資料室で目的の資料を手にとって、ついでにため息をついていたら、通りがかったらしいサクラに心配されてしまった。 「どうしたのイルカ先生?ため息なんかついて。」 やっぱり女の子だよなぁ!こうやって細かいことに気がついて…! だが、元生徒に心配されるなんて教師失格だ…。 「あーその、いや、ちょっと人生に迷ってな!」 ことさら明るくそういうと、一緒にいたナルトが目を細めて言った。 「イルカ先生ってば何だかカカシ先生みたいだってばよ!」 「馬鹿!」 サクラは止めてくれたが、すでにざっくり言葉の刃が刺さった後だった。そうか…俺はもうすっかりあの変態に毒されてるのか…。 視界が真っ黒に見えるくらい凹んだ。 「イルカ先生!気にしないでね!ナルト!行くわよ!」 「なんで!だってさ、だってさ!俺ってばイルカ先生にラーメン…」 「うるさい!黙ってついてきなさいよ!」 耳を引っ張られて連れて行かれたナルトを止める気力もないくらい、落ち込んでいる自分を感じた。 あの日、アレがいなくなってからも、女将がいろいろと面倒を見てくれて、温泉を楽しんだはずなんだがあまり記憶に残っていない。 一番記憶に残っているのが、あの馬鹿がやっぱりあの宿を貸しきりしてたってこと位だ。温泉も最高だったし、飯も美味かったはずだ。 …ソレなのに俺はいなくなった駄犬のことばかり心配して…。いや!心配じゃないぞ!唯単にちょっと責任を感じただけ…だよな…? もし仮に、アレが帰ってきたとして、やっぱりアレはいつもの様に俺にへばりつくだろう。それではアレにとっても不幸だろう。無理をして、 それでも俺にへばり付いてケツを狙う理由が俺にはわからない。 だが、アレがどうやったら諦めるのかが分からない。 ぼんやりしながらたった今とってきた資料を持って、職員室に戻った。 ***** 「なあ、イルカ。大丈夫か?」 「え?」 「気付いてないのかよ?ここんとこずっとため息ついてたぞ?」 同僚に心配されて始めて気づいたが、どうやら無自覚にため息を付き捲っていたらしい。我ながら情けないことだ。たかが変態に粘着されたくらいで…って 一大事だよな…普通ありえないよな…四六時中ケツを狙われるなんて…しかも腕だけはトップクラスの上忍。…被害は甚大だ。 今ままでの事を思い出して更に凹んでいたら、同僚がぽんと肩を叩いてきた。 「なあ、話してみろよ?…やっぱり、アレが原因か…?」 最近アカデミーでは、アレといえば地面をカサコソ移動する黒光りする虫などではなく、俺に付きまとう変態上忍のことになっている。 そして、俺の様子がおかしいと、いの一番に疑われるのがアレの異常行動なのだ。 「あのさ、アレが、どうも異常に無理して俺に張り付いてるみたいなんだよ…」 それからポツリポツリとこの間からの変態の奇行と苦労話をした。 同僚は親身になって聞いてくれたので、それだけでも大分気が楽になったが、やはり客観的な意見も欲しくなった。 …半分くらいはただ単に愚痴を吐き出したかっただけかもしれないが…。 「それで…どうやったらアレが諦めてくれると思うか…?」 今までアレのことで、間接的にも直接的にも迷惑をこうむって着ていて、尚且つ俺自身、不安と疲労で相当喋り方がおかしかったと思うのに、 それでも聞いてくれた同僚に甘えて、そっと一番悩んでいる事を聞いてみた。 だが、返ってきた答えは衝撃的なものだった。 「あのさ、一回やったら諦めたりしないかなぁ…?」 「え?」 一回やる。つまり、アレと、一回、ヤル、ということは、アレと…! 俺があからさまに混乱しているのに気付かず、同僚はぼそぼそと続けた。 「手に入らないからしつこいとかってないかなぁ…それなら一瞬でも手に入ったら満足して開放されるとかさ…。」 同僚もかなり参っているんだろう。なにせ何度もあの変態の被害にあっているのだ。アレが一筋縄では行かないことも良く知っているのだろう。 一応冷静を取り繕って、俺は同僚に答えた。 「それは…ちょっと…いやかなり…」 めちゃくちゃな答えになってしまったが、意味は通じたようだ。 「あ、うんゴメン!!!済まん!!!変なこと言った!忘れてくれ!」 「いや、いいんだ。すまん。」 何とかして諦めて欲しいのはコイツ…というかアカデミー職員全員一致した見解だろう。なにせ俺がアレにくっ付かれている間は、 いつ誰に被害が及ぶか分からないのだから…。 