはいつものことだからかまわないが…。コイツは自分の邪魔だと思うと容赦しないのだ。
イルカがはらはらしながら見ていると、同僚が果敢にもカカシに声を掛けようとした。
「はたけ上忍!あのっ」
「あんた。うるさい。」
「ひっ!」
コレはまずい!これ以上同僚に迷惑をかけるわけには行かない…!
「はたけ上忍!俺が踊ればいいんですね!」
とっさに受付所の机から身を乗り出して、同僚を背に庇った。
「そーかもね?」
嫌がらせ大好き上忍は嬉しそうに語尾を上げてしゃべる。…こうなったら後には引けない…。同僚を巻き込むわけにもいかないし…。
「くっ!…何を踊れば…」
踊りといってもくのいちでも容姿がきれいなわけでもないイルカが知っている踊りと言えば、精々盆踊りか、忍刀を使った演舞くらいだ。
「教えてください。でしょ?」
このクソ上忍が…!
「んー?盆踊りとかならアンタでもできそうだけど…それじゃつまんないし、どうしよっかなー?」
にやにやした上忍は、猫がねずみをいたぶるように、こちらの精神的ダメージを誘う。
「…はた…」
「お前はいいから。ちょっと待っててくれ。」
この場はイルカが収めるしかないだろう…。
「そうね。一緒に踊る?手取り足取り教えてあげるよ?アンタの頭でも分かる様にね。」
結局…そんなことを偉そうな上忍に言われ、煮えくり返るはらわたを抱えながら、異国のランバタ?なる踊りを踊らされた。
…大嫌いな上忍と密着しての踊りは…仕事中でなかったら全力で拒否していただろう。第一この上忍の方も、こんなもっさい中忍にくっ付いて踊るなんて …何が楽しいんだか…。
ひとしきりイルカをいたぶって落ち着いた上忍からやっと受け取った報告書を処理し、最後にイルカの踊りに駄目出しするのを聞き流し、扉が閉まったとともに、 大きなため息をついた。
あの陰湿な上忍の耳にも十分届いているだろうが、もうどうでもいい…。
「なあ、イルカ!大丈夫なのかよ!!!…何度も言ってるけど、上に報告しようぜ!あんなの酷すぎる!」
「ああ…でも。相手は上忍だしな…。」
それ以上にナルトが心配だが…本人はいい先生だといっているし、ストレスを俺で発散してるのかと思うと…うかつにクソ上忍から離れてターゲットが 他にうつるのが怖い。
「でもさ!お前最近やばいよ!顔とか鏡で見て気付かないか?!青い顔して…。」
「え…?」
最近体重が落ちたとは感じていたが、外見にまで出てしまっていたとは…。最悪だ…。
「あのさ、いっそのこと配属換えてもらえよ!受付やめてアカデミー一本に絞るとかさ!みんなお前のこと心配してるんだぞ?もうさ、あの上忍に 近づかないようにした方がいいよ。」
「それは…。でも、今月俺の当番多いし、…俺がいなくなたら別のヤツがアイツの被害にあうかもしれないし…。」
大体なぜイルカにこうまで突っかかってくるのか心当たりがない以上、いつ他の人間に同じことをし始めるかわからない。受付所からイルカがいなくなったことで 被害が広がる可能性だってある。それでなくても、さっきのでコイツも目をつけられてしまったかもしれないのだ。
うつむきながらも、そういうと、同僚が少し考え込むようなそぶりを見せた後、イルカの肩を叩いた。
「…わかった!いいからとりあえず、ちょっとだけでもあの上忍から離れてみろよ!…確か…任務、あっただろ? 期間の短い急ぎのヤツ。」
確かに一つ明日の朝に発たなければならない任務があった。内容は手紙の運搬と簡単なものだが、目的地が忍びの足でも2日から3日ほどかかり、 スピードが要求されているので、請け負うものは中忍以上に指定されていた。
「あれか…。でも俺は明日も…。」
「だから!俺とか、他にも誰だって変わってくれるって、お前のその顔見てたら!だからさ、明日、言って来いよ!」
確かに、そんなに酷い顔で、受付に座っているのも問題だ。
…配属変えよりはまだましか…。
「わかった。明日は頼む。すまん…。」
