「大根おろしが得意っていいました。」 そう言って、目の前の上忍は悲しそうにうつむいた。 「あーそれはちょっと…。他にも一杯いいところがあるのに…。」 「だって!任務で役立つものより、これから一緒に生活する時に役に立つ方がイイと思ったから…。」 俺は目の前でしょぼくれて哀れっぽい声でつぶやく上忍の背中をなでてやりながら、どうしてこんな目に合っているのかちょこっとだけ後悔していた。 そうきっかけは…。 ***** 「イルカ先生。今日お時間ありますか?」 「え?ああ、えーっと…今日は受付が5時までですのでその後なら空いていますが…ひょっとしてあいつらがなにかやらかしたんですか!?」 卒業生を引き受けてくれたものの、今までほとんど話しかけられたこともない上忍に、いきなり都合を聞かれる理由など、それくらいしか思いつかなかった。 何しろこの人に任せた生徒はある意味粒ぞろいというか…くせのある子ばかりだ。引き渡したときはホッとしたが、まだまだ手がかかるからいつかこういう こともあるんじゃないかと思っていた。だが、目の前で思いつめた表情をしている上忍は、何故か首を横に振った。 「いえ。プライベートなことです。…いきなりで失礼かとは思うんですが…どうしてもアナタに聞きたいことがあるんです。」 これは…俺の予想とは違う方面のようだ。俺はこんな感じで親しくない人に相談を持ちかけられることが意外と多い。やはり職業的なものもあるんだろう。 過去に何回かあったのは…子育ての悩みとか、こんな資料が欲しいからどこにあるかとかそんなものが大半だ。この人は…何だか深刻そうだけど、 何の相談だろう? まあ、元生徒がお世話になってるのに断るのも悪いよな? 「そうですか。あの…お待ち頂いちゃうことになるんですが…どこがいいかな…?」 俺が相談するのに適当な個室のある店を思い浮かべていると、カカシ先生が言い終わる前に指定してきた。 「俺の家に来て欲しいんです。」 「へ?」 自宅。しかも上忍の家。…ちょっと見てみたいが、ソレはどうだろう。 「あのー…ご迷惑じゃないんですか?」 一応聞いてみたが、カカシ先生はちょっと強引なくらいだった。 「いえ、俺のほうこそ急なお話で申し訳ないんですが是非うちに来て欲しいんです。」 その態度からして本当に切羽詰った理由なのだろう。なぜ名うての上忍がわざわざアカデミー教師で内勤ばかりの自分に相談を持ちかけるのかは分からないが、 相手がココまで真剣になやんでいるのなら、真摯に向き合うべきだろう。 「わかりました。それで、どこでお待ちすれば…。」 「よかった!…ここで待ってます。終わったら一緒に来ていただければ…」 「はい。」 俺の答えを聞いたときの上忍の表情があまりにも嬉しそうだったので、俺もなんだかうれしくなったのだ。そのときは。 受付所のソファでじっとこっちを見てるカカシ先生をあんまり待たせるのも悪いので、終業時間になってすぐに一緒にカカシ先生の家に向かった。 上忍の家になど中々行けるものではない。防衛の要となるために所在も明かされていないし、トラップだらけらしいと聞く。そもそも上忍が自宅に人を 呼ぶなんてあまり聞かない話だ。 どきどきしながらついていくと、たどり着いたのはいたって普通のマンションだった。 「ここ…ですか?」 「はい。」 何だか拍子抜けしたが、カカシ先生は俺の驚きに気づくことなく、そのまま部屋まで案内された。 部屋に通されると、そこもまた驚きだった。 全てが普通なのだ。 まあ入るなりベッドだし、その柄が手裏剣というのはちょっと珍しいかもしれないが、やたら豪華なモノがあるわけでもなく、 一般的な独身の忍にありきたりな、書物とちょっとした家具だけの部屋…。 何だか今まで上忍に持っていたイメージを崩されてしまった。といっても、悪い方にではなく何だか身近な感じがして、ちょっと緊張も解けてきたんだけど。 テーブルの椅子に座るように言われてまっていると、お茶が出てきた。 「粗茶ですが。」 カカシ先生はそんな事を言いながら、正面に座った。 とりあえず出された茶をすすったら結構ウマイ。