俺がまた深いため息をつくと、同僚がまたぽんと肩を叩いてきた。 「…あのさ、悩んでるんだったらさ、ちょっと気分転換でもしてきたら?で、アレのことは今度みんなで相談しよう?俺だけじゃ碌なこと思いつかないし…。 な?」 「ああ…。そうだな。」 つい優しさに甘えてしまったが、今ここでぐだぐだ悩んでも仕方ない。俺は大体仕事の目安をつけると、気分転換に出かけることにした。 まずは一楽だ! ***** 「まいど!…イルカ先生!頑張れよ!」 「ありがとう。テウチさん…。」 折角のラーメンだったというのに、まるで和めなかった。美味さは変わらない。いつも通り美味いラーメンだった。しかも今日はテウチさんがチャーシューを オマケしてくれて腹も十分満たされている。 だが、食っている間中、アレのことが思い浮かんでしまうのだ。 こんなことならさっきナルトを捕まえて一緒に食ってれば良かったかもしれない。 だが、何よりこんなに悩むのはアレのせいだ。俺がもっとアレについて冷静に対処していたら、変わっていたかもしれない。そう思うといたたまれなく なってきた。 アレに対抗することばかり考えてきて、アレのことはあまり考えてこなかった。俺のことばかりじゃなくて、アレの今後のことも予想しておくべきだった。 アレが今無理をしすぎているのも俺のせいだとしたら…。 悩みながら歩いていたら、うっかり電信柱に頭をぶつけた。痛みと共に情けなさがこみ上げてきて、涙が出そうだ。 …逃げよう。距離をとって、冷静になるまで…。 それにはやっぱり任務が一番だ。長期任務に出れば、いくらアレでも着いてこれないし、そのうち忘れるだろう。 そのために、まずは勘を取り戻さなくては…!前回のように変態に助けてもらうのなら本末転倒だ!あの時は油断したが、これからは絶対にあんなことに ならないよう、己を鍛えなおそう! そう決めた俺は、受付所に向かった。 ***** アレが現れる前にシフトの調整も済んで、ちょうどいい任務も見つかった。1週間の任務だが、単独でなく4マンセルの物資運搬。 これならそこそこ安全で、戦闘はあるかどうかわからないが、とにかく久しぶりに外の空気が吸える。 とにかく少しでも早く、勘を取り戻したかった。 中忍ばかりなので気も楽だし、襲撃もなく、無事に目的地に着くことができた。 これから教職を離れる事を思うと、中途半端な己の不甲斐なさに落ち込むが、将来的には里のためにもなるはずだ。 その第一歩がまずは順調に終了できそうで、俺は悩みながらも穏やかな気分になれた。 …はずだったのだが。 「何で…!?」 物資を指定された倉庫用の天幕に運び込み、そこから出たとたん何かが腰にくっ付いてきた。 「イ、イルカせんせぇー!!!!!」 俺の名前をやたらでかい声で叫びながら股間に擦り寄ってしかもケツを揉む。 …コレがあれ以外だったら俺は世を儚む。こんなもんが一匹どころか二匹も三匹もいたらどうしたらいいのか…。 まあ、つまり。運悪くアレのいる場所への任務だったということだ。 もしかすると三代目の微妙なおせっかいである可能性もあるが、どっちかはこの際どうでもいい。問題は今正に進行中の変態による変態行為を どうやって部隊に被害を与えない形で中止させるかだ。 「放せ!駄犬!」 「イルカせんせぇだあー!!!俺の、俺のイルカせんせー!!!!!」 いつも通り訳の分からないことを言いながら、腰周りにぺったりと張り付き、振り払っても振り払ってもケツか股間にすりつく変態に辟易しながら、 何とかしようと、思わず視線で同じ部隊の仲間に助けを求めたが、誰も視線を合わせてくれない。 …当然といえば当然だが、助けてくれたっていいじゃないか! 一人奮闘したが、寂しかったらしい粘着力最大の変態は全くはがれる気配がない。 踏んでやったとしたら、部隊の士気が著しく下がるのは明らかだ。…まあ、それに関してはすでに手遅れな感がなきにしもあらずだが、 これ以上士気を下げたら任務の成功に関わるかもしれない。 それに…これもある意味チャンスだ。一度きっちり腹割って話せば、この変態の考えが少しは分かるかもしれない。今まで説教ばかりしてきたせいで、 変態の行動の基準がいまいち飲み込めていなかったのかもしれない。ここは駄目元で挑戦すべきだろう。 