温泉宿にもご用心!

何だか分からないままに任務だと連れだされて、振り回されて…。結局俺がやったことといえば買い物しまくるカカシを止めるのに 失敗したのと、勝手に押し倒してきたカカシが調子づくのを止めようとして失敗したくらいだ。
…そのまま続行されかねない状況だったが、腹が減ったと喚き倒して食事を取ることには成功した。俺が喚いている間に カカシが「ちょっと行ってくるね。」とか言って一瞬見えなくなったと思ったら…すぐにどっからこんな豪勢な飯が 来るんだと疑問に思うくらい美味そうなお膳が出てきたのだ。
腹は立つ。そして…腹は減っている。開き直った俺はとにかく飯をガツガツ食った。
カカシがソレを言い出したのは、出てきた飯を半分やけになって全部キレイに平らげて、人心地付いた時だった。
「ねー。次はさ、温泉が近くにあるらしいからソコでもいいよ?」
俺を背後から抱きこんで食事介助という名のセクハラをしてきていたくせに、カカシはちょっとえらそうだ。
「温泉?温泉なんて…温泉!?」
温泉は…実は湯治が趣味ってくらい、大好きだ。それに、最近よく腰が痛むのだ。
きっと温泉に入ったら凄く気持ちイイだろう…!こんな時こそ温泉だ!…まあ、その痛みの原因は大方コイツなんだけど…。
俺が温泉での幸せな湯治生活に思いを馳せていると、畳み掛けるようにカカシがさらに囁いてきた。
「そ。結構いいお湯らしいよ?」
「…!でも任務…!」
いいお湯…なんて魅力的な言葉なんだ!!!…でも、コレは…絶対に裏があるに違いない。なぜなら、いつも俺に ちょっかいかける時以外は烏の行水なコイツが、わざわざ温泉は入りたいと思ってるようにはとても思えない。 何よりまだ任務中のようだし…。
俺が涙を飲んで堪えようとしているというのに、カカシは更に言葉を重ねた。
「大丈夫。コレは終わったし。」
「うぅ…俺は…!」
そうか、任務終わったのか。…でも俺は自分に振り分けられてる任務があるはずだし…。
そう思って切れ切れながら何とか言い返した俺に、カカシは勝手に人の髪の毛を弄りながらなんでもないように言い連ねた。
「サポート申請してあるから、大丈夫でしょ?休暇あるよ。」
「休暇…!おんせん…!」
「ね、美味しいご飯が出る宿、知ってるし。行こ?」
「美味しいご飯に温泉…!」
美味しいものも大好きだ。…例のことがあってから、食うや食わずで必死になって任務こなしてきたから、食事があるって だけでもありがたい。それがさらに美味いなんてことになったら、盆と正月とクリスマスがいっぺんにきた並みに幸せになれる。 しかも…それに温泉が付くのだ!!!
…俺の頭の中には、食と温泉の桃源郷が広がっていた。
「決まりだね。じゃ、着物こっちの着て。出よっか?」
俺を抱きしめたままいそいそと昨日買った着物を取り出しているカカシは、鼻歌でも歌いだしそうなくらいご機嫌だ。
…もしかして昨日着物買ったのって…このためだったのか!?
それに着ろって言われても、今の俺は…。
「…動けないんだよ!…お前のせいだ!」
そう、今の俺はすっかり腰が抜けてる。それというのもコイツが昨日無駄に…!
思わず恨みがましい視線を向けたが、その先にあったのは、やたら嬉しそうなカカシの顔だった。
「あ、そうだっけ?じゃ、着替えさせてあげるねー!」
「わあ!?」
「折角だし、買ったの全部着てもらおうかなー?」
「離せー!!!」
…それから、俺がしばらく着せ替え人形にさせられたのは言うまでもない。
*****
「やっぱり似合うねぇ。この組み合わせ。」
腰が立たないのをいいことに、カカシは馬鹿みたいにとっかえひっかえ俺に着替えさせたのだ。…そう、それこそ装飾品の類まで…!