「気にするなって!な、行きはゆっくり…は無理だけどさ、帰りはちょっとくらい遅れたっていいんだから、ちょっと息抜きして来いよ!」
「ああ。…ありがとな。」
*****
あの後、書類の整理をしようとしたが、同僚が今日は早く帰れというので、その言葉に甘えて自宅に帰った。勤務時間は終わっているとはいえ、 どうにも己が情けない。
とにかく疲れを取ろうと、ゆっくりと風呂に浸かった。以前は好きだった風呂が、今はあまりにも疲労しすぎているためか、あまり疲れが取れた感じが しないまま、入浴を済ませてしまった。
…風呂上りに思い立ち、久しぶりに鏡の前で自分の顔をまじまじと見てみた。
ああ。確かに酷いなこれは…。
イルカは他人事のようにそう思った。目の下にはクマができているし、頬がこけている。痩せたと言う感じはあったが、ここまで酷いとは思っていなかった。
同僚たちには迷惑をかけてしまうことになるが、このままでは倒れるのも時間の問題かもしれない。こんなことに任務を利用するなど、忍としては情けなく思うが …とにかく!任務で少しでも回復してこなくては、同僚たちにも受付所に来る他の忍たちにも迷惑をかえてしまう…。
…任務で距離をとって、少し冷静になってみよう…。
明日の任務に備えて装備を整えながら、イルカはそう決意したのだった。
*****
受付所で任務依頼書を受け取り、早朝から手紙の届け先である、とある商人の家へ急いだ。
本来なら受付当番だった時間には、他の同僚が座っていてくれ、励ましてさえくれた。
同僚たちの優しさに感謝しながら、街道のはずれの森を移動していると、…後ろから声が聞こえた。
「ねぇ。なにやってんの?」
クソ上忍っ…!着いてきやがったのか!?
いつの間にか樹上を疾走するイルカに併走するようにして、上忍が着いてきている。
里を出るときは確かに一人だったので、コイツは後から追ってきたのに間違いない。
「任務中ですはたけ上忍。…あなたの方こそ、どうなさったんですか?」
足を止めずに枝を蹴って飛ぶ。かなりのスピードでかけてきたが、このクソ上忍は流石に一応上忍らしく、イルカよりも足が速いようだ。
「別にー?任務ってなによ?アンタは内勤でしょ?」
「…今回は急ぎの任務でしたので…。」
それ以上語らずに、更にスピードを速めた。
「へーこんなくだらない任務やってるなら、ずっと里にいればいいのに。それともアンタこんな任務しかできないの?」
いつの間にか懐に仕舞ってあった依頼書を抜き取られていたらしい。クソ上忍が依頼書をつまみながらまたしつこくついてくる。
「ちょっと!何をするんですか!返してください!」
慌てて立ち止まり、カカシから依頼書を取り返そうとした。
「はいどーぞ。」
クソ上忍が差し出してきた依頼書をひったくるようにして取り返した。…いつもなら、返すときにも嫌がらせがあるのだが、流石に任務だからか今日は あっさり取り返せた。
…だが油断は禁物だ。この上忍の根性が曲がりきっているのは明らかだし、コレだけのために追ってきたとは思えない。
「では、急いでいるので失礼します。」
とにかく任務を終わらせなくては…。そう考え、その場から立ち去ろうとした。
「ちょっと待ちなさいよ。」
「なんですか…?」
まだ嫌がらせしたりないんだろうか?
「それ、俺がやるからアンタは帰って。俺がやる方が早いし。いいでしょ?内勤の中忍が無理してやることないじゃない。」
「なっ!」
馬鹿にしやがって!!!これでも元は戦忍だ!!!大体内勤馬鹿にすんな!!!
「ふざけんなこのクソ上忍!俺には俺の任務があるんだよ!!!」
流石に腹が立った。
…もう我慢の限界だ!
イルカは、カカシの顔めがけて特製の目潰し入り煙玉を投げつけ、渾身の力を振り絞って思いっきり殴った。…カカシに当たったことにも驚いたが、 それよりもまず、任務が先だ。
イルカはカカシをおいて、全力でその場から走り出した。
*****
上忍のくせに…そうまでして俺をいたぶりたいのか…!