こういうところは上忍棚と思いながら、とにかく用件を聞き出すことにした。 「あの、それで…聞きたい事というのは…?」 おそるおそる聞いてみたら、急にカカシ先生が頭を下げた。 「お願いです!俺の見合いを成功させて欲しいんです!」 「は?」 お見合い…ということは恋愛相談!?万年彼女ナシの俺に聞くのは大きな間違いだぞ!? 「あの、申し訳ないんですがお役に立てないと思います。俺はそのー…お付き合いしたことがそれほど…それに、鈍いってよく言われてますから、 他の方に当たった方がイイと思ういます。」 正直に言うのが癪だからぼかしたが、実際の所彼女いない暦=年齢だ。…忍なだけに、それなりの経験はそれなりの場所で済ませてはあるが、 基本的にそういうことを感情抜きでやるのは好きじゃないから、全然全くそういう方面には疎い。 「でも、イルカ先生は結構もてますよ。」 なんだそれ!?本当にもててるんなら、とっくに彼女が出来てるはずだ! 悪気が無いと分かっていてもちょっと腹が立つ。必死で笑顔を作りながら何とか訂正した。 「どなたかとお間違えなんじゃないかと思います。俺はその…」 「お色気の術で鼻血吹いたって言うのは聞いています。」 「なっ!」 経験の無さをあげつらわれたようで頭に血が上ったが、淡々と話し続けるカカシ先生があまりにも真剣な顔をしていたのでなんとか思いとどまった。 「でも、いろんな人に好かれてます。自覚無いのかもしれないけど結構上忍にもアナタを狙ってるの多いんですよ?」 「そう、なんですか?」 どこまでホントか分からないけど…上忍の奥さんかぁ…ちょっといいかも。 嬉しさでにやけている俺に、カカシ先生は真剣な顔を崩さぬまま告げた。 「それに、イルカ先生は上忍相手でもちゃんと意見言ってくれそうだから…。俺、最近里に戻ってきたからか、やたら見合いを勧められるんですけど、 一回もうまくいかないんです。」 「へ?そんな馬鹿な。」 上忍で稼ぎがよくて、性格は…ちょっとだけ鈍そうだけど普通だし優しそうだし、顔もイイって噂で聞いたのに見合いがうまくいかないなんてことが あるんだろうか? でも、カカシ先生は本気で悩んでいるみたいだ。眉間に皺を寄せて悩ましい表情をしている。 「ホントなんです…。だからイルカ先生にどこが悪いのか教えて欲しいなって。俺の周りの奴らは里の感覚があんまりよく分かってないから…。」 片方だけでも悲しそうなのが分かる僅かにうるんだ瞳を向けられて、俺はたじろいだ。 これは…断れないよな。 業師の異名を取るまでの忍だというのに、たかが中忍に頭を下げて、しかも己の恥まで明かしてくれたのだ。コレはなんとかしてあげないと! 「あの、僭越ながらお話だけでも聞かせて頂けませんか?」 「はい!」 その瞬間の笑顔が、目上の人に対して失礼かもしれないけど、あまりにもかわいらしかったので…大変なことに巻き込まれたことにしばらく 俺は気付かなかったのだった。 ***** 「で、相手はどんな方だったんですか?」 もしかして相手が一般人だから失敗したのかもしれない。戦績がすごくても、忍でなければ畏怖の象徴になるだけってこともありうる。 俺の質問にきょとんとした顔をしたカカシ先生は、ポツリポツリと話し始めた。 「可愛い人がいいって言ったんです。それと、俺の仕事とかははっきり言わないで貰って…。」 …職業の分からない相手と結婚したいってひとはあんまりいないと思うな。俺は。 そう思いながら一応気になっていたところを確認した。 「で、相手は一般人だったんですか?」 「多分違うと思います。チャクラが感じられたので。…でもはっきりとは聞いてないからなぁ…?」 首をひねって考え込むカカシ先生には悪いが、突っ込む所が多すぎる。お互い相手の素性も分からずにって、まずそこがおかしい。 「あのー…で、なんでまた職業を隠したのか教えてくださいますか?」 「え?だって、俺の名前だけみて結婚されちゃうと困るから。業師とか、ご大層な名前つけられちゃってますけど、普段は普通だし。」 「まあ、それはそうかもしれませんね。」 