そうして、カカシお気に入りの組み合わせになったのが、今の格好らしい。青い髪紐に、俺には良く分からないが高そうな 青っぽい着物。それに表は紺色っぽいのに裏には何故か牡丹と唐獅子が付いた羽織。さらには帯にも何だか分からない宝石の 付いたヒモを付けられた。しかも襦袢も変な柄がついていた。
…正直言って派手だ。派手過ぎる!
こんな格好は三代目に連れられて、その手の店に連れて行かれたとき以来だ。その時だってココまで派手じゃなかったし…。
それにカカシの着物も俺とそろいで結構派手なのだ。確かにコイツには似合ってるが…目立ちすぎるにも程がある!
そしてなにより…!
「何で…何で俺は抱っこされてるんだ…!?」
しかも所謂お姫様抱っこ。確かにまだ自力では歩けないかもしれないが、こんな情けない格好するくらいなら、 這ってでも里に帰る!!!
抱え上げられたときはうっかり固まってしまって気が付いたらもう結構な距離を移動してしまったが、コレじゃ駄目だ!
だが、カカシは不思議そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「いいんじゃない?似合ってるしかわいいよ?」
「かわっ!?…そういう問題か!男の沽券ってモノが…!とにかく下ろせ!」
カカシがしれっとまた変なこと言い出したが、俺は…往来で堂々とこんな格好させられて…!
耐え切れずにカカシの耳だの髪の毛だのを引っ張ってやったが、カカシは嬉しそうに笑ったままだ。
そして次いでとばかりに爆弾発言までしやがった。
「まあまあ。もうすぐ宿だし。」
宿…つまり、この格好のまま宿に…!?
「なにぃ!お、下ろせぇ!!!」
「んー?イヤかなー?ま、いいからいいから。」
「いいわけあるかー!!!」
…必死でもがいた俺は、そんなことをすれば余計目立つ事をすっかり忘れていた。
暴れたけど結局カカシには抱き上げられたまま、でも着崩れてしまった着物姿で宿についてしまい…ソレを見た女将に 「まあ元気な方ですこと。」なんて笑顔で言われて憤死しそうになったのだった。
*****
あんな入り方したのに、ここでも手馴れた様子のカカシが何か女将と話してて、良く分からない内にそのまま離れに案内された。
…あんなふうに入ってくる客なんか普通断るもんじゃないだろうか?そんな疑問も湧いたが、それよりも、部屋に入るなり俺は 度肝を抜かれる羽目になった。
「うわー…何でこんな広いんだこの部屋?離れって…いくらするんだ!?そういや俺お金あんまり持って来てない…!」
…来た時は暴れてたから良く分からなかったけど、ココは凄くいい宿なのかもしれない。広さや部屋の作りもそうだし、 さりげなく置かれている調度品も高価そうだ。
財布…いくら入ってたっけ…?そもそもちゃんと持って出てきたかどうかも疑わしい。一応忍の常で、隠しに金だの 暗器だのは仕込んであったけど、服も着替えされられた今となってはかなり不安だ。…最悪ここで働いて返さなきゃ ならないかも…!?
俺が沸きあがる不安に悩まされているというのに、カカシはさっさと座布団に座ってお茶を入れながら、こともなげに言った。
「ん?イルカは別に要らないよ?」
…それは…確かにあれだけ湯水のように金使っても平気なんだから、ココの支払いだってなんてことないんだろうけど…。 なんとなくそれはイヤだ。確かに俺は成り立て中忍で金は無いけど、だからって自分が楽しむための金を、暗部の上忍様に たかるのはごめんだ!
「馬鹿いうな!俺は…」
思わずカカシの煎れたお茶の乗った机を叩いてしまった。だってどう考えても馬鹿にされている。これはもう我慢ならないと、 怒りをこめてカカシを説教しようとしたら、すでにお茶をすすっていたカカシはさらにとんでもない事を言い出した。
「それににコレも任務だし?」
「…まだ任務中だったのか!?ならこんなのんきにしてちゃ駄目だろ!?」
何でコイツは飄々としてられるんだ!?そもそも…温泉どころじゃないだろ!目立たないようにしなきゃいけないだろうに、 やたら荷物だの…しかもこともあろうに俺まで担いでここに入ったのだ。
一気に血の気が下がった。怒りを通り越してものも言えない。
だが、コイツがココまで平気そうにしてるってコトは、それも狙い通りなのか…!?