俺はすでに習慣化しつつあるため息を一つつくと、変態の耳をひっぱって、耳元で囁いてやった。 「俺のうちで待ってる。話がある。任務が終わったら来い。」 いつも放っておいてもいつの間にか湧くのだが、コレを言えばおそらく…。 「わあ!お呼ばれですね!ということは!夜のお誘い…!!!楽しみです!ああもう!今からじゃお道具そろうかなぁ…!? 特注のはもう用意してあるんですけど!足りないかも!!!どうしよう!?とりあえず! 下着はどんなのが好みですか!!!やっぱり黒ビキニ?それとも魅惑のクラシックパンツ!?」 「黙れ!」 予想通り舞い上がった変態を黙らせるべく、とりあえず手近な茂みにまで引きずって行った。 「初めてが青姦…!わくわくしますね!」 すっかり勘違いしてごそごそ服を脱ぎ始めた変態を足蹴にしてやった。 「ああ…もっと踏んでください…!!!」 その後も一人で勝手に興奮しているもだえている駄犬に辟易しながら、そんな変態にも分かるように、大声で言ってやった。 「オイ駄犬!…怪我はするな!入院なんてもっての他だ!チャクラ切れもするな!…そうすれば俺にんちに招いてやらんでもない!」 一気に言い切ると、また変態が涙を流し始めた。 「そんなに期待されてるなんて…!!!俺、頑張ります!この命尽きようとも励みます!!!何度だってやれます!俺の…」 黙って聞いているとどうしようもない事を延々と話し続けそうだったので軽く蹴り飛ばして止めやった。 「いいか!絶対だぞ?分かったな…?」 俺が足元ではいつくばって、隙あらば俺の靴を舐めようとしている変態に確認を取ったが、変態はすっかり夢の中で…。 「禁欲的なようでいて、下から色々見えちゃうトランクスとか…いやむしろ何もはかないで…!!!」 諦めた俺はブツブツつぶやき続ける変態を茂みに残したまま、仲間の元へ戻った。 …その後、里に戻るまで正に針のむしろ状態だったが、俺は覚悟を決めた。アレが帰ったら…決着をつけてやる! ***** 今目の前でうっとりした目で俺を見つめているのは、変態だ。 そして、俺は今、任務から帰ったばかりだ。 …ヤツの変態性を甘く見ていた。 「お帰りなさい…!!!お待ちかねの俺です!下着は…脱いで見るまでのお楽しみです!…きゃ!言っちゃった!!!」 興奮はしているようだが、いつぞやのように襲い掛かってくることや、さりげなさを装って手を出してくることもなさそうだ。 だが、豹変する可能性は高い。俺は内心びくびくしながら、荷物を片付けに部屋に移動しようとした。風呂に入りたかったが、この状況では危険だ。 諦めるほかないだろう。 「イ、イルカせんせ…っ!お風呂、先の方がいいですよね…!?俺はそのままで匂いを楽しみたい気持ちもあるんですけど…!ココはイルカ先生の意見を…!」 だが、背後からそんな事を言う変態に言われて、荷物も奪われ、俺は風呂場に押し込められた。いつもなら振り払うのに苦労するというのに、 変態はついてきている気配がない。 「…なんなんだ…!?」 俺はあまりにもヤル気まんまんな変態に怯えながら、風呂に入った。いつ変態が乱入してくるかわからないと、警戒していたが、 結局変態は入ってこなかった。 予想外の展開だ。あれは隙を見せたらヤられる違いないと思ったんだが…。 変な仕掛けが無いか確認しながら居間に戻ると、変態がちゃぶ台にお茶を出して待っていた。 「その…今日はどのような趣向で…?」 首をほんのりかしげて、話しかけてくる変態は、あからさまにおかしい。…悲しいことにいつものことだが…。 だが、何だかこの聞かれ方だと料亭の注文聞かれてるみたいだが、変態がそんな事を考えているわけが無い。その姿を見れば、意図があからさまにわかる。 懐からなんかこう…見えちゃいけない大人用玩具が見えていたり、巻物ホルダーからは何に使うのか想像もしたくない薬品チューブが 沢山突っ込まれすぎててはみ出しまくってるし、ポケットも怪しい出っ張り方をしている。 だが、まずは話し合いが先決だ。いつもはどうやって逃げるかに主眼を置いて行動していたが、今日はまず、なぜ俺相手にこんなにもヤル気なのかという謎 をいち早くはっきりさせる事を目的にすえて行動することにした。 「話があると言ったのは覚えているか…?」 「はい!結婚式の段取りですね!」 相変わらず変化球な受け止め方をされたが、めげずにきっぱりと断った。 「結婚は断る。