腹は立ったが、あの上忍は一応撒けたようだ。つい先ほど、依頼の手紙も無事渡せた。
…急いで帰ろう。そしてもうあの上忍に会わなくてもすむように受付をやめよう。
イルカはそう決心した。あれだけしつこいのだ。きっとストレス発散などではなく、イルカ個人に何か遺恨があるんだろう。なんの理由かは分からないが これだけしつこくされるともう耐え難い。
そう考えながらイルカが町の出口にさしかかったところに…いた。クソ上忍だ。
慌てた様子でどうやらイルカのことを待っていたようだ。
いい加減もうこの上忍の相手はこりごりだ。そう思い、イルカはカカシを無視して通り過ぎようとした。
…だが、通り過ぎる瞬間、無言で上忍に腕をつかまれた。
「…急いでおりますので。…失礼致します。」
任務は終わったのでそんなに急ぐ必要はないが、この上忍の相手をする時間は、例え一瞬であってももったいない。そんな暇があったらテストの採点でもする。 カカシの方を見ようともせずに、腕を振り払い、そのまま立ち去ろうとした。
だが、一度振り払った手に、より一層、痛いくらいに腕をつかまれ引き寄せられた。
「ちょっと。待ちなさいよ。」
…さっきよりずっと凄みのある声で上忍が言う。殺気のこもったチャクラが、この上忍から放たれている。やはり…何かでうらみを買っていたのだろう。
この任務を利用して…もしかしたら消されるのかもしれない。
…くそっ…!
だが、任務は一応終わった。コレだけ実力差があると、おそらく抗っても無駄である可能性が高い。大体もう半分拘束されている状態では完全にこちらの分が悪い。 …里にも一応経過報告を飛ばしたし、イルカに何かあったとしても、何とかなるはずだ。きっと誰か気付いてくれる。
…だがどうせなら最後まで抗ってやる!!!
「アンタ!」
表情を変えないイルカに、腹を立てたのか、口調を荒げる上忍に言ってやった。
「…ずっと里にいればいいのにとおっしゃいましたので、急いで里に帰ろうと思いまして。…もう受付にも出ませんし、二度と貴方の目に留まらないように しますよ。それで満足でしょう?…それでは失礼。」
無駄と知りつつ手を振り払う。…すると、あっさりはずれた。
そうか、流石にこの上忍もここまで言われてばかばかしくなったのか。そう思ったが、なぜかカカシは腕どころかイルカに抱きついてきた。
「なんでよ…。なんでそんなこというの…?」
それはこっちの科白だ。アレだけしつこく嫌がらせをしておいて、何を言ってるんだこの上忍は。
「放してください!…もう十分俺で遊んだでしょう?…開放してください。」
「いやだ。なんでよ?どうして俺から離れようとするの?いいじゃない。ずっと里にいて俺だけ見てれば。なんでいつも俺以外を見てるのよ?」
「はあ?」
「前からそういうとこ気に入らなかった。あんたは俺のためだけに生きればいいんだよ!」
「ちょっと!何を言って…?」
「…決めた。」
そういうと恐ろしい気配を漂わせた上忍は俺を担いで移動し始めた。
なんなんだ?!
パニックになりかけながらも、イルカは必死で抗った。
「ちょっと!放してください!俺は里に帰るんですよ!」
「里には帰る。でも、もう外にはださない。口閉じてな。舌かむよ。」
静かな口調で淡々と言うと、樹上の移動が激しさを増した。確かにこの状態でしゃべったら舌をかみそうだ。だからといってこのままでは大変なことになる。 この上忍がなぜ錯乱しているのかわからないが、とにかく逃げないと!
身をよじってもびくともしない。体格はこのほそっこく見える上忍より、自分の方が上だと思っていただけに、ショックだった。
「くっ!」
必死で暴れてみたが、軽くあしらわれてしまった。
「だめ。もう許さない。」
何なんだこの上忍は?!
「放せ!!!」
さらに思いっきり腹を蹴り上げようとしたが、あっさりかわされた。
「暴れても良いけど。無駄だよ。アンタには無理。」
「なっ!」
「あら怒ってんの?アンタのそういう顔も好きだけど。今度からずっと一緒にいるんだから、たまには笑って見せてよね。」
「っ!ふざけるな!」
「あーもー…。うるさい。しばらく寝てな。」
その声を最後に、イルカは己の意識が途切れるのを感じた。
*****
「ぅ…。」
どこだここは…?
どうやらどこかの部屋の中のベッドの上に寝かされているようだ。忍服を着ていたはずなのに、浴衣に変わっている。身体は別に痛まないが、コレは一体…?