「大丈夫大丈夫。ま、任務っていうより、どっちかって言うと単なる旅行?」
怯える俺の肩をぽんと叩いたカカシの発言が、更に事態をより難解にした。…結局どうなんだかさっぱりわからん! 任務なら任務任務じゃないなら任務じゃないで…はっきりして欲しい。
いや、もしかして…それとも…?
「…任務内容も、機密なのか…?」
「んー?ここでゆっくりすることかな?…今のところは。」
「へ?なんでだ?」
「まあまあ。」
「まあまあじゃねぇ!!!うぅ…!!!」
てっきり機密だから教えてもらえないのかと思ったのに、そうでもないらしい。
…どうしてここまでコイツは適当なんだ!!!一応今の立場だと、コイツが上司なんだが、そんなコトなど到底考えられなかった。
…こいつナニ考えてるんだよ!!!
怒りのあまり手が滑って、カカシが差し出してきたお茶をぶちまけそうになったが、高そうな調度品を弁償する事を思うとソコまで できず、腹の底から出したような低いうめき声を出すにとどまった。
平常心…平常心だ!
俺はカカシの横にどっかりと腰を下ろすと、怒りで震える手でカカシの入れたお茶をひっつかんで一気に飲みくだした。
…美味い。ささくれ立った心が癒される。水がいいのと茶葉もいいものを使っているに違いない。思わず顔がほころんだ。 この分だと料理も美味いに違いない!
そんな風に俺の心に生まれた隙を、カカシが見逃すはずも無かった。
「ね、温泉入ろ?」
にこっと笑ったカカシに、宿に備え付けられている浴衣をぽんと手渡された。
「温泉…!」
そうだ。コイツ一応上司なんだし、今コイツはくつろげって言ってるんだから、むしろコレは命令。ってことは… 温泉に入っちゃってもいいよな!こんなにイライラさせられてるんだし!
そんな斜め上の回答が俺の脳内にするっと入り込み、しかもソレが正しいように思えてきた。
…後で思い返せば既に冷静じゃ無かったって事なんだが…。
「じゃ、いこーねー!」
「おう!タオルとゆかたと…」
「ふふ…」
何かが吹っ切れた俺は、浴衣とバスタオルと…何故かカカシの手まで握って、すかさずそれだけはチェックしておいた、 大浴場に向かったのだった。
*****
宿の廊下がやたらゆったりしててきれいなのにびっくりしていたら、大浴場の脱衣所まで広かった。
この分ならきっと温泉自体も…!!!
俺は期待に胸を躍らせながら、大浴場の扉を開いた。
「おおおおお!!!!すげぇ!!!広い!!!」
…温泉は期待以上だった。目の前に広がるのは広々とした露天風呂。そして景色もいい。木々の生い茂った先には渓谷が見え、 岩でできた野趣溢れる湯船が俺を待ち受けている。
これで…後は湯加減だけだ!!!
「…部屋より温泉なのね…。」
喜び勇む俺の耳に、カカシがボソッとこぼしたような気がしたが、俺はそんなことより今正に俺の桃源郷がそこにあることの ほうが重要だった。
とにかく早く堪能したい!
「体流して早く入ろうぜ!」
カカシにも一応声を掛け、いそいそとたらいと椅子を持ってシャワーの前に向かった。
当然のようにカカシもぴったりとくっ付いてくる。
…しかも背後からぴったりと。
気付かないフリをして、さっさと椅子を置いて、痛む腰を庇いながら腰掛けた。
鼻をくすぐる硫黄の匂いにわくわくしながら、たらいにお湯をためていると、カカシが異常に近くに椅子を置いて くっ付いてきた。
「洗ってあげようか?」
そういうカカシの手には泡立てられたタオルが握られている。
しかも、疑問調のくせに、既にタオルは俺に触れる寸前だ。
「…いい…。」
やりたい放題のカカシのことだ。洗うなんていいながら、何されるか分からん!俺は温泉を楽しみたいんだ!!!