…だが、貴様は俺にどうして欲しいんだ…?」 いつもは断っても照れてるだの何だので誤魔化されたが、今回は俺の気迫が伝わったのか、変態がちゃんと質問に答えた。 「イルカ先生には、安全なところでずっといつでも俺の帰りを待ってて欲しいです!!!」 力の篭ったその発言からして、どうも妄想ではなく本気のようだ。 全部は無理だが、妥協点を探るべきだろう。お互いに不毛な戦いは回避すべきだ。…まあコイツは全開で楽しんでいるようなんだが…。 「安全な所ってのは無理だが、待ってるだけなら…」 俺もコイツも家族がいないし、あくまで同胞として待っててやる分にはかまわない。帰るところが無い生活が長すぎてトチ狂ったのかもしれないし、 コレで解決するならお互いにとって理想的な解決法に違いない。 だが、変態は俺の発言を遮って話を続けた。 「で、帰ってきたら、俺のことを一番に出迎えてくれて、いちゃいちゃしまくって…それで末永く幸せに暮らしたいです!!!!!」 やはりコレだけでは済まなかったか…。イチャイチャだの何だのというのは受け入れかねる俺ははっきり言ってやった。 「あーその、いちゃいちゃってのはナシだ。」 「自信ありますから!!!」 やはり話が通じない。だが、ココでキレたらいつもと同じだ。出来るだけ冷静さを保つために深呼吸をしてイライラを押さえ込み、 俺は変態にゆっくりと語りかけた。 「あっても断る。ソレなしってわけにはいかんのか…?」 「だって!夫婦ですよ!!!」 …だからなんでそうなる!? 「おい駄犬!それは断ると最初に言ったな…?俺は、かわいい嫁さんが欲しいんだ。お前は男だし、どっちかっていうとはた迷惑な駄犬だろ!」 つい堪忍袋の尾を千切ってしまい、俺はまた変態に怒鳴りつけていた。だが、変態も負けてはいなかった。 「それは…プレイですから!俺はお望みとあらば鬼畜からアンニュイな色男まで何でも出来ますよ!!!」 そんな事を言いながら、懐から何か怪しげなものモノをちらつかせてくる。…鬼畜だの何打のはご免こうむるが、今見えた白いフレームのサングラスは 何に使うつもりなんだ!? 俺は危険な方向に向かっている話を正しい方向に戻すために、再度問いかけた。 「お前の素は…どっちなんだ?」 「んー?今。ですかね?そういえば。」 かるーく答える変態は、やはり変態だということが良く分かった。 「ならやっぱりただの駄犬だな。」 話すのがだんだん馬鹿らしくなってきて、俺が一旦茶でも入れなおそうと席を立つと、変態が俺の脚にすがり付いてきた。 「駄犬でも!いい仕事しますからぁ!!!」 「泣くな!…平行線か…。」 鼻水たらしながらぎゃあぎゃあわめく変態は、俺の足から離れたら死ぬと思い込んでるんじゃないだろうかという位、しつこくしがみ付いて離れない。 …こうなったらどちらかが折れるしかない。そしてこの駄犬には話が通じない以上、必然的に俺に残された選択肢は一つだ。 「駄犬。どうしてそんなに、その、…したいんだ…?」 俺はどう考えてもコイツに突っ込みたいと思えない。いくらキレイな顔をしていても、だ。 …というか、元々男は論外だ。確かに女性の裸にはあまり免疫が無いが、だからといって、男がイイと思ったことなど一度もない。 とにかくコイツが男という時点で、俺にとっては無理がある。…時々可愛いと思うのは幻覚に違いない。 …だが、そんな事を気にするようなら、変態をやっているわけが無い。 「だって!イルカ先生のおしりが…!!!」 「ケツの話題から離れろ!!!」 やはり諦めない変態が、ぬるぬるとうなぎのように俺のケツまで這い上がってきて、擦り寄りながら意味の分からない事を言い出した。 ケツが誘うだの何だのと…言いがかりも大概にしろ!!! 「大好きなんです!だからしたい!したいです!」 「うるさい!黙れ!!!力いっぱい恥ずかしいこと連呼するんじゃねぇ!!!」 大体好きなのは俺なのか俺のケツなのかはっきりしない。イライラしながら無駄に逆立った頭目掛けてこぶしを放ったが、いつも通り簡単に避けられた。 「おっと!でも!したいんです!絶対!どうしても!!!!!だって、イルカ先生が大好きなんです!!!!!!」 変態が執着しているのがどうやら俺のケツだけではないことが分かったが、同時にこいつが諦めることがなさそうだということも良く分かった。 