「あ。目覚めたね。ここがアンタの家っていうか部屋。かな?これからずっと。ね…。」
「何を?!」
いつの間にか上忍がベッドの上に屈みこみ、イルカの顔を覗き込んでいた。
さっきとうってかわって、本当に楽しそうに上忍が笑う。覆面をはずした顔を初めてみたが、キレイな顔をしている。…とてもこんなことをしでかしそうにない顔だ。
「いーじゃない。ずっとここで暮らすんだから。」
「触るな!」
カカシは嬉しそうにイルカの顔を撫で回している。
「ま、いいか。早く俺になついてね。」
「ふざけやがって…!アンタのペットになる気はない!!!」
イルカの怒気などなんでもないような涼しい顔をして、カカシはにこにこと微笑んでいる。いつもの嫌味な笑顔より、ずっとキレイな笑顔だが、得体が知れない。
「べつにふざけてないよ。これでアンタは俺のもの。飯も風呂も全部面倒見てあげる。もう外には出さないよ。」
その言葉を背中に受けながら、イルカはとっさに近くの窓から逃げようとした。だが…。
「くっ!な!」
開かない!?
「だから。出さないって言ったでしょ?ここは俺以外は入れないし出られない。勿論アンタもね。」 上忍は、愕然としているイルカに、満足そうに言った。
*****
カカシの言った通り、それから何度も逃走しようとしたが、何かの術か結界か分からないが、扉も窓も、いくら解術を試みても開くことはなかった。
いっそのこと破壊しようとさえ思ったが、火遁水遁…さまざまな術を試しても、発動すらしなかった。よほど特殊なものが仕掛けられているのだろう。
どんな術式なのか、媒体があるのかさえ分からない。
…だが、式がもう里に届いているはず!きっと俺の不在に誰かが気付く…!
幸い食事は与えられているので、体力はまだそれほど落ちていない。狭い室内ではあまり鍛錬も出来ないが、できる限り身体を動かすようにしている。 最近上忍は留守がちだし、何とかしてここをでなくては…。
イルカはそう思っていた。
だが。
「今日はアンタの葬式。」
ここに閉じ込められてから数日後のある日。何故か喪服に着替えて帰ってきたカカシが、与えられたベッドの上にいたイルカに、とんでもないことを言った。
「な?!」
そんな馬鹿な!戦闘の痕跡もなく、いきなり消えた忍がそんなに簡単に死んだことになるはずもない。最悪里抜けの疑いをかけられるかもしれないが、 葬式などありえない。
「だって面倒じゃない。アンタのこと探されたら。ま、見つけさせない自信はあるけどね。ちょっと細工しただけ。」
気軽に、なんでもないことのようにカカシが言う。細工…気を失っている間に何かやったのか!?
「なんでこんなことを!!!」
怒鳴りつけるイルカに、カカシはこともなげに言い放った。
「だから。アンタが俺のものになればいいの。黙って俺に飼われてなよ。」
「…っ!」
こんなヤツにいい様にされるくらいならいっそ…!
イルカはとっさに自害用の仕込みを使おうとしたが…。
「おっと。自殺もだめ。ってまあ、仕込みは全部はずしちゃったから、無理だと思うけどね。あー舌噛んでも無駄。っていうかできないようにしたから。」
確かに仕込みがない。それに…自害防止用の暗示か!
「アンタ…なんでここまで…」
楽しそうに笑うカカシが理解できない。
呆然とするイルカをカカシがそっと手を伸ばしてくる。もう、よける気力もない。
「…いいから。今日はもう寝なよ。」
「…ぃ、やだ…」
「おやすみ…。」
その声が脳裏に響いたの瞬間、また意識が暗転していった。
*****
…温かい。
「う…んん?」
何だ?重い?ナルトか?昨日泊まってったんだっけ???
イルカは腹の上の重量感ある何かをどかそうとした。
「ちょっと。くすぐったいよ。」
くすぐったい?ナルトにしちゃ声が…って!