じーっと俺を見つめるカカシから、俺はさりげなく視線をそらした。とにかく自分でさっさとあらってしまえば済むことだ。 持ってきたタオルにボディソープをつけようと、ぎしぎし言う身体をもてあましながら奮闘していると、カカシがするっと 俺の身体を支えてきた。
「きついんでしょ?屈むの。」
その心配そうな声音が、返って俺の癇に障った。
「黙れ!誰のせいだ!」
大体…コイツが昨日任務のためとか言いながら好き放題しなきゃこんなことには…!!!
腹立ち紛れにたらいの湯でもかけてやろうと思ったが、その手はカカシに掴まれてしまった。しかもそのまま手首に し、舌が…!!!
カカシの舌は俺の腕をなぞるように滑っていき、俺はソレから目が離せなかった。
「イルカがかわいいせいかなー?」
とんでもないことしやがったくせに、微笑みながらしれっとして言うカカシは相変わらずどこかずれている。
きっと俺がどうして怒っているのかも分かっていないに違いない!
「…どうしてお前は…!!!」
イライラしながらカカシを睨みつけたが、カカシは勝手に俺を洗う事に決めたようだ。
「まず、背中流すよー」
「…お前は…!」
「まあまあ。折角の温泉なんだし!」
「…そうだな…。」
…温泉に入ってから考えよう。もう考えたって答えは出ない気もするし。
せっせと俺の身体を洗いながら頻繁に手を滑らせるカカシをどなりながら、俺は考えるのを放棄したのだった。
*****
一応礼としてカカシの背中も流してやったら何だかやたらご機嫌だったが…とにかく!いよいよ念願の温泉だ!
足の先から慎重に湯の中に身体を沈めていく。
「あー…やっぱり!湯加減もいいなー!」
湯加減は熱めだ。じんわりと体から汗が噴出してくる。これなら腰の痛みも取れそうだ。
「ど?気に入った?」
「…まあな。」
やっぱり着いて来たか。折角湯船が広いというのにカカシは当然のように隣にいる。
だが温泉の心地よさが俺の苛立ちを大分抑えてくれた。任務のことは気になるが、皮膚からじんわりとしみこんでくる 温泉の癒し成分が、そんなものは大したことないんだと思わせてくれる。
森の澄んだ空気と、温泉の硫黄の香り。これぞ温泉の醍醐味!!!
顔も身体の緊張も緩みっぱなしだ。しばし俗世の…というかカカシに関する苦労も忘れてゆっくりと温泉を味わった。
だがしかし…俺の幸せな時間は、長くは続かなかった。
「ん?」
くすぐったい?