それなら…試せる手は残されていない。絶対に選びたくなかった手段しか。 「……いいか。良く聞け。」 「はい!イルカ先生の色っぽさ全開の吐息さえ聞き漏らしません!!!」 俺の低い声に瞳を輝かせた変態が、また犬座りで俺の前に移動した。 どこまでもコイツは変態だ。 俺は…腹を、括った。 「ちっ!…いいか、一回だけだ。一回だけなら試してやる。それでやっぱり俺が耐え切れないと思ったら諦めろ。それと…」 「頂きます!!!」 俺が火影岩の上からチャクラなしでダイビングしつつ尚且つ背中に大岩しょって、しかも上から溶岩流し込まれるくらいの覚悟で 言ったと言うのに、変態はすっかり興奮して踊りかかってきた。 「おい待てこら!!!」 「お、おあずけプレイからですか!!!」 俺が慌てて変態の頭を押さえ込んだが、明後日なことをいいながら、手を止めない。涙目で一生懸命にすがり付いてくる。 …これはもう。しょうがない。よな…? 「ちがう。その前にだ。あー…おかえり。よく頑張ったな。」 「えへへ…幸せです!!!」 ぐしゃぐしゃと頭を撫で回してやると、犬のように目を細めて気持ちよさそうにしている変態は、本当に幸せそうだ。 コレを見ている限りでは無害そうなのだが…。 「やっぱり…これだけじゃ駄目か?」 俺が駄目元でそう聞いてみたが、次の瞬間変態は俺を担いで寝室に飛び込んでいた。 「もちろん幸せですけど!もっと幸せにしてみせますから!!!!!」 「うわっ!」 ***** 慌てふためく俺を、更なる驚愕が待ち構えていた。 「な、なんだこれは!?」 「初夜仕様です!!!天蓋つきでー!レースたっぷりでー!バラの花も敷き詰めてあります!!!」 任務前は普通の独身男性の寝室…つまりそこそこ物はあるんだが、どっちかというと閑散としていて、なんとなくうっすら散らかっているといういかにもな 部屋だったはずなのだ。しかも、最近ベッドを処分…というかおそらくコイツに回収されてしまったのだが。とにかく、そのせいでより一層すかすか していたはずの俺の部屋が…大変貌を遂げている…!!! 俺の部屋だったはずのそこには、何故か部屋一杯にデカイベッドが設置してあり、しかもスケスケの妙な布切れで周囲が囲まれている。 そして床中に何故か大量の花びらが撒き散らされていて、歩きにくいことこの上ない。 …といっても、今は不本意なことに変態に担ぎ上げられているので今のところ被害は変態が一身に引き受けているのだが、全く嬉しくない。 「おい!これ、元に戻せ!!!」 「初夜の思い出に…やっぱりドレスの方が…?イやむしろこの場で生まれたままの…」 だめだ!コイツもうどっか遠くにイっちゃってる!? しょうがない!こうなったら…。 「おい!犬!俺を下ろせ!」 「はい!俺の大切な大切なイルカせんせ!今宵のアナタの褥は俺の腕の中です…!!!」 何故かやたら慎重に扱われ、意味もなくそっとこれまたやたらふかふかのベッドの上に下ろされた。囲まれているのがなんとなく不安だ。 逃げ場が無い感じがする。 「おい犬!感激してるとこ悪いが、今回の件は無かったことにする。俺は今晩どっか外に泊まるから、明日までに元に戻しとけよ!」 「まったまたー!照れちゃって!安心してください!」 変態はやはり話は通じない上に、下着の件に突っ込む隙さえなく、あっという間に全裸になっていた。 …全く説得力が無い!!! 「安心なんぞ欠片もできるか!!!大体なんで俺の許しもなくこんな…!?」 俺が言い切る前に、俺の服は宙を待っていた。 忘れてた…!こいつ異常に手が早いんだった!!! 「おい!ちょっ!犬!」 「はい!俺はアナタの忠実な犬です!というわけで…今日は舐めて舐めて舐めまくろうかな!!!」 やたらつやつやした顔の変態が、勝手な抱負を述べた後、勝手に実行に移そうとしている。 そのセリフのどこを探しても、会話が出来そうに思えないが、俺はとにかく絶対に変態プレイはお断りだ! 「いいか!俺は…普通がいい!変な真似をするな!道具も特殊な環境もいらん!普通が一番だ!!!」 男同士という時点で普通からは外れる。自分でも何を言ってるんだ!と思わないでもないのだが、コレくらい言わないと変態には理解できないだろう。 「普通?でも、ソレだと満足できなくないですか?それにコレくらいは普通ですよね!!!」 やはり…会話が通じない。 