「な!なんなんだよアンタ!」
イルカが慌てて飛び起きると、腰に腕を回し、頭をイルカの腹に乗せた上忍と目があった。
「ん。まだ眠い。」
「…放せ!」
「アンタなかなかなつかないねぇ…。いいじゃん。ちょっとだけ側にいてよ。」
上忍は寝ぼけ眼のまま、イルカを抱きしめてくる。もがいてももがいてもその腕が外れることはなく、むしろしがみついてきた。
…その様子が子どものようだったので、疲労しきっていたこともあり、ついついその日だけだと見逃してしまった。
だが…その日以来、上忍はイルカにぴったりくっ付いて寝るようになった。任務で留守の間は一人だが、帰ってくるとイルカから離れようとしない。
一度、怪我をして帰ってきたときですらそうだった。手当てをしろと怒鳴るイルカを無視して、馬鹿力で抱きつかれたのだ。
…もちろん思いっきり殴った。そのまま風呂場で水を浴びさせ、毒の有無を確認し、手当てしてやった。だが人が心配していると言うのにこの馬鹿上忍は…
「あーちょっとはなついたかな?」
などと馬鹿なことをいうので、また思いっきり殴ってやった。だが、それでも離れようとしないカカシに、イルカの方が諦める他なかった。
結局その日も、図体のでかいが中身がかなり子どもっぽい上忍に抱き込んで眠られてしまった。
…そう、子どもっぽいのだこの上忍は。脱出を試みた痕跡をみては馬鹿にした様に笑うくせに、どこか悲しそうにしていたり、イルカを抱きしめているのに、 絶対にこっちの目をみない。まるで…自分が悪いことをしていると知っている子どもだ。
こんなことでなつく…と言うかコイツを許す気はない。だがコイツが死んだらいいとも思えない。
そんなこんなで、閉じ込められて鍛錬も十分にできないと言うのに、もともと痩せていた身体が、この上忍のせいで更に痩せてきてしまった。
「抱き心地悪くなったら困る。」
などといって、この上忍はイルカに与える食事を増やしたが、根本的な解決…イルカの開放は全く考えていないようだ。
そもそもなぜこんなまねをしたのかがわからない。…だがヒントのようなものは先日、偶然手に入れてしまった。

深夜に帰ってきたカカシが、いつもならイルカの存在を確かめるように抱きついてくるのに、何故かその日は風呂場に篭ってでてこない。
近寄るなと殺気をこめて脅されたところで今更だと思い、イルカはカカシの様子を見に伺いに行った。そのときは、大方怪我をしてそれを隠しているとか、 そんなことだろうと思っていたのだが…違った。
浴室の前で気配をうかがっていると、カカシが苦しそうな声で、イルカの名を呼んでいる。やはり怪我だったかと応急手当の準備にかかろうと思ったが、 なんとなく様子がおかしい。
更に探ってみると、鼻にまとわりつくような甘い匂いが漂ってきた。
…この匂い…!媚薬…!…なるほど。こんなところに篭りたがったわけだ。この上忍にも効く媚薬なんてろくなもんじゃない。それこそ狂うことだってあるのに、 こんなとこで何してんだこのクソ上忍!!!
…普通なら忍御用達の郭に行くか、それとも専任のくのいちが担当する。それに、コイツの顔なら誰だって薬を抜くのに協力してくれるだろう。
…なのになんでこんなところで苦しそうに自分で…俺の名前なんか呼んで…って!
あの上忍はイルカを閉じ込めてから一度もそう言ったそぶりをみせたことがない。だが…。
「…っイルカ…」
耳に残るあの声は…一体なんなんだ!!!
その日は必死で寝たふりをしたが、カカシは朝になるまで浴室から出てこなかった。
…それから何事もなかったかのように、今日も今日とてこの上忍はイルカを抱き枕にしている。
だが、そろそろ限界だ。
「アンタに聞きたいことがあるんです。」
カカシは気のないそぶりで相変わらずイルカに張り付いたまま答えた。
「なによ。俺眠いんだけど。」
「アンタはどうしてこんなまねしたんですか?」
ふさふさした頭を掴んで持ち上げ、視線を無理やり合わさせた。イルカの言葉に動揺したのか…色違いの瞳が揺らぐ。
「欲しかったんだ。ずっと。だから俺のものにしただけ。…何が悪いの?今まで何も欲しがったことなんてなかったんだから、いいじゃない一個位 。俺のものにしたって。」
せっかくあわせた視線をカカシはうつむくことではずし、ぼそぼそと相変わらず理屈の通らないことをしゃべった。
「俺は…人間です。物じゃない!」
「いいよ。どっちでも。だけど。…もうどこにもやらない。」
イルカの話など聞きたくないとばかりに、カカシはイルカにしがみついて離れない。
…腹が立った。猛烈に。
「だから物じゃねぇってんだろ!この馬鹿上忍!!!そんなことできるか!!!アンタは俺をどうしたいんですか!言っときますけど俺は頑固です! このまんまじゃ一生待ってたってアンタになついたりしませんよ!」
いい加減はっきりさせてやる!!!