里のくのいちなら華々しい戦績も実力も全員が知っているだろうから、普通すぎるほどに普通なこの人に違和感を覚えるかもしれない。 それでがっかりさせるよりはと思ったのはわからないでもない。 まだちょっと引っかかるが、ここはとりあえずお互いそれを承知の上でなら問題ないってことにしておこう。そうしないと話が先に進まない。 「で、他に何かまずったなぁってことありますか?」 何だかぼんやりしているが、この人は上忍だ。きっと、相手の表情なども良く分かるだろう。理由は分からなくても、 その前後に自分が何をやったのか覚えてるはず。 案の定、ちょっと首をかしげたカカシ先生は、すぐに思い出してくれた。 「えーっと。特技を聞かれたときかな?」 「で、なんて答えたんですか?」 特技で引くって…何を言ったんだろう。雷切とか術のコピーですとかは、職業伏せてたら言わないだろうから…この上忍の特技なんて他に思いつかない。 手先が器用そうだから、そういうのかな?趣味とか嗜好なら、タバコがイヤだって人は知ってるけど。 俺なりに色々考えてみたのだが、カカシ先生の答えはその中のどれよりも予想外なものだった。 「大根おろしが得意っていいました。」 そう言って、目の前の上忍は悲しそうにうつむいたのだ。 「あーそれはちょっと…。他にも一杯いいところがあるのに…。」 職業も分からない男がいきなり大根おろしが得意って…微妙だなぁ…。家事が得意とかって言うのならまだ分かるけど、大根おろしだけじゃ 働かない男なんじゃないかとか思われそうだ。普通、もっと当たり障りないことをいうものだと思うが、カカシ先生にとってはコレが ベストアンサーだったらしい。 俺の怪訝な表情に、ちょっと涙目になったカカシ先生が、なぜこんな答えを出してしまったのかを説明してくれた。 「だって!任務で役立つものより、これから一緒に生活する時に役に立つ方がイイと思ったから…。」 俺は目の前でしょぼくれて哀れっぽい声でつぶやく上忍の背中をなでてやりながら、どうしてこんな目に合っているのか後悔しつつ、 俺は冷静に分析を試みた。 とにかくこの人の問題点はなんとなく分かった。 真っ直ぐすぎるというか天然というか、そういうところで失敗してるんだろう。直すのはものすごく大変そうだけど、見てると何とかしてあげたくなる。 今まではうまくいかなかったけど、むしろコレを武器に女性をモノにできるんじゃないかと思うくらいだ。 だって、俺も心配になっちゃったくらいだしな。 「あのですね。カカシ先生。次のお見合いっていつなんですか?」 「来週…。」 語尾がぼやけて聞こえないのは、多分涙を堪えているからだろう。 「だったらまだ時間はありますね。一緒に考えて見ましょう?」 「は、はい!」 悲しそうに訴える一生懸命なカカシ先生を見ていると、絶対に幸せにしてあげなくてはいけないという衝動が湧き上がってきた。 「頑張りましょうね!」 「はい!」 そうしてカカシ先生のお見合いをサポートすることになったんだが…。 「それでですね。俺、イルカ先生にくっついてイルカ先生みたいな魅力を身につけたいんです!」 元気良く返事をしてくれたカカシ先生は、唐突に妙な事を言い出した。 「イイですけど。でもその前に考えることが…」 「ありがとうございます!じゃ、早速明日から宜しくお願いします!」 ニコニコ笑うカカシ先生は心底ホッとしたって顔をしていて、今更何か言うのは気が咎めた。本当なら、もっと他に直す所があると思うんだが、 この人はコレでも上忍だ。きっと何か策があるんだろう。ちょっと不安だが、カカシ先生の考えに任せることにした。 「じゃ、そろそろお暇しますね。」 一応方向性は決まったからこれ以上何か言うのもなんだろうと、俺はいとまごいをしようとしたのだが、何故かカカシ先生は凄くびっくりした顔をした。 「え!?だって、もうこんな時間ですよ?ご飯食べてってくださいよ!」 …そういってカカシ先生が振舞ってくれたのは、秋刀魚の塩焼きと飯に味噌汁という、非常に家庭的な食事だった。勿論大根おろしは山盛りだ。 得意というだけあって、大根をおろす速さはすばらしかったが、他の料理もテキパキと作ってくれて、手伝いを申し出る暇さえなかった。 