かくなるうえは…! 「聞け!まずコレを守れ!…無駄に舐めるな、焦らすな!それに絶対に道具は使うな!あと、変な言葉遣いも、コスプレもいらん!」 えー?と不満そうにしている変態を押しのけながら、何とかコレだけは宣言した。 これ以上わけの分からん経験値は増やしたくない! 「分かりました!道具ナシ…ということは!舐めるのは必須ですね!」 「はあ!?」 何でそうなる!? 「だってぇ…怪我させたくないしぃ…何にも使わないなら、ココは俺の舌技で…!!!」 具体的な想像はしたくないが、要するに突っ込むにあたっての…。舐める!? 「断る!…その用途に限ってなら、道具の使用は許可する…。」 本当はいやだ。だが他の方法がもっといやならココは妥協する。 俺が苦渋の決断をしたというのに、変態は嬉しそうに笑ってどこからともなく怪しく蠢くプラスティック製のイルカ型の何かを取り出した。 「じゃ、早速この…」 「俺が許可したやつだけにしろ!いいな!」 何に使うのか想像がつくだけに恐ろしい…!チェックを欠かすと酷い目に合うのは確実だ! 「はあい!!!」 俺が厳命するのに変態はこぼれんばかりの笑顔で嬉しそうにイイ返事を返し、さっそくのしかかってきた。 体制的には今まで自分がやってきたのと同じなわけだが、妙に恐ろしい。何をされるか分からないというのもあるが、やはり襲われるというのは 本能的に受け入れがたい。 だからといって、目を閉じようものなら変態がまた妙な道具を取り出してくるのは目に見えている。 俺は変態がぴったりくっ付いてきて、その結果非常に分かりやすく興奮している事実を突きつけられて、戦々恐々としていた。 だが、予想に反して、変態は俺の事をやたら丁寧に扱った。 いつもはお休みのちゅーだのステキなおしりだのという、下らないことばかり吐き出す口が、柔らかい微笑を湛え、俺に触れる手もまるで壊れ物でも 扱うかのようにそっと触れてきた。何だか逆に不安になった。 だが、変態の囁きで少しは理解できた。 「イルカせんせいだ…。」 要するにこの変態は俺のを確かめているわけだ。幻か何かのように消えてしまうんじゃないかと疑って、しつこく俺の身体を撫で回して… それでも消えないから笑っていると。 …アホだな…。 「俺は俺だ。消えたりしない。やるのか?やらないのか?」 「も、勿論やります!!!」 自分から煽るような事を言ってしまい、正直後悔したが、変態がそれはもう嬉しそうに俺に食らい着いてきたので、妙にホッとした。 …後で、非常に深く悔いたのだが。 ***** ☆ ***** 「技の限りを尽くしました!!!」 「み、水…」 喉がからからだ。…何が原因かは考えたくないが、とにかく水分が欲しい。俺の言葉に反応した変態が一瞬視界から消えたから、 水分補給はすぐにできるはずだ…。 「どうぞ!!!!!んー!」 「んー!!!!!」 瞬きする間に戻ってきた変態の口から、体温で暖められた生暖かい水分が流し込まれた。抵抗を試みたが、もはや体力が限界に達していて、 途中で妥協した。 …今は水分摂取が最優先だ…!!! 「ああ…イルカ先生の粘膜はどこもかしこも俺を包み込むように柔らかくて…興奮します!!!」 勝手に盛り上がった変態は、また変態らしい感想を述べた後、俺のケツだの何だのを揉みしだく。 「知るか!!!くぅっいってぇ!喉とか腰とか…!!!二度とこんなこと…」 とっさに手を振り上げて顎を狙ったが、あっさり交わされた上に、邪な輝きに満ちた瞳の変態に覗き込まれた。 「…もっとですか?」 「人の話し聞きやがれ!!!」 もっとの中身が水ならいいが、コレはどう考えてももっと危険な何かに決まっている!!!俺は怒りに任せて拳を顔に放ったが、 今度は変態の手が俺のこぶしを包み込む様に握りこまれてしまった。 「幸せです!すっごく幸せです!!!今すぐ里中を叫んで回りたいくらい幸せです!!!あーもうどうしましょうか!!!里中で今日のこの日を 寿いでもらおうかな!!!火影になったら記念日制定で!!!」 とんでもない夢を語る変態は、笑顔と妄言を垂れ流しながら、すごい速さで俺のケツだのなんだのを揉んでいる。 不埒な手を振り払い、すっかり舞い上がった変態を殴りそうとしたが、抱きつかれたために果たせなかった。それでも諦めずに、 言葉による説得を開始した。 「落ち着け!!!