そう思ったときには、すでに腰の周りにするりとカカシの手が回っていた。…濁った湯ではカカシの手が見えないが、 ここにはカカシ以外の人間が見えないのでまず間違いないだろう。しかもそのまま身体を預けるように寄りかかってきた。
「なんだよ?のぼせたのか?別に先に上がっててもいいぞ?」
俺は元々長湯だから平気だが、カカシはいつも烏の行水だからひょとするとこういうのが苦手なのかもしれない。
そんな俺の気遣いはあっさりと無駄になった。
「じゃ、早速。しようか?」
「は?」
「温泉ってロマンだよね?」
「ロマン?なんだ?おい!どこ触ってんだ!」
「ココの温泉効きそうだし、ちょっとなら無理しても大丈夫かな?」
「人の話聞けよ!!!」
そういって押し返したカカシの顔は、すっかりヤル気になっていた。ペロッと自分の唇を舐めるその仕草は、獲物を狙う獣 のようで温泉に入ってるって言うのに背筋が寒くなった。
「や、やめろ…!ココ温泉だぞ!誰か来たらどうすんだ!」
「ん?こないよー?」
「何でそんなコトいえるんだよ!」
「女将に頼んだからー。」
「何だソレ!?」
ぎゃあぎゃあと喚く俺に反して、カカシはどこまでも冷静に…着々と侵攻を開始した。
「イルカ…」
「っ!」
不覚にも後ろを取られた。振り払おうにもカカシの胡坐をかいた膝の上に乗せられるように抱え上げられ、 腰をつかまれてしまった。
…どうせ上忍の実力をみせつけられるなら、もっと他のことにしてほしい。
そう思っている間にも、湯の中でするすると這い回るカカシの手があらぬところまで伸ばされた。俺のモノに絡み付く手は、 その動きが見えず予想できない分、より一層俺を煽る。それに抵抗しようともがくたびにばしゃばしゃと湯が跳ねた。もちろんカカシ の顔にも掛かったはずだが、カカシの手は止まらない。
「かわいー…。」
「誰がだ…っ!」
うっとりとつぶやく声が耳をくすぐる。言葉には腹が立つのに、身体だけは勝手に反応してしまい、だんだん抵抗も おぼつかなくなってきた。
焦る俺に耳に、カカシの僅かに興奮した声が吹き込まれた。
「ねぇ…そのままイけるかな?」
その独り言とも付囁きかない囁きと共に、俺の腰が持ち上げられた。
そのままゆっくりカカシが俺を抱えなおし…。そこに、何かが触れた。
「ひっ!」
何か…当たってる!コレはひょっとしなくてもカカシの…!
何にもしてないのに無理だとか、こんな所でとか、昨日散々やったのにとか、俺がすっかりパニックを起こしている間にも、 カカシがゆっくりと入り込もうとしてくる。
「や、あ…っ!」
自分はもう散々…それから味合わされる快感を知り尽くしている。侵食するそれに総毛立ちながら、甘い痛みに腰が自然と揺れる。
もう駄目だと思ったのに、カカシがいきなり腰を引いた。
「あ。掛かったみたい。」
「あっ…!」
いきなり失われた熱量に、自分でも情けない声が出た。あまりのことに羞恥で頭に血が上る。
絶対にカカシは調子に乗るだろう。
何を言われるか戦々恐々としていたら、ものすごく不満そうなカカシの呟きが聞こえた。
「イイ所だったのに…!ほっとこうかな?」
そしてそのまま腰を俺に擦り付けて行為を続けようと…。
「馬鹿!任務なんだろ!行くぞ!」
完全に任務放棄を企んだカカシの頭を軽くたたいてやった。
幸い腰を掴む腕は離れていたので、大慌てでカカシを押しのけ脱衣所に向かった。
…俺が飛び込んだときには既にカカシは着替え終わっていたが。
「イルカは待っててー!」
口調はのんきでも、剣呑な雰囲気。
このままでは余計な被害がでるんじゃないだろうか?
こんなに高い宿で暴れて被害が大きくなったら、里への損害が半端無いはずだ。
「待てこら!くっ!俺も行く」
煽られてまだ蕩けかかっている腰を庇いながら、俺はすかさずカカシにしがみ付いた。
「…一緒に?」
心のソコから不思議そうに聞き返してきたカカシに、サポートとして腹は立ったが、この分だと拒否はされないだろう。
「あったりまえだ!」
ダメ押しの様に宣言して、慌てて浴衣を引っ掛けた。
カカシは俺が慌ててるっていうのに、余裕たっぷりにそれをくすくす笑いながら見ている。
後で絶対文句言ってやる!
そう思った俺に、カカシはにんまりと笑いながらえらそうに言った。
「じゃ、手伝ってもらおうかなー?」
今はその余裕に付き合ってやるだけだからな!