やっぱり基本的に器用なんだろう。 「こんなに料理できるんならもっとアピールした方がいいのに。」 俺がほかほかの飯をほおばりながらボソッとつぶやくと、カカシ先生は小首をかしげて不思議そうな顔をした。 「え?でも、コレくらい普通できるでしょ?」 そんな事を言いながら、手は休みなく俺にお茶を入れてくれている。 「男性だったらできる方だと思いますよ?俺もちょっとなら自炊しますけど結局面倒で外食多いし。」 俺だって、自炊はカレーとか適当に切って煮込んだだけの煮物とかばっかりだ。酷いとインスタントとかレトルトとかだし。それに、 一番多く食べてる料理って一楽のラーメンだからなぁ…。 そんな事を考えながらしみじみとカカシ先生の作った飯を味わっていると、カカシ先生が自信なさ気に言った。 「そうですか。知らなかったなぁ。でも切ったり焼いたりするのは出来ても、煮るのとかやったこと無いのでできないんですよ。」 確かにカカシ先生の経歴を考えれば、料理ができることの方が奇跡だと思う。任務ばっかりで生きてきて、これからって時に悩んでるこの人を 何とかしてあげたいと思った。 「それはこれから覚えればいいことだから大丈夫ですよ!きっと大根おろしよりアピールポイントになります!明日から一緒に料理勉強しましょう!」 「はい!」 嬉しさで花が咲いたみたいに笑ったカカシ先生をみて、なんでだか俺はちょっとドキドキしたのだった。 ***** 「おはようございます!」 「あ、おはようございます…。」 ナルトたちには確か遅刻魔だときいていたのに、毎朝俺んちにやってきては飯を食っていく。というか一緒に料理するのが日課になりつつある。 ああでもないこうでもないと話しながら、一緒に料理を作って、ちゃぶ台の上に並べていく。 「さ、ご飯食べましょう!」 こういう暮らしを始めてみると誰かと一緒に飯食うって、やっぱりイイなと思う。しかも料理の本を見ながら色々作ってたら腕が上がった気がするし、 一石二鳥だ! そんな事を思いながら、冷蔵庫から漬物を取り出す。 「カカシさん!これも一緒に出しといてください!」 カカシさん…この呼び名も一緒に過ごすようになってから、本人がこっちが教わってるのに、先生って言われると気が咎めるって言うから変えたんだけど、 今は馴染んでしまった。 …それにしても本当に俺のこと好きな上忍ってホントにいるのかな? 受付所でそれとなく探ってみたけど、普段どおり皆一言二言何か言っていくくらいで、特に変わったことは無かったけどなぁ…。 それをボソッと聞いてみたら、カカシさんはその一言二言が他の人には無いんですよ?といって取り合ってくれなかったけど。 それに、平和な生活を送っているだけで、役に立ってるのかどうかわからないのがちょっと不安だ。 俺は正直幸せだからいいんだけど、問題はカカシさんだ。何せ学び取るって言ってる魅力が自分にあるとはとても思えない。それに、見合いっていったら、 もっとちゃんと色々知ってる人に聞いたほうがいいんじゃないだろうか? 俺は、ご飯をよそってるカカシさんをぼんやり眺めながら、ちょっと不安に思ったのだった。 ***** そんなこんなで、料理を練習したり、ただ一緒に過ごしているうちに日々は過ぎて…明日はいよいよカカシ先生の見合いの日だ。 つまり、こうやって過ごすのも今日までかもしれないのだ。 一応前祝い代わりに酒を飲むことにしたんだけど、何だか寂しいなぁ…。誰かと一緒に暮らす生活に慣れちゃったから、寂しさが余計身に染みる。 しかも夕飯も一緒に作ることが多くなったからそのまま泊まっていくことも多くなっていたので一層だ。 これから勝負だって言う人に辛気臭い思いをさせるわけにはいかないから、何とか笑顔を作って、それでどんどん酒を飲んだ。 自分で言うのもなんだけど、俺は酒が回ると楽しくなる方だからとにかく酔っ払おうと思ったのだ。…カカシさんにはずっと笑ってて欲しい。 一緒に作ったつまみをつつきながら、ふと思い立ってカカシさんに聞いてみた。 「そういえば、どうしてそんなに見合いしてるんですか?