これの続き。 茶葉自体はそれほど悪くはないはずだ。 なにせ三代目が各地の大名から送られてきた品物の一つなのだから。 大量に付け届けの類を押し付けられるだけあって、同じような品が重なって、ダブつくものを貰うことはコレまでも多かった。 もてあまされたそれらは、最も良いものは来客用に供されるが、それ以下の品でも中忍にとっては相当な高級品だ。 来客用にとっておいてよかった。 普段決して口にできない高級品だと思うと勿体無い気がして、封を開けるのをためらっているうちに今に至るだけではあるのだが。 一応相手は多分上忍だ。それに暗部だ。下手なことはできない。 己の貧乏性に、このときとばかりに感謝しておいた。 茶の淹れ方なら多少の心得がある。伊達に長いこと受付業務についているわけじゃない。 とはいえ今の自分には、この際大名御用達の高級品だという茶の味など、到底わかりそうにもなかったのだが。 自分の家にいるのに追い詰められている。…目の前の男のおかげで平和な中忍生活がぶち壊されて久しいが、この状況はやはり相当緊張する。 自分で選んだとはいえ、逃げ出したくなりそうだ。 ここは、俺の部屋なのにな。 「粗茶ですが」 「どーも」 思った以上に男はおとなしい。 傍若無人な姿しか知らない分、却って調子が狂う。 何かたくらんでいるということに間違いはないだろう。 問題は、それがなんなのか自分にはさっぱり検討もつかないということだ。 この結界さえあればこの男に背を向けても問題ないとわかっていても、しっかりと自分の中に根を下ろした警戒心はそれを受け入れてはくれなかった。 おかげで茶を入れるだけで妙に疲れを感じてしまい、男に茶を出して手をつけるのを待たずに、自分の分を飲み干してしまった。 中忍になってから使い続けているくたびれたちゃぶ台の向こうに、男が座っていることに現実感が感じられない。 この状況は決して男の望むものではないはずだが、楽しげな表情を崩さずに、むしろあたりを見回す余裕すらある。 …勝手に入り込んでいるくせに、今更検分もないだろうに。 「で、ですが。そもそも俺に何の用なんでしょうか」 「シたい。俺のでいっぱいにして、すがらせて喘がせて、後は…そうね?俺以外のことなんて考えられないようにしたいの」 夢見る乙女のような瞳で語られた言葉は、とてもそんなかわいらしいものではなかった。 耳を疑うような…いや、むしろある意味予想通りでもあるその台詞に、勘違いでなく自分が狙われていることを改めて自覚した。 最初の行動も唐突で、それからも常に突拍子もない行動ばかりだったおかげで、振り回され続けて現実感までどこかに振り落としてきてしまっていたようだ。 まあどんなに騒いだ所で、この結界があればどうこうされることもないだろう。 それよりもこの男が何をしたいのか、見極めなくてはならないだろう。 うっとりと目を細める顔は確かに整っているが、残念ながらどこからどうみても男だ。そういう意味での欲は感じられなかった。 そもそも初対面の印象が最悪だ。この上何をと思わないでもない。…だがここでくじけては、こんなに恐ろしい思いをした甲斐がない。 「俺は男です。基本的に女性の方が好きです」 「ふぅん?ま、俺も男はごめんだけど。…あんたは別」 「えーっと?どういうことでしょう?」 男がダメならどうして素直に女性に惚れてくれなかったんだろうか。嫁に来いといえば、たいていの女性は簡単に首を縦に振るだろうに。 それとも自分が女性らしくみえるほど、この男の周囲の女性たちが凄まじいのだろうか。 …数名思い浮かんだ上忍のくノ一が、そういえば大抵は外見の美しさにそぐわぬ恐ろしい性格をしていることを思い出してしまったが、だったらそれこそ中忍の女性…にもまあ恐ろしい性格の人はいる…か。 全員が全員という訳ではないが、基本的に木の葉の女性は強いからな。か弱い女性も中にはいるのだが、家を守るという意味ではあまり好まれない傾向にあるのかもしれない。 そういえば、母ちゃんも綺麗な顔してるのに恐ろしく強かったな。 母を思い出しながら啜った茶は、こんなに混乱していても妙に美味くて、ホンモノは違うんだなと変なところで感心した。 この男も、その強さはホンモノであるはずだ。今は一時の熱病にかかっているだけで、本当ならさっさと結婚して子をなせばいいだけの話だ。 …俺の平和な中忍生活のためにも。 「あんたが欲しい。爪の先だって髪の毛一筋だって他のヤツにやるのは許さない」 男の指先が頬に触れたことに驚いた。 結界にはじかれるはずなのに。 「え、あ…?」 驚愕と、恐怖。 それすら凌駕するその瞳の強さに、ここがどこなのかすら分からなくなりそうだ。 どうして、そんな顔をするんだ。 狂おしいまでに俺を求める瞳に、どこか苦しげでさえあるその表情に、すべてのときが止まった気がした。 ********************************************************************************* 適当。 やりたい放題上忍はやり方をかえた模様。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |