―テンゾウの呟き― どうして、僕はこんな所にいなきゃいけないんだろう。 「先輩楽しんでますかね…。」 硫黄の香りが漂う森の中、僕たちは待機を余儀なくされているのだ。コレも任務。いつもなら何日もこんな風に待機することが あるからいいんだけど…。でも…今回は…!今回だけは…! 「…お前どうしてソコまで凹むかね?」 「鬱陶しいぞテンゾウ。」 他の仲間たちはおのおの好き勝手にクナイを回したり、木に寄りかかったりしてるけど…僕は、耐えられない! 「だって!先輩が…カッコよくターゲットを一瞬で眠らせて、それから僕がターゲットに変化して連れの女誤魔化して とか色々やってたのに…!!!」 そう、僕は昨日頑張った。…先輩との任務だからそれはもう必死になって…!先輩がターゲットに暗示かけて一旦トイレに詰め込んで、 荷物抜いたりしてる間にも、シャワー浴びたばっかりのはずなのにけばけばしい化粧をした女がしなだれかかってくるのにも耐えた。 それなのに…! 「そうだな。お前は良く頑張った。」 「まあ、あれだ。隊長はマイペースだから…。」 仲間たちは口々に慰めてくれるけど…そういう問題じゃないんだ! 「隊長は…カッコイイからいいんです!でも…か、彼女だと思ってたのに…!!!男だし中忍だし!!!」 先輩の目に狂いはないと思うけど…でも…でも、やっぱり僕は…!!! 「…まあ、うん。そうだな。」 「いいじゃないか。隊長が惚れてるんだから。」 僕の頭を面がずれるくらいごりごりなでてくれる先輩たちは、ちょっと面倒くさそうにしてるけど…。 「僕が…僕がターゲットに成り代わって情報収集してる間にも、あの中忍はずっと…ずぅーっと、先輩といちゃいちゃ してたんだぁー!!!うっうっ…っ!!!」 許せない…!先輩を…あのカッコイイ先輩を独り占めにするなんて…!!! 僕だって先輩を見つめていたいのに…!!! 「…そりゃな。恋人とデートなんだからそうだろうな。」 「まあ多少職権乱用かなーと思わんでもないが。何だ?お前まさか隊長に…?」 仲間たちがちょっと引いている。でもだからって、僕の思いは止められない。 「カッコイイ先輩を間近でずっと見られるなんて…!!!なんてうらやましいんだー!!!僕だって許されるなら先輩 にずっとくっ付いて見つめていたいのに!!!」 きっと日々に暮らしでもかっこよくコーヒー飲んだり、かっこよく窓閉めたりしてるに違いない!ソレを間近で 見られるなんて…!!!うらやましすぎる!!! 「…お前、正直気持ち悪いな。」 「そこまでとは…。憧れの域超えてソレ変態だろ…。」 だんだんと僕から離れていく仲間たち。 ああ…でもそんなコトより先輩だ! 「先輩―!!!…でも…恋人さんと一緒にいる先輩は幸せそうでなんか僕もほわっとしちゃう…!!!」 そう、いつもクールな先輩が、あの…中忍を前にすると恥じらいって言うか…恋する一人の男って感じでそこもまた、 たまらないんだよね…!!! 「マニアックだな。」 「もうさ、コイツ置いて帰りたいよな。あと賊の回収だけだろ?」 「あぁ…!先輩…!!!」 かっこいい先輩を想像するだけで、もう仲間の言葉も耳に入らなくなる。 「…でもなー。コイツ置いてって隊長の恋人になんかしたら困るしな。」 「…あとで俺らがなぁ…。むしろこいつ帰したいけど梃子でも動かんだろうし。」 「…先輩…今ナニしてるのかなぁ…?カッコいいんだろうなー…?」 きっと今頃…かっこよく賊を片付けて…!でもその側にはあの中忍が!!! 僕が悩み苦しんでいるっていうのに、仲間から変な事を言われた。 「オイオイテンゾウ!お前、隊長の閨にまで興味あるのか?」 「えええ!?な、なんでそんなことに!!!」 ね、閨!?そりゃ先輩はカッコイイからモテルだろうけど…何でそんな話になるんだ!? 思わず木の上だって言うのも忘れて、うっかりこけそうになった。そんな僕を呆れたような瞳で見た仲間たちが、 ぼそぼそと衝撃的な事実を語ってくれた。 「…当たり前だろ。こんなとこしけこんでやることなんざ…。第一最初の宿でも相当…なぁ?