「それでもいいよ。…ここにいてくれれば。」
まるで拗ねた子どものようにはっきりしない口調だ。その所作も子どもそのもの。
…子どもならイルカの得意分野だ。
「…言いなさい!アンタが本当に欲しかったものとは違うんでしょう!こんなのは!」
口調こそ敬語だが、アカデミーで子どもをしかるように、張り付いた上忍の頭をもう一度持ち上げて説教してやった。
「…いいんだよ。…アンタは黙ってここにいろよ!」
「馬鹿かアンタは!俺はアンタが何考えてんのか言えっつてんだよ!いい加減意地張んのやめろ!!!」
どこまでも癇癪持ちの子どものように拗ねてしかも怒り出した上忍に、また一発くれてやった。それでもまるで堪えた様子も無く、イルカから離れない上忍は、 張り付いたまま頭を摺り寄せて、ぽつぽつとしゃべり始めた。
「…欲しかったんだ。ずっとずっと。でもアンタはみんなのものじゃない?そんなものはいらない。アンタは怒らせたときだけ俺のことを見てた。 その…キレイで強い瞳がスキだった。…でもどっかにいっちゃうなら…もう外には出さないでおくしかないでしょ…?…俺が言ってることがおかしい のも知ってる。それでもアンタは手放せない。」
…言ってることがめちゃくちゃだ…!!!なんでこんな馬鹿なんだコイツは!!!
「馬鹿いってんじゃねぇよ!上忍!アンタ一応強いんでしょうが!そんなに馬鹿でコレまでよくやっていけましたね!」
「馬鹿ってなによ!いいよ、もう。アンタも寝な。」
「話が途中だ!黙って聞きやがれ!」
そう簡単に何度も眠らされてたまるか!!!
カカシが瞳術使いだというのは有名な話だ。大体こう何度も眠らされれば、いくらなんでも何が原因か気付く。イルカは術を使おうとしたらしいカカシの頭 を挟んで自分の身体に押し付けた。
「…」
「アンタが拗ねてたのは良く分かりました。それにてんで子どもで、大馬鹿だってことも。…さっさと教育しとけば良かった!アンタがこんなに馬鹿だって 知ってたらもうちょっと早く叱り付けてましたよ!」
「…うるさい…。」
イルカの説教にうつむく姿は、完全に子どもそのものだ。しかも威嚇するように殺気までだして…。
…なんだコイツ…いい年して、でっかいなりで、中身はアカデミー生並か?
「あーもー!!!そんな殺気怖くねぇよ!アンタなぁ馬鹿なんだよ!…そんなに俺が欲しいんならさっさと口説いて見せやがれ!!!」
「…何よ?それ…?」
言っちまった…!
自分の科白にイルカは真っ赤になった。こんなにも必死に縋りつかれては、もうイルカの方がほだされてしまうに決まっている。
…だが、この上忍にも流石にあきれられたか?と軽くパニックになったが、カカシは戸惑った表情から花が咲く様に笑った。殺気もウソのようにきえている。
「アンタ。やっぱ最高。うん。口説けばよかったんだ。」
「は?」
相変わらずきれいな顔しやがって、一人で急に納得しやがった!なんなんだ!?
「ねぇ。スキ。アンタだけが欲しい。おねがいだからアンタを俺にちょうだい。」
甘い口調で、熱っぽい視線をよこすカカシは先ほどの子どものような姿とは別人のようだ。
…モテるって聞いたことあったが、これなら確かに…。
そう思ったが、ここで引くつもりはない。
「…その前にすることがあんでしょうが…。」
「でも外に出すのはイヤだ。…また他のやつばっかり見るんでしょ?」
「アンタの口説き方が下手ならね!…大体遅いんですよ言うのが!…もう。いいです。」
まだぶつぶつと文句を言っているカカシに、だんだんよりいっそう腹が立ってきた。
もういい。こいつの根性を叩きなおしてやる!!!
「なにが!また出て行こうとする気?無駄…」
「アンタ馬鹿ばっかりやらかすから、教育してやります!一生かけてね!!!」
「何よソレ…。」
「あーもー!…一生アンタとつきあってやるっつてんだよ!もう、いいから。アンタもう俺の言うこと聞きなさい!」
…こっぱずかしいこと言わせやがって!!!大体こんな子どもをほっとけるようなら、アカデミー教師何ざやってねぇよ!!!