早く結婚したいとか…?」 忍は早婚か、晩婚かのどちらかが多い。血経限界とかの兼ね合いもあるけど、危険な職業につくからこそ、早く血を残そうとする者と、 結婚を躊躇うものとに分かれるからだろう。 高ランクの任務につくカカシさんが早く子ども作りたいって言うのならこれほど切羽詰って見合い結婚したがるのも分かる気がした。 だが、ほんのりピンク色に染まったカカシさんが語った理由はあんまり納得できるものじゃなかった。 「いえ、恋愛って本で読んでてあこがれてるけど自分で出来そうにないし、それなら早く結婚しちゃったほうがいいかなって。 あとは、ずっと誰かと一緒に暮らせたらいいなって思ったからかな?」 なんだ、そんな理由なのか。…それなら別に急がないで俺と一緒にいてくれればいいのに…。 そこまで考えて俺は慌てた。一緒に暮らすのが楽しいからって、結婚を目指して幸せになろうとしているカカシさんのことを邪魔するような事を考えた 自分が怖かった。 そんな自分を誤魔化すように、俺はことさら明るく振舞った。 「カカシさんはやさしいし、よく気がつくし、守ってあげたくなるから大丈夫だと思いますよ。焦らなくても。あ、でも!明日会う方がいい人かも しれないから今の忘れてください!」 ちょっとだけ自分のわがままが混じってしまったけど、他も全部本音だ。きっとこの人は幸せになるだろう。 「そういってくれたのって、イルカ先生が初めてです。今までなんとなく付き合ってたことはあるけど、全然駄目だったから。」 「駄目って?」 そういえば、見合い以外のことは聞いたことなかった。絶対もてるからいるんだろうと思っただけでなんとなく気分悪くなっちゃったから 考えるの止めちゃったんだよな。 駄目って…どこがだめなんだろう。こんなにいい人はめったにいないと思うのに。家事にも協力的で、優しくて…。酔っ払ってうまくは言えないけど、 カカシさんはほんとにいい人だ。俺ならずっと一緒にいるならこういう人を選ぶ。 「印象が違うとか色々…任務での俺を知ってて付き合ったい人は全員そうでしたね。」 また暗い顔してる。こういう話するときにカカシさんが見せる自嘲気味な表情がイヤだった。この人のよさも分からないでこんな顔させた過去の相手に 復讐したくなる。 「うーん?俺は任務のカカシさんを知らないけど、カカシさんはカカシさんだからいいんだと思います!付き合った人がたまたま相性悪かったんですよ!」 俺が力いっぱい宣言すると、カカシさんはちょっとだけ明るい顔をしてくれた。 「イルカ先生は優しいね。」 俺に向かって柔らかく微笑んだカカシさんは、ゆっくりと杯を傾けた。 「そんなこと…」 カカシさんの幸せを願って上げられないって気付いたばかりなのに。 俺がうつむいてカカシさんの顔が見えないでいる間に、カカシさんがつぶやいた。 「明日、か。」 何だか暗い口調なのは、緊張しているからなのかもしれない。俺は慌てて片付けをしながら、座り込んでいるカカシさんをせかした。 「そうですよ!早く寝ないと!」 「うん…。」 何だか元気の無いカカシさんを寝かしつけようとしたら、何故か伸ばした手をさりげなく避けられた。 「俺、もう帰ります。明日もあるから。」 いつもなら飲んだ後は必ず泊まっていくのに、すっと立ち上がったカカシさんはそのまま帰り支度をし始めてしまった。 「え…あ、じゃあ送りましょうか?」 何だかそれが寂しくて、つい俺が余計な事を言ってしまったけど…。 「大丈夫。おやすみなさい。」 カカシさんはそれだけ言って、すぐに玄関を出て行ってしまった。 「…おやすみなさい。」 その背中に間に合ったかどうか分からない挨拶を投げかけた。なんだか部屋が急に寒くなった感じがする。 「さみしーな…。」 つい本音が口に出た。…そのつぶやきに答えてくれる人は誰も居なかったんだけど。 ***** 朝いつものように玄関を叩く人がいないことに、なんとなくくさくさして過ごした。 よく考えたら色々準備があるだろうから、昨日帰ったのも当たり前だと思うんだが、なんだかもやもやするのが取れない。 そのまま受付でため息ばっかりついてたら、同僚に冷やかされた。 「何だイルカ?失恋か?」 「うるせーそんなんじゃねーよ…。」 失恋って言うのは好きな人に自分以外に好きな人が出来たとか、好きな人にフられるとかして、一緒にいられないってことだ。俺の場合は…。 「そっか。好きだったのか。」 いつも一緒にいて欲しいのに、いなくなる。それが凄くいやで寂しくて何だか苦しくて…。好きとかそういう事を考えてみたこともなかったけど、これは、この気持ちは…。 「何だか分からんけどさ、酒でも飲むか?」 同僚は、俺がいきなりぼそぼそ独り言を言い出したというのに、ぽんぽんと肩を叩いて慰めてくれた。それが返って申し訳なくて、俺は慌てた。 「いや、いいよ。こっちこそすまん。」 とにかく謝って、それ以上の話を打ち切った。 「まあ無理はするなよ?」 「ああ。」 それでもなお心配してくれる同僚に無理やり笑顔を作って、仕事に意識を集中させた。 …それほどうまくいかなかったけど。 ***** 折角自分の気持ちに気付いても、今日はカカシさんの見合いだ。うまくいったら一緒にいられなくなる。それにもし失敗しても、 俺の思いは叶わない可能性が高い。 だってカカシさんは見合いをずっと続けるだろうし、俺がいても見合いにいくってことは、俺にはそういう興味がないってことだ。 まあ、男に襲われたいって思う男はあんまりいないし、俺だって、もしもがあるんだとしても、カカシさん以外はゴメンだ。 色々考えすぎて、沈み込んだままうちに帰ってきたら、何故か俺んちの玄関にカカシさんがうずくまっていた。 「どうしたんですか!?具合でも!?」 大慌てでカカシさんを家に入れようとしたら、逆に腕を掴まれて引き込まれた。しかも玄関に入るなり抱き上げられて、靴も脱いでないのにベッドに落とされた。 びっくりして見上げた先には、何かを決意したようなカカシさんがいた。 「イルカ先生…。」 口布が下ろされて、ものすごくキレイな顔してることに驚いてたら、そのきれいな顔が近づいてきてそっと唇が触れた。 「え?え?え?」 「責任とるから。」 「は?」 責任?何の責任?って言うか今何かすごいことされた気がするんだけど。 「色々勉強してきたから、大丈夫だと思うんです。男相手は初めてだけど。」 「何が?え?どうしちゃったんですか?お見合いは?」 お見合いの詳細とか知らないけど、いきなりコレはどういうことだろう?教え方とかが下手だったから責任取れってことか? でも、カカシさんが責任とるって言ってたような…?それに今なんか信じられないことが起こったよな!? 何が何だか分からないのに、カカシさんは凄く真剣な顔をして何故かどんどん服を脱いでいる。 わー鍛えてるなぁ!でも、風邪引くだろ。まだ暖房入れてないのに。 「カカシさん。温かくしてないと駄目ですよ!今すぐ暖房入れますから。ちょっとま…」 うっかり現実逃避した俺が最後まで言う前に、カカシさんはもう一度俺の口をふさいだ。今度は深く。コレはひょっとしなくても…! 「んぅっ!…はっ…ちょっと落ち着いて!何があったんだか説明してください!」 慌ててカカシさんの頭を引っぺがすと、捨てられた犬のような瞳をして俺を見下ろしていた。 「やっぱりイヤ?でも頑張りますから…!」 何だか明らかに混乱しているカカシさんは、泣きそうなのに、その手で俺の服を脱がそうとしている。なんとかしないと! 「だから落ち着きなさい!」 …頭突きを上忍に食らわせた中忍は俺くらいのものかもしれない。 いくら慌ててたからってやりすぎてしまった。ガツンと結構派手な音がしたし、俺の上でうずくまったカカシさんはうめき声を上げながら 頭を抱えこんでいる。俺の頭は硬いから大丈夫だけど、カカシさんには大打撃だったみたいだ。 「ごめんなさい!」 あわてて頭を確認したが、出血はなさそうだ。せめてものお詫びにぶつけた所をなでてみた。 「…イルカ先生…。」 カカシさんがそれはそれは悲しそうな顔をしてるけど、今回ばかりは見逃せない。 「…何でいきなりこんなことするんですか?」 今のは明らかにその…そういう行為だったと思うんだが、何でそんな事をしようと思ったのかが分からない。