そう思いながら、俺は急いで浴衣の帯を締めたのだった。
*****
大浴場から瞬身で向かった先は、俺たちの泊まるはずの離れだった。
「やっぱり釣れたねぇ。イルカは入り口の方にいるのお願いねー。俺は他やるから。」
カカシはのんきに言っているが、俺たちの荷物をあさっているのはどうみても泥棒。どっから入ったのか5人もいる。 そして多分チャクラの感じからして忍崩れだ。
…ちょっと荷が重い気がするが、俺だって中忍だ!木の葉の意地を見せてやる!
俺はまだ熱の残る腰に気合を入れて、クナイを構えた。
それにあわせるようにカカシが印を組むと、部屋全体に結界を張ったのが分かった。
「術!?」
「ちっ!忍か!」
空間が閉ざされたのに気付いた何人かが、動揺しながらすばやく警戒しはじめた。チャクラが動く気配もする。
本来ならそいつをまず倒したいところだったが、一応上司のカカシに指示されたとおり、まずは置きっぱなしだった 昨日の買い物をあさってたヤツを後ろから殴り気絶させた。反応の鈍さといい、どうやらコイツは忍じゃなさそうだ。
さて残りはと急いで後ろを振り向くと…すっかり縛り上げられた泥棒たちがが苦悶の表情を浮かべたまま、白目を剥いて 転がっていた。
「お前…何やったんだよ…?」
普段ぼんやりしてる姿しか見てないから、こういう時は驚かされる。あれだけ怒ってたからには何かやらかすだろうと思ったが、 幻術でもかけたんだろうか?
「んー?印を組ませる前に片付けようかなって。」
にこにこ笑いながら言っているが、ちょっと満足そうな顔から言って、多分に私情を含んでいるコトは間違いなさそうだ。
まあ、悪さしてたんだから自業自得だけど。
「で、これが任務なんだな?」
いつの間にか俺が気絶させたのまで縛り上げてるカカシに聞いてみた。
…これ以上任務だか何だか分からないものにつき合わされるのはごめんだ。
「そ。けちな泥棒なんだけどねー。幻術使うっていうから、一応宿の人が木の葉に頼んだのね。で、昨日の所と近いじゃない?」
畳の上に泥棒を転がしながら淡々と話すカカシは、結構容赦なく泥棒を蹴りとばしていた。
…まだイライラしてんのかコイツは!それに…。
「確かに近いって言うか…でも結構な距離あったよな?」
担がれてぎゃあぎゃあ言いながらだったけど、距離的には結構あったと思う。
だが、折角心配した俺の話など、カカシはすっかり聞いていなかった。
「三代目がついでに片付けろって言ったから、俺はイルカと温泉行ってイイならって引き受けたの。」
泥棒を全員まとめて部屋の隅に寄せ、俺に向かって手を伸ばしてきたカカシは、…温泉につかってたときと似たような 雰囲気を漂わせている。
ってことは…カカシは俺との温泉目当てでこの任務を…!!!
「三代目…!なんてことを!それにお前も任務の選り好みすんなよ!…ってことは、ココの支払いって…。」
カカシの暴挙と三代目の策略への怒りが先立ったが、ずっと気になっていたことも思い出した。
「んー?宿持ち?それに、今、一時的にお客さんも入れてないのよねー。」
「良かった…!」
ソレを聞いてものすごくホッとした。
昨日の買い物は別に自分が頼んだわけじゃないにしても、やっぱりこれ以上カカシに金を使わせるのはイヤだったのだ。
「今度は任務じゃないときに来ようねー。」
肩の力が抜けた俺を抱き寄せて、カカシは嬉しそうに俺のうなじをついばんでいる。
…カカシも一応俺に気を使ったのかもしれない。温泉が好きだって言ったことある気がするし。
「いい。…お前休み少ないもんな…。」
コレくらいしか言えなかったけど、カカシが俺と過ごしたいと思ってたってことを、何でかすごく嬉しいと思った。
「ね、楽しかった?」
「まあ、な。」
すりすりと俺に顔を摺り寄せるカカシの頭を小突くと、嬉しそうに目を細めている。
その様子を見ていると怒ってるのが馬鹿らしくなった。
…色々腹も立ったけど、一応許してやるか。
そう思ったのに、カカシがソレを台無しにした。
「じゃ、続きしよ?」
気が付いたら胸元に手を突っ込まれてるし、太腿の辺りもまさぐられてるし…!!!
「ソレばっかりかお前は!その前に飯だ!第一コイツら何とかしないとだろ!」
頭を押し返し、耳を引っ張って説教してやったが、カカシはそれでもくすくす笑いを崩さない。
「そうねー。昨日もお腹鳴ってたもんねぇ…。」
「…うるさい!俺は健康なんだ!」
「じゃ、ご飯にしよっか?」
そういうカカシに強引に手を引かれながら、俺は、やっぱり許してやらないと怒りを新たにしたのだった。
*****
そのころのテンゾウたん
*****

結局カカシに連れられて別の部屋に連れて行かれた。ココの宿は広すぎる。何で離れがこんなに沢山あるんだろう?
まあ、泥棒転がってる横で飯を食うのもなんだからイイんだけど、一応は任務なのに…そこら辺はどうなんだろう?
そんな事を感がながらもカカシに勧められるままに飯を食い、食い終わったらすぐ、カカシがちょっと片付け呼んで来るねー とか言ってふらっと出てった。
「飯。美味かったなぁ…。もう一回温泉は入りたいなー。」
腹も落ち着いたし、そろそろ温泉に入りたい。さっきあんなことがあったからあんまり疲れなかったのに、もうそこそこ 歩けるからきっと効能がイイに違いない。あんまり遅くなるようならカカシおいて俺だけで入ってこようかな?任務 終わったからもう帰らなきゃいけないんだろうし。でも今日はもう結構遅いから、あと一日くらいいいよなー?
そんなことを考えていたら、カカシが帰って来た。
「お帰り!大丈夫か?連絡は?」
これであいつ等の始末が付けば、きっと任務完了だろう。そうすれば心行くまで温泉につかれる。そう思って帰って来た カカシの肩を叩いた。…はずだった。
「ココ。内風呂もあるんだよねぇ?」
「へ?」
「もうさ、我慢するの限界だし、いいよね?」
「は?」
「じゃ、早速。」
「わっ!?」
任務がどうなったか分からない内に、ココに来たときと似たような状態になっている。
つまり、抱き上げられてカカシが勝手にどっかに歩き出しているのだ。
「おい!?なんだよ!」
「さっきの続き。」
さっきの続き…さっきは温泉に浸かってたらコイツがちょっかいかけてきて、それから泥棒退治して…。そうだ、 温泉でコイツに…!!!
「ばっ!お前ナニ言って…!」
やっと脳内にカカシの言ってる内容が届いた。
とっさにカカシから降りようとしたが、ソレを果たす前にカカシは既にガラガラと引き戸を開けている。どうやらココが この部屋つきの温泉のようだ。
大浴場よりは小さいけど、立派な脱衣所と、岩風呂が見える。そこから立ち上る湯煙がなんとも言えず趣を感じさせる。
「温泉、入りたいんだよね?」
「そうだけど…おい!?」
温泉に見ほれている間に、浴衣を脱がされ、放り投げられてしまった。何とかして逃れようと身をよじってみたが、 がっしりと俺を捕らえた腕は離れなかった。
それでももがもがと暴れる俺を軽くいなしながら、カカシはさっさと自分も浴衣を脱ぎ捨てた。
「入りながらしよう?」
そう言って、それはもう嬉しそうに微笑みながら。
*****
温泉は気持ちイイ。でもまたこんなことになってる俺はどうなんだろう?