報告に行ったら そりゃ凄いことになってたぞ?」 「だろうなー?俺は見てないけど、出てくんの遅かったしなぁ?…まあ、隊長もまだ若いし。隊長の恋人も …そりゃもう、な?」 先輩が…先輩があのすばらしい肉体が…!!!さっきチラッとだけ見たあの中忍もそういえば妙に艶っぽい顔を…! 僕の脳内に先輩とあの中忍の姿が何度も再生された。 「う…っ!」 「わぁ!?テンゾウ!お前なに鼻血吹いてんだ!」 「どこまでも迷惑なヤツだな!」 「しぇんぱぁい…!!!」 ぐいぐい鼻に鼻栓代わりの綿を詰め込まれながら、僕は混乱と恍惚の中で先輩の名を叫んだ。 「ねえ。もう片付いたから持って返って?」 「「隊長!!!」」 「しぇ、しぇんぱい!!!」 幻聴かと思ったけど、やっぱり先輩だ!温泉宿の浴衣すらかっこよく着こなす先輩はやっぱりすごい…!!! その姿を見るだけで、僕は感動の坩堝に放り込まれ、蕩けてしまいそうだ…! 「…イルカがね。手伝ってくれたのよ。かっこよかった。」 「それは良かったですね!」 「それでお怪我は?」 先輩が…先輩がはにかんでいる…!!!それだけで、僕は…もう…っ! 「なーいよ。俺もね。ねぇ…テンゾウの方がやばそうだけど何かあったの?」 「べちゅにその!なんにもないれふ!」 先輩が僕の鼻栓を目ざとく見つけて聞いてきた。 慌てて誤魔化したつもりだったけど、変な声が出ちゃったから無理だったかな!? わたわたと意味もなく手を上下させる俺の頭を、仲間たちがぐいっと引いて押しつぶされるように後ろに隠された。 「テンゾウはちょっと今興奮してるだけです。」 「おい!さっさとその鼻血なんとかしろ!行くぞ!」 「ふぁい…!」 持つべきモノは仲間だよね…!先輩にあんまりかっこ悪いところ見せたくないし…! 先輩の出現のせいで、更に容積を増した鼻栓をこそこそ詰めなおしながら、僕は慌てて身なりを整えた。 …それに返された言葉はその努力を無にするものだったけど…。 「そ?じゃ、頼むねー?イルカともっかい温泉入ってくるから。続きしたいし。」 「「はい!!!」」 「ふぁい!うぅ…っ!」 温泉…その単語だけでさっきの桃色世界が再生されて、僕の鼻を圧迫する。とっさに追加の鼻栓を突っ込んでみたけど、 ソレがいけなかったみたいだ。 「…ホントになんでもないの?」 不審そうに仲間の影に隠れた僕の方を見る先輩…!なんて優しいんだ…! 「あ、あ、あの…!」 思わずなんでもイイからと妙な事を口走りそうになった僕を、再度仲間が止めてくれた。 「大丈夫ですって!」 「コイツも思春期なもんで色々あるんですよ!隊長はお気になさらず!恋人さんがお待ちでしょう?」 「そ、ね。じゃ、お願いねー!」 ああ!先輩が行ってしまった…!!! いそいそと足を運ぶ先には…きっと昨日の色っぽい中忍が…!!! 「…お前なぁ!いい加減にしろよ!」 その言葉と共に、再度空想世界に飛び立ちそうになった僕の頭に、容赦ない拳骨が落とされた。 「だってその!閨とかっ…!」 僕だってそんなコト言われなきゃこんなことになってない! 必死になって抗議したけど、仲間の視線は僕の体のある一点に集中している。 「あーあー…もういいから。その辺で抜いてこい!」 「若いっつーか…。もうな…。」 うんざりしたような声音で、自分でも気付かない内に下半身に血液が集中していたことを自覚した。 「え?あ!?そんな!大丈夫です!」 手で押さえ、精神でも一生懸命押さえ、僕は立ち上がった。…ちょっと前かがみになって。 「ならとっとと片付けて帰るぞ!!!」 「急げ!」 「はい!!!」 ちょっとぴりぴりした仲間とともに、僕はとにかく任務を片付けることに集中しようと思ったのだった。 ********************************************************************************* KYな先輩大好きテンゾウ編。 うっかり覗いちゃった方は、ごめんなさい…。 ああでも…ご意見ご感想などがございましたらお気軽に拍手などからどうぞ…。 |