お見合いに失敗して自暴自棄になって 男襲った男がいるって言う話はきいたことがないから、何かすごく重大な問題が発生してるんだと思うんだけど。 どうしちゃったんだろう…カカシさんは…? 俺がぶつけた頭を撫でながらカカシさんに視線で続きを促した。 「ヤっちゃったら責任取ればイイから一緒にいてもらえると思って。」 「は?」 やっちゃったら?ってことはその…ヤっちゃったらってことで。つまりカカシさんは俺と。そういうことがしたいということか!? …いや、ちょっとまて、最終目標らしきものが一緒にいることなら、それは凄く手段が間違ってる。 「駄目?優しくしますから…。」 縋るような瞳で俺を見つめてくるカカシさんは、相変わらず凄く庇護欲をそそるけど。 …コレは駄目だ。 「駄目です。」 「…そうですよね。俺なんて…。」 拗ねたように言って、また暗い顔をしているカカシさんをぎゅっとしてあげた。カカシさんは服を脱いでるから、体温が伝わってきて温かい。 「そうじゃなくて、そういうことするのはちゃんとお互い納得してからじゃないと駄目です!」 コレは絶対譲れない!同意なしでどうこうするっていうのは、結局その場だけで終わるからそれはいやだ。俺はカカシさんとずっと一緒にいたい。 だって、俺はカカシさんが好きなんだ! 「だってイルカ先生好きだって言っても付き合ってくれないでしょ?」 「…どうして決め付けるんですか!」 付き合うんなら大歓迎だ!カカシさんがそういう意味で好きなんじゃなくても、頑張って振り向かせてみせる! 「…同情なら止めて。どうせ駄目ならもう期待させないで。」 俺がついつい怒ってしまったからか、カカシさんが珍しく感情をあらわにした。いつも穏やかで、微笑んでいるのばっかり見てきたから、驚いた。 でも、コレはもしかしなくてもチャンスなんじゃないだろうか。 「いいから。言ってください!」 「…好きです。結婚して下さい。」 今、カカシさんが俺のこと好きって言った。 じわじわ広がっていくのは、喜びだ。ものすごく不安そうに、でもしっかりいきなり結婚とか言い出してる所が、カカシさんらしいと思った。 ココまで言ってもらえたんなら、俺もきっちり言わせて貰う。 「俺も、カカシさんが好きです。…今日だって一日中凹んでてなんでかなって思ったら、あなたが玄関叩かなかったから、 …もう二度と俺と一緒に飯食ったりしないんだと思ったから、気分悪くなったんです!」 「え?」 あ、カカシさんびっくりした顔してる。 「そういう顔も、ちょっとおっちょこちょいな所も、大好きです。」 覆面をとっても可愛い表情してるカカシさんを改めて抱きしめてあげたら、カカシさんも抱きしめ返してくれた。 「…見合いなのに相手の人のこと考えられなくて、何だかイルカ先生はこうじゃなかったとか、イルカ先生ならこうするとか…そんなコトばっかり考えてて、 イルカ先生が好きだって気付いて…。だから…。」 「じゃあ、俺たち両思いですね!」 嬉しくてついつい大声でそんな事を言ったら、カカシさんがまたキスしてきた。 入り込んできた熱に応えるように口づけを交わして、頭がボーっとしてる内にカカシさんがさっきの続きを始めてしまい…その顔がうれしそうでかわいかったから ついつい止め損ねたら、とんでもない事をされてしまった。 ☆ どっちがどっちとか考えてなかったけど、痛いし熱いし訳分かんなくなるし…それで、凄く気持ちよかったんだけど。 カカシさんは、こんなにキレイで可愛い顔してるくせに、結構なケダモノだという事を俺は学んだ。 そんなこんなで、なるようになったわけだが、折角だからと報告した同僚に、「え、お前ら付き合ってたんだろ?何を今更?」って言われたのが意外だった。 まあ、幸せだからいいんだけどな! ********************************************************************************* イチャイチャ話を目指してみましたが、微妙…。 ご意見とかご感想とか色々ありましたら拍手などからお気軽にどうぞ…。 |