さっきの体勢によっぽど執着があったのか、カカシは掛け湯もそこそこに、さっきの行為なぞらえるように再び俺を 自分の上にまたがせたのだ。
「やだっ…あ、あ…っ!」
熱い。中も、外も。
飯食ってる間にすっかり散ったと思っていた熱はまだくすぶっていたようで、カカシの手管に俺はあっというまに 蕩けさせられた。一度達してすっかり動けなくなった俺を、それでも離さず、カカシは緩やかに揺さぶった。しかも…。
「ココ、柔らかいね。温泉効果…?」
そういいながら指でカカシを食んでいるソコをなぞるようにたどり、焦らすように動きを止めた。
くわえ込まされたものにじわじわあぶられるように、俺の中に熱が凝っていく。早くソレを吐き出したいのに、 カカシはわざと嬲るのが腹立しい。自分で動こうにも完全に腰が砕けているのだ。こんなの拷問なんかよりキツイ。
…もう、耐えられない。
「馬鹿っ!も、…!」
焦れてカカシをなじり、動きの鈍い腕でカカシの腕を引っかいてやったら、カカシが息をつめた。…無意識に中のモノ を締め付けてしまったらしい。
ざまあみやがれ!
苦しそうな声と顔にそう思った俺だったが、すぐにそんなコトさえ考えられなくなった。
「そうね。俺も…」
「え?んぁっ!あっ、あ…っ!」
急に激しくなった動きに、鼻にかかった声がこぼれていく。
もうすぐイける。
それことだけに思考が占められていった。
だが、そんな頭にも聞き捨てならないセリフが投げかけられた。
「あー気持ちイイ…。温泉っていいねぇ…。」
「お、前が…っ!しみじみ、言うんじゃねぇ…ッ!!!」
こんなヤツに温泉の良さを語ってほしくない。
だが、怒りをこめた叫びは、すぐに嬌声に変わった。
「ぅあっ!」
「また、来よーね…。…っ!」
中にまで熱いモノを一杯に満たされながら、俺はやっと与えられた開放に意識を飛ばした。
*****
「くっそ…この馬鹿!…お前とは…二度と温泉行かねぇぞ…!」
折角の温泉だったのに!
結局任務とか言いながら、俺はろくに働けなかった。…それもこれも、コイツのこらえ性がないせいで…!!!
怒りの矛先はにやにやしながら、俺の生乾きの髪を、指先に絡めて弄んでいる。
「のぼせちゃったねぇ?」
「当たり前だ!うぅ…。」
飯をたっぷり食った後の満ち足りた猫のように、カカシはにんまりと笑って俺の布団の上に乗っかって笑っている。
買い物をやたらしまくってるときから疑っていたが、どうやらコイツなりに舞い上がってる気がする。
いつも好き勝手にされるといえばされているが、それでもこんなに連続でヤりたおすってことはなかったのに…!
それに、熱い湯に浸かりながらあんなことすれば、いくら忍だってのぼせる。
しかもコイツがしつこいくて、俺が温泉ですっかりぐちゃぐちゃになってても、布団に運んでからもさらに 散々もヤりやがるからこんなことに…!!!
折角温泉でよくなった腰も、すっかり使い物にならなくなってしまった。
大体コイツは何で平気なんだ!あれだけ人のことヤりたおしといて…!?
不満と怒りと自分の情けなさでぐったりと布団に沈み込む俺に、カカシは更に追い討ちをかけた。
「まあまあ。後2日あるから大丈夫でしょ?早く治してねー!」
「は?」
2日…?そういえば確かにコイツの任務なんだから、多分Bランク以上だろう。それなりの休暇はあるはずだ。 だが、わざわざこんな言い方をする理由は…!?
湧き上がる不安を視線にこめて、カカシを見つめると、やっぱりおそろしい事を言い出した。
「休暇中だし。どう過ごしても自由でしょ?さっきこの部屋押さえてきたから。」
「お前な!くっ…!俺はもう…!」
「堪能しようね?温泉。」
「ふざけんなぁー!!!」
にっこりと嬉しそうに微笑む、全く、全然、欠片も…俺の話を聞かないカカシ相手に、俺は今後は絶対に、 コイツとの任務は断ると決めたのだった。


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勢いだけで毒暗部うっかり続き編。
まあ、その…こんなんでましたけど…?
途中にテンゾウたん視点のを入れてみましたので、ご興味のある方のみお気軽にチャレンジなさって 下さい…。 ご意見ご感想などがございましたらお気軽に拍手などからどうぞ…。



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