お前、コレがお試しだって言うのは理解してるな?」 「はい!俺…今からもっとお試ししてもらおうと思ってますから!!!結果はその後で!!!」 やはり、斜め上の回答が返ってきた上に、早速とばかりに人の足の間に腰をねじ入れようとしてきた。 「もういい!やめろ!!!そんなにできるなんて貴様化け物か!!!…ああ…そういえば化け物並みに回復力が…」 一晩中。本当に一晩中好き勝手しやがったのだ。こいつは。しかも俺がすっかりへとへとになって出すもんもなくなったというのに、 いつまでもいつまでもしつこく…。 やはり俺が側にいる時のコイツは、異常な回復力を発揮する。 「そりゃもう!イルカ先生を前にしてたら…ほら!」 しかも、俺のセリフに照れたようにはにかんだ変態は、股間をちらつかせながらにじり寄ってきた。 「そっちじゃねぇ!!!しまえ!むしろ切り落とせ!そんなもん!!!」 「ええー!?だって、これないとイルカ先生が困りますよ?ま、昨日は締りよすぎて食いちぎられちゃうーって思いましたけど!!!えへへ!!!」 「黙れ!もう貴様は口を開くな!」 シモネタばかり口にする変態に命令すると、ぱくっと口を閉じた変態が、ニコニコ笑いながら口を近寄せてきて…。 「…ん。」 「無言でやれって言ってるわけじゃない!!!この手は何だこの手は!」 勿論近づいてきた口は俺の手のひらでブロックした。…勝手に人のケツなでまわしやがって!!! 「ええ?じゃ、どうやって?」 本気で不思議そうな顔をする変態に、流石に我慢できず、思いっきり怒鳴ってやった。 「やるなといってるんだ!だからもうしない!今日はこれ以上やったら俺が死ぬ。」 腰も、人に言えないような所も…とにかく全身が限界を訴えている。これ以上は本気耐え切れない。忍として、ヤリ殺されるなんて死に方… 受け入れられるわけが無い! 必死で人が言聞かせているというのに、変態はいい笑顔で俺に向かって微笑んで、またとんでもない事を言い出した。 「大丈夫です!!!さっきの水にステキなお薬…」 「人に何の断りも無く妙なもん盛ってんじゃねぇ!!!匂いとか全然しなかったぞ!?」 「ああ、俺特製愛情たっぷりの…」 良く分からんものを飲まされたということだけは分かった。それ以上の情報はこの際無意味だ。 「もういい…わかった。俺は寝る。貴様は出て行け!!!」 「ええー!!!まだ…」 未練たらしく俺の潜り込んだ布団に擦り寄る変態に背を向けたまま、犬を追払うように腕を振った。 「そっちの部屋に貴様用の布団があるだろ!そっちで寝ろ!!!」 「ああんもう!焦らしプレイですね!!!…でも…」 俺の冷たい物言いに、返って興奮したようだ。変態はもじもじと身をよじっている。だが、語尾がおかしい。 不審に思って振り向こうとしたが、その前に変態に抱き上げられてしまった。 しかも所謂姫抱っこ。…憤死ものだ…!!! 「…っなにする!」 身動きするのも辛い身体に鞭打って、変態の首を締め上げようとしたが、スッと柔らかく手をとられ、口づけを落とされた。 しかも、えらくご機嫌な顔で、どんどん妙な事を口にする。 「お布団きれいにして、何より!イルカ先生を全身!くまなく!すっきりと!キレイにしないと!!!」 「わぁ!放せ!自分でやる!!!」 とんでもない事をされる前に、何とか自力で風呂場に行かなくては…! 俺は変態の腕を掴んでははがされるという不毛な行動を繰り返した。 それに不思議そうな顔をした変態が、さらっと言った。 「無理ですよ?だって歩けないでしょ?」 「さっき妙な薬飲ませただろうが!!!」 変態の薬を飲んだときの回復振りは今でも覚えている。もうすでに歩けるようになっているはずだ。 …だが、妙に力が入らない。 困惑する俺の顔を覗き込んで、変態がいい笑顔で言った。 「あ、さっきのは主に粘膜に作用するんで、足腰はむりかなぁ?」 「確信犯か!?」 真っ青になりながら、それでも最後の望みは捨てずに、俺は必死でもがいたが、がっちりと掴まれた身体はびくともしなかった。 「さ、お風呂―!!!一緒にお風呂―!!!お風呂プレイー!!!」 「は、放せー!!!!!!最後のは何だー!!!許可してねぇ!!!」 妙な節回しで危険な発言を繰り返す変態を何とかして止めようとわめいたが、変態の上がりきったテンションでは、俺の言葉など アリのつぶやきよりも軽かった。 