最初の頃は明らかに嫌がらせだと思っていたが、今思い返してみれば、やってることが完全に子どもなのだ。この上忍は。
なぜイルカなのかがわからないが、こんなことをしてまで、どうしても欲しいと強請る姿をみれば…拒めないではないか。
「だって…また、他のヤツのことばっかりになるんでしょ?ヤダよ。そんなの。」
「…仕事があれば他の人とだって話すし、笑うことだってありますよ。そりゃ。アンタだってそうでしょうが。」
大体この上忍の方が任務で忙しいはずだ。大きな任務の時など、部隊を引きいてそれこそなんにんもの部下を相手に話しているはず。
「でもイヤだ。」
イルカの言葉をお子様上忍はさっさと拒否した。
…ここで諦めてなるものか…!
「じゃ、アンタもここに一生閉じこもる気ですか?…飯も食えやしない。馬鹿馬鹿しいこと言ってないで…」
「いいじゃんそれで。忍犬使えばいいし。俺が忍が出来なくなるくらいの大怪我でもすればできなくはないし。…それがい…」
いい加減イライラしていたところに、上忍がとんでもないことを言った。
…殴る。もうコイツは殴らないと気がすまない!
きれいな顔に思いっきりこぶしを叩き込んでやった。以前からそうではないかと思っていたが、やはりイルカからの攻撃を基本的にこの上忍はよけない。
「アンタはアホですか!ナルトたちどうすんですか!それにそんな風にしたって、俺は口説き落とせませんよ!大怪我なんかしたら、さっさとここから 抜け出してやります!」
「無理でしょ?」
「無理でもです!軽々しく怪我するような人とは心配で一緒にいられませんからね!」
思いっきり殴られたのに、上忍は嬉しそうにイルカのことを見つめている。
「へぇ…」
「なんですか?!」
「心配してくれるんだ。俺のこと。」
「…あったりまえです!」
大体木の葉の忍なら、仲間を見捨てたりするなんてこと絶対しない!
それに…この上忍のことをイルカはもう突き放せない位わかってしまった。それがいいことなのかわるいことなのかはわからないが。
「…うん。じゃあいいよ。」
「なにが?」
「アンタはずっと面倒見てくれるんでしょ?俺が死ぬまで。」
「ええ!アンタがジジイになって、俺もジジイになって、どっちかが死ぬまで側にいてやります!そんで先に死んだ方は、後に死んだ方を迎えに行くんですよ! あんた絶対遅刻するだろうから、俺が先にいったら間違いなく迎えに言ってやります!」
この上忍の遅刻癖はナルトたちから散々聞いている。話を聞くところによると、数時間位はざらなのだそうだ。…とても時間を守りそうも無い。
「それ。いいな。凄く。アンタってやっぱり。」
嬉しそうな上忍は目を閉じてイルカの言葉を反芻しているようだ。
…流石にそこまでとは思っていなかったとか…?
それっきり黙ってしまったカカシは幸せそうにしているが、イルカの方が痺れを切らした。
「なんですか!」
ついカカシに向かって怒鳴ってしまった。。 「好き。大好き。」
上忍はいつもの様に、いきなりイルカに抱きついて…耳元でそんなことを囁いた。
「…急に口説き方が上手くなりましたね…。」
そうだ、すがり付いてくるときのこの顔だけはいつも同じ。欲しがりで寂しがりやな子どもの顔だ。
「そうだ!あんた出してあげるから、俺のものになってよ。それならここから出してもいいかもよ?」
…言うことは全く持って子どもらしくない!
自分の思い付きをさもすばらしいかのように喜んでいるが、内容はどうしようもない。
「任務でもないのに取引は嫌いです!」
「いいでしょ?ここから出してあげるよ?」
「だから!そんなんだから駄目だって言ってるんですよ!」
…前途多難そうだな。
カカシの態度にイルカがため息をつきながらそう思ったとき…カカシが真剣な顔で言った。
「ねぇ、ちょうだい?」
「は?」
「アンタをくれたら。…出してもいいって思うかもしれないじゃない。試してみてよ。」
「そういうことは試してみるもんじゃありません!俺が欲しいんなら口説けと何度も…」
「じゃ、さ。…アンタを全部ちょうだい?俺だけのものになって。」
「はぁ…あんたにしては上出来ですかね?」
イルカがそういうや否や、カカシはイルカの上に覆いかぶさってきた。
「ちょっと!」
重い!大体何なんだ!急に!
「全部貰う。全部欲しい。」
「アホですか…。」
「…もう黙って…かわいく鳴いててよ…。」
「なっ!」
「イルカ…。」
やってることは傍若無人なのに、縋りつくような瞳と、わずかに震えた手が、未だにこの上忍が不安がっていることを伝えてくる。
結局はいつもみたいに縋りつくしかできないくせに!
「…そんなこといって!結局躊躇してんじゃねぇか!ホラこっち向く!」
イルカはそういうと、思い切ってカカシの薄い唇に口づけた。意外に不快感がないことに驚く。きれいな顔だからというより、この上忍の中身を知ってしまった からだろう。
「知らないよ。そんなことして…。」
「なんですか。いまさら逃げも隠れもしませんよ!」
「アンタってほんとに…。」
「だから、さっさとやるんならやりやがれ!!!」
思いっきり啖呵を切ったイルカを楽しそうに見つめながら、カカシもイルカに口づけた。
*****

*****
「いてぇ…」
あの後この上忍は今まで我慢してただの、かわいいだのなんだのとイルカが憤死しそうなことを囁き続け、もっと憤死しそうな真似もしてのけた。
おかげでイルカは腰が立たない。
「やっぱり出したくないなぁ…。」
好き勝手して満足したかと思いきや、相変わらずそんなことを言う。
「アホですか!っていってー!くそ!あんたやりすぎだ!」
それに…俺の名前…呼びすぎなんだよ!!!
「うん。…アンタから俺の匂いがする。」
カカシがイルカのうなじに顔をうずめてにおいをかいでは、嬉しそうにしている。相変わらず腰に回された手でしっかりとイルカに張り付きはがれない。
「犬じゃないんだからよしなさい!で、さっさと着替える!一緒に三代目のところに行きますよ!」
このままでは埒が明かないと、カカシの頭を引き剥がしてイルカが宣言すると、また不安そうな声ですがり付いてきた。
「…アンタ。絶対に戻ってきてくれる?」
「俺は約束は守ります!アンタのほうこそヤったら気が済んだとかないですよね?」
この上忍の子どもっぽさだと十分ありえることだ。
だが、カカシは睨みつけるイルカを気にも留めず、当たり前のことを言うように淡々と言った。
「前よりもっと放したくなくなった。」
「いい加減くっ付くのはやめなさい。重い!」 イルカはぎゅうぎゅうと抱きしめてくるカカシの頭を軽く叩き、意外にすんなりこの上忍を受け入れてしまった自分に驚いていた。
嫌がらせされるは、閉じ込められるは、こんなことまでされるはで、普通ならこの上忍を殺そうと思っても不思議は無いはずなのに。
…だが、しがみついてくるカカシをはがすのに忙しく、そんなことも頭からすぐに抜けてしまった。
*****
久しぶりに忍服に着替えて久しぶりに外に出て、三代目のところで一緒に説教された。
勿論俺も許しがたい仕打ちの返礼として、カカシを更に思いっきり殴っておいた。
…やはり葬式はカカシのウソで、いまだイルカは捜索中扱いになっていた。カカシへの処分は勿論検討されたが、イルカが被害を訴えなかったこともあり、 三代目もあきれていたので、案外と簡単にすんだ。減給処分は痛いが、この上忍は金持ちなので問題ないだろう。
教育は遅々として進まないが、最近は少しこの上忍の方も落ち着いてきて、イルカが受付所にいても、不満そうにするだけになった。
…匂いをつけておかないと持っていかれるだの何だのと大騒ぎする上忍の相手で、帰ってきてからが大変なのだが。
殴ったりくっ付かれたりと忙しいが、意外とこの上忍との生活が楽しいと思うようになった。
…どうやら以前と打って変わって、張り付いて愛の言葉ばかり囁く様になったこの上忍を…俺も愛してしまったらしい。

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いじわるじゃなくてきちくになってしまったとです…orz。
しかもこれって…DV…?
ああどうしてこうも極端な人格のカカチてんてーばかり製造してしまうんだろう…。
イルカてんてーも…ぼうりょくてきだ…。
タイトルがおかしいのはデフォルトですが…。毎回思いつかなくて変なのになってます…。
気分が悪くなった方は、速やかに記憶から消去されることをお勧めします。
あー…所で、得ろは夏らしく追加した方がいいですかね…?ご希望がありましたら書こうかと おもいます…。5555HITのお祝いにでも…。

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