ちょんと俺の花に人差し指を当てた変態は、にっこり笑って元気一杯、笑顔全開、股間も全開だ。 「テ・レ・やさん!!!さ、天国に行きましょう!一緒に!!!」 「違うって言ってるだろうがー!!!!!」 大声で叫ぶ俺の声は、どこにも届かなかったようだ。 ***** 「で、コレはいったいなんですか…?」 三代目に呼び出されてみれば、日付が並んだ紙切れを渡される。…コレはいったい何の暗喩なんだ? 「式の日取りじゃ。」 「なんの…?」 「結婚するんじゃろ?」 「誰がですか?」 「おぬしが。」 「だれと?」 「じゃから、おぬしの夫。はたけカカシとじゃろう?テレるにしても…」 「照れてません!三代目まで…!!!俺は結婚はしません!」 いつのまにこんな話になってるんだ!?俺が1週間ぶりにやっと出勤できたというのに、何でこんな疲労することばかり…。 同僚には涙され、主任なんか卒倒したんだ!それに…生徒たちには何か違うっていわれるし、受付でもなんか変にじろじろみられるし…!!! これはつまり、変態が妙な事を言って回っているに違いない!!! 激しい怒りを覚えている俺に対して、何を勘違いしたのか三代目が胸を張って宣言してくれた。 「安心せい!ちゃんと仲人はこのワシが!」 「いりません!」 仲人以前に結婚しねぇ!!!なんだってそんな話に!!! 俺が三代目の机に手のひらで叩きながら訴えていたら、背後から援護射撃が加わった。…但し非常にあさってな。 「そうです!もう身も心も結ばれたので、披露宴はいいんです!」 「…籍だけ入れおって!それではイルカがかわいそうだとは思わんのか!」 「でもぉ!イルカ先生のお願いなんです!!!」 ぐだぐだ言い合っているが、当事者である俺をものすごい勢いで置いてけぼりにしている。 「籍に関しては同意してねぇ!いつのまに勝手なことしやがった!!!」 一緒に住むことに関しては、同意しなければヤリ殺されそうだったのでしぶしぶ同意したが、それ以外は全部拒否したはずだ!!! …それなのに、変態はしれっとした顔で言った。 「え、初夜の翌日に速攻。」 「淡々と答えるな!何度も言うが同意してねぇ!!!」 「照れないで…?大丈夫!ちゃんと結婚披露宴は火影就任と同時に5大陸全体に知らぬものなど無い規模で開催しますから!!!」 「いらねえぇぇえ!!!!」 心の底から叫んでやったが、三代目は俺の叫びより、カカシの妄想の方が耳に響いたようだ。…ボケてるのか!? 「おお!ついに決心したかカカシ!では早速!事務的なことから学ぶように!」 「はい!俺も家庭を持って覚悟が決まりました!!!」 「…なんでだー…!!!!!」 疲労しきっている上に、勝手に手と手を取り合って、キラキラした感動場面を展開する二人においていかれた俺は、弱弱しく叫ぶことしか出来なかった。 ***** あれから、いつの間にか対外的にも俺の夫ということになってしまった変態に悩まされる日々は続いている。 …そして、目下の所の俺の目標は、火影になるというコイツの夢を阻むことである。 披露宴だの初夜記念日だの…冗談じゃない!!! 「イルカせんせー!!!今日も任務がんばってきました!!!なでてください!!!」 「飛びついてくるんじゃねぇ!この駄犬が!…座れ。」 今日も今日とて任務帰りに飛びついて人のケツを撫で回す変態を足蹴にしてやる。 「はあい!」 「よしよしと…コレでいいだろ?」 イイ返事で犬座りしている変態の頭をおざなりになでてやれば、いつものように目を細めて幸せそうに駄犬が笑う。 「えへへ…!!!」 すりすりと懐いてくる駄犬との戦いは…今後も続くだろう。だが!俺は絶対に…絶対に負けねぇ!!! 「今日こそ道具…!」 「ふざけんな!!!」 「ああん…!!!もっと…!!!」 変態の腹を踏みつけながら、俺は改めてこのもしかすると永遠に続くかもしれない戦いに絶対に勝利する事を誓ったのだった。 ********************************************************************************* 変態さんとの関係は一応進展。 マニアックなシーンは…いりますか…? 今更かもしれませんが、流石にニーズが心配なので…。 ご意見ご感想、変態さんへのおめでとうメッセージなど、拍手などからお